異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第62話 氷の襲撃

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 ガラスが砕け散るような音と共に、空間そのものが振動する。

 何が起こったのかは全く理解できなかったが、こんな規模で物事を起こせる存在は、天使か、魔族しか居ない。

 そして天使二人がこの場に居て、その二人共が危機を顕わにしているという事は――。

「首都の結界が破られた!」

 ゼアルの悲痛な叫びでようやく事態を飲み込める。

 だが、イフリータですら直接はゼアルの障壁を破壊することなど出来はしなかったのだ。今度の敵はそれをやってのけたのだから、よほど――。

「来ます!」

 何が、なんて寝ぼけた事を言っている暇など無かった。

 この場には魔族がひとつの都市を破壊してでも回収しようとした虹の魔石があるのだ。真っ先にここが攻められるのは必然と言える。

「アウロラ!」

 ゼアルとヴァイダが翼を羽ばたかせて窓から外へと飛び出していく。

 それを俺はアウロラの手を取り、階段へと駆け込んだ。

「ナ、ナオヤ!? 何がどうなってるの!?」

 俺に引かれるまま、一緒に階段を駆け下りているアウロラが聞いてくる。

 先ほどまで夢の様な世界に居た名残か、頬が赤い。

 ああそうだ。

 アウロラが俺を想ってくれている様に、俺だってこの娘の事を想っている。

 だから――。

「魔族の襲撃だ。目的は虹の魔石、つまり魔王の魂だろうから、この守護の塔が一番狙われる可能性が高いんだ」

 俺たちがこの塔の中に居れば、何時までも塔を守り続けなければならない為、ゼアル達が攻撃に移れないのだ。出来る限りこの場を離れて安全を確保しなければならない。

 そして出来るのなら、俺は俺にしか出来ない事を――。

「ねえ、私達に何かできる事って無いのかな?」

「分からない」

 次の敵はどんな敵なのか、顔すら見ていないのだから判断のしようがない。それは恐らくアウロラだってわかっているはずだ。アウロラは多分、親友とも言える存在のゼアルにだけ戦わせるのが心苦しいのだろう。でも……。

「最初の魔族は何か放射するタイプじゃなかったから戦えた。次の魔族は周囲に熱を放射するタイプだったから、ゼアルが居なきゃ俺は魔族の前に立つ事も出来なかった。本来抗えるような奴じゃないんだよ、魔族って」

 最初は非常に運と相性が良かっただけなんだ。もちろんその次も

 俺よりよほど強い天使たちでさえ手こずるのが魔族で、そんな相手を絶対に倒せるなんて考える方が思い上がりにすぎない。それは二度も魔族を倒せた俺だからこそ、存在そのものの差を強く理解できていた。

「アウロラ。アウロラは、居ても戦いの邪魔にしかならないと思う」

 場合によっては俺や、この国で最高の魔術師である宮廷魔術師ですらゼアル達の足を引っ張ってしまうだろう。

 人間であるというだけで、そもそも足手まといにしかならない可能性の方が高い。

「でも……」

「分かってる。だからゼアル達の邪魔にならない様に、俺たちの方法で戦うんだ」

 その途端に、アウロラの顔がぱぁっと明るくなる。

 そうだ。アウロラは後ろで一方的に守られているだけで良しとするような性格ではない。例えほとんど意味はないと分かっていても、抗うのを止めない強い女の子なんだ。

「うんっ」

 アウロラに力を貰った俺は、一足飛びに階段を駆け下りていった。

 守護の塔と外を隔てる扉を開けた瞬間、猛烈な突風が俺の体に巻き付いて来る。

「わぷっ」

 あまりの暴風に、アウロラはあおられ俺の体にしがみついて来た。

「なに、これ?」

 それに対する答えを持っていない俺は、上空を舞う2柱の天使たちに目を向ける。

 彼女達は時折どこからか飛来する氷山を魔法でもって迎撃しているようだが……。

「危ないっ!」

 俺の体を押しながら、アウロラ警告を発する。移動した瞬間、魔法によって砕かれた氷の欠片がそれまで俺たちが居た場所を貫いていった。

 氷の欠片が地面に当たって砕け、周囲に飛び散る。

 その一つが俺のズボンの裾にぶつかり――本当にわずかな欠片が一瞬触れただけだというのに、白い煙を上げながらズボンを凍てつかせていく。

「なっ」

 焦った俺は、思わず服の袖を使って払いのけてしまう。ただ、もうその氷の影響は消えていたようで、袖には霜がついただけで済んだが……。

「今度の魔族は氷を使うのかな?」

 アウロラにから返事をしながら先ほどの氷の欠片に目を向ける。

 氷の欠片は近くにある物を凍り付かせながら、自らはジュウジュウと音を立てて蒸発していく。

 氷の近くに居るだけで、肌がひりつくほどの冷気、その上止むことなく吹き荒れる暴風。これはまさか――。

「大気を凍らせて弾丸にしている?」

 だとしたらとんでもない冷気だ。

 大気の八割を占める窒素が固体になる温度は、マイナス210℃で、酸素も約マイナス218℃である。魔族は気流が起きるほどの速度で大気を凍らせる、つまりそれだけの速度で冷やすことが出来るのだから、それよりも更に冷たい力を操る存在である可能性が高い。

 魔族というのはやはり、とんでもなく桁違いの力の振るう存在らしかった。

「いや、早計か。相手が一人とも限らないし、冷たいものを使わずに冷やす方法なんていくらでもある」

 ただ、極寒の中戦う必要があるだろうから、相応の装備を整えなくてはいけないだろう。少なくとも、空気と体温の確保をしなければ、戦いの舞台にも上がれなさそうだった。

 いずれにせよ情報が足りなさすぎるが……。

 そう考えて居る内に風が止む。

 それが意味するのは、遠距離攻撃では効果が薄いと襲撃者が理解したという事。これから本格的な襲撃が始まるはずだ。

 それまでに準備を整えておかなければならない。

「アウロラ。綿の入った防寒具と、片手で持てるような小さな樽。それから厚手の手袋を手に入れてきてくれ!」

「分かった!」

 アウロラがひとつ頷くと、宮殿に向けて走っていく。

 その背中を見送った俺は、もう一度守護の塔に入り、木のコップを手に取ると、その表面に真言を刻み付け始めた。
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