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六幕 あの日の真相
五 各々の行く先
しおりを挟む孟親の屋敷が燃え盛るのを、近くの林から確認している者達がいた。
「どういう事ですか? お頭の言った通り、あの幸之助は……」
一作はススキノへ向かって言った。
「それにあの動き、まさに獣か幻体か、異質な類だ」
仁も屋敷で起きた出来事に言及した。
孟親の屋敷へ火を放ったのは、ススキノ達三人であった。自身の臆測を信じ志誠と永最を待ち構えていた三人は、孟親への接触を避け、機を見て火を放つ策を練った。
「ああ、あれはまさしく獄鬼だ。お前達も見ただろ、途中で幸之助が消えた」
「あれはどういう事ですか?」
一作の質問に答えたのは、ススキノでは無かった。
「ありゃ、本格的に獄鬼が世に出るための段階の一つだな」
三人が声の方を向くと、そこには六蔵がいた。
「なぜ貴方が?」仁が訊く。
しかしススキノは六蔵の意図する事の何かに気づいた。
「いつから気づいていたので?」
「ああ。まあ、その話は追々。しかしその一端として前の町で監視を続けているとな? そこの二人が麻痺針、いや、睡眠の薬も混ぜていたなぁ。それで野盗やら幸之助やらに飛ばしていたのでな、ついつい面白くなって此方を」三人に手を向けた。「追ってしまったわい」
「悪趣味な」仁がぼやいた。
「分かっていたなら手伝ってくれても」次いで一作も告げた。
「いやぁ、荒事は若いのに任せておけば、迅速に且つ、丁寧に済むでしょうて」
こう言い出したら、どれほど問うても本心を語らないと分かっており、別の事をススキノが訊いた。
「貴方がこの事態を予見して、道楽がてらここに訪れたという事は、消えた獄鬼の次の出どころを把握しているのでは?」
「なぜそのように思うので?」
ススキノを見る六蔵の表情は、どこか試しているようでもあり、楽しそうでもあった。
「貴方は道楽より鬼関連の事象を優先にする。特に獄鬼が相手だ、道楽も過ぎれば命取りになる事は心得ているでしょう。過去の獄鬼に関する事象において、奴は一度消える。恐らく亜界へ向かったという説が有力視され、別の場所に現れる。確信を得る情報は無いものの、一部では何かしらの可能性を見出している者もいるとか。貴方もその類でしょう。その余裕が証拠……だろ」
「いやはやお見事」
揶揄われている様に思われ、仁が声を大に訴えた。
「何を悠長に楽しんでいるのだ! 早く奴を見つけねば大惨事となってしまうぞ」
「まあ待て、儂とて事の重大さは理解しておるよ。けどな、どう焦った所で奴はもうしばらく亜界からは出てこんよ。なにせ、その鍵はア奴が握っておるからな」
六蔵が視線を向け顎で示したのは、屋敷から出てきて倒れた永最であった。
しかしこの時の永最の髪の色が変わっており、志誠が身体の主導権を握っている。
「とりあえず、ア奴の保護を優先したい、話はそれからのほうが纏まりやすいだろうて」
ススキノは納得すると、一作に命令して永最を檜魔の街の宿屋へ運ぶように命令した。
「さてお頭、この件は締めの局面へ辿り着いておるはずだ。そろそろ獄鬼に関する情報整理をすると見ているが、話し合いの場を決めても宜しいかな?」
「どこか安全な場所でも?」
「ええ。ここもある意味安全だが、明日には孟親を良しとせん野次馬どもが集まるだろうて。少し遠いですが【宜円】の国、西にある町から少し北西へ向かったところに気脈の無い岩場があります。そこなら今後の事も踏まえ、何かと都合のいい場所になりましょう。日数においても十日は安全と見ますがね」
ここまではっきりと言いきれる六蔵が不気味とも思えた仁であったが、ススキノは何かを理解して受け入れた。
「では仁、六蔵、八日後にその場へ皆を集めるように伝えてくれ。一作には私から話をしておこう」
今後の猶予を見て二日早い算段に納得した二人は、御意。と返事をし、颯爽とその場を去った。
ススキノは燃え盛る孟親の屋敷を一瞥し、先の事を考えただけで気苦労が押し寄せ溜息を吐き、その場を去った。
◇◇◇◇◇
目を覚ました時、そこは孟親の屋敷前ではなく、宿の寝室であった。なぜ屋敷前ではなく宿なのか疑問を抱いた。
目を覚ました身体は永最であるが、見る人が見れば髪色は赤銅色。つまり志誠であった。
憑いてる側であるが、頭痛を感じ身体の節々が痛い。まるで風邪の様な症状だが疲労感は無い。
状態として孟親の屋敷へ向かう前よりかは数段、身体の調子が良く、動けない程でもない。
外が騒がしいのに気づき、窓から眺めると、孟親の屋敷が全焼し、孟親本人と思われる焼死体が発見されたことで、街中が騒いでいた。
その一部始終を知っている志誠は、面倒事、特に役人や如月家絡みの事情聴取などに巻き込まれでもしたら幸之助を捜すことさえできず、下手をすれば投獄となっても過言ではないと判断した。
宿にいる疑問を他所に、そそくさと荷物を纏めて宿を後にし、街入口の馬小屋へ向かい馬を借りた。
向かう場所は前の町、一日二日程しか経っていない中、野党絡みの一件の事情聴取が済んでいないであろう宗兵衛の元である。
数刻後、町に辿り着いた志誠は、まず自分達が借りていた長屋宿へと向かった。さすがにいないと思ったが、そこから居場所の聞き込みを開始しようとした。
しかし偶然にも、長屋宿へ訪れなくとも宗兵衛の居場所を知る人物と遭遇した。その人物は、志誠の存在を知り、さらには髪色の変化に気づく者。
「おお、志誠じゃないか」声が大きい。
志誠はすぐにその人物の正体が判明しなかった。それ程長い歳月、その人物に会っていなかった為すぐには分からなかった。
「……幾蔵……か?」
山本幾蔵。彼は永最の到着が遅く、自らの足で蓬清の所へ向かった。
到着後面倒な異念体絡みの一件を終え、再び岐路についた途中、この町で野盗の一件を知り、知人である導師徳泉の書状を提示する宗兵衛と知り合う。
今しがた檜魔の国へ向かい、志誠と会おうとしたが、まさかの遭遇な再会に驚きを隠せないでいた。
幾蔵が案内した宿の部屋には、温泉に入り終え、浴衣姿で夕餉にありついている宗兵衛の姿があった。
「おお?! 永、いや、天邪鬼か?」
「ああ。訳あってこいつの身体を借りる事になったんでな」
そう言いながら用意された布団へ寝転がり、永最の身体から離れた。
「おお!? それがお前の真の姿か」
「ああ。久しぶりにこの姿に戻った」
祈想幻体であれ、人間のように背伸びをする姿がまるで人間そのものである。
「では、色々話がしたい。特にお前にな」
幾蔵の話は、自身がある人物から聞き入れた話だが、それを聞いた志誠はあることを考えた。その臆測は、幸之助の居場所を掴む手がかりにもなりえると結論に至った。
「まあ、今日はもう遅い。明日から向かっても遅くはないぞ」
焦る志誠を制止し、幾蔵は酒を煽った。
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