憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

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六幕 あの日の真相

一 作戦

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 翌日、あれだけの豪雨が嘘のようにすっきりと雲一つない快晴となった。
 季節は冬の筈が、秋口のように仄かに暖かい気候。外の匂いまで季節が戻っているような、そんな朝である。

 目を覚ました志誠は、前もって思い抱いていたかのようにすぐさま身支度を済ませた。あれだけおかしくなった幸之助から主導権を取るのに苦労していた様子を感じさせず、動きは軽快である。

 志誠は何かを隠し、焦っている。

 あの土砂降りの中、志誠が行った堅牢自縛は、主に幻体や異念体を封印するのに使用する。幸之助と志誠のような人間に幻体が憑いている場合、自らに行うとどちらかの意識を封印する事となる。
 封印された者は自力で破るか永劫封印されるか、それは術者の器量次第である。

 志誠は幸之助を封印した。その理由は一切語られず、それどころか今後の方針を淡々と語った。その内容から早急に六赫希鬼の件を解決しようという腹の内が宗兵衛と永最はすんなりと読めた。
 隣町へは志誠と永最の二人で向かう事となり、町の馬車小屋で馬を借りた。
 宗兵衛は野党の件を役人に説明するため残ることとなった。
 野盗であれ、むやみに人を斬り殺してはならない。どの国にもある共通の法律である。これを破った者は長期の投獄、もしくは極刑である。しかし、致し方ない事情であれば刑罰は緩和され、さらに特定の条件を満たしていれば免罪となる。

 免罪の代表する例を二つ挙げるなら、
 将軍、導師お墨付きの極悪人討伐許可を所持した者。
 町の治安を守る者である役人等がいない、または極少数しかいない場合、さらに悪人が大勢で攻めてきた場合が証明された時。
 などである。
 今回の一件は後者の条件に近く、宗兵衛は導師・徳泉の書状を所持しているため説得の材料は十分備えている。この書状を所持している者は導師の信頼を得た存在として、言葉には真実味が高い。
 裏を返せば、この書状を持っている者は嘘をつけず、必ず真実しか語ってはならない。憶測と心情を合わせて事情を説明してはならない事を義務付けており、破った場合は死罪となる。

 気を失った剛一郎の面倒も兼ねて宗兵衛は二人と行動を分かつこととなった。

 ◇◇◇◇◇

 昼過ぎ、檜摩の国一の街へ到着した二人は、入口の小屋で馬を預け、街の様子を伺いに向かおうとした。
 そんな中、志誠の身体に異変が起きた。冬にしたら暖かいがそれでも寒い今日、汗が流れ、激しくはないが呼吸が乱れている。

「大丈夫か志誠。調子が悪いのであろう」
「うるさい。さっさと要件を済ませるぞ」
「うるさいも何もない。あの時の術が影響なのだろ! なぜ幸之助殿を封印したのだ!」
 しばし、間が空いた。
「……訳ありだ。さっさと希鬼を退散させるぞ」

 当然こうなることは解っていた。志誠は無駄な質問には答えようとしない。
 面倒くさいだけなのだとしか考えられなかった。
 六赫希鬼を捜索する前に昼食を済ませようと寄った飯屋で、永最はある家紋が気になった。それは街のいたるところで目にした為でもある。
 二つの縦長の菱形が少しずれて並び、三日月が二つの菱を繋ぐように描かれた紋。

「あの、あれって何かのまじないか何かですか?」
 訊くや、飯屋の店員が人差し指を立てて鼻に当て、黙るように忠告の動作を示した。
「あんた余所者かい? ありゃぁ如月家の家紋。先祖代々将軍様に仕えるこの街一番の武家一族だよ。不愉快にさせたら斬り殺されちまうよ」
 小声で気を遣う定員もそうだが、永最が家紋のことを訊いた時に周囲の客達の緊張が高まったことを志誠は感じ取っていた。

「随分物騒だな。いくらなんでも、因縁一つでどうして殺される?」
 昼食を食べたからか、志誠の呼吸の乱れ、汗、共に弱まっていた。空腹をやせ我慢していたのだと永最は断定した。
「色々あってね。如月家の四男・孟親だけは気を付けなさい。他の一族は大丈夫でも、あの子だけは鬼の申し子とか言われてるのよ。詳しく知りたかったら、人目につかない所でたむろしてる連中にでも聞いてちょうだい」

 昼食を済ませた二人は、その足で街の長屋街の井戸端で会話している四人の女性に事情を訊いた。
 如月孟親は、大人顔負けの知能と剣術を持ち合わせ、将軍と父親以外は自身より下の分際だと見下し、我儘は押し通るものだと思い込んでいる。その思い込みに拍車をかけるが如く、孟親のご機嫌を取れば報酬を貰えることから取り巻きになろうとする子供達が多く、孟親は街の支配者と化している。
 この街の子供にも警戒しなければならないことから、気を休めるところの少ない街となっている。
 陰の噂では、一族も孟親の凶行には頭を痛めており、将軍も孟親をどうしたものかと悩んでいる。というのも、孟親は街の住民に命令し、街の外に自身専用の屋敷を建てた。そして時折悲鳴や奇声音が聞こえた。
 噂では、将軍は部下を屋敷の調査に送ったが帰って来ず、中で殺されたと思い手を煩わせているとされている。

 ◇◇◇◇◇

「決まりだな」
 志誠は断定した。如月孟親は六赫希鬼である。
「しかし、いくら何でも四男がそのような妖怪なら一族の誰かが不審に思う筈だ。街を牛耳ったのは随分前、昨日今日なら街の者達が惑わされたと言えるが……」

 二人はまともな宿の部屋を借りて話をしている。

「六赫希鬼は人に憑く異念体だ。孟親が幼小の頃に憑かれたのだとすれば辻褄が合う。あの歳で悪辣な振る舞いが出来るのはいい証拠だ。明晰な頭脳や手練れ顔負けの剣術、希鬼の影響が濃厚だろうが、まあ百歩譲ってそんな天才だったともいえる。けど何より、自分の屋敷から聞こえる奇声や悲鳴は希鬼絡みと抱かせてもいい現象だ」
「しかし、だとしてもどう出るのだ? 真っ向から行ってもこっちは二人、あちらは取り巻きを使われでもしろ、多勢に無勢で呆気なくやられるだろう」
「行くなら夜。しかも丑三つ時だ。最も奴らが活発になる時間だが、俺としても都合がいい」

 志誠の鳳力も強まる事を示していた。

「しかし警備はどうする。金持ちの屋敷なら見回りが絶えない筈」
「話を思い出してみろ。不確かであれ、将軍の部下が戻って来ないので手出しできないと」
「噂は当てにならないだろ」
「もし警備が厳重なら、屋敷の不気味な噂より厳重な部分が際立つだろ。それが無く、不気味さ際立つ情報しかないという事は警備が出来ない。もしくは人が近寄れない屋敷という事だ」
 永最は納得した。
「なら、目に見えない何かがいる。今までの情報から六赫希鬼と判断するのが自然だろ」

 志誠の汗がまた流れているのが永最は気になった。しかし訊いたところでまた無視されるのが目に見えて訊けなかった。

「でもどのように退治するのだ? 祓い手側は四導師がいなければ祓えないと言っていたぞ。幸之助殿はおらず、私の鳳力は拙い。お前便りだが、大丈夫なのか?」
「問題ない。祓うのと俺のやり方は全く質が別だ。お前は後ろで見てれば済む」
 まだ訊きたいことはあるものの、志誠と幸之助の内容が多く、どのように訊いていいのか分からない。そうこうしている内に、夜のために寝ると言い出した志誠は床についた。

 まだ眠れない永最は、情報収集のため街に出向くことにした。
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