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「ッは…。」
今まさに意識が途絶ようとする瞬間、私の口の中で執拗に暴れていたライアンお兄様の舌が引き抜かれました。
私は突然解放された口から反射的に酸素を取り込むと、段々と意識がはっきりしてきます。
どうやら死は免れたようですわ。
生理的な涙のせいで揺らぐ視界には、先程よりも遥かに官能的に笑う彼の顔が写っています。
「きっとお前は、これも親愛とでも思うのだろうな。」
「…ぁ…?」
ライアンお兄様の言葉に答えるべく放った声は思った以上にか細くて、最早言葉ですらありませんでした。
口の中に充満する鉄錆の香りが、段々と脳髄を侵食していくのを感じます。
嗚呼、もしかしてこれがフグが自分の毒にあたるという状態なのでしょうか。
段々と手が痺れてきましたわね…。
このままではいけませんわ。ブラックロペス公爵家の娘が自分の毒にあてられるなんて醜態、家族や使用人に見られる訳にはいきませんもの。
「ライアンお兄様。そこをどいて下さいませんか?」
あまりこの手は使いたくありませんでしたが…。
私は上目遣いで怯えたように彼のことを見上げました。教師からも計算し尽くされた完璧な庇護欲をそそる表情であると絶賛されています。
まぁきっと彼には通用しないでしょうが。
案の定ライアンお兄様は私の表情を見て鼻で笑うと、目尻に溜まった涙を舐めとって立ち上がりました。どうやらそのまま部屋を出ていくようでしたので、私は起き上がってベットサイドに腰掛けました。
やはり彼に媚びるような誘惑は全く効かなかったようですが、願いは聞いてくれました。
嗚呼、毒性を強めた副作用のせいもあるのか、随分と体が重く感じますわ。
それになんだか…
ゴフッ
突然込み上げてきたも不快感は、私の口から血となって溢れ出てきました。
嗚呼、きっと毒の副作用ですわね。せっかくのドレスも汚れてしまいましたわ。
「おい。」
「ガフッ…お見苦しいところをお見せ致しましたわ。どうぞライアンお兄様は自室へお戻り下さい。」
そう言うとライアンお兄様は私の元へ近寄る歩みを止め、少し沈黙をおいてから部屋を出ていかれました。
「はぁ…。」
わざわざ着替えるのも面倒ですわね。
クラクラと眩暈のする体を起こすと、着替えをするためにテーブルに置かれたベルを鳴らしてメイドを呼びました。
「お呼びでしょうか。」
「ドレスが汚れてしまいましたので新しいドレスを着せて下さる?」
直ぐに部屋に入ってきたメイドは私の姿を見て少しだけ眉を顰めると、静かに一礼して私のドレスを脱がし始めました。
「私はライアンお兄様に嫌われているのかしら。」
今朝といい先程といい、ライアンお兄様の考えが私には分かりませんわ。
ライアンお兄様に嫌われるようなことをした覚えはないのですけれど…。
もしかして、私の存在自体が気に入らないのでしょうか。だとしたら困りましたわ。
この家で会わないように過ごすことは出来ても、私の命は公爵家当主であるお父様のもの。私は先程のように身内に殺されるのは光栄ですけれど、きっとお父様は彼の行いを許しませんわ。
「僭越ながら申し上げますと、ライアン様の行いはライラ様への嫌悪感からくるものでは無いと思われます。」
「あら、そうなのかしら。」
ドレスを脱がせる手を休めることなく淡々とそう告げたメイドに、私は首を傾げます。
では嫌悪感では無いとしたら…何なのかしら。
さっぱり分かりませんわ。
私はメイドに手渡されたタオルで口元の血を拭うと、黒を基調に深紅の刺繍が施された新しいドレスに袖を通しました。
我が家の家紋が黒い狼ということもあり、家族も皆黒やその他の暗い色の服を身にまとっています。
まぁ第一の理由は返り血が目立たないからなのですけれど。
ドレスが着終わると私はドレッサーの前に腰掛けました。
後ろからメイドが乱れた髪を梳いてくれます。
鏡に映るのは気味が悪い程に白い肌をした私。
その肌のせいか、お父様譲りの猫のような深紅の の瞳が嫌に目を引きます。
残念ながら髪色はお母様譲りの淡い金色ですけれど、毛先は毒の副作用で紫色になってしまいました。まぁテオやお父様も褒めて下さいますし、嫌いではありませんわね。
「当主様から皆執務室に集まるようにとの連絡が入っております。」
「まぁ、分かりましたわ。」
今日は随分と早いお帰りですわね。
それにしても子供を皆集めるなんて…なにか重要な話なのでしょうか。
「ライラ様…。出過ぎたことを申しますが、現在ライラ様のお体は毒の副作用に侵されています。本日は部屋で安静にするべきかと。」
普段は人形の様に無表情なメイドが、今は何だかとても感情的です。
嗚呼、先程も私の身を案じてくれていたのですね。
彼女は私が幼い時から専属メイドとして付き添ってくれていましたから、何かしらの情を抱いているのでしょう。残念ながら、私は彼女の名前を存じませんけれど。
「ふふ、メイドにまで心配して貰えるなんて、私は幸せ者ですわ。」
メイドが髪を梳き終えたのを確認すると、私は立ち上がってメイドの頬に触れました。
「心配してくれてありがとうございます。私の身を案じてくれる貴女が傍にいるから、私は大丈夫ですわ。貴女だけは…これからも私の傍にいてくれるかしら?」
囁くように、官能的に。
相手が求めている言葉を紡ぎ、その欲を満たしてあげれば…
「はい。私は何があろうともライラ様のお傍におります。」
ほぉら。
簡単ですわね。
今まさに意識が途絶ようとする瞬間、私の口の中で執拗に暴れていたライアンお兄様の舌が引き抜かれました。
私は突然解放された口から反射的に酸素を取り込むと、段々と意識がはっきりしてきます。
どうやら死は免れたようですわ。
生理的な涙のせいで揺らぐ視界には、先程よりも遥かに官能的に笑う彼の顔が写っています。
「きっとお前は、これも親愛とでも思うのだろうな。」
「…ぁ…?」
ライアンお兄様の言葉に答えるべく放った声は思った以上にか細くて、最早言葉ですらありませんでした。
口の中に充満する鉄錆の香りが、段々と脳髄を侵食していくのを感じます。
嗚呼、もしかしてこれがフグが自分の毒にあたるという状態なのでしょうか。
段々と手が痺れてきましたわね…。
このままではいけませんわ。ブラックロペス公爵家の娘が自分の毒にあてられるなんて醜態、家族や使用人に見られる訳にはいきませんもの。
「ライアンお兄様。そこをどいて下さいませんか?」
あまりこの手は使いたくありませんでしたが…。
私は上目遣いで怯えたように彼のことを見上げました。教師からも計算し尽くされた完璧な庇護欲をそそる表情であると絶賛されています。
まぁきっと彼には通用しないでしょうが。
案の定ライアンお兄様は私の表情を見て鼻で笑うと、目尻に溜まった涙を舐めとって立ち上がりました。どうやらそのまま部屋を出ていくようでしたので、私は起き上がってベットサイドに腰掛けました。
やはり彼に媚びるような誘惑は全く効かなかったようですが、願いは聞いてくれました。
嗚呼、毒性を強めた副作用のせいもあるのか、随分と体が重く感じますわ。
それになんだか…
ゴフッ
突然込み上げてきたも不快感は、私の口から血となって溢れ出てきました。
嗚呼、きっと毒の副作用ですわね。せっかくのドレスも汚れてしまいましたわ。
「おい。」
「ガフッ…お見苦しいところをお見せ致しましたわ。どうぞライアンお兄様は自室へお戻り下さい。」
そう言うとライアンお兄様は私の元へ近寄る歩みを止め、少し沈黙をおいてから部屋を出ていかれました。
「はぁ…。」
わざわざ着替えるのも面倒ですわね。
クラクラと眩暈のする体を起こすと、着替えをするためにテーブルに置かれたベルを鳴らしてメイドを呼びました。
「お呼びでしょうか。」
「ドレスが汚れてしまいましたので新しいドレスを着せて下さる?」
直ぐに部屋に入ってきたメイドは私の姿を見て少しだけ眉を顰めると、静かに一礼して私のドレスを脱がし始めました。
「私はライアンお兄様に嫌われているのかしら。」
今朝といい先程といい、ライアンお兄様の考えが私には分かりませんわ。
ライアンお兄様に嫌われるようなことをした覚えはないのですけれど…。
もしかして、私の存在自体が気に入らないのでしょうか。だとしたら困りましたわ。
この家で会わないように過ごすことは出来ても、私の命は公爵家当主であるお父様のもの。私は先程のように身内に殺されるのは光栄ですけれど、きっとお父様は彼の行いを許しませんわ。
「僭越ながら申し上げますと、ライアン様の行いはライラ様への嫌悪感からくるものでは無いと思われます。」
「あら、そうなのかしら。」
ドレスを脱がせる手を休めることなく淡々とそう告げたメイドに、私は首を傾げます。
では嫌悪感では無いとしたら…何なのかしら。
さっぱり分かりませんわ。
私はメイドに手渡されたタオルで口元の血を拭うと、黒を基調に深紅の刺繍が施された新しいドレスに袖を通しました。
我が家の家紋が黒い狼ということもあり、家族も皆黒やその他の暗い色の服を身にまとっています。
まぁ第一の理由は返り血が目立たないからなのですけれど。
ドレスが着終わると私はドレッサーの前に腰掛けました。
後ろからメイドが乱れた髪を梳いてくれます。
鏡に映るのは気味が悪い程に白い肌をした私。
その肌のせいか、お父様譲りの猫のような深紅の の瞳が嫌に目を引きます。
残念ながら髪色はお母様譲りの淡い金色ですけれど、毛先は毒の副作用で紫色になってしまいました。まぁテオやお父様も褒めて下さいますし、嫌いではありませんわね。
「当主様から皆執務室に集まるようにとの連絡が入っております。」
「まぁ、分かりましたわ。」
今日は随分と早いお帰りですわね。
それにしても子供を皆集めるなんて…なにか重要な話なのでしょうか。
「ライラ様…。出過ぎたことを申しますが、現在ライラ様のお体は毒の副作用に侵されています。本日は部屋で安静にするべきかと。」
普段は人形の様に無表情なメイドが、今は何だかとても感情的です。
嗚呼、先程も私の身を案じてくれていたのですね。
彼女は私が幼い時から専属メイドとして付き添ってくれていましたから、何かしらの情を抱いているのでしょう。残念ながら、私は彼女の名前を存じませんけれど。
「ふふ、メイドにまで心配して貰えるなんて、私は幸せ者ですわ。」
メイドが髪を梳き終えたのを確認すると、私は立ち上がってメイドの頬に触れました。
「心配してくれてありがとうございます。私の身を案じてくれる貴女が傍にいるから、私は大丈夫ですわ。貴女だけは…これからも私の傍にいてくれるかしら?」
囁くように、官能的に。
相手が求めている言葉を紡ぎ、その欲を満たしてあげれば…
「はい。私は何があろうともライラ様のお傍におります。」
ほぉら。
簡単ですわね。
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