ツンツンな妹が実はデレデレだったって本当ですか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第9話 登校

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「下校は時間合わせないといけないな。どうする?」

 俺は後方一メートルほど離れて歩いている蒼乃へ声を投げかける。

 指名手配された逃走中の犯人でもあるまいに、蒼乃は先ほどからしきりに周りを気にしていて、どうみても不審者になってしまっていた。

 そんな過剰反応してたら逆に注意を引くだろうに……。

「……図書室で待ってる」

 俺も蒼乃も共に帰宅部であるため授業が終われば学校に用などない。高一と高二、二人の違う帰宅時間を合わせるために図書室は最適な場所だろう。

「分かった。一応スマホに気を付けてろよ」

「ん」

 必要な事を話し終わったら、後は無言になってしまった。というかこの前はあれだけ話せたと言うのに、今は何を話せばいいのか分からず、話題がまったく思い浮かばない。

 やはりあれは危機的状況だったから、火事場の馬鹿力ならぬ馬鹿頭で無理やり話題を捻り出せたのだろう。

 とはいえいつもはたった一人でのんべんだらりと登校するのに対して、曲がりなりにも二人である。このまま終始無言で登校するのが酷く味気ない気がしてしまった。

「なあ、蒼乃はいつも何しながら登校してるんだ?」

「急に何?」

 何故か警戒されてしまった様だ。そんなに話そうってのがおかしいのか?

「いや、別になんとなく。せっかく居るんだしなんか話さないとつまんないなって思っただけ」

「……歩いてる」

 そりゃそうだろうな。俺だって歩いてるよ。

「そうじゃなくて、何かを考えてるとか歩く以外にやることだとか、なんかないのかって聞いてんだよ」

「あんまり話しかけないで。周りに一緒に登校してると思われたくない」

 くっそ。ちょっとは仲直り出来たかなと思ったらこれだよ。ツンデレの無いツンツンって言うか、永久凍土のツンドラみたいな感じ。

 別に、「にい大好きっ」なんて言う必要ねえからもうちょっと態度軟化してくんねえかなぁ。……うん、想像しただけでクッソ似合わなくてキモかったや。

「あんまそういう態度取ってると、ゲームからミッション失敗とか判断されても仕方ねえぞ?」

 我ながら丸くなったものだと思う。今までなら絶対喧嘩していただろうに、説得を試みるとか。

「…………」

 それを聞いた蒼乃は一瞬だけ押し黙り、

「分かった」

 なんて、不満そうではあるが一応同意してくれる。

 こちらも多少丸くなったのかもしれない。ナイフの先っぽが丸くなってもまだ十分に切れるだろうけど。

 その後も俺が何か言葉を投げかけて、それに蒼乃が一言二言返すなんて会話なのかどうかもわからない事を続けながら歩いていると……。

「お、蒼司じゃーんっ! おっはよー!!」

 なんて底抜けに明るい上にテンションが高い、特撮好きな巨乳幼馴染に遭遇してしまった。

 車の行きかう道路を挟んで向こう側に居たぼたんが、異常に通りのいい声で叫びながらぶんぶか両手を振り回している。

 ……よりによって幼馴染に見つかるのかよ。

「あ~、蒼乃ちゃんもひっさしぶりー!」

 だからお前は車も通ってるだろうに声かけてくるなって。他の人見てるだろ。

 俺からは恥ずかしいから言い返さないけど。

 蒼乃もさすがに道路の反対側に怒鳴り返したりは出来ない様で、ぺこりとお辞儀をするだけにとどまっている。

 ぼたんは、しばらく反対側を歩いていたが、車が途切れた瞬間を狙って車道を横切り、こちら側に走って来てしまった。

「おはよー。うわーめずらしー、朝から蒼司に会えるとかレアだレア。というか初めて?」

「人をポケ○ンみたいに言うな。ってかぼたんが早すぎるだけだっての」

「え~、今日は遅いくらいだよ。ほら、いつもは陸上部の朝練あるし」

 ぼたんはその巨乳に似合わず陸上部のエース……とまでは行かないものの、そこそこに速い選手なのだ。エースになる邪魔をしているのは、胸に装備されているミサイルでも撃てそうなくらいたわわな二つの果実のせいだろう。

 走るところを何度か見させてもらったのだが、そりゃもう、ぶりゃんぶりゅんたぱぁんって感じで暴れ回るものだから、どうにも目のやり場に困った記憶がある。

 あまりに激しく揺れるものだから、エロい以前に気まずいって感じだったが。

「……帰宅部で良かった」

 なんだ、蒼乃もそう思うのか? 小さく頷いてるの見えてるぞ。

 昔はそんなに運動得意じゃなかったもんな。

「それで……」

 ぼたんは俺と蒼乃の顔を交互に眺める。

「二人はいっつも一緒に登校してるの? 仲直りしたんだ」

「してないっ」

 蒼乃……そんな大声で否定しなくてもいいだろ。まあ、してないけどさ。

 今の状態は何だろな? なんて表現するべきなんだろ。

「……劇場版で出て来た強大な敵に立ち向かうために、それまでの敵と共闘するって感じだ」

「なるほど、よく分かったよ」

 相変わらず特撮脳してんなぁ。普通の人だと絶対分かんねえだろこの例え。

「って事は、何か問題があるの?」

 そこに気付いてしまったか。

 どう言い訳するかなぁ。意外とぼたんって鋭いから嘘ついてもすぐばれるし……。かといって本当の事を言う訳にもいかないしなぁ。

 なんて悩んでいたら、蒼乃がボソッと助け舟を出してくれた。

「仲良く出来ないならお小遣い停止するってお母さんに言われた……」

「うわっ、強敵だっ!」

 ぼたんはややオーバーアクション気味に驚いた後、びしっとラ○ダーキックのポーズを取りつつ、

「それは絶対勝てないねぇ」

 なんて同意してくれる。

 つーかポーズやめい。龍○かとか成功率100%のキックでも倒せねえよなんて突っ込まねえからな。

「という訳で仕方なく一緒に登校してるんだよ」

「仕方なくってなによ!」

 そこ反応すんのかよ、蒼乃。

「じゃあ一緒に居たいから登校してる」

「それは気持ち悪いからやめて」

「……必要に迫られて一緒に登校してる」

「そのくらいならいい」

 へいへい、ウチの女王様はこだわりがあって大変ですなぁ。もういちいち起こる気もしねえけど。

 そんな俺たちの言い合いを見ていたぼたんが、何故か満足そうな顔で頷く。

「やっぱり仲直りしたんだ」

「してないっ」

「してないっ!」

 くそう、蒼乃とハモっちまったぜ。これじゃあ本当にラブコメ漫画のワンシーンみたいじゃねえか。

 やっべ、あんま気持ち悪くて鳥肌立った。

「とにかく複雑な関係なんだ。簡単に言ってもらいたくないな」

「お小遣いでしょ?」

「うむ」

 しかつめらしい顔をしてわざとらしく頷くと、そんな俺の背中を、ぼたんが笑いながらバシバシと叩いてくる。

 相変わらず何というか気さくというか行動がおっさん臭いよな。

「ところで蒼乃ちゃん、その髪」

 ぼたんが顔の横で両手をくるくるっと回す。

「可愛いねー。編み込みっていうかリボン絡めてあるんだ」

「……うん、そう」

 どうやら蒼乃の特徴でもある、側頭部だけ長く伸ばした髪に結ばれている白いリボンの事を話題にしているらしい。蒼乃がもみあげ辺りの髪をリボンでまとめているのは毎度の事なはずなのだが。

 それがどうかしたのか? と話題に置いて行かれていた俺に、ぼたんが懇切丁寧に解説してくれる。

「あのね。ウチの学校、髪留めくらいなら許してくれるんだけど、リボンを髪に編み込むのはアウトなの」

「んじゃ蒼乃はアウトなお洒落してるってことか?」

 そう聞く俺に、ぼたんは人差し指を立て、ちっちっちっと舌を鳴らしながら左右に振る。

 そんなぼたんの表情は、今にも「これだから素人は困るなぁ」とでも言いたげな顔をしていた。

 お前より名取の方が絶対女の子してるからな? この特撮馬鹿め。

「そのギリギリのラインを見極めて、限界ギリのお洒落をしてるってことなの」

「……それに何か意味があるのか?」

 先生に怒られるかもしれないってことだろ? ……蒼乃は真面目でそういう事しなさそうなイメージだったけどするんだな。っていうか朝来た時してたっけ? 覚えてねえや。

「女の子がお洒落をするのに理由なんて要らないのっ。怒られてもしたいお洒落だってあるんだから……」

 ずいぶんと真に迫ってるなぁ。

 そういやぼたんって前にスケ番デ○だっつってスカート丈をめちゃくちゃ長くして怒られてたっけ。短くして怒られる話はよく聞くのに長くして怒られるなんて珍しいことしたの、絶対お前だけだよな。

「そうか……」

 何気なく蒼乃のリボンを見ていたのだが、不満そうな蒼乃の顔も視界に入ってきてしまう。

 それを見たら何となく褒めないといけない気がしてきたので、

「似合ってるんじゃねえの?」

 と一応褒めて? おく。

「…………兄に褒められてもうれしくない」

 蒼乃は相変わらず不機嫌そうな顔で、何の意味もなかったけれど。

 その後もぼたんのお陰で退屈せずにそこそこ楽しみながら登校したのだった。
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