異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
48 / 90

第47話 本当に怖いのは…

しおりを挟む
 セイラムの街からは馬車で5日もかかった。距離としては数百キロ程度は離れているだろう。

 そんな距離をどうやって移動するのか少々疑問に思ったのだが、答えは程なくして出た。

「俺はこう見えて、直線距離だけなら天使の中で1、2を争うほど速いんだよ」

「は?」

「吐くなよ」

 にぃっと不敵に歪むゼアルの口元に、今後の展開が読めてしまった俺は、少しだけ後悔してしまう。

 もう遅いし、後悔しても着いていく決心は変わらないが。

 腕をゼアルの背中で交差して、右手で左肩を、左手で右肩をしっかりとつかむ。胸と胸が密着して、俺の鼓動がゼアルに伝わり、彼女のぬくもりが俺に染み込んでくる。

 ゼアルの鼓動を一切感じ取れなかったことで、人間との差に気付いてしまうが、そんな事で彼女への信頼は小動こゆるぎもしなかった。

 ゼアルの腕が俺の腰に回され、俺たちの狭間は完全にゼロになり、俺の体を浮遊感が包み込む。

 気付けば俺の体はいつの間にか空高くに存在しており、俺の足元には守護の塔が親指の爪ほどのサイズになって存在していた。

 高度何百メートルとかいう世界なのだろうか。そんな上空に、ゼアルは瞬きするほどの時間で舞い上がってみせたのだ。これが天使の力。人間とは桁違いの存在であった。

「いくぞ」

 掛け声と共に、周囲に光の玉の様な物が俺たちを包む。

 そして――。

「うおっ」

 声すら後方に置いて行かれるほどの急加速がかかった。

 地上の景色が目に負えぬほどの速度で過ぎ去っていき、全身に鉛が付けられたと錯覚しそうなGが圧し掛かる。感じるGが驚くほど少ないのは、先ほどゼアルが施してくれた守護のお陰だろうか。

 感覚としてはちょっと早すぎるジェットコースターみたいなものだった。

「よしよし、吐いちゃいねえな」

「吐かねえよ。……ってゼアルが守ってくれなかったら吐くどころじゃないだろうけどな」

 俺はそう言いつつ、視線を前方へと向ける。

 前方に展開されている光の障壁には、目に見えない大気が激しくぶつかり、守護すら突き抜けて轟音が鳴り響いていた。この分では空気が圧縮されることによって生まれる熱の壁が生まれている事だろう。もし光の障壁が無ければ、今頃俺はこんがりといい具合に丸焼きになっているはずだ。

 これらの守護があるが故にゼアルの速度は天使たちの中で1、2を争うのだろう。……本人の言う通り、直線の場合だけだろうが。

「だいたい数分もあれば到着するだろうが、お前に言っておくことがある」

「ああ」

「今回の魔族は相当キレてるヤツでな。オレは何度も戦ったんだが、結局決着はつけられていないヤツだ」

 という事はイリアスではないのか。

 もしかしてと思ったが、きちんと大人しくして……くれてるといいなぁ。頼むからひょこひょこ顔を出したりしないでくれよ。というかそのヤバい奴を呼んだとかじゃないだろうな。

「13悪魔中、序列第5位。獄炎のイフリータ。奴の炎は広範囲を焼き尽くし、太陽すら焦がすと言われている」

「い……ドルグワントが序列8位って事はそれより強いって事か」

「連中にも得意不得意や、性格があるから一概には言えねえけどな」

 確かに、イリアスとそのイフリータって奴が直接戦えば、相性的にイリアスが勝ちそうだけど、目の前にある対象物を焼き払えとなるとイリアスの力ではイフリータに勝つことは不可能だろう。

 だとすれば人間にとってより危険度が高いのはイフリータになるか。

「まあだから、ナオヤには街の住民を避難させて欲しい」

「は?」

「俺には届かなくても、奴の炎を完全に防ぎきるのは厳しいんだ。セイラムの街が燃やされるかもしれねえ」

 その声には明らかな屈辱の色が混じっていた。

 思わず体を離してゼアルの顔を覗き込むと、ふいっと顔を背ける。守護の天使が人間を守りきれないなんて、どれほどの屈辱を感じ、どれほどの苦悩を覚えているのだろう。

 俺には想像もできなかった。

「……分かった。逃げるように知らせる」

「助かる」

「でも、それが終われば俺も戦う。いいな?」

「ダメだ。わりいが天使と魔族の戦いに、人間が割って入っても死ぬだけだ。邪魔なんだよ」

 確かにそうかもしれない。

 俺はまともに魔族の攻撃を防ぐことも出来ないただの人間だ。イリアスの時には近接破壊力特化のタイプであり、単に相性と運が良かっただけなのだろう。

 俺が参加しても大した力にならないどころかゼアルの足を引っ張ってしまう事も十分にあり得た。だが――。

「……もし、必勝の策を思いついたとしたらどうする?」

「そんなに甘い相手じゃねえよ。そんな方法が簡単に見つかるなら、俺たちがとっくの昔に倒してる」

「俺は異世界から来た人間だ。ゼアル達とは違う視点で見られるかもしれないだろ。実際、それがあったからドルグワントを倒せた。違うか?」

「それは……そうだが……」

「倒したくないか? いい加減決着をつけたいと思わないか?」

 ゼアルの瞳がこちらを向く。その瞳は怒りの炎に燃えていた。

 言葉を聞かなくても分かる。

 当たり前だと。倒したいと。そう彼女の瞳は主張していた。

 だがゼアルはそれを口に出来ない。それは現実を知っているからだ。

 彼女の適正は守護。この国全土どころか周辺国を含む、大陸の半分に点在する都市すべてに結界を張るほどの力を有していても、相手を倒す力ではない。どれだけ悔しくとも、望んでも、彼女は耐える事しか出来ないのだ。

「ゼアル、俺を信じてくれ。倒せると言ったら倒せる。倒してやる」

「倒せないって思ったらどうすんだよ」

「それは倒せないな」

 売り言葉に買い言葉で倒せるなんて無茶は言わない。

 きちんと倒すための方法が思いつき、確信が無ければそもそも手を出すべきではないのだ。

「ぷはっ、なんだそりゃ」

 俺の答えがツボにはまったのか、ゼアルが思わずといった感じで吹き出す。

 ……つば飛ばすな、この。美少女の唾液ならいくらでもウェルカムなんて言えるほど変態じゃないんだよ、俺は。

「倒せないと思ってるのに倒せるなんて言い出すのは味方殺しだ。そんな事言うべきじゃない」

「だから信じろ……か」

 少しだけ楽しそうにゼアルが笑う。

 そこに先ほどまでの屈辱は見当たらず、昨夜散々見た、澄み渡る青空の様に快活で明るい笑顔が浮かんでいた。

「……期待だけはしといてやるよ」

「そうしてくれ」

 期待は裏切らないようにしないとな。

「とばすぞっ!」

 だからもっと強く掴まれって?

 女の子特有の体みたいで、こう柔らかくって恥ずかしいんだよなぁ……。文句言ってる暇なんてないだろうけど。

「あ、そういえばアウロラに何も言ってない」

「あ~」

「料理が出来るまでに帰らないと怒られるな。アウロラ怒らせると怖いんだよなぁ」

「……お前な。魔族のが怖いだろ、普通はよ」

「それは見解の相違だな。アウロラを怒らせると色々怖いんだ」

 ぷんぷん頬を膨らませて拗ねるから空気が痛いのなんの。あれは一緒に居る人にしか分からないね。

「いいから掴まれ、バカ野郎」

「ああ」

 こつんと軽い頭突きをされた俺は、両手に力を入れると更に体を密着させたのだった。

 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...