『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第67話 どうすればいいのよ、もぉ~…

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「お前たちは何をやっているんだ?」

 ハイネたちと話し合ってから一週間という時間が経っていた。

 私とハイネはなるべくバレないようにと動いたつもりだったのだが、やはり素人の行動などカシミールには筒抜けだった様で、グラジオスへ忠告の様なものが行ったらしい。

 それで私とハイネの二人がグラジオスの私室に呼び出され、グラジオスから注意を受けていた。

「それは……」

 ハイネがチラッと私に視線を送る。

 ここはメインの私が言い訳した方が話を合わせやすいと踏んでの事だろう。

「ここ一年半で何があったのか知りたかったから聞いてたの。ほら、オーギュスト伯爵の所領みたいなことがどこかで起きてないかなぁって思って」

 私はこんな時の為に考えておいた言い訳を言う。

「そうか? カシミールや父上にご執心だと聞いたが?」

 そこまでバレていたのかと私は内心舌打ちをする。

 どうやらヴォルフラム四世王に気に入られるだけあって、内政や謀略に関しても相応に優秀ではある様だった。

 多分、何を言っても無駄だろうと観念し、私はある程度まで正直に話すことにする。

「まあ、その……ちょっと不自然かなって思ったの」

「……面白半分に痛くもない腹を探られるのは不快だ。何よりそんな醜聞が広まれば、俺たち王族の威光は失墜してしまうんだ。思い込みでそんな事をされるのは困る」

 グラジオスは眉をひそめて私を軽く睨んでいる。本気でそう思っているからなのだろう。

 でも調べた私は違う意見を持っていた。

 調べれば調べるほど、だんだんとカシミールは黒く染まっていったのだ。

 曰く、陛下の体調が優れなくなったのは、カシミールが帰ってきてからだ。

 曰く、すさまじく荒れたカシミールの執務室を、メイドたちが総出で掃除した事がある。

 曰く、陛下の料理はカシミールが手ずから上げ下げしている。

 曰く、王の弟であるザルバトル公爵ですら陛下に面会が出来ず、王城にとどまっている。

 曰く、ゴミを燃やしたら異常に薬臭い匂いがした。

 曰く、それが噂になった途端、ゴミから薬臭い匂いがしなくなった。

 調べたら出るわ出るわ。確定的な証拠こそ一切無かったが、そういう目線で見たら、限りなく黒にしか映らない話が沢山出て来たのだ。

 今はまだ点だけであり、変な噂などない。

 だがそれは点と点を結び付ける人間が居なかっただけだ。

 もし私が考えている事が現実になれば、確実に人々の口に乗るだろう。

「ねえグラジオス。もしもだよ。もしもそうなるかもって私が思ってたらどうする?」

 聞いた瞬間、グラジオスは爆発した。

「ふざけるなっ! カシミールがそんな事考えているものかっ!!」

 逆にそれで私の中にあった疑惑は確信に変わる。

 カシミールは、そういう噂を私が作ろうとしているとグラジオスに話したのだろう。

 それは逆から見れば、そういう噂を流されたくないという事の表れだ。

 もちろん口さがない噂を流されていい気分になる事は無いだろう。誰だって止めたいはずだ。

 でも、たった一週間で(カシミールが知ってからを鑑みればもっと短いはずだ)、しかもここまで圧力をかけてくるというのは、少々過剰反応に思えてくるのは私だけだろうか。

「ごめん。少し気になったの」

 グラジオスはあれだけいじめられていたというのに、彼らに対する憎悪を欠片も持ってはいない。むしろ捨てられたのにまだ主人を慕う犬の様な感じで父と弟を憎からず思っているのだ。

 会談の時にカシミールを助けたことからもそれは察することが出来た。

 しかしカシミールはどう思っているだろうか。

 表面上は兄と一応敬愛しているように見える。だがその実内心ではグラジオスの事を見下しているのではないかと私は感じていた。

 その見下していた相手に情けをかけられたのだ。カシミールが感じた屈辱はよほどのものだったのではないだろうか。

 会談初日以降、カシミールが一切姿を見せなくなってしまったことからそれは伺えた。

「グラジオス、王子様だよね」

 グラジオスは会談を成功させ、成果を着実に積み重ねてきている。

 もしもだ。もしもの話だが、ヴォルフラム四世王がこんな風に実績を積み重ね始めたグラジオスを認める様な発言をしたとしたらどうだろう。

 カシミールはこれまで王位が確実に自分の手元に転がり込んでくると確信していたが、そうならない可能性もあると気付かされてしまったら……?

 これらは全て私の想像だ。

 根拠も証拠もない、ただの妄想。それ以上でもそれ以下でもない。

 でも私は気になって仕方がないのだ。あの歪んだ笑みが。

「王族が誰しも骨肉の争いをすると思うかっ! 俺はカシミールを殺してまで玉座を欲した事はないっ! それはカシミールも同じだっ!!」

「……ごめん」

 私が言えるのはそれだけだ。

 激昂するグラジオスに、ただ私は謝り続けた。




「……姉御、これからどうするっすか?」

 私とハイネはしこたま絞られた後、二人して馬小屋に避難していた。

 あ~、馬のつぶらな瞳に癒される~。

「自分、調べてて思ったっすけど、カシミール殿下は真っ黒っす。多分、エマさんも間違いなくそう思ってるっす」

 だよね~。私達が確信した情報の半分くらいはエマ経由だったし。

 メイドさんの情報網凄い。

「なんでグラジオス様に言わなかったっすか?」

「言えるわけないじゃん。今までのカシミールは全部嘘で、実は裏でグラジオスの事馬鹿にしてたんだよ。しかも今父親もろとも殺そうとしてるよ、なんて酷い事言えないよ。しかも証拠なし」

 やはり証拠がない事が一番痛かった。どれだけ証拠にもならない噂を集めても意味はないのだ。

 噂だけを根拠に自殺物の話を突きつけられたら……まあ最低でも縁は切られるよね。

「私達が騒いでカシミールが陛下の暗殺を止めたらやっぱり私達が嘘ついた事になるしねー。そうなるとグラジオスのとの仲は最悪……っと」

 私は慌てて口を押えて辺りを見回した。

 運よく人影はなく、聞いていたのは馬とハイネだけだ。

「自分らだけじゃ何もできないっすからね~」

 何らかの力を持っていても厳しいだろう。

 何せ相手は最高権力者にもっとも近い人間なのだから。

「あ~あ、エマに言った通り帝国にでも逃げるしかないかなぁ~」

「そんな事話したことあるんすか?」

「だってカール皇帝陛下からプロポーズされたしね」

「うわっ。姉御、相変わらずの少年キラーっすね」

「嬉しくない~」

 正直もう八方ふさがりで、本当にどうすることも出来ず、ただ指をくわえて待っている事しか出来かった。

「今出来る事は、とりあえずグラジオスを絶対一人にしない。逃げるっていうか国外逃亡の方法の確保。お金の確保かなぁ……」

 お金は帳簿上の話ではあるが、四人全員が引くほど持っているので確保は容易い。

 それ以外は……かなり難しそうだった。

「やっぱアル爺に頼るしかないっすかねぇ……」

「国外逃亡するときは、絶対頼るしかなさそうだよねぇ……」

 私達は同時にため息をついたのだった。
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