ツンツンな妹が実はデレデレだったって本当ですか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第10話 一緒に下校……する前の待ち合わせ

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 HRが終わり、名取とぼたんに別れを告げて、俺は図書室までやってきていた。

 図書室は普通の教室を二つぶち抜いた、つまりやたらと縦に長いだけの大教室なのだが、ラノベまで揃っている評判のいい図書室である。

 放課後なので余り利用者は居ないのだが、それでも十人程度の生徒が宿題や読書にいそしんでいた。

 俺は棚の間を抜け、更にその先へと進んで……。

「帰るぞ、蒼乃」

 多少奥まったところにある推理小説の棚で熱心にハードカバーの本を読みふけっている蒼乃の背中に声をかけた。

 蒼乃はチラッとだけ俺に視線を送ると、再び視線を手元に戻す。どうやらまだ帰る気はなさそうである。

「本は借りて行けばいいじゃないか。はやく帰ろうぜ」

「……今帰ったら誰かに見られるかもしれないじゃない」

 図書室である事を意識しているのか、ややひそめられているものの、その声にはやはりというか当然というか棘がある。ただ最近は俺の方もかなり慣れてきているため、なんとも思わないが。

「後一時間くらいしたら部活やってる連中が帰りだすだろうから、あと2、30分後にするか?」

「そのくらい」

 会話しながら読めてんのかな。ページめくってるんだし読めてるんだろうな……。

 少し朱色に染まりつつある光の中で、一人佇んで本を読みふける少女。

 妹という事を差し引いてもずいぶんと絵になるシーンだなと考え、何となく蒼乃の姿をぼーっと見つめ続ける。

 こうやって見ているとやはり蒼乃はかなり美人だ。家族の欲目なんて全くなしに……というか俺は蒼乃の事があまり好きではないのでどちらかというとマイナスに点数をつけた上での判断である。

 クラスメイトの中にはお義兄さまと呼ばせてくださいとか冗談半分で言われたりするほど学校でも可愛いと人気なのだが、俺的にはどうでもいいというか鬱陶し……かった。

 そうだ、鬱陶しかったのはゲームを始める前までのことだ。決してプラスの感情があるわけではないが、今まで感じていたマイナスの感情は、既にどこかへいってしまっている。

 このままゲームを続けても、その感情がプラスになるなんてなかなか想像も出来ないが、この程度の感情で固定するくらいは十分あり得るだろう。

 あのゲームには未だに恐怖の方が強い。最終的にどんな要求とか利用をされるのかを想像すると、警察か何かに相談しようかと真剣に考える程度にはヤバいと思っている。

 それでも、ここまで関係が回復した事は、感謝してもいいんじゃないかと俺は想っていた。

「……ねえ、なんで見てるの?」

「んあ、なんだって?」

 俺は蒼乃を見ていたわけではない。そのあたりをボーっと眺めて居ただけだ。

 だから蒼乃がいつの間にか本を読むのを止めて、こちらを睨みつけてきている事にまったく気付いていなかった。

「なんで私を見ているの?」

 私、というところが少し強調されているが、語調のわりに声から怒りは感じられない。

「いや、何となく。暇だったからかな?」

「暇なら本読んだら? 向こうにライトノベル沢山あるよ」

 俺がラノベも嗜むとよくご存じで。そういや蒼乃はBL本は読むのかね、なんて聞いたら絶対怒られるだろうから聞かないけど。

「まあ、読みたいのはほとんど持ってるし。蒼乃が読んでるのはなんだ?」

 ちょっと顔を傾けて、蒼乃の手に持っている本の背表紙を覗き込む。

 本の背には多少大きめの文字で、ルパン対ホームズという有名過ぎる本のタイトルが書かれていた。

 小学生の頃には結構読んだなぁ。中学に上がったらすっかりラノベにはまって全然読まなくなったけど、読んで楽しかった思い出はある。

「そう言えばこのホームズって性格違うよな。作者が違うんだから当たり前だけど」

「ホームズじゃない。エルロック」

「は?」

 タイトルにはホームズってしっかり書いてあるけど?

「作者が無断でホームズって書いたのが問題になって、後からエルロック・シャルメって名前に変更したの。日本だとホームズにされちゃってるけど」

 何その、ドラ○もんをのらえもんにしましたレベルの対応。でも蒼乃の原作に対する想いは伝わってくる。

「……蒼乃って本好きだったんだな」

「…………」

 蒼乃は少しだけ唇を尖らせつつも、

「好きだけど」

 ぼそりと呟いた。

 なんで不満そうなんだよ。なんか俺言っちゃいけないような事言ったか? 本好きっていい事だよな。

「なあ、俺の好きそうな本とか教えててくれないか?」

「失楽園でも読んどけば?」

「…………その心は?」

 なんか宗教的な古典だよな。名前は知ってる。名前だけだけど。

「性描写が多いけど文学作品だからって普通の場所に置いてあるから堂々と読める」

「お前は俺をどんな風に見てるんだ……いや、いい言わなくて」

 絶対悪口だろうから。

 久しぶりに喧嘩しなくなったんだからまた喧嘩したくない。

 しかし失楽園ってエロいのか……いや、読もうかなって思ってねえし!

 だいたい男だからエロって短絡的過ぎだろ。まあ、嫌いって言ったら嘘になるけどさ……。

「エロを除いておススメの本を頼む」

「…………面倒なんだけど」

 そう言いつつも、蒼乃は一応探してくれているのか、しばらく視線をあちこちの棚にやって……一冊の本を選び出した。

 ずいぶんと古そうな本だが大丈夫なのだろうか。

「はい」

「少年少女のための100の有名な話……児童文学か?」

「神話とか英雄の話を子どもでも読める様に短くして100話にした本。にい、確か英雄の出て来るゲームやってたよね」

 ああ、FG○な。たまにだたまに。

 結構いい時間潰しになるし。

 なるほど、元ネタ知れていいかもしれないな。これはいいチョイスだ。

「サンキュー、ちょっと興味湧いたから読んでみる」

 俺は蒼乃の手から本を受け取ると、ちょっと心を躍らせながら椅子の並べてある場所へと歩いていった。







「……にい。帰るよ」

 いつの間にか本に没頭してしまっていた俺は、蒼乃に肩を揺さぶられてようやく我に返った。

「っと、時間か?」

 時計を見てみれば、一時間もの時間が流れてしまっていた。どうやら蒼乃も本に熱中してしまっていた様だ。

 ……というか児童文学と侮るなかれ、思いのほか読みやすくて面白かった。借りてこ。

 蒼乃も相当ハマってしまったと見えて、件の世界一有名な怪盗の本を、五冊も腕に抱えている。

 俺たちはそれぞれ手続きを済ませて本を借りた後、ようやく帰路に着いたのだった。
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