憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

文字の大きさ
33 / 56
五幕 宿すモノの片鱗

六 仇討ち

しおりを挟む

 二人は藪を抜けた広場手前で異変に気づき、木陰に身を隠し様子を伺った。
 広場では数人の野盗に幸之助と剛一郎が取り押さえられ、野盗の親玉であろう人物が刀の切っ先を幸之助に向けていた。

(どうするのだ。このままでは二人とも……)小声で言い合いだした。
(俺が回り込む。お前は石でも投げて奴らの気を引け)
(そんな無茶を!)

 宗兵衛が身をかがめて動き出すと、即席の危険度の高い作戦を実行する前に事態は好転した。
 突然、次々と野盗たちが倒れだした。
 それは狼狽える野盗親玉を残し、二人を拘束していた周りの者から次々倒れた。
 束縛から解放された二人は各々の武器を取り、幸之助は子分の野盗の動きを止めるべく、顔や手足を重点的に攻撃した。木刀を使用しているため、やられた野盗たちは痛みに地べたで転がり蹲って悶え苦しんだ。
 剛一郎は一心に親玉へと斬りかかった。まるで仇討ちのように憎しみの籠った恐ろしい眼光を相手に向けている。
 宗兵衛は剛一郎の実力を実感しているが、その剣術を見事に捌き、難なく躱す野盗の実力の高さにも感服した。
 手助けをしようにも、壮絶な斬り合いを繰り広げている二人に近寄れない宗兵衛を他所に、目を見開き、時折口角が上がり悦びの表情をちらつかせる幸之助の異変に永最は気付いた。

「……駄目だ。あんなのは幸之助殿ではない!」

 なぜあのような表情を滲ませるかは分からないが、ただ、早く止めないと幸之助が今までの無邪気な幸之助ではなくなる。その一心が永最を幸之助の元へ向かわせた。当然、どのように止めるかなど分からない。
 空には今にも土砂降りの雨が降りそうなほど、重く重厚的な、黒みの濃い灰色の曇天が漂い、ゴロゴロと稲光が遠くの空で光った。

「――やめろ幸之助殿!!」
 永最の声に幸之助は見開いた眼を向けると、勢いよく覆いかぶさってきた永最に両腕を取られた。
「は、なせ! 放せぇ!!」
「落ち着くんだ幸之助殿!!」

 そんな二人を数人の野盗が襲ってきた。

 幸之助が永最の腕を払い、腹部を蹴って飛ばし、自身は野盗へ襲い掛かった。
 相手の腕を取り、後ろに回り、その勢いでゴキィッ。と鈍い音を立てた。
 野盗は激痛に悶え肩を押さえ、地面に頭を擦りつけ苦しむが、野盗の刀を握った幸之助はそれを振り上げた。

「駄目だ幸之助殿!!」

 その叫びが引き金のように、幸之助の左脇腹と左足に何か細い物が刺さった。さらには近くの野盗もそれが刺さり地面に倒れた。
 幸之助は、片膝をつき、腹の針と足の針を抜き、ぼやける視界を醒ますかのように、体中に力を籠めた。それは、刀を握る手にも見るからに籠っていることが伺える。

「幸之助殿!」永最は彼の肩を揺すった。「大丈夫か! しっかりするんだ」
 しかし幸之助は一点を凝視し、荒い息遣いを続けた。
 我を忘れ様子がおかしい事態を、どうにかしようと宗兵衛に助言を仰ごうとしたが、向こうもそれどころではなかった。


 どこからか飛んで来た針の仕業なのだろう。野盗の親玉が有利にも関わらず、両膝をついて頭を差し出していた。それを好機とばかりに剛一郎はとどめを刺しにかかったが、それを宗兵衛に阻止された。

「そこを退け宗兵衛ぇ!!」
 怒りで敬称すらない。
「お前さんがこの野盗にどのような恨みがあるかは知らんが、勝負は決した」
 膝をついた野盗は横たわった。周囲の野盗たちも寝息を立てている事から睡眠薬が仕込まれた針であると判明した。
「だったら止めてみろぉぉぉ!!」
 真剣で斬りかかる剛一郎の攻撃を躱し、続けてくる連続した斬りつけに、宗兵衛は必至になって受け、そして躱した。


「まずい! 剛一郎殿は我を忘れてる! 幸之助殿! 分かるか。宗兵衛殿への攻撃を止めさせるんだ!」
「――駄目だ。あいつらは人を殺したんだ」
 幸之助の見開いた眼は、斬り合う二人を捕らえていたが、言葉は二人に向けられたものではないということは、永最にも理解できた。
「あいつらは大事なものを奪ったんだ。目の前で汚したんだ! 嘲笑って、馬鹿にして、皆を襤褸布ぼろぬののように扱ったんだぁぁ!」

 別の何かを彼の眼は映し出していた。

「何を言ってるんだ! よく見ろ! 宗兵衛殿が殺されてもいいのか!」
 それでも幸之助の罵声は止まらない。
 見かねた永最は、大きく息を吸い、叫んだ。
「何をやってる天邪鬼!!」
 服の裾を掴んだ右手から無意識に鳳力が現れたが、永最は気づいていない。
 その力が幸之助の思考を止めた。
「今まで寝てたのならさっさと出てきて止めろぉ!! 二人がどうなってもいいのかぁぁぁ!!」

 即座に幸之助の髪が赤く染まり、舌打ちと同時にその体は駆けた。刀は手放している。

退け宗兵衛ぇ!」

 志誠の叫びに反応した宗兵衛は横に転がり、迫る者に対応しようと剛一郎は振り向くも、志誠が一歩早く彼の懐へ潜り込み腹に手を当てた。
 一瞬、体中の血か筋肉か何かが波打つような衝撃を体感した剛一郎は、体中の力が急激に抜け、刀を落とし、膝をついた。

「どいつもこいつも」
 息切れ激しい志誠が、剛一郎の肩に左手を乗せ、右手を後頭部に当てた。
「世話を焼かせんじゃねぇ!」
 気功を軽く両手に込めると、一瞬にして剛一郎は気を失った。

 両膝、両手を地面につけ、汗だくに息を切らせた志誠に宗兵衛が駆け寄った。

「どうした天邪鬼!」
「もう一仕事だ」
 志誠の両手を中心に、地面に光の陣が出現した。それは特殊な象形文字のようなものを円陣が囲んでいる、見た目にも複雑さを伺わせるものである。

「これは……天邪鬼、何を封印する気だ!」
 宗兵衛を無視して儀式は続けられた。
「東よりいずるは制止の徒、西よりいずるは抑制の徒、北からのくさびはやがて南の楔へ至る。天照す陽光よ、我望む者を防ぐ礎となれ! 堅牢自縛けんろうじばく!」

 円陣が急激に発光し、あまりの眩しさに永最も宗兵衛も視界を腕で塞いだ。
 その光は円陣の光か、落雷の雷光か。それほどまでに眩しい。
 目を開け、明るくないことを確認すると、同時に轟く雷の音と、騒がしい土砂降りの雑音が同時に襲った。
 永最の視界の先に、志誠の背を揺すって呼びかける宗兵衛の姿が飛び込んだ。

 一体、何が起きたのか。

 混乱する中、暫く響く雨の騒音が混乱する永最には、不思議と心地よかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...