ツンツンな妹が実はデレデレだったって本当ですか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第23話 兄妹なのに……

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 母親は俺たちの言い訳を聞いた後、お風呂に入りなさいの一言を残して一階へと降りて行った。ふざけあった結果、互いに調子に乗ってしまったというあまりにも下らない理由で取っ組み合いをしていた事に呆れてしまったのかもしれない。

 俺はアーモンド片手に蒼乃と顔を見合わせ、

「なんかやり過ぎた、すまん」

「こっちこそごめん」

 どちらからともなく謝った。

 それで全ては終わり。何となく冷めてしまった俺はチョコレートのほとんどなくなりアーモンドだけになってしまった元チョコレート菓子を口に放り込もうとして……。

「こっちに入れて」

 蒼乃が小さな歯の列が行儀よく並ぶ口をカパッと開けてこっちに向けると、口元を指でトントンと叩く。

「いや、でも散々触って……」

「いいの。お母さんの目の前であーんとかする方がやだから」

「そうか」

 俺はその言葉に甘えて蒼乃の口の中にアーモンドを投げる様に置いた。

 俺の指が引いた事を確認した蒼乃は口を閉じ、そのままコリコリと音を立ててアーモンドを噛み砕いてから飲み下す。

 たったそれだけで終了してしまった。感慨とか緊張とかそういったものは何もない。本当にただやっただけという感じだったが、これが普通の兄妹の正しくあるべき姿なはずだ。

 ……俺に不満は欠片も無い。

「先風呂入れよ。俺は汚れたの手くらいだけど、お前は顔とか結構チョコレート付いてるぞ」

「……そうなんだ」

 蒼乃は頬を親指で拭い、そこにベットリと付いたチョコレートに顔をしかめる。

「ありがと」

 蒼乃は親指についたチョコレートを舌先でペロッと拭う。

 そのまま俺たちは一緒に洗面所まで行って、一緒に手を洗ったのだった。

 何してたんだろうなぁ、と冷えた頭で先ほどの行動を後悔しながら……。







 俺は壁にかかった時計へと目を向ける。時間は午後7時前。俺と蒼乃が取っ組み合いのじゃれ合いをしてからだいたい一時間程度経っていた。そろそろ俺も風呂に入らなければ、このべたつく体で食事をする羽目になりそうだ。

 俺は適当な着替えを手にして風呂場へと向かう。

 一応用心しながら脱衣所の扉を開けると、辺りはすっかり真っ暗になっていてシンと静まり返っていた。

「うし、大丈夫だな」

 俺は着替えを床に置き、手早く衣服を脱ぎ捨てると、タオル片手に電灯を付けながら浴室の扉を開け――。

 ――中にいた蒼乃と目があってしまった。

 蒼乃は暗い浴室の中、電気もつけずにじっとお湯に浸かっていたらしい。陶然した感じで俺に流し目を向けて、だんだんと脳が事態を理解したのか、その瞳が見開かれていく。

 その間俺は何もできず、完全に硬直してしまっていた。

 何故なら、俺は蒼乃の何もつけていない生まれたままの姿に、思わず見とれてしまっていたからだ。

 蒼乃の肉体は、女性の描く独特の曲線とは程遠い線を描いている。特に胸部など曲線では無くて直線だ。悲しいぐらいにまっすぐで、定規の代わりにでもなりそうなほどである。

 だが、その体の上に蒼乃の顔が乗っているという事実だけで、不思議とその魅力は最高のものになってしまう。

 黄金比とでもいうのだろうか。それしかないってくらいにベストマッチした顔と体の組み合わせであり、奇跡ともいえる存在ではないかと思うほど、蒼乃という存在は完全完璧に見えた。

 今までそんな事無かったのに。そんな風に感じたことは一度も無かったはずなのに……。

「ふわっ」

 愛らしい悲鳴と共に蒼乃が慌てて自身の体を隠す。

 頬が紅潮しているのは決してお風呂で温まったことだけが原因ではないだろう。

「す、すまんっ!」

 そこまで見てようやく俺は正気を取り戻し、転びながら浴室から撤退する。

「電気点いてなかったから……本当にすまんっ」

 ドアが開いたままの浴室に向けて声を投げつけると、そのまま這うようにして脱衣所から逃げ出し、股間だけはタオルで隠しながらトイレに駆け込んだ。

 勢いよく走ったせいだろう。俺は肩で息をしながらトイレのドアを閉め、しっかりと鍵をかける。唯一鍵のかかるこのトイレの存在が今はとても頼もしかった。

 意味も無いのにトイレのカバーを上げて便座に腰を下ろす。蒼乃のせいで猛り狂っている己の息子を手で押さえ付けて……ようやくホッとため息をついた。

「…………ああもう、なんなんだよ」

 さっきまでは間違いなく普通の兄妹で居られたのに。なんの意識もせずに居て、蒼乃に女を感じることなく居られたのに。これからも兄妹で居られると思っていた。決めていたのに――。

 ほんの一目、蒼乃の体を見てしまっただけで、己の中にある雄の部分が雌を求めて大暴れしてしまっていた。

 いや、違う。雌ではない。蒼乃を求めているのだ。

 今も網膜に蒼乃の純白の肌が焼き付いてしまっている。目を瞑っても、頭をげんこつで何度も叩いてみても、何をやってもどうしようとしても、先ほど見た光景がまぶたの裏側にちらついて離れなかった。

 俺だって男だ。色々と女性の肌かに興味があるし、そういう画像やそういう映像を見たことだってある。でも蒼乃の体はそういうのとは隔絶した存在だと感じていた。

「くそっ……そうだよ、そうなんだよ……!」

 綺麗とか可愛いとか、胸が高鳴るとか……愛してるだとか、そんな言葉や表現が稚拙に思えてしまう位……俺はこれあおのが欲しいのだと、はっきりと分からされてしまう。

 蒼乃を女性として意識しているだけで好きじゃないとか兄妹だからそういう感情を持ってはいけないとか、そんなおためごかしは一気に吹き飛ばされてしまい、俺の中に在る蒼乃を求める本能をこれでもかというくらいに抉り出され、目の前にさらけ出されてしまった。

「俺は、蒼乃が……蒼乃の事が……」

 気付いてしまった。気付かされてしまった。

 絶対に認めてはいけない事なのに。

 そうじゃないと何度も自分に言い聞かせて、ずっと自分を騙して来たのに。

 たった一度の遭遇、たった一回の失敗で全てがおじゃんになってしまった。

「くそっ」

 思わず苛立ちから拳を壁にぶつけてしまう。

 求めてはいけないと分かっていても、禁断の果実を求めてしまう自分への愚かさ故か、それとも絶対に手に入らないと分かっている苛立ちからか。

 いずれにせよ、俺はどうしようもないほど馬鹿という事だけは確かだった。

「蒼乃には絶対隠し通す。それだけは絶対に、徹底しないとだな」

 蒼乃の気持ちは分からない。今までの態度からすれば、ただ単に兄妹だから義務的にミッションをこなしているだけとは考えづらいだろう。……俺のどこにそんな事を想ってくれる要素があったのかはまったく分からないが、ある種の好感は、間違いなく抱いてくれているはずだ。

 この気持ちを受け入れてくれるほどの強いものかまでは分からないが、例えそうれんあいかんじょうであったとしても、絶対に俺がそんな気持ちを持っている事を蒼乃に知られてはいけない。

 その先に待ち受けているのは……地獄だけだから。

 それだけの事を考えて居たら、少しだけ頭が冷えて来て、冷静に今の状況を判断できるようになる。

 時間はもうすぐ午後7時を回るため、まもなく食事の時間が来てしまう。それまでに風呂を済ませてしまわなければならないのだが……。

「まずはこいつが問題か……」

 足の間で盛大に脈打っている男の象徴をなんとかしなければならなかった。

 さすがに隆起させたまま家の中を歩き回るほど俺は変態ではない。

「…………処理するしかないよなぁ」

 盛大にため息をつきながら、未だ脳裏にちらつく蒼乃の艶姿に意識を向ける。少しだけ罪悪感が湧いたが、これも自分が兄であるためには必要な事だと自分を説き伏せ……嘘をついて、欲望の前に敗北してしまった。
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