憑く鬼と天邪鬼

赤星 治

文字の大きさ
47 / 56
七幕 獄鬼との対峙

四 いざ開戦

しおりを挟む

 森を抜けると、一面ほとんど草の生えていない荒野に出た。

「あの大岩で囲まれた……崖か? あそこに幸がいる」
 獄鬼の鳳力を見ていた志誠の目には、隆起した大岩群がいびつな岩壁を創り上げた光景を、崖に囲まれた荒れ地と思わせた。
「お前達が奴と対峙し始めたのを合図に我々は八卦葬送を始める。視界が霧に覆われれば、いかなる状況であれ退避に励め」
 ススキノの部下一人が森を抜けた所で待ち構えていた。それは、自分たちの行動の説明する役であった。

「お前等の方こそ覚悟は出来てるのか? 八卦葬送はかなりの確率で死ぬ術だ。生存は運次第だぞ」
 大昔から葬送術は命懸けと言われ、ほぼ確実に死亡する。しかし術者が助かった例はあるが、原因が判明しているものは、修行不足や鳳力の乏しい状態で使用したことにより、術の基盤が出来ないなどである。
 それでも術者が死亡しない例の原因は、未だに掴めていない。
「この一件は並の術では対峙できない。かしらも我々も腹を決めている。此方の心配よりそちらの事だけ考えろ。あの者の救出に成功しようとどうだろうと、此方は此方の準備が出来しだい術を使用する。死にたくなければ機を見て逃げろ」

 忠告を終えると、部下は颯爽と自らの所定の位置に向かった。

 志誠達三人も岩場まで駆けた。
 一番近くの大岩に辿り着くと、獄鬼に見えないように隠れ、機会を伺っていた。
 永最は積もった不安を露に、志誠へ質問した。

「本当にこのように軽装でいいのか? 幻体であるお前はともかく私は木刀も刀も所持していない。それに、宗兵衛殿が所持しているのは真剣。いくら対峙といえ、生身の幸之助殿は斬られれば死んでしまうのではないのか?」
「真剣でねぇとあんな化け物の攻撃に耐えれねぇ。持った物が木の棒であれ、鳳力を注いで真剣並みの武器に変える力があるからな」
 実力をかわれての作戦だろうが、眼前の化物を見る限りどこまで対峙できるか、今度は宗兵衛に不安が募った。
「頼るはいいが、そう長くもたんぞ。あんな鳳力垂れ流しの化物相手に」
「分かってる。出来る限り時間を稼いでくれ。その間、永最の意識を幸之助の中に飛ばす。永最は幸を説得して幸の意識を戻せ」
「戻すって、そう易々と言うが私は術も技もなにも出来んぞ。どうやって」
「んなもんいらん。お前の感情任せの説得でどうにかして戻せ。どうやら幸の怨みは野党柄みの惨殺が原因だ。宗兵衛もお前も状況は困難だ。気合い入れていくぞ」

 反論は出来ない。
 他に方法が浮かばず、ぐずぐずしていると八卦葬送に巻き込まれる。
 逃げれば志誠と宗兵衛は無理でも幸之助の救助を優先し、八卦葬送に巻き込まれても最後まで尽力するだろうから。

 永最は意を決した。

「で、幸之助が戻ってからは聞いていなかったな」宗兵衛は救出後の事を気にした。「連中の術が出来る寸前まで奴の時間稼ぎを幸之助と俺でするのか?」
「いや、対峙するのは幸だ。お前は刀を幸に渡し、一目散で岩壁の外に走れ」
「なぜだ。二人のほうが確実だろ」
「お前は元々鳳力の量が少ない。八卦葬送の危険域に達した時点で動きに支障をきたして逃げ遅れる」

 志誠の策は矛盾が生じた。
 宗兵衛だけが逃げたところで、三人は葬送術の範囲内にいる。巻き込まれて死んでしまう。
 冷静に考えると、志誠はいつも全てを語らない策を準備している。
 時間も無い中、その可能性を信じることにした。

「締めの美味しいとこ取りの策があると思っていいんだな」
「察しが言いな。まぁ何はともあれ、各々の役目に集中するぞ」
「締めの大一番だ。抜かるなよ」
 宗兵衛は鞘から刀を抜き一番に中へと向かった。
「いくぞ永最」
 ああ。の返事で志誠が永最に憑き、宗兵衛の後を追った。

 ◇◇◇◇◇

 ススキノと一作は、遠景で仁が案内を済ませたのを確認した。

「お頭、なぜあの者達に八卦葬送や宇芭実独の事を?」
 ススキノは視線を変えず答えた。
「試してみた」
「試す……なぜ?」
「あやつは此方が正直に話したとて腹を割らんよ。寸前まで疑った相手の出方を探り、自らの行動を決める。宇芭実独と八卦葬送をチラつかせば、何かしらの行動に出ると踏んでいる。ある種の博打だ」

 ただ一点、志誠達のほうを向いているススキノは、どこか気力が弱まっている雰囲気が伺いしれた。

「では、位置につきます」

 行こうとする一作を、ススキノは呼び止めた。
 振り返った一作に、穏やかな表情の顔を向けたススキノは、あの世で会おう。と言った。
 一作も、はっ。と返し、所定の位置に向かった。
 しばらくして、三人が獄鬼に立ち向かう様を確認し、ススキノは術を唱え始めた。
 経文を唱える様にそれを暫く唱えると、淡い光が岩壁を沿って一点に向かって流れた。
 その先には一作がおり、光が到達すると、ススキノ同様に一作も詠唱を唱え、光を流した。

 ◇◇◇◇◇

 岩壁の中に入って改めて宗兵衛は驚いたのは、あまりの広さである。率直に村一つは平気で入るのではないかと思えた。
 宗兵衛に気付いた、憑かれた幸之助は体を向き合わせた。かなり離れた位置にも関わらず、威圧を感じ取った宗兵衛は一度立ち止まり、呼吸を整えると共に相手の動きを伺った。

「幸之助! いい加減目をさまさんかぁ!!」
 声を合図に幸之助は宗兵衛目掛けて駆けて迫ってきた。
 致し方ない。そう心中で呟きまた宗兵衛は駆けた。
「この変で仕掛ける。行くぞ永最」
(ああ。任せろ)
 宗兵衛が立ち止まったところ近くで志誠は胡坐を掻き、術を唱えだした。

 その数秒後、宗兵衛と木の棒に鳳力を纏わせ刀状に変化させた幸之助が、互いの一撃をぶつけた。
 まるで暴風と暴風がぶつかる様な二人を中心に鳳力が吹き荒れた。
 凶暴化し、獲物を狙う野獣のような力強い眼つきの幸之助に負けじと、宗兵衛も中々強い眼で睨み、中々に重い一撃と暴風に耐えながら対峙した。
 刀と刀がぶつかり合ったところから蜃気楼のような淀んだ空間が広がり、主に幸之助寄りに二人を包んだ。途端、重い一撃が軽くなり、まともな人間と対峙するほどまで落ちた。
 志誠の術と踏んだ宗兵衛は一撃を払い、間合いを取った。

 一方、永最の意識を飛ばす術の下準備が整うと、永最は意識を幸之助へと集中した。

「頼んだぞ永最」
 この言葉を引き金に、永最の意識は飛んだ。

 一方で、ススキノ達の術の光が部下たちを経由してススキノの元へと戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...