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第4話 風が吹けば俺が不幸に
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「痛ってぇ!」
鋭い痛みを右足に感じ、思わず悲鳴を上げてしまった。
到底足を地面に着けていられなかった俺は、左足だけで片足立ちをする。
「ど、どうしたいきなり?」
「な、なんか踏んで……」
この痛み方は、画びょうか何かを踏んだに違いない。俺は先生に支えて貰いながらゆっくりと椅子に座りなお――。
「どぉうわっ!」
「おおぉぉっ」
ギシッと不吉な音が聞こえたと思ったら、椅子が壊れて俺の体は床に投げ出されてしまった。ついでに俺に引っ張られる形で先生も。
まず俺が思いきり尻もちをつき、教室の壁に後頭部をしこたま打ち付ける。その上に先生が倒れて来て、運悪く先生の膝が俺のみぞおちにめり込んだ。
不幸は更に続く。先生の顔は勢いよく俺の顔に迫ってきて、唇同士が触れ合う――なんてことはなかったが、先生の前歯が俺の頬にぶつかって引っ掻かれたような痛みを生む。
というか男の先生とラッキースケベでキスしても誰も喜ばないからな!?
「だ、大丈夫、蒼司!?」
「先生無事ですか?」
慌てて周りにいた生徒たちが立ち上がって心配そうに声をかけてくれるのだが、あまりの痛みに息すらすることが出来ないほど悶絶していた俺は、ただひたすら体に力を入れて痛みの波が過ぎ去っていくのを待つほかなかった。
「蒼司、蒼司……!」
「先生、ゆっくり立ち上がって下さい。手を貸しますから」
「ああ、すまない」
他の生徒の手を借りて、先生が俺の体の上から退くと、それと入れ替わる様にして泣きそうな顔の名取が縋ついてくる。
「蒼司、大丈夫? しっかりして!」
痛みでなかなか声が出せないけれど、意識ははっきりしている。俺は名取の二の腕辺りをポンポンと叩いて安心するように無理やり笑顔を浮かべた。……多少ぎこちないものになってしまったかもしれないが。
「あ……し……」
「あし? ……うん、分かった」
俺の言いたいことを理解してくれたのか、名取はすぐに上履きの底を見て、何かを取り除いてくれる。ずっとそこに在り続けた違和感が消え、痛みだけが残った。
「画鋲、刺さってたよ。さっきのはコレを踏んだんだね」
そう言って名取は手のひらの上に画びょうを乗っけて見せてくれる。
マジで運がないっていうか――不幸。不幸?
……もしかしてこれがメールにあった不幸なのか?
こんな、運命めいた不幸を人間に起こすことが可能なのか?
「小鳥遊、すまなかったな」
先生が痛そうに前歯を押さえながら俺に謝罪してくる。
だが、俺は先生がそんな事をする必要性がまったく感じられなかった――というよりもしかしたら俺が巻き込んでしまったかもしれない――ので、ゆっくりと頭を振った。
「いえ、先生は何も悪くないです。完全な事故ですから」
「そうか。一応保健室行ってこい」
「いえ、大丈夫です」
右足も痛むし強く打った頭もまだ痛む。多分たんこぶが出来ているだろう。腹もまだ鈍い痛みが残っていたが……それでも俺は断った。理由は、そこに行くまでに不幸が降りかかれば、より痛い目に会う可能性が高かったからだ。今は授業が終わるまで静かにしておいて、終わると同時に蒼乃の所に行く。それが一番いい解決方法だと直感で理解していた。
「……そうか。あまり無理はするなよ」
「はい」
俺は痛む腹をさすりながら立ち上がる。名取はちょうど画びょうを後ろの掲示板に刺しに行っているため、手を借りられなかった。これも不幸なのだろうか。
「っと、椅子どうしましょうか」
壊れた椅子の残骸を、足を使って壁際に寄せながら質問する。
「そうだったな。替えの……」
先生は教室をぐるりと見渡すが、予備の椅子も、椅子の代わりになるような物も無見当たらなかった。
「困ったな。今日は校長先生も教頭先生も居ないんだよな……。他にマスターキー持ってるのは主幹の……授業中か」
なんという運の悪さだろう。ここまで徹底していると最早笑いがこみ上げてきそうだ。
「じゃ、じゃあボクの隣に座る? 椅子半分こして」
男二人で一つの椅子に座る。字面だけでみたらむさい事この上ないんだけど……。名取なんだよなぁ……。女の子っぽいっていうか女の子にしか見えない。
そんな名取と一つの椅子を分け合って座る?
なんかちょっと緊張するな……。
いつもは何とも思わないんだけど、今の名取は上目遣いで聞いてくるせいか、とてもその……困る。
ええい、変な風に思うから意識してしまうんだ。名取は男。名取は男!
よし、オーケー!
「頼むわ。多分この授業中だけだし」
俺は机をズリズリっと引きずると、名取の机とくっつける。
「はい、どうぞ」
名取が限界ギリギリまで端によって、俺が座る場所を確保してくれる。というかほとんど半分はみ出しているが、そうしないと座れないほど椅子は小さいのだから仕方ない。
俺は礼を言ってから椅子に腰を下ろす。
今度は壊れることなくしっかりと俺の体重を受け止めてくれた。
先生は俺たち二人の顔をまじまじと見た後、何故か目を瞑って眉間を人差し指で押さえ、頭を振ってから、
「……よし。うん、問題ないな、問題ない。授業再開するか」
と、まるで自分に言い聞かせるようにそう言ってから授業に戻っていった。
そうですね、見た目だけだと男女が一つの椅子に座ってるように見えますもんね。
だが男だ。
まあ、名取とこうして座れるのはある意味運がいい――。
一瞬ぞわっと変な寒気がする。思わず俺が後ろを振り向くと、数人の生徒――もちろん男女を問わず――がささっと顔を伏せた。
大方名取を好きな連中が俺の事を睨みつけていたのだろう。
……不幸だ。
俺はその後も、持っているシャーペンが全部壊れたり、消しゴムを落としたら蹴っ飛ばしてしまったので投げて貰ったら暴投されて窓の外に落ちてしまうなどの様々な不幸を耐え忍びつつ、なんとか授業を受けきる事が出来たのだった。
「起立――礼!」
「ありがとうございましたぁっ」
挨拶をし終わるや否や、俺は鞄の中からスマホを取り出してポケットにねじ込むと教室を飛び出した。
向かうは蒼乃の居る教室、第一学年のクラスがある校舎だ。
俺は早足で歩きながらこっそりとスマホを弄る。
「蒼司、ボクも付いてくからっ」
「私もっ。保健室だよね?」
後ろから名取とぼたんが追いかけてきてくれる。単純な好意からでありがたいのだが……目的は蒼乃と握手しにいくのだ。着いてこられると逆に気まずかった。
「大丈夫だから、来なくていいって」
「でも蒼司ってば何か呪われてる感じするよ?」
「そうだよ。あのメールと絶対関係あるよね」
やっぱり見られてるからそう思うよなぁって……。
俺はスマホに届いていたメールを見て心が決まった。
「とにかくもう大丈夫だから。不幸な事は起こらない。安心しろって」
メールには、誰かにこのゲームの事を知られたらペナルティだよっと書いてあったのだ。不幸があるというだけであれだけの事が起こった。明確なペナルティとなると、いったい何が起こるのか想像もつかない。
先ほど俺に巻き込まれて痛い思いをした先生の例もある。決して二人を巻き込むわけにはいかなかった。
「でも……」
「それより椅子を持ってきてくれると助かる。俺はこれから行かないといけないところがあってさ」
俺は足を止めると、スマホを持ったまま両手を合わせて二人を拝み倒し。
その甲斐あってか、二人は渋々といった感じで頷いてくれた。
「ありがとう、んじゃ」
俺はそれだけ言い残すと再び早足で歩き始める。
二人の姿が見えなくなれば、周りに注意しながら走り出し、階段を飛び降りてドアを蹴り開けていく。
そうやって出来る限りの速さで移動した俺は、蒼乃の居る教室までやってきていた。
「ごめん、蒼乃……小鳥遊蒼乃を呼んでくれない? 小鳥遊蒼司が来たからってさ」
適当な女子生徒を捕まえてそう頼むと、その生徒は軽く、はい、分かりました~と頷いて教室の中に首だけ突っ込み、
「蒼っちー、お兄さん来たよ~」
などと遠慮なく大声で蒼乃を呼びつける。
俺は教室から少し離れた位置でその様子を見守っていたのだが、あれでは蒼乃が恥ずかしがって逆に出てこなさそうであった。
どうするべきかと悩んでいると、突然背後から何者かが俺の腕を掴み、乱暴に俺を引っ張って――。
鋭い痛みを右足に感じ、思わず悲鳴を上げてしまった。
到底足を地面に着けていられなかった俺は、左足だけで片足立ちをする。
「ど、どうしたいきなり?」
「な、なんか踏んで……」
この痛み方は、画びょうか何かを踏んだに違いない。俺は先生に支えて貰いながらゆっくりと椅子に座りなお――。
「どぉうわっ!」
「おおぉぉっ」
ギシッと不吉な音が聞こえたと思ったら、椅子が壊れて俺の体は床に投げ出されてしまった。ついでに俺に引っ張られる形で先生も。
まず俺が思いきり尻もちをつき、教室の壁に後頭部をしこたま打ち付ける。その上に先生が倒れて来て、運悪く先生の膝が俺のみぞおちにめり込んだ。
不幸は更に続く。先生の顔は勢いよく俺の顔に迫ってきて、唇同士が触れ合う――なんてことはなかったが、先生の前歯が俺の頬にぶつかって引っ掻かれたような痛みを生む。
というか男の先生とラッキースケベでキスしても誰も喜ばないからな!?
「だ、大丈夫、蒼司!?」
「先生無事ですか?」
慌てて周りにいた生徒たちが立ち上がって心配そうに声をかけてくれるのだが、あまりの痛みに息すらすることが出来ないほど悶絶していた俺は、ただひたすら体に力を入れて痛みの波が過ぎ去っていくのを待つほかなかった。
「蒼司、蒼司……!」
「先生、ゆっくり立ち上がって下さい。手を貸しますから」
「ああ、すまない」
他の生徒の手を借りて、先生が俺の体の上から退くと、それと入れ替わる様にして泣きそうな顔の名取が縋ついてくる。
「蒼司、大丈夫? しっかりして!」
痛みでなかなか声が出せないけれど、意識ははっきりしている。俺は名取の二の腕辺りをポンポンと叩いて安心するように無理やり笑顔を浮かべた。……多少ぎこちないものになってしまったかもしれないが。
「あ……し……」
「あし? ……うん、分かった」
俺の言いたいことを理解してくれたのか、名取はすぐに上履きの底を見て、何かを取り除いてくれる。ずっとそこに在り続けた違和感が消え、痛みだけが残った。
「画鋲、刺さってたよ。さっきのはコレを踏んだんだね」
そう言って名取は手のひらの上に画びょうを乗っけて見せてくれる。
マジで運がないっていうか――不幸。不幸?
……もしかしてこれがメールにあった不幸なのか?
こんな、運命めいた不幸を人間に起こすことが可能なのか?
「小鳥遊、すまなかったな」
先生が痛そうに前歯を押さえながら俺に謝罪してくる。
だが、俺は先生がそんな事をする必要性がまったく感じられなかった――というよりもしかしたら俺が巻き込んでしまったかもしれない――ので、ゆっくりと頭を振った。
「いえ、先生は何も悪くないです。完全な事故ですから」
「そうか。一応保健室行ってこい」
「いえ、大丈夫です」
右足も痛むし強く打った頭もまだ痛む。多分たんこぶが出来ているだろう。腹もまだ鈍い痛みが残っていたが……それでも俺は断った。理由は、そこに行くまでに不幸が降りかかれば、より痛い目に会う可能性が高かったからだ。今は授業が終わるまで静かにしておいて、終わると同時に蒼乃の所に行く。それが一番いい解決方法だと直感で理解していた。
「……そうか。あまり無理はするなよ」
「はい」
俺は痛む腹をさすりながら立ち上がる。名取はちょうど画びょうを後ろの掲示板に刺しに行っているため、手を借りられなかった。これも不幸なのだろうか。
「っと、椅子どうしましょうか」
壊れた椅子の残骸を、足を使って壁際に寄せながら質問する。
「そうだったな。替えの……」
先生は教室をぐるりと見渡すが、予備の椅子も、椅子の代わりになるような物も無見当たらなかった。
「困ったな。今日は校長先生も教頭先生も居ないんだよな……。他にマスターキー持ってるのは主幹の……授業中か」
なんという運の悪さだろう。ここまで徹底していると最早笑いがこみ上げてきそうだ。
「じゃ、じゃあボクの隣に座る? 椅子半分こして」
男二人で一つの椅子に座る。字面だけでみたらむさい事この上ないんだけど……。名取なんだよなぁ……。女の子っぽいっていうか女の子にしか見えない。
そんな名取と一つの椅子を分け合って座る?
なんかちょっと緊張するな……。
いつもは何とも思わないんだけど、今の名取は上目遣いで聞いてくるせいか、とてもその……困る。
ええい、変な風に思うから意識してしまうんだ。名取は男。名取は男!
よし、オーケー!
「頼むわ。多分この授業中だけだし」
俺は机をズリズリっと引きずると、名取の机とくっつける。
「はい、どうぞ」
名取が限界ギリギリまで端によって、俺が座る場所を確保してくれる。というかほとんど半分はみ出しているが、そうしないと座れないほど椅子は小さいのだから仕方ない。
俺は礼を言ってから椅子に腰を下ろす。
今度は壊れることなくしっかりと俺の体重を受け止めてくれた。
先生は俺たち二人の顔をまじまじと見た後、何故か目を瞑って眉間を人差し指で押さえ、頭を振ってから、
「……よし。うん、問題ないな、問題ない。授業再開するか」
と、まるで自分に言い聞かせるようにそう言ってから授業に戻っていった。
そうですね、見た目だけだと男女が一つの椅子に座ってるように見えますもんね。
だが男だ。
まあ、名取とこうして座れるのはある意味運がいい――。
一瞬ぞわっと変な寒気がする。思わず俺が後ろを振り向くと、数人の生徒――もちろん男女を問わず――がささっと顔を伏せた。
大方名取を好きな連中が俺の事を睨みつけていたのだろう。
……不幸だ。
俺はその後も、持っているシャーペンが全部壊れたり、消しゴムを落としたら蹴っ飛ばしてしまったので投げて貰ったら暴投されて窓の外に落ちてしまうなどの様々な不幸を耐え忍びつつ、なんとか授業を受けきる事が出来たのだった。
「起立――礼!」
「ありがとうございましたぁっ」
挨拶をし終わるや否や、俺は鞄の中からスマホを取り出してポケットにねじ込むと教室を飛び出した。
向かうは蒼乃の居る教室、第一学年のクラスがある校舎だ。
俺は早足で歩きながらこっそりとスマホを弄る。
「蒼司、ボクも付いてくからっ」
「私もっ。保健室だよね?」
後ろから名取とぼたんが追いかけてきてくれる。単純な好意からでありがたいのだが……目的は蒼乃と握手しにいくのだ。着いてこられると逆に気まずかった。
「大丈夫だから、来なくていいって」
「でも蒼司ってば何か呪われてる感じするよ?」
「そうだよ。あのメールと絶対関係あるよね」
やっぱり見られてるからそう思うよなぁって……。
俺はスマホに届いていたメールを見て心が決まった。
「とにかくもう大丈夫だから。不幸な事は起こらない。安心しろって」
メールには、誰かにこのゲームの事を知られたらペナルティだよっと書いてあったのだ。不幸があるというだけであれだけの事が起こった。明確なペナルティとなると、いったい何が起こるのか想像もつかない。
先ほど俺に巻き込まれて痛い思いをした先生の例もある。決して二人を巻き込むわけにはいかなかった。
「でも……」
「それより椅子を持ってきてくれると助かる。俺はこれから行かないといけないところがあってさ」
俺は足を止めると、スマホを持ったまま両手を合わせて二人を拝み倒し。
その甲斐あってか、二人は渋々といった感じで頷いてくれた。
「ありがとう、んじゃ」
俺はそれだけ言い残すと再び早足で歩き始める。
二人の姿が見えなくなれば、周りに注意しながら走り出し、階段を飛び降りてドアを蹴り開けていく。
そうやって出来る限りの速さで移動した俺は、蒼乃の居る教室までやってきていた。
「ごめん、蒼乃……小鳥遊蒼乃を呼んでくれない? 小鳥遊蒼司が来たからってさ」
適当な女子生徒を捕まえてそう頼むと、その生徒は軽く、はい、分かりました~と頷いて教室の中に首だけ突っ込み、
「蒼っちー、お兄さん来たよ~」
などと遠慮なく大声で蒼乃を呼びつける。
俺は教室から少し離れた位置でその様子を見守っていたのだが、あれでは蒼乃が恥ずかしがって逆に出てこなさそうであった。
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