『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第123話 選べる道は一つだけ

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 目の前に居る敵は、今は何もして来ていない。それに本来同盟国である以上、その真意を計りかねる現状では下手に攻撃をする事も出来なかった。

「ごめん、メガホンあったよね? 貸して」

「はっ」

 基本的に素で馬鹿でかい声を出せる私やグラジオスには必要のない代物だが、一般的な人はそうもいかない。銅製のメガホンを使ってやり取りを行っている。

 その内の一つを兵士から受け取ると、口元に当てて……。

「それ以上の前進は許しませんっ! 今すぐに停止しなければ、侵攻の意思ありと見做して攻撃を仕掛けますっ!!」

 出来る限りの大声で怒鳴りつけた。

 周囲に居る弓兵が思わず耳を塞ぐほどの音量であったため、絶対に届いたはずだ。

 しばらく様子を伺っていると、私の警告が受け入れられたのか、城門から五十メートルほどのところで彼らの足が止まった。

「何用ですか!? 答えなさいっ!」

 正面に居る兵士たちの顔には困惑の色が見える。これがどういった意味を持つのか想像しかできないが、何故帝国と共闘するのか、何故同盟国を攻めるのかを彼らもよく理解していないのではないだろうか。

 答えられる者としては……。

 兵士たちが二つに分かれて道を作り、私の予想通りの人物が姿を現した。

 こんな自尊心にまみれた登場の仕方をするのはカシミールしかいない。

「王族気取りで騒ぐな、小娘!」

 カシミールもメガホンを手に偉そうな物言いをしてくる。

 ……ちょっと、頭にきた。

「声が小さいっ! 何言ってるか聞こえないんだけどっ! そんなでかい図体しといて私よりも声小さいとかアンタ大丈夫なのっ!? お姉さまがご飯食べさせてあげよっか!?」

 周りの弓兵から失笑が漏れる。

 まだ笑える余裕が彼らに残されているというのはとても心強い事だ。このまま私の心が折れていない事を証明し続ければ、私達はまだ戦えるはず。

 私は自分の中の勇気を奮い立たせ、大きく息を吸い込む。

「どうせアンタの言いたいことはこうでしょ? 僕ちんの新しいお友達どう? 強そうでしょ? 今度は負けないもんっ!」

 言葉は一切返ってこない。

 見えないから分からないが、きっと大いに顔を引きつらせている事だろう。

「あ、あなた、カシミールの表情を見てみんなに報告して」

「了解しましたっ」

 私は手に持っていた遠目を弓兵――運よく私を助けてくれた弓兵が嬉々として受け取ってくれたため、彼はしばらくみんなの人気者になるだろう――に預け、再度煽り文句を考える。

「アンタ自分一人でなんかやったらどうなの? 人に頼りっきりで自分は何もしない出来ないとか呆れてものも言えないんだけど。ああ、さすが親子ってわけね。そっくりだわ」

「ふざけるな! 私があのような愚物と同じだというか、小娘っ!」

 やっぱりこれがアンタの逆鱗なわけね。それからグラジオスは自分より下だと見下しているけど現実はそうじゃない。

 自分の中にある理想と現実に齟齬があってどうしてもそれを認められないタイプか。

 認めて少しでも埋めようと努力しているグラジオスとは真逆だ。

「一緒でしょ! アンタ何かしてる? 自分の欲望のために迷惑しかかけてないじゃないっ。鏡見て確かめなさいっ。あ、鏡見たら私の顔は美しい……って自己陶酔しちゃう人だったから無理か」

「そんな事をした覚えは一度もないっ!」

「アンタそんな部分に反応するなんてほんと頭悪いわねっ。自分は親と違うってところの否定はどうしたのよっ。主体性が無いし場当たり的だし自分ってものを全く持ってないじゃない。だからアンタはそこに居るのっ」

 次から次に揚げ足をとって責め立てていく。

 元来口喧嘩では女性の方が圧倒的に強いのが普通なのに、私はそれに輪をかけて口が回る。カシミールが勝てる要素なんて皆無に等しいのだ。

 相手をしなければいいのに相手をしてしまう。本当にアホなヤツ。

 さて、そろそろかなって思ったところにタイミングよくグラジオスが現れてくれる。

 これで私の目的の一つである時間稼ぎは出来た。

 グラジオスがきちんと装備を整えてからここに来たってことは、あの場に居た兵士達もきちんと鎧なんかを装備してから持ち場に戻れたことになる。

 これは大きいはずだ。

「グラジオス、状況はよく分かんないけど……」

 私は状況をかいつまんで説明しながらメガホンを手渡す。

 とはいえカシミールの言いたいことなんて一番最初にからかった事、私達への警告だろうけど。

「分かった、ところで雲母」

「なぁに?」

 大方余分な事言う必要ないだろとか注意したいんだろうけど……兵士のみんなは楽しんでたよ?

「カシミールが鏡を見ながら頷いていたのを一度見かけたことがある」

「ぶっ」

 ちょっと耐え切れずに吹き出してしまった。。

 私だけじゃなくて周りの兵士たちも。

 こんな状況だっていうのにそんなネタばらししないでよねっ。

 サイコー。

「カシミール、お前の居場所はもう何処にもないっ! 今すぐに去れっ!」

 今までのグラジオスとは違い、ずいぶんと攻撃的なセリフをカシミールにぶつける。

 モンターギュ侯爵が無くなり、多くの兵士も死んでいった。

 原因を作ったのが私だとしたら、理由になったのがカシミールだ。その責任は重く、絶対に許していいはずがない。

「これはこれは兄上。今まで小娘の陰に隠れておりましたか? 姿が見えませんでしたが」

「そんな事はどうでもいい。今すぐ消えろと言っている」

 グラジオスは揺らがない。

 王らしく、巌の様に堂々と己の意見を通していく。その風格は威厳に満ちており、私の挑発に乗って来たカシミールとは雲泥の差だった。

「くっ……。貴様はこの軍勢が見えないのか? 逆らえば踏みつぶすぞ」

「やってみろ。我々は屈しない。実際お前は何度も退けられているだろう。今度もそうなるだけだ」

 どちらがピンチなのか。それは絶対にこちら側だ。

 でも表情だけを見れば全くの逆で、グラジオスの顔は自身に溢れ、カシミールは圧倒されて怯んでいる。

 恐らく内面に置いても完全に立場が逆転しているだろう。昔はグラジオスが卑屈で弱く、カシミールが自身に溢れていたが、今は完全に逆だ。

 違うのは、グラジオスは弱い時も誰かに責任を押し付けて、弱い自分から逃げなかった事。逃げなかったからこそ今の様に強くなれたのだ。

「弓隊、構え!」

 グラジオスが厳かに命令する。

 いきなり射殺さないのは肉親として最後の情だろうか。

「雲母様、おかげで面白いものが見られました。ありがとうございます」

「どういたしまして」

 カシミールを伺っていた弓兵が礼を言って遠目を返すと隊列に戻る。

 満足そうな顔をしている所を見れば、よほど面白いものが見れたに違いなかった。

「後悔しても遅いぞっ」

「くどい」

 グラジオスが腕を上げる。これが振り下ろされれば矢は放たれ、カシミールは死ぬだろう。

 敵兵の様子を返してもらったばかりの遠目で観察してみるが、弓や弩といった物を所持している様には見えない。

 相変わらず私の抑止は効いている様だ。

 まだチャンスはある。そう信じたかった。

「傭兵どもっ。払った金の分しっかり働けっ!」

「それはお前の金ではないだろうっ。帝国の金だっ! そこまで堕ちたか、カシミールっ!!」

 グラジオスの言葉も最早届くことはないだろう。

 カシミールは兵士達に囲まれ、こそこそと奥へ引っ込んでいく。

 それが今のカシミールの姿であった。

 グラジオスはその影を振り払うように……。

「放てぇー!」

 腕を振り下ろした。
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