ソラのいない夏休み

赤星 治

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三章 迫る恐怖

2 日和のノート

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 八月十日、涼城儀造の葬式がしめやかに行われた。
 儀造との面識が一日だけの蒼空、音奏、明香は制服姿で集合し、揃って涼城家へ向かった。

「あれ、駿平は?」
「なんか大事な用事があるから来れないって」
「薄情な奴だなぁ。一昨日、お世話になったのに」
「強制じゃないから、それに急だし。桜木君の事情があるんだよ。バイトだったら休めないだろうし」
 音奏と蒼空を余所に、明香は気がかりがある様子だ。
「前園さん、どうしたの?」
「え? ううん、何でもない。ついこの前なのにお世話になった人が急に亡くなったから。メンタル的に……」
 音奏は素直に信じるも、蒼空は何かを感じた。しかし深く気にしなかった。

 三人が涼城家へ到着すると、葬式の礼儀通りに挨拶や焼香など、諸々の事を済ませた。
「みんな、今日はなんだがごめんね」
 泣き終え、目を赤くした夏美が三人へ挨拶に来た。
「夏美ちゃん、橙也は大丈夫か?」
 音奏は橙也が気になり家へ目を向ける。弟を思うような気持ちで。
「一応、強がってる感じ。けど……」
 何かを言いにくそうにして明香の方を見る。
「どうしたの?」
「ごめんね、あの子、変な事言ってるから。今は会わないほうがいいかなぁって」
 蒼空は加賀見茜との会話を思い出す。これも何かのきっかけと考えた。
「教えてくれる?」
 夏美は戸惑い、音奏が蒼空に「こんな時にいいだろ」と止めに入るも、「大事なことなんだ」と強引に進めた。
 蒼空の必死な様子。それは期限が迫っているからに他ならないと、夏美は理解して答える。

「明香ちゃんに……幽霊が憑いてるって」
 不安な表情を滲ませる明香へ、夏美は必死に言い訳した。
「ち、違うの! あの子、前から変な幽霊が見えてたとかなんとかって。多分、タイミング的に明香ちゃんの後ろに居た所を見たんだと思うの」
 しかし現状では都市伝説と関連していてもおかしくない。明香に不安を残す結果となった。
「ごめんね。あの子もいっぱいいっぱいだろうから。悲しいのと恐いのとか、色々混ざってるんだと」
 周りの思いに反し、蒼空は冷静に何かを考える。すると、葬儀を終えて帰る者の中に見覚えのある女性を見つけた。
「涼城さん、あの人って?」
「え? 三枝さん……って名前だったと思う。疎遠になってたお爺ちゃんの兄弟の親戚筋の人みたいで……」
「やっぱりだ、日和の」
「え? あの人が、日和ちゃんって子の?」
 これもきっかけの一つ、しかも日和の母親。無視できないと感じた蒼空は三人に挨拶を済ませて日和の母の元へ向かった。
 残された音奏と明香も、帰る挨拶を夏美に告げた。
「じゃあ、橙也にまた遊ぼうぜって言ってくれる」
「うん。きっと橙也喜ぶよ。あの日も喜んでたし」
「夏美ちゃん、また今度ね」
「さっきはごめんね。色々落ち着いたら、絶対明香ちゃんのために頑張るから」
 別れを告げると音奏と明香は揃って帰った。

 見送る夏美は家の玄関から呆然と立ち、眺めている橙也を見つけて歩み寄る。
「橙也、ちゃんと音奏君と――え?!」
 橙也は夏美の制服を握って傍に寄った。
「ちょっと、制服」
「姉ちゃん、あの人、また憑かれてる」
 明香の後ろに、橙也にだけ見える何かがいる。

 今日を含めて八月十四日まであと五日。
 ”明香を狙う死神がいる”と考えた夏美は不安になった。



「おばさん」
 蒼空の声に反応し、三枝沙苗さなえは振り返る。
「……えっと……」
「蒼空です。楸」
 沙苗は思い出した感情を優先して蒼空の言葉を遮る。
「ああ! 蒼空君。大きくなったわねぇ。え? 蒼空君、儀造さんのお知り合い?」
 蒼空は儀造と会った経緯を教えた。
「あの……ちょっと日和のこと、いいですか? できれば、その……」
「時間があるなら家に来る?」
 ここぞとばかりに、蒼空は「ありがとうございます」と感謝して沙苗の車に乗った。

 日和の家に到着し、沙苗がお茶を入れてる間、蒼空は居間で部屋を見回した。
「ごめんなさい。麦茶しかなくて」
「いえ、お構いなく」
 喉が渇いていたので一気に半分まで飲むと、沙苗はさらに麦茶を注いでポットを隣に置いた。
「日和の事よね。残念だけどまだ見つかってないの。何人かお友達が訪ねてはくれたんだけど、もうパッタリ止んで。夏休みだから仕方ないんだけどね」
 棚の上に置いてある日和が笑顔で写る写真立てに目を向ける印象が、疲れ切った様子を伺わせる。
 ”都市伝説に巻き込まれて夢の中でしか会えない”など、信じてもらえないだろうが言えない。余計に傷つけてしまう。
「日和がいなくなる前、何か変わった様子はなかったですか?」
「探偵ごっことかダメよ。変な事件に蒼空君が巻き込まれるかもしれないから。警察に任せて」
「いや、そうじゃないです」
 無理やり言い訳を考える。
「ただ、なんか気になって。……なんか、急なことだったし」
 本当に無理やりすぎる言い訳。めぼしい情報は得られないと覚悟する。
「私からは何もないわ。仕事が終わって帰ったらいつも通りの日和がいたぐらい。けど、失踪する前は熱心に宿題してたぐらいかな」
「宿題? あいつ、そんな勉強熱心だったんですか?」
「適当よ。思い立って宿題を早めに終わらせようって頑張ったり、後回しにしてたのを思い出して必死にやるとか。テスト勉強なんて、そこそこ良い点とれればいいかぁぐらいの勉強よ。それが、あの日の前は必死にノートを……」”高校生の男女”と”ノート”で、あるモノを思い出す。「まさか、蒼空君と交換日記とか?」
 少し嬉しそうに見せる表情に、蒼空は苦笑いで返す。

「いえ、ってか、交換日記って何ですか?」
 ジェネレーションギャップを痛感した沙苗は時代を感じて溜息が漏れる。
 交換日記の説明をすると、「今じゃLINEで」と返され、さらに「時代ねぇ」と、しみじみぼやく。
 今の今まで忘れていた。市立図書館で日和と再会したとき、都市伝説を綴った日和のノート。それに重要な情報が書かれていると思い立つ。
「……そのノート、見せてもらっていいですか?」
 沙苗は日和の部屋へ蒼空を連れてきた。
「どんなノートだったか、全然覚えてないわよ」

 蒼空は日和の思考を考察した。
 宿題ではない。勉強でもない。
 蒼空を誘った経緯、夢での会話。内容は都市伝説に関することだ。
 まだ夏休みに入る前だから、常に傍に置いてあった。

 一つの仮説に至り、沙苗に鞄を空けて良いかと許可を得た。学生鞄の中には教科書やノートに混じり、新品同様の見覚えがある大学ノートを見つけた。中を開くと、双木三柱市四十二の都市伝説の名前と説明が綴られていた。
「何これ……双木三柱市四十二のって……、あの子、こんなの調べてたって事?」
「みたいですね」
 日和の調べた都市伝説の三,四,六,八、十八、三十に○印が記されている。さらによく見ると、二、三、五、七、十七、二十九の横にボールペンを一度当てたぐらいの点が。四十二番目には○印をグルグルと重ね、横にクエスチョンマークを記している。
(なんだ? あいつ、何に気付いた?)
 よく見ると一番目にもクエスチョンマークが小さく記されている。

 一番と四十二番。何かがあると窺えた。
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