ソラのいない夏休み

赤星 治

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一章 失踪と死の予言

7 バタフライエフェクト

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 午後十二時三十分。
 夏美は、待ち合わせ場所である駅前で浩信と再会を果たすと、久しぶりの挨拶を交わす。
 浩信が予約を取っている料亭へ向かい、個室へ案内されて数分後、夏海の知らない男子高校生が入って来た。黒色のズボンから夕日ノ高校の生徒だ。

「甥の駿平だ」
 母方の親戚筋の子供だと簡単に補足説明される。
 駿平は夏美の顔をチラチラ見て自己紹介した。
「桜木、駿平です」
 声が小さい。浩信は駿平の背を叩いた。
「声ちっさ。そんなんでサービス業出来ねぇぞ」
「女の子苦手だって言ったじゃん」
 囁く声も、夏美には駄々洩れである。
「丸聞こえなんですけど」
 夏美が呟いて返すと駿平は恥ずかしくなって向きを変えた。
「涼城夏美。朝高二年だけど、駿平君、夕高よね。何年生?」
 浩信が高校二年生だと答えた。
「じゃあ、そんなに気にしなくてよくない? タメだし、一応親戚みたいなもんだし」
「ほら、女の子がこんなに堂々としてんだから、お前もシャンとしろ、シャンと」
 駿平は頭を下げて、分かったと返事するも口数は少ない。

「悪いな夏美。駿平はこう見えて結構仕事出来んだよ。それに、こうやって女子苦手も克服しないと今後の生活に支障きたすだろ?」
 話を変えたいのか、本気なのか、駿平は浩信にメニューを渡した。夏美も空腹で早く食事したかったので丁度良かった。
 注文を終えて料理が来るまでの間、会話は再会された。

「駿平君はどうして女子苦手なの?」
「え、別に……。女子って、話するの色々面倒でしょ。何が地雷か分かんないし」
 この返答に浩信が反応する。
「あぁ~、情けない。駿平、女子高生なんて声かけてなんぼだろ? 俺なんかよく声かけてたぞ」
「え、浩君って、女子と話出来た人?」夏美が訊いた。
 女子と会話が苦手な男子生徒が多い。学校は違えど二人の学年にはよく見られると意見が合った。
 二人は浩信の時代がどうだったかを真剣に聞いた。
「当たり前だろ。話さなきゃ彼女出来ないからな」
 つまりナンパであった。
 軽い男子生徒像が想像出来たので、二人はこれ以上知るのを諦めた。

 料理が運ばれて三人は食事と談笑、そして八月以降の海の家のシフト、他の従業員の情報など、諸々の打ち合わせをした。尚、他の従業員は浩信と妻、それぞれの友人である。
 打ち合わせと食事が終わると、夏美は浩信の車で朝日ノ町のスーパーまで送ってもらった。
 スーパーで買ったジュースを飲みながらの帰宅途中、不意に風見鶏公園の前を通る道を進んでいた事に気付く。誘導されていると思い込み引き返そうとするが、茹だる暑さの中、遠回りを拒む意思を優先してしまった。無視して通過すればそれで解決すると考え。
 公園前に到達すると、急に加賀見茜の事が気になりだす。立ち止まり、通過しようか迷う。考え抜いた末、足が公園内へと向いた。
 僅かに後悔しながらも休憩所へ向かう階段まで辿り着くと、会う決心を固めた。しかし二段降りると怖くなり、ゆっくり降りながら長椅子の方をゆっくりと覗き見る。

「そんなに警戒しなくても何もしないわよ」
 長椅子の辺りから先に声を掛けられる。姿を見ていないが座っている加賀見茜の姿が浮かぶ。
「な、なんでいるって分かったの?!」
「さぁ、どうしてかしらね?」
 意地悪にもったいぶるも、予言が出来るのだから来ることも読まれたと直感した。
 見抜かれているなら堂々と。その意気で駆け下り、予想通り椅子に座って読書している加賀見茜と向かい合う。
「今日来たのは、ぐ、偶然ですよ!」
 強がった言い訳だが、加賀見茜の予言は本物だと夏美はしっかりと確信する。相手は何もしないだろうが奇妙な存在であるので恐れた。
 加賀見茜は温和な笑顔で、「この距離はまだ縮まらないのね」と返す。楽しそうな印象である。
「あの……、あたしの前に現れたのも、何か理由があるんですか?」
「ええ。だからと言って、私から夏美ちゃんへ何かを強要するなんて出来ないの。ただ報せ、助言するだけよ」
「じゃ、じゃあ。どうしてあんな予言を言ったの? それに、あたしの家族がいなくなるって?」
「それをこの距離で話す? 何もしないから近くで話さない?」

 加賀見茜が言うように、離れた所で大声の会話はなにかと疲れる。
 夏美は覚悟を決めて近づき、斜め向かいの長椅子の端に座った。

「まだ距離は取られたままなのね」
 相変わらず状況を楽しんでいる様子だ。
「あの、答えてください」
 加賀見茜は柔和な表情で口を開いた。
「私は色んな人に予言を報せるわ。理由は……ちょっと面倒な事態に関わってるから。かしら」
「あたしもその面倒な事態に関わってるの? だから予言を」
「夏美ちゃん、今月ぐらいに変な夢見なかった? 凄く鮮明に覚えてる夢なんだけど」

 夏美は昨晩見た夢の事、今朝汗だくで目覚めた事を説明した。

「まだが現れてないのね」
 顎を摘まんで視線を逸らす加賀見茜の姿が、この期に及んでも夏美には綺麗と思わせる魅力があった。
「……彼って?」
 向き直った加賀見茜は軽く手を振ってごまかす。
「こっちの話よ気にしないで。それより、夏美ちゃんは不思議な面倒事に関わってるのは間違いわね」
「どうにかならないんですか? これじゃあ巻き込まれ事故ですよ」
 加賀見茜は首を左右に振った。
「さっきも言ったけど、私が出来るのは報せる事と助言だけ。目の前で何か起きたら夏美ちゃん自身がどうにかしなければならないの。ただ、何もしなければこの夏の問題は自然な流れとして人間社会に溶け込んでいくわ。ちょっと苦い学生時代の思い出になるだけよ」

 面倒事に巻き込まれるのは嫌だが、悪い印象のない明香が死ぬのは後味が悪すぎる。どうあれ好き嫌い関係なく、クラスメートが死ぬのは嫌だ。

「加賀見さん、前園さんが死んだらあたしの家族がいなくなるって言ってましたよね。どう関係してるんですか?」
 斜め上を眺めて考える加賀見茜は言葉を纏めた。
「うーん……、そうねぇ……。夏美ちゃん、バタフライエフェクトって知ってる?」
 聞いたこと無い単語を聞き、泳ぎ方が浮かんだ。
「水泳の話ですか?」
「些細な事も将来大きな変化を生み出す可能性がある、とか、小さな現象でも様々な要因があって大きな現象を作るとか。要するに、小さな切っ掛けが大きな変化を生むって事よ」
「で、そのバタフライエフェクトがどうしたんですか?」
「私の予言はその小さな原因を見るの。今回は前園明香ちゃんね。彼女が死ぬ切っ掛けが、夏美ちゃんの家族に関わる大きな変化を起こすの。どう失うかは分からないわ。今の家族か、結婚してからか、何かのコミュニティに属した時、それを”家族”と認識してか。それは夏美ちゃん次第だけど、それに前園明香ちゃんの生死が関係しているのよ」
「でも、どうしよ。あたし、前園さんとそんなに関わった事ないんだけど」
「もし夏美ちゃんが解決したいなら、なりふり構わずやれるだけの事をやるだけよ。それに、夢で彼と会えば、自ずと前園明香ちゃんと関わるきっかけは出来てくる」
「さっき言ってた、面倒な事態ってのと前園さんはどう関係してるの?」
「私からは言えないわ。それに夏美ちゃんが推論を立てようにも、手がかりも原因も少なすぎるから、今はまだ無理ね。もしまた変化があったら、私が助言してあげるわ」

 話が済むと丁寧に挨拶して足早に夏美は公園を後にした。奇妙な存在への防衛本能のように。
 加賀見茜は味方のように言うが、まるで安心出来ない。理由は分からないが直感がそう言っている。

 その夜、夏美は前園明香の事が気がかりで中々眠れなかった。
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