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幕間 アウロラせんせーの魔術講座
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「と、いう訳で魔術の事をあまり知らないナオヤの為に、私が直々に説明してあげるわ!」
アウロラがふんすと鼻息を荒くして、無い胸を必死に逸らしてみせる。
場所はギルドの会議室。彼女の背後には黒板のような物があり、手には白墨が握られていて、気分は先生といった感じだ。
本当はシュナイドが教えてくれることになっていたのだが、仕事が多いという事で急きょアウロラが俺の講師になってくれていた。
「お願いします、先生」
俺は部屋の中心に置かれた大きな机の上にスマホと小さな黒板、それから白墨を置いて席に着いた。
「任せてっ!」
任せてと言いつつアウロラの手元にはギルドに置いてある魔術の指導書が開いて置いてある時点で付け焼刃であることが露呈している気もするのだが……。
そこは気にしないでおいた方がいいだろう。
「それじゃあ魔術って何かを説明するわね。まず魔術っていうのは、魔力を使って世界に呼びかけて要素を集め、色んな事をする技術なの」
例えば『火』を使いたいとする場合、『火』の真言を何にでもいいので描き、そこに魔力を流し込みながら『火よ』と呪文を唱える。
この時に、魔力が真言に注がれることで、この世界から『火』の要素が集約され、『火』が生み出されるのだ。
ちなみにより上位の技術として魔法があり、魔力を要素に変換したり、世界そのものを操作することが出来るのだが、これは天使や魔族といった人間の上位存在にしか扱う事はできない。
「どうかしら?」
「うん、仕組みはわかったよ。魔術式の事は分かった。じゃあ呪文とか魔術名はどういう意味があるんだ?」
「それはね、号令みたいなものかな」
呪文は、出現した『火』に、もっと強くなれだとか、丸くなれだとか形状や威力などの操作を行うために使われる。
そのため、魔術の扱いが上手い人なら魔力を真言に流す際、命令を要素に伝えておくことが可能だ。そうすれば、簡単な魔術を無詠唱で行使することも出来たりする。
また、魔術式にその命令を書き込んでおくことで、詠唱を省略することもできる。
スマホに保存されている魔術式の類は、そうやって既に呪文を組み込んであるため、魔術名を発するだけで魔術が発動するのだ。
「じゃあ、基本が出来たところで応用編に進むわよ。着いて来られるかしら?」
さっきからシュバババッって感じで指導書めくってるのに着いて来られるとか聞かないでね、アウロラ。
なんて突っ込んだらさすがにかわいそうか。
という事で、俺は素直に「はい、お願いします」いうに留めておく。
「えっとね、え~っと……それじゃあサークルについて話していくわね」
「1重ワン・サークルとか10重テン・サークルとか言ってるね」
「それもさっきの呪文と似たようなものよ。威力増幅を何回したか、どんな形状になりなさいとかそういう命令をした回数をサークルと呼んでいるの」
例えば爆発する魔術、バーニング・エクスプロージョンは、『火』に五回威力増幅を行い、爆発するために『風』に三回の威力増幅を行っている。残りの二つはその二つが混ざらない様にという命令と、着弾した瞬間破裂するという命令だ。
そうやって、計10個の命令が組み合わさっているから10重テン・サークルと呼ばれている。
なので、10重魔術だから威力が必ずしも高いという訳ではない。
連射と弾数に比重を置いているフレア・ガンズなどがそのいい例だろう。
「ちなみに基礎魔術と言われるのがあって、威力を1回増幅、つまり1重魔術がバレットと呼ばれているの」
そこから2重がボルト(短矢)、3重がアロー(矢)、4重がスピア(槍)、5重がランス(突進槍)、6重がパイル(破城杭)、7重がラム(衝角)と呼ばれている。
それと属性名を組み合わせたものが基礎魔術なのだ。
『火』ならファイアー・バレット。『氷』ならアイス・バレット、といった具合である。
「あ、もしかして魔術名ってそういう感じで決まるのか?」
「鋭いわね、その通りよ。基本的には属性を前に、後ろに形状や効果が来るようになっているわ」
ただ、複合魔術やスマホに記録されている10重の魔術は、基本的に開発者が呪文との兼ね合いで魔術名を決めるため、この法則から多少外れている場合もあるらしい。
「それじゃあサークルの話に戻るけど、ここからは人間に関わって来る話よ。何故10重が凄いと言われているのかというと、単純にそれ以上は制御が困難だから」
「制御補助とかあれば出来るとかないのか?」
「そういうのもあるけれど、10重を過ぎると制御補助がとんでもなく大きくなるらしいわ」
らしいって今読んでるのバレバレだぞー。
「何十人もの魔術師が一緒になって制御したり、長時間呪文を唱え続けたりと、色々方法はあるらしいけど、基本的に現実的じゃないみたいね」
「なるほど」
1重の魔術も慣れないと結構難しかったから、それが更に積み上がっていくと考えると……色々と納得が出来た。
「ちなみに魔術師っていうのは、5重以上の魔術を制御補助なしで扱えて、2重以下の魔術を魔術式なし、つまり真言だけで発動させられる人の事を言うの。このギルドにも数えるほどしか居ないのよ」
そう言ってアウロラは何人かの名前を上げていく。シュナイドは当たり前にして、サラザールの名前も挙がったのは少々意外だった。
まあ、ある程度の実力はあるという事だろう。
「だからナオヤも頑張って魔術の勉強しないといけないわね。道は遠いんだから」
「あ、でも俺、1重魔術なら呪文詠唱省略できるようになったんだよね」
あの仮面の魔族と戦った時からできる様になってたんだ。実戦で成長するとかちょっと熱い展開。……って、アウロラ凄い顔してるけどどうしたんだ?
そんな顔、女の子がやっちゃいけません。富士山みたいな口しちゃって。
「わ……」
「わ?」
「わたしまだ無詠唱できない……」
「…………」
しばらく無言で見つめ合う。
沈黙がとんでもなく痛かった。
「……いいわよ! 今はナオヤの事お兄ちゃんって呼んであげるわ!」
「そういう問題か!?」
びしっと突き付けられた指の先に向けて思わず突っ込んでしまった。
……アウロラみたいな小さい美少女に、お兄ちゃんって言われるのは結構いい気分だけど、そんなころころ姉と弟が入れ替わっていいの?
「でも見てなさいよ。絶対頑張ってお姉ちゃんに返り咲いてやるんだから!」
「なあ、お姉ちゃんってそういうものなのか!? そういうものなのか!?」
「見てなさいっ」
アウロラはそれだけ言い残すと、シュナイドさーん! と大声を上げながら部屋を出て行ってしまった。ちょっと悔し涙まで流していたような気がする。
残された俺はがらんとした部屋と、散らばっている教科書や白墨等を見て……。
「……片付けるか」
肩を竦めたのだった。
アウロラがふんすと鼻息を荒くして、無い胸を必死に逸らしてみせる。
場所はギルドの会議室。彼女の背後には黒板のような物があり、手には白墨が握られていて、気分は先生といった感じだ。
本当はシュナイドが教えてくれることになっていたのだが、仕事が多いという事で急きょアウロラが俺の講師になってくれていた。
「お願いします、先生」
俺は部屋の中心に置かれた大きな机の上にスマホと小さな黒板、それから白墨を置いて席に着いた。
「任せてっ!」
任せてと言いつつアウロラの手元にはギルドに置いてある魔術の指導書が開いて置いてある時点で付け焼刃であることが露呈している気もするのだが……。
そこは気にしないでおいた方がいいだろう。
「それじゃあ魔術って何かを説明するわね。まず魔術っていうのは、魔力を使って世界に呼びかけて要素を集め、色んな事をする技術なの」
例えば『火』を使いたいとする場合、『火』の真言を何にでもいいので描き、そこに魔力を流し込みながら『火よ』と呪文を唱える。
この時に、魔力が真言に注がれることで、この世界から『火』の要素が集約され、『火』が生み出されるのだ。
ちなみにより上位の技術として魔法があり、魔力を要素に変換したり、世界そのものを操作することが出来るのだが、これは天使や魔族といった人間の上位存在にしか扱う事はできない。
「どうかしら?」
「うん、仕組みはわかったよ。魔術式の事は分かった。じゃあ呪文とか魔術名はどういう意味があるんだ?」
「それはね、号令みたいなものかな」
呪文は、出現した『火』に、もっと強くなれだとか、丸くなれだとか形状や威力などの操作を行うために使われる。
そのため、魔術の扱いが上手い人なら魔力を真言に流す際、命令を要素に伝えておくことが可能だ。そうすれば、簡単な魔術を無詠唱で行使することも出来たりする。
また、魔術式にその命令を書き込んでおくことで、詠唱を省略することもできる。
スマホに保存されている魔術式の類は、そうやって既に呪文を組み込んであるため、魔術名を発するだけで魔術が発動するのだ。
「じゃあ、基本が出来たところで応用編に進むわよ。着いて来られるかしら?」
さっきからシュバババッって感じで指導書めくってるのに着いて来られるとか聞かないでね、アウロラ。
なんて突っ込んだらさすがにかわいそうか。
という事で、俺は素直に「はい、お願いします」いうに留めておく。
「えっとね、え~っと……それじゃあサークルについて話していくわね」
「1重ワン・サークルとか10重テン・サークルとか言ってるね」
「それもさっきの呪文と似たようなものよ。威力増幅を何回したか、どんな形状になりなさいとかそういう命令をした回数をサークルと呼んでいるの」
例えば爆発する魔術、バーニング・エクスプロージョンは、『火』に五回威力増幅を行い、爆発するために『風』に三回の威力増幅を行っている。残りの二つはその二つが混ざらない様にという命令と、着弾した瞬間破裂するという命令だ。
そうやって、計10個の命令が組み合わさっているから10重テン・サークルと呼ばれている。
なので、10重魔術だから威力が必ずしも高いという訳ではない。
連射と弾数に比重を置いているフレア・ガンズなどがそのいい例だろう。
「ちなみに基礎魔術と言われるのがあって、威力を1回増幅、つまり1重魔術がバレットと呼ばれているの」
そこから2重がボルト(短矢)、3重がアロー(矢)、4重がスピア(槍)、5重がランス(突進槍)、6重がパイル(破城杭)、7重がラム(衝角)と呼ばれている。
それと属性名を組み合わせたものが基礎魔術なのだ。
『火』ならファイアー・バレット。『氷』ならアイス・バレット、といった具合である。
「あ、もしかして魔術名ってそういう感じで決まるのか?」
「鋭いわね、その通りよ。基本的には属性を前に、後ろに形状や効果が来るようになっているわ」
ただ、複合魔術やスマホに記録されている10重の魔術は、基本的に開発者が呪文との兼ね合いで魔術名を決めるため、この法則から多少外れている場合もあるらしい。
「それじゃあサークルの話に戻るけど、ここからは人間に関わって来る話よ。何故10重が凄いと言われているのかというと、単純にそれ以上は制御が困難だから」
「制御補助とかあれば出来るとかないのか?」
「そういうのもあるけれど、10重を過ぎると制御補助がとんでもなく大きくなるらしいわ」
らしいって今読んでるのバレバレだぞー。
「何十人もの魔術師が一緒になって制御したり、長時間呪文を唱え続けたりと、色々方法はあるらしいけど、基本的に現実的じゃないみたいね」
「なるほど」
1重の魔術も慣れないと結構難しかったから、それが更に積み上がっていくと考えると……色々と納得が出来た。
「ちなみに魔術師っていうのは、5重以上の魔術を制御補助なしで扱えて、2重以下の魔術を魔術式なし、つまり真言だけで発動させられる人の事を言うの。このギルドにも数えるほどしか居ないのよ」
そう言ってアウロラは何人かの名前を上げていく。シュナイドは当たり前にして、サラザールの名前も挙がったのは少々意外だった。
まあ、ある程度の実力はあるという事だろう。
「だからナオヤも頑張って魔術の勉強しないといけないわね。道は遠いんだから」
「あ、でも俺、1重魔術なら呪文詠唱省略できるようになったんだよね」
あの仮面の魔族と戦った時からできる様になってたんだ。実戦で成長するとかちょっと熱い展開。……って、アウロラ凄い顔してるけどどうしたんだ?
そんな顔、女の子がやっちゃいけません。富士山みたいな口しちゃって。
「わ……」
「わ?」
「わたしまだ無詠唱できない……」
「…………」
しばらく無言で見つめ合う。
沈黙がとんでもなく痛かった。
「……いいわよ! 今はナオヤの事お兄ちゃんって呼んであげるわ!」
「そういう問題か!?」
びしっと突き付けられた指の先に向けて思わず突っ込んでしまった。
……アウロラみたいな小さい美少女に、お兄ちゃんって言われるのは結構いい気分だけど、そんなころころ姉と弟が入れ替わっていいの?
「でも見てなさいよ。絶対頑張ってお姉ちゃんに返り咲いてやるんだから!」
「なあ、お姉ちゃんってそういうものなのか!? そういうものなのか!?」
「見てなさいっ」
アウロラはそれだけ言い残すと、シュナイドさーん! と大声を上げながら部屋を出て行ってしまった。ちょっと悔し涙まで流していたような気がする。
残された俺はがらんとした部屋と、散らばっている教科書や白墨等を見て……。
「……片付けるか」
肩を竦めたのだった。
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