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第31話 初動
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「ゲームって何だよ! この期に及んで俺たちを弄んで何が楽しいんだよ!」
不幸にしかならない気持ちを自覚させ、そういう方向に無理やり進ませるように状況をセッティングする。
こちらとしては傍迷惑でしかないし、善意でやっているのなら性格は最悪な奴だろう。
ここまで辛い想いをしているのに。
どれだけ悩んで諦めなきゃいけないと思っているんだ。
俺ならまだしも蒼乃は十年近い間悩み続けていたはずだ。それなのに面白半分でそれを掘り返して焚きつけて、最後は消して、その上まだゲームの駒として利用するなんて……。
『ゲームは単純です。障害を乗り越え、この市内のどこかに居るあなたのパートナーを見つけ出してください』
「は?」
市内って……どれだけ広いと思ってるんだ、コイツは。
というかこれって、蒼乃をどこか適当な所に放り出したってことだよな。
怪我、事故、最悪の選択肢も考えられるぞ。
『制限時間は今日の12時。ゲームの開始時刻は今からです』
しかも制限時間ありかよ、クソッたれ。
今は6時過ぎだから、あと6時間もない。そんな短時間でこの市内全域から蒼乃一人を見つけ出す?
下手したら移動だけで時間食ってアウトだろうが。
『何を使っても、誰に協力を求めても構いませんが、ゲームの事だけは知られないようにしてください。知られた時点でゲームは終了。あなたは未来永劫パートナーを失う事になります』
「おい、ちょっと待て。そんな情報だけで分かるか! 後――」
『それからあなたのパートナーは、あなたのパートナーが一番居たい場所で見つける事が出来るでしょう』
それだけ告げるとゲームのキャラクターは画面から消え失せ、マイクからは何の音も聞こえなくなる。
会話出来ていたのか、それとも初めから仕組まれていたことなのか分からないが、こちらのことなどお構いなしに、一方的に説明され、一方的に終了されてしまった。
多分、もうゲームは始まっているのだろう。
「なんなんだよ、なんなんだよ、クソォ……」
混乱しそうになる頭と、高ぶり続ける感情を宥め、必死に状況を整理する。
12時までだ。それまでに蒼乃を取り戻さなければ、蒼乃は多分……。
そこから先は考えたくなかった。
その悪夢を現実にしないためにも、冷静に行動する必要がある。
俺はまず足の裏に突き立っている欠片を取り除くと、机に向かい、バックアップにしていたマイクロSDカードを手に取ると、そのまま蒼乃の部屋へと向かった。
部屋を見回し蒼乃のスマホを見つけると、すぐさま拾い上げて起動する。
パスワードは……蒼乃誕生日を打ち込むが開かない。
迷った末に俺の誕生日を入力すると……。
「ははっ……」
蒼乃の心の欠片を見つけて思わず乾いた笑い声が漏れ出てしまう。予想通り、スマホはすぐさま起動してくれた。
こんなにも、こんなにも蒼乃は俺の事を好きでいてくれたのだ。
なのに俺は……。
「絶対見つけるから」
宣言してからマイクロSDを交換して電話帳を読み込む。
そのまま名取の家へと電話を掛けた。
長いコールの後、家の人が出てくれる。謝罪をしつつ名取を呼び出してもらった。
『なに……どうしたの?」
若干眠そうなのは電話によってたたき起こされたからだろう。
朝練もあって早くから起きているであろうぼたんの方を先にすべきだったかと後悔するが、今考えても仕方ない。
「蒼乃が……家出した」
『えっ!?』
本当は家出ではなく消え去ってしまったのだが、そんな事言っても信じて貰えるとは思わなかったし、第一ルールに抵触してしまう。
蒼乃が迷惑をかけるという体になってしまうが、今は仕方がなかった。
「すまん、探すの手伝ってもらえないか?」
『わ、分かった』
「詳しくは後で話す。メールに気を付けておいてくれ」
それだけ言うと一旦電話を切ってぼたんに連絡する。
こちらも似たような過程を経てぼたんと連絡を取る事が出来た。
違う事は……。
『蒼司。もしかして、私と関係あるのかな?』
ぼたんには俺の恋人の振りをするように頼んでしまっていた。
それが蒼乃を傷つけてしまったのではないかと思考が繋がってしまったのだろう。
ぼたんの声は、とても落ち込んでいる様に聞こえた。
「関係ない」
そうだ、関係ない。
蒼乃は嫉妬こそ見せたものの、きちんと俺たちが兄妹で在る事を理解していた。
蒼乃が居なくなったのは、ぼたんのやったこととは何も関係ない。
俺がしくじったせいで消えてしまったのだ。
『でもさ、それしか思いあたらないよ。こんな急に……』
「絶対に関係ない。俺の言う事を信じてくれ。理由を詳しく言う事は出来ないんだが絶対に関係ない。絶対にだ」
伝わってくれと願いながら何度も強調する。
『…………ん、分かった』
「どうするかは……えっと……」
しまったな。名取は携帯ゲーム機にメール送れるんだが、ぼたんは家電いえでん以外方法がないぞ。
そんな思考が向こうに伝わったのだろう。
受話器の向こう側で何か声が聞こえた後、
『お母さんに携帯借りられる事になった。今から言う電話番号に連絡ちょうだい』
提案と共に電話番号を告げられる。
俺はそれを腕にマジックで直接殴り書きした。
「ありがとう、助かる」
それだけ言うと、電話を切って階下へと向かう。
母親の寝室に殴りこんで、夢の国から強引に引き戻して蒼乃の事を伝える。
最初は信じてくれなかったが、からっぽの部屋と、家中何処を探しても蒼乃の姿が無かった事で、ようやく信じてくれた。
「で、でも蒼乃だってたまにはこういう事をしたくなるお年頃じゃあ……」
「違うんだよ! 昨夜俺に見つけてくれって言ってたんだよ、蒼乃は。勝手に帰って来るわけじゃないんだよ! 見つけなきゃダメなんだよ!」
事情が話せないのがとてももどかしい。
嘘に嘘を重ねて母親を説得する。
「そ、そうね。これって蒼乃からのSOSだものね。母さんが間違ってたわ」
「ありがとう」
「でも蒼乃はどこにいるのかしら……」
分からない。それが一番の問題だった。
蒼乃が居るのはこの市内のどこか…………いや、あの時ゲームは『一番居たい場所で見つけられる』と言っていた。蒼乃の居たい場所。となると……。
考えたが、俺は蒼乃の事を何も知らない。どういう物が好きで、普段どういう場所に行くのかまったく知らなかった。
「蒼乃の一番居たい場所ってどこかな?」
「蒼乃の? お友達の家とかかしら」
「後は思い出の場所とかか……」
候補は山ほどある。なら……。
「友達関連の場所を任せていい? 後は家の周辺とか」
「分かったわ。でも友達はよく分からないわよ。萌香ちゃんとはよく遊んでたみたいだけど……」
「誰?」
「妹尾萌香。クラスメイトよ」
俺は即座に蒼乃のスマホを弄って電話帳からその娘の番号を探し出すと、そのままためらいなく通話ボタンを押した。
コール音が耳元で鳴り響く。やはり朝だからか反応は鈍い様だ。
「…………」
「あれ? 蒼司、それって蒼乃のスマホじゃない」
「そうだよ。俺のはちょっと壊しちゃって、蒼乃が残して行ったこっちを使わせてもらってるんだ」
「壊したって……。あれ高いのよ? そんな事して――」
俺と母親で深刻さに差があるのは仕方がないことなのだろう。
俺は12時までに蒼乃を見つけなければ、蒼乃が完全に消えてしまう事を知っている。
対して母親はただの家出だと思っているのだ。この差は大きかった。
俺は母親に向かって静かにするよう合図する。それから数秒とかからず目的の相手が電話口に出てくれた。
「あっ、すみません。蒼乃の兄の蒼司ですが――」
不幸にしかならない気持ちを自覚させ、そういう方向に無理やり進ませるように状況をセッティングする。
こちらとしては傍迷惑でしかないし、善意でやっているのなら性格は最悪な奴だろう。
ここまで辛い想いをしているのに。
どれだけ悩んで諦めなきゃいけないと思っているんだ。
俺ならまだしも蒼乃は十年近い間悩み続けていたはずだ。それなのに面白半分でそれを掘り返して焚きつけて、最後は消して、その上まだゲームの駒として利用するなんて……。
『ゲームは単純です。障害を乗り越え、この市内のどこかに居るあなたのパートナーを見つけ出してください』
「は?」
市内って……どれだけ広いと思ってるんだ、コイツは。
というかこれって、蒼乃をどこか適当な所に放り出したってことだよな。
怪我、事故、最悪の選択肢も考えられるぞ。
『制限時間は今日の12時。ゲームの開始時刻は今からです』
しかも制限時間ありかよ、クソッたれ。
今は6時過ぎだから、あと6時間もない。そんな短時間でこの市内全域から蒼乃一人を見つけ出す?
下手したら移動だけで時間食ってアウトだろうが。
『何を使っても、誰に協力を求めても構いませんが、ゲームの事だけは知られないようにしてください。知られた時点でゲームは終了。あなたは未来永劫パートナーを失う事になります』
「おい、ちょっと待て。そんな情報だけで分かるか! 後――」
『それからあなたのパートナーは、あなたのパートナーが一番居たい場所で見つける事が出来るでしょう』
それだけ告げるとゲームのキャラクターは画面から消え失せ、マイクからは何の音も聞こえなくなる。
会話出来ていたのか、それとも初めから仕組まれていたことなのか分からないが、こちらのことなどお構いなしに、一方的に説明され、一方的に終了されてしまった。
多分、もうゲームは始まっているのだろう。
「なんなんだよ、なんなんだよ、クソォ……」
混乱しそうになる頭と、高ぶり続ける感情を宥め、必死に状況を整理する。
12時までだ。それまでに蒼乃を取り戻さなければ、蒼乃は多分……。
そこから先は考えたくなかった。
その悪夢を現実にしないためにも、冷静に行動する必要がある。
俺はまず足の裏に突き立っている欠片を取り除くと、机に向かい、バックアップにしていたマイクロSDカードを手に取ると、そのまま蒼乃の部屋へと向かった。
部屋を見回し蒼乃のスマホを見つけると、すぐさま拾い上げて起動する。
パスワードは……蒼乃誕生日を打ち込むが開かない。
迷った末に俺の誕生日を入力すると……。
「ははっ……」
蒼乃の心の欠片を見つけて思わず乾いた笑い声が漏れ出てしまう。予想通り、スマホはすぐさま起動してくれた。
こんなにも、こんなにも蒼乃は俺の事を好きでいてくれたのだ。
なのに俺は……。
「絶対見つけるから」
宣言してからマイクロSDを交換して電話帳を読み込む。
そのまま名取の家へと電話を掛けた。
長いコールの後、家の人が出てくれる。謝罪をしつつ名取を呼び出してもらった。
『なに……どうしたの?」
若干眠そうなのは電話によってたたき起こされたからだろう。
朝練もあって早くから起きているであろうぼたんの方を先にすべきだったかと後悔するが、今考えても仕方ない。
「蒼乃が……家出した」
『えっ!?』
本当は家出ではなく消え去ってしまったのだが、そんな事言っても信じて貰えるとは思わなかったし、第一ルールに抵触してしまう。
蒼乃が迷惑をかけるという体になってしまうが、今は仕方がなかった。
「すまん、探すの手伝ってもらえないか?」
『わ、分かった』
「詳しくは後で話す。メールに気を付けておいてくれ」
それだけ言うと一旦電話を切ってぼたんに連絡する。
こちらも似たような過程を経てぼたんと連絡を取る事が出来た。
違う事は……。
『蒼司。もしかして、私と関係あるのかな?』
ぼたんには俺の恋人の振りをするように頼んでしまっていた。
それが蒼乃を傷つけてしまったのではないかと思考が繋がってしまったのだろう。
ぼたんの声は、とても落ち込んでいる様に聞こえた。
「関係ない」
そうだ、関係ない。
蒼乃は嫉妬こそ見せたものの、きちんと俺たちが兄妹で在る事を理解していた。
蒼乃が居なくなったのは、ぼたんのやったこととは何も関係ない。
俺がしくじったせいで消えてしまったのだ。
『でもさ、それしか思いあたらないよ。こんな急に……』
「絶対に関係ない。俺の言う事を信じてくれ。理由を詳しく言う事は出来ないんだが絶対に関係ない。絶対にだ」
伝わってくれと願いながら何度も強調する。
『…………ん、分かった』
「どうするかは……えっと……」
しまったな。名取は携帯ゲーム機にメール送れるんだが、ぼたんは家電いえでん以外方法がないぞ。
そんな思考が向こうに伝わったのだろう。
受話器の向こう側で何か声が聞こえた後、
『お母さんに携帯借りられる事になった。今から言う電話番号に連絡ちょうだい』
提案と共に電話番号を告げられる。
俺はそれを腕にマジックで直接殴り書きした。
「ありがとう、助かる」
それだけ言うと、電話を切って階下へと向かう。
母親の寝室に殴りこんで、夢の国から強引に引き戻して蒼乃の事を伝える。
最初は信じてくれなかったが、からっぽの部屋と、家中何処を探しても蒼乃の姿が無かった事で、ようやく信じてくれた。
「で、でも蒼乃だってたまにはこういう事をしたくなるお年頃じゃあ……」
「違うんだよ! 昨夜俺に見つけてくれって言ってたんだよ、蒼乃は。勝手に帰って来るわけじゃないんだよ! 見つけなきゃダメなんだよ!」
事情が話せないのがとてももどかしい。
嘘に嘘を重ねて母親を説得する。
「そ、そうね。これって蒼乃からのSOSだものね。母さんが間違ってたわ」
「ありがとう」
「でも蒼乃はどこにいるのかしら……」
分からない。それが一番の問題だった。
蒼乃が居るのはこの市内のどこか…………いや、あの時ゲームは『一番居たい場所で見つけられる』と言っていた。蒼乃の居たい場所。となると……。
考えたが、俺は蒼乃の事を何も知らない。どういう物が好きで、普段どういう場所に行くのかまったく知らなかった。
「蒼乃の一番居たい場所ってどこかな?」
「蒼乃の? お友達の家とかかしら」
「後は思い出の場所とかか……」
候補は山ほどある。なら……。
「友達関連の場所を任せていい? 後は家の周辺とか」
「分かったわ。でも友達はよく分からないわよ。萌香ちゃんとはよく遊んでたみたいだけど……」
「誰?」
「妹尾萌香。クラスメイトよ」
俺は即座に蒼乃のスマホを弄って電話帳からその娘の番号を探し出すと、そのままためらいなく通話ボタンを押した。
コール音が耳元で鳴り響く。やはり朝だからか反応は鈍い様だ。
「…………」
「あれ? 蒼司、それって蒼乃のスマホじゃない」
「そうだよ。俺のはちょっと壊しちゃって、蒼乃が残して行ったこっちを使わせてもらってるんだ」
「壊したって……。あれ高いのよ? そんな事して――」
俺と母親で深刻さに差があるのは仕方がないことなのだろう。
俺は12時までに蒼乃を見つけなければ、蒼乃が完全に消えてしまう事を知っている。
対して母親はただの家出だと思っているのだ。この差は大きかった。
俺は母親に向かって静かにするよう合図する。それから数秒とかからず目的の相手が電話口に出てくれた。
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