憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

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六幕 あの日の真相

六 蓬清の秘密

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 永最の視界に広がるのは周囲の木造家屋が燃え広がる火災の光景。
 その一角に、複数人の野党と思われる連中が刀で貫かれ死んでいる。その多くは首から上、主に口を大きく広げ刀が突き刺さっていた。
 野党集団の凄惨な惨殺群の中央で、右頬に手ひどい傷を負い、両目を見開き、標的となる男性を睨む少年がいた。
 少年は何かを叫び、涙を流して許しを請う男性の口目掛けて刃を突き刺した。

 その光景にどんな感情も抱けない。ただ、目に映った光景を観ているだけである。
 それまでどんな光景を目にしたのか、今まで何をしていたのか、何も思い出せないのではなく思考が何も働かない。ただ観ているだけしかできない。勿論身体も動かせない。

 少年の光景がゆっくり闇に呑まれるように消えると、暫くして次の光景が映った。その暫くの感覚も、時間の経過が分からない。
 次の光景は桜の木の上で、丁度寝るには便利な形の枝分かれした幹に寝ている珍しい服の男性に、下から見上げて話す男性の光景である。見上げる男性は法衣姿である。

「で、決まったか? 俺の、妖怪って言うのか? その変な生き物の種類は」
「ああ。私の古い友人が好んで集めている妖怪絵巻や神仏絵巻があってな。その中で丁度お前さんに似た妖怪がいた。【天邪鬼】が合ってるのではないかな?」
「あまのじゃく?」
「ああ。素直でなく、ひねくれ者を称するのに使われるのだがな」
「えらく嫌味だな。お前さんは毎回毎回その名で呼ぶのか? まあ、俺はお前さんが変な目で見られようがどうでもいいんだがな」

 法衣姿の男性は考える素振りを見せた。

「では、名は【志誠】としよう。嘘のない誠の志を持つ者と言う意味だ。ひねくれてはいるが、心に己を貫き通す筋を持っている者という事でどうだ?」
「妖怪名・天邪鬼。名を志誠……か」呟き復唱した。
 まんざらでもないのか、木の上の男性は薄っら喜んでいた。
「気に入ってくれたかな?」
「知るか! 呼びたきゃ好きに呼べよ」

 志誠の名を聞くと、永最の中で何かがフツフツと思い出された。それは、今まで志誠といる思い出であった。

 その光景もまた暗くなり、次に映し出した光景は、法衣姿の男性が個室で木製の御仏を彫刻刀で象りながら時折、『志誠なぜいなくなったのだ』と涙を流し呟いている姿であった。
 この光景が消えると、視界は真っ暗闇になった。しかし、聴覚だけは僅かに働き、誰かが何かを話している声が聞こえる。

「全容を話すとそうなるな」
「つまりは、あいつの中に!」
 誰かが大声で訴えているような声も聞こえた。
 やがて、身体の感覚も戻り、自分が寝ている事を自覚できるようになった。
 体制がそぐわなく寝返りをうつと、重い瞼をゆっくり、粘りけのある物を瞼が上げているようにどろ~っと開いた。
 まるでひどく酔った翌日のように、頭のはっきりしない中、視界に異国の服を纏った男が胡坐を掻いてどんと腰掛け、永最を呆然と見下ろしていた。

「……志誠?」ほぼ呟きである。
「お前、しんの髄の髄まで面倒くせぇ奴だな」

 暴言を突然吐かれた。
 なぜこちらが寝起きの第一声に、志誠の暴言を吐かれなければならないのか?
 目を覆うように両手で頭を抱え、寝返りを打って唸った。
 そんな永最を見捨て、志誠は仕込みがあると言って出て行った。
 その声の返事をした声に聞き覚えがあり、永最は勢いよく起き上がり声の主をまじまじと見た。

「蓬清……様?」



 永最が目覚めたのは屋敷での一件から十日後。その間、身体を動かし生活していたのは志誠であった。
 幾三と再会した翌日、宗兵衛を残し、先に蓬清と会って事情を聞くための一人出てた。
 そして、三日前に到着したものの、幸之助に異変が起きて以降、ろくに境場によっていないため志誠の本体に無理がかかり、永最から離れたと同時に気を失い本日に至る。
 尚、宗兵衛は昨日こちらに到着した。

 志誠が他所へ行き、部屋には永最と蓬清だけとなった。

「では、蓬清様は今までずっと幻体達の存在を認識していたのですね」
「まあぁ……引退はしたが、住職である前は導師だったからな」気まずそうに余所見した。
「なら、蓬清様は私を騙していたという事ですね! こっちはずっと妖怪が見えていると悩んでいた時も、そんな私を見て楽しんでいたのですか!」
「待て。それにはこちらにも言い分がある」
「なんですかっ」
「確かにお前に幻体達が見える事を黙っていたのは謝る。しかし、頑として妖怪嫌いのお前さんを説得するには、”現役の導師の元で祓い手になる方が良いのでは?”と、山本に面倒を見てもらおうと思いつき、前もって話を付けていたのだ。……それを寄り道に寄り道を重ねて六赫希鬼に巻き込まれるとは」

 優勢に立っていた筈の永最だが、雲行きが怪しくなってきた。

「そ、そういう事はきちんと話してくれませんと。あんな白紙の文を渡されれば誰だって揶揄われたと思います」
「ほう。儂も騙したがお前さんも、なかなかのもの~よのぉ。寺では真面目すぎたが、外に出れば儂の文を勝手に開き」
 永最は言い返せなかった。
「寄り道までして遣いをサボり」
 目を背けた。
「昔話にしてもそうだ。妖怪嫌いだなんだと言い、儂の知り合いの祓い手の本の経文を綴り、寺の経を覚えるよりもそちらに励み」
 さらに気まずくなり顔が熱くなった。
「そんな妖怪嫌い一直線の聞く耳持たぬ若造に、”祈想幻体の話を聞かせ、祓い手の話をしとけばこんなことにならなかったのだ”と? 天邪鬼の話を聞く限り嫌な旅では無かったのだろうに、育ての親の元へ戻ってくるなり随分自分勝手に怒りをぶつける大人になったものだ」

 非は明らかに自分にある。その一心で体が動いた。

「申し訳ありません!! 分を弁えず非礼が過ぎました」畳に額を押し付けて土下座した。

 蓬清は茶を啜り一息吐いた。

「まあよい。お前さん、六赫希鬼に喰われそうになったのだろ」
「は、はい」
「助かったから良かったものの、儂も人任せにしていた手前、そのような事態を招いたのやもしれん。こちらも黙っていたことを詫びよう」お辞儀ほど上体を下げて詫びた。
「蓬清様。あの……幸之助と言って、旅で」
「分かっている。天邪鬼から聞いた」
「では、幸之助殿は救えるのですか?」
「獄鬼が関連しているからなぁ。断言は出来ん。儂の経験上、本来は助からん。しかし天邪鬼の奴は何か思うところがあるのかして、対応に取り掛かっている」
「……あの化物は何なのですか? 幼い時に見ただけでも、憑くだけで人間離れした力を備えております。六赫希鬼に憑かれた者も、とてつもない力を持っておりましたが、それを超える怪力でした」
「正確には、鳳力が強い。のだがな」
「鳳力? それはつまり、幸之助殿はあの化物と志誠の二つを宿すほどの鳳力の持ち主という事ですか?」
「お前さんには話すべき事であろうな」

 蓬清が姿勢を正すと、つられて永最も姿勢を正した。

「波沢幸之助は、永最、お前が住んでいた町のこの寺とは反対の山中の村で育った」

 幸之助がそんな昔から身近にいたことに驚いた。

「お前さんが寺に来る十数日前、九つの子が獄鬼に憑かれたと聞かされて、知人の祓い手と導師と共にその子供の元へ向かった。……布団で横たわり高熱にうなされる姿。常人が見るとそれだけだが、見える者が見れば安定の無い渦巻く鳳力を纏わらせた姿をしてた。初見で理解した。アレは並の祓い手や導師では対処できないと。そこで名のある導師の知恵を借り、ある幻体をその子供に憑かせた。つまり幻体で蓋をして獄鬼の鳳力と人格変化を抑え、さらに荒れた鳳力を弱めさせる手段をとったのだ」
「その幻体が志誠で、子供が幸之助殿ですね」

 蓬清から「いかにも」と返ってきた。

「ですが、なぜまだ獄鬼は幸之助殿の中にいるのです? 憑かせて弱らせ、そして祓う。未熟な私がその一連の原理をどうこう言えませんが、なぜ十何年経ってもまだ祓えていないのです?」
「そう簡単な話でないという事だ。天邪鬼を憑かせるにも幸之助の身体に馴染ませるのに何日もかかり、ようやく定着したのは約一年後。成長期の幸之助に同調して獄鬼も成長した。天邪鬼があちこちで鳳力を使っても中々弱まらん。まあ、綱渡りのような術であったため色々危険視され、何度も打ち切りの相談がされたよ」
「それ程危険な方法なのですか。幻体を憑かせることは」
「うむ。本来、幻体は一定の年数を現世で過ごすと姿を消し、数年後にまた現れる。【転祈】と呼ばれる事態が起きるのだ」
「テンキ……ですか? では、志誠は今も尚消えそうなのですか?」
「一応、天邪鬼は鳳力を扱う事に慣れており、境場で英気を養っているためか、転祈の期間を調節出来る。ここ十数年での結果論ではあるがな。まあ、あのひねくれ者は他の導師にはその点の話を詳しく話しているのやもしれん」

 今回は鳳力を大量に使用し、何度も憑いて無茶をしている。志誠が消えるかもしれない焦りと不安が芽生えた。

「今回、何がきっかけで封印が解けたかは分からんが、分かったところで儂にはどうにも出来ん。後は天邪鬼に任せるとする」
「なぜ志誠が?」
「さあ、山本達との話を教えたら何か気づいたそうだ。……ただ、その対処にお前さんも関係しているそうだぞ」
「なぜ!? 自分が……ですか?」
「なんでも、先月のどこかで妻が何かに憑かれた男がここに来てなぁ。まあ、その一件は解決したんだが。その男がお前さんに縁があるみたいで、その話を天邪鬼にしたら何かを考え出し、何か分かったそうで、「めんどくせぇ!」と叫んだ。目覚めたお前さんの前でぼやいたのはそれだ」

 考えてみても分からない。自身に縁がある人物と言っても、幼い頃から虐めていた連中以外、昔の事を覚えている者はいない。その者達も獄鬼に憑かれた幸之助に殺された。
 寺に来てから兄弟子達と遣いに向かって何人かと接点をもった程度で、大して記憶に残る者がいない。相手が覚えていたとして、その当時の事を話しても幸之助の一件を解決できる糸口を見つけれるほど特別な生き方をしていない。よって、そうでないと思われる。

 考えても仕方なく、志誠の帰りを待つしかなかった。
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