39 / 56
六幕 あの日の真相
六 蓬清の秘密
しおりを挟む永最の視界に広がるのは周囲の木造家屋が燃え広がる火災の光景。
その一角に、複数人の野党と思われる連中が刀で貫かれ死んでいる。その多くは首から上、主に口を大きく広げ刀が突き刺さっていた。
野党集団の凄惨な惨殺群の中央で、右頬に手ひどい傷を負い、両目を見開き、標的となる男性を睨む少年がいた。
少年は何かを叫び、涙を流して許しを請う男性の口目掛けて刃を突き刺した。
その光景にどんな感情も抱けない。ただ、目に映った光景を観ているだけである。
それまでどんな光景を目にしたのか、今まで何をしていたのか、何も思い出せないのではなく思考が何も働かない。ただ観ているだけしかできない。勿論身体も動かせない。
少年の光景がゆっくり闇に呑まれるように消えると、暫くして次の光景が映った。その暫くの感覚も、時間の経過が分からない。
次の光景は桜の木の上で、丁度寝るには便利な形の枝分かれした幹に寝ている珍しい服の男性に、下から見上げて話す男性の光景である。見上げる男性は法衣姿である。
「で、決まったか? 俺の、妖怪って言うのか? その変な生き物の種類は」
「ああ。私の古い友人が好んで集めている妖怪絵巻や神仏絵巻があってな。その中で丁度お前さんに似た妖怪がいた。【天邪鬼】が合ってるのではないかな?」
「あまのじゃく?」
「ああ。素直でなく、ひねくれ者を称するのに使われるのだがな」
「えらく嫌味だな。お前さんは毎回毎回その名で呼ぶのか? まあ、俺はお前さんが変な目で見られようがどうでもいいんだがな」
法衣姿の男性は考える素振りを見せた。
「では、名は【志誠】としよう。嘘のない誠の志を持つ者と言う意味だ。ひねくれてはいるが、心に己を貫き通す筋を持っている者という事でどうだ?」
「妖怪名・天邪鬼。名を志誠……か」呟き復唱した。
まんざらでもないのか、木の上の男性は薄っら喜んでいた。
「気に入ってくれたかな?」
「知るか! 呼びたきゃ好きに呼べよ」
志誠の名を聞くと、永最の中で何かがフツフツと思い出された。それは、今まで志誠といる思い出であった。
その光景もまた暗くなり、次に映し出した光景は、法衣姿の男性が個室で木製の御仏を彫刻刀で象りながら時折、『志誠なぜいなくなったのだ』と涙を流し呟いている姿であった。
この光景が消えると、視界は真っ暗闇になった。しかし、聴覚だけは僅かに働き、誰かが何かを話している声が聞こえる。
「全容を話すとそうなるな」
「つまりは、あいつの中に!」
誰かが大声で訴えているような声も聞こえた。
やがて、身体の感覚も戻り、自分が寝ている事を自覚できるようになった。
体制がそぐわなく寝返りをうつと、重い瞼をゆっくり、粘りけのある物を瞼が上げているようにどろ~っと開いた。
まるでひどく酔った翌日のように、頭のはっきりしない中、視界に異国の服を纏った男が胡坐を掻いてどんと腰掛け、永最を呆然と見下ろしていた。
「……志誠?」ほぼ呟きである。
「お前、心の髄の髄まで面倒くせぇ奴だな」
暴言を突然吐かれた。
なぜこちらが寝起きの第一声に、志誠の暴言を吐かれなければならないのか?
目を覆うように両手で頭を抱え、寝返りを打って唸った。
そんな永最を見捨て、志誠は仕込みがあると言って出て行った。
その声の返事をした声に聞き覚えがあり、永最は勢いよく起き上がり声の主をまじまじと見た。
「蓬清……様?」
永最が目覚めたのは屋敷での一件から十日後。その間、身体を動かし生活していたのは志誠であった。
幾三と再会した翌日、宗兵衛を残し、先に蓬清と会って事情を聞くための一人出てた。
そして、三日前に到着したものの、幸之助に異変が起きて以降、ろくに境場によっていないため志誠の本体に無理がかかり、永最から離れたと同時に気を失い本日に至る。
尚、宗兵衛は昨日こちらに到着した。
志誠が他所へ行き、部屋には永最と蓬清だけとなった。
「では、蓬清様は今までずっと幻体達の存在を認識していたのですね」
「まあぁ……引退はしたが、住職である前は導師だったからな」気まずそうに余所見した。
「なら、蓬清様は私を騙していたという事ですね! こっちはずっと妖怪が見えていると悩んでいた時も、そんな私を見て楽しんでいたのですか!」
「待て。それにはこちらにも言い分がある」
「なんですかっ」
「確かにお前に幻体達が見える事を黙っていたのは謝る。しかし、頑として妖怪嫌いのお前さんを説得するには、”現役の導師の元で祓い手になる方が良いのでは?”と、山本に面倒を見てもらおうと思いつき、前もって話を付けていたのだ。……それを寄り道に寄り道を重ねて六赫希鬼に巻き込まれるとは」
優勢に立っていた筈の永最だが、雲行きが怪しくなってきた。
「そ、そういう事はきちんと話してくれませんと。あんな白紙の文を渡されれば誰だって揶揄われたと思います」
「ほう。儂も騙したがお前さんも、なかなかのもの~よのぉ。寺では真面目すぎたが、外に出れば儂の文を勝手に開き」
永最は言い返せなかった。
「寄り道までして遣いをサボり」
目を背けた。
「昔話にしてもそうだ。妖怪嫌いだなんだと言い、儂の知り合いの祓い手の本の経文を綴り、寺の経を覚えるよりもそちらに励み」
さらに気まずくなり顔が熱くなった。
「そんな妖怪嫌い一直線の聞く耳持たぬ若造に、”祈想幻体の話を聞かせ、祓い手の話をしとけばこんなことにならなかったのだ”と? 天邪鬼の話を聞く限り嫌な旅では無かったのだろうに、育ての親の元へ戻ってくるなり随分自分勝手に怒りをぶつける大人になったものだ」
非は明らかに自分にある。その一心で体が動いた。
「申し訳ありません!! 分を弁えず非礼が過ぎました」畳に額を押し付けて土下座した。
蓬清は茶を啜り一息吐いた。
「まあよい。お前さん、六赫希鬼に喰われそうになったのだろ」
「は、はい」
「助かったから良かったものの、儂も人任せにしていた手前、そのような事態を招いたのやもしれん。こちらも黙っていたことを詫びよう」お辞儀ほど上体を下げて詫びた。
「蓬清様。あの……幸之助と言って、旅で」
「分かっている。天邪鬼から聞いた」
「では、幸之助殿は救えるのですか?」
「獄鬼が関連しているからなぁ。断言は出来ん。儂の経験上、本来は助からん。しかし天邪鬼の奴は何か思うところがあるのかして、対応に取り掛かっている」
「……あの化物は何なのですか? 幼い時に見ただけでも、憑くだけで人間離れした力を備えております。六赫希鬼に憑かれた者も、とてつもない力を持っておりましたが、それを超える怪力でした」
「正確には、鳳力が強い。のだがな」
「鳳力? それはつまり、幸之助殿はあの化物と志誠の二つを宿すほどの鳳力の持ち主という事ですか?」
「お前さんには話すべき事であろうな」
蓬清が姿勢を正すと、つられて永最も姿勢を正した。
「波沢幸之助は、永最、お前が住んでいた町のこの寺とは反対の山中の村で育った」
幸之助がそんな昔から身近にいたことに驚いた。
「お前さんが寺に来る十数日前、九つの子が獄鬼に憑かれたと聞かされて、知人の祓い手と導師と共にその子供の元へ向かった。……布団で横たわり高熱にうなされる姿。常人が見るとそれだけだが、見える者が見れば安定の無い渦巻く鳳力を纏わらせた姿をしてた。初見で理解した。アレは並の祓い手や導師では対処できないと。そこで名のある導師の知恵を借り、ある幻体をその子供に憑かせた。つまり幻体で蓋をして獄鬼の鳳力と人格変化を抑え、さらに荒れた鳳力を弱めさせる手段をとったのだ」
「その幻体が志誠で、子供が幸之助殿ですね」
蓬清から「いかにも」と返ってきた。
「ですが、なぜまだ獄鬼は幸之助殿の中にいるのです? 憑かせて弱らせ、そして祓う。未熟な私がその一連の原理をどうこう言えませんが、なぜ十何年経ってもまだ祓えていないのです?」
「そう簡単な話でないという事だ。天邪鬼を憑かせるにも幸之助の身体に馴染ませるのに何日もかかり、ようやく定着したのは約一年後。成長期の幸之助に同調して獄鬼も成長した。天邪鬼があちこちで鳳力を使っても中々弱まらん。まあ、綱渡りのような術であったため色々危険視され、何度も打ち切りの相談がされたよ」
「それ程危険な方法なのですか。幻体を憑かせることは」
「うむ。本来、幻体は一定の年数を現世で過ごすと姿を消し、数年後にまた現れる。【転祈】と呼ばれる事態が起きるのだ」
「テンキ……ですか? では、志誠は今も尚消えそうなのですか?」
「一応、天邪鬼は鳳力を扱う事に慣れており、境場で英気を養っているためか、転祈の期間を調節出来る。ここ十数年での結果論ではあるがな。まあ、あのひねくれ者は他の導師にはその点の話を詳しく話しているのやもしれん」
今回は鳳力を大量に使用し、何度も憑いて無茶をしている。志誠が消えるかもしれない焦りと不安が芽生えた。
「今回、何がきっかけで封印が解けたかは分からんが、分かったところで儂にはどうにも出来ん。後は天邪鬼に任せるとする」
「なぜ志誠が?」
「さあ、山本達との話を教えたら何か気づいたそうだ。……ただ、その対処にお前さんも関係しているそうだぞ」
「なぜ!? 自分が……ですか?」
「なんでも、先月のどこかで妻が何かに憑かれた男がここに来てなぁ。まあ、その一件は解決したんだが。その男がお前さんに縁があるみたいで、その話を天邪鬼にしたら何かを考え出し、何か分かったそうで、「めんどくせぇ!」と叫んだ。目覚めたお前さんの前でぼやいたのはそれだ」
考えてみても分からない。自身に縁がある人物と言っても、幼い頃から虐めていた連中以外、昔の事を覚えている者はいない。その者達も獄鬼に憑かれた幸之助に殺された。
寺に来てから兄弟子達と遣いに向かって何人かと接点をもった程度で、大して記憶に残る者がいない。相手が覚えていたとして、その当時の事を話しても幸之助の一件を解決できる糸口を見つけれるほど特別な生き方をしていない。よって、そうでないと思われる。
考えても仕方なく、志誠の帰りを待つしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる