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Tier78 無礼講
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「美結、そろそろやめてあげなよ。マノ君苦しそうだよ」
ネクタイを限界まで美結さんに締め上げられていたマノ君は魂が抜けかけていた。
おまけに締め直すはずのネクタイは直す前よりもグチャグチャになっている。
「え、そう? まぁ、日菜っちがそう言うならやめるけど……」
マノ君を締め上げていた手を美結さん緩めるとマノ君はここぞとばかりに息を吸って、酸素を体にできるだけたくさん取り込む仕草を見せる。
締め上げられたネクタイの結び目はよっぽど固かったのかマノ君はほどくことを諦めて、強引に下に引っ張って気道を確保した。
後ろにあったデスクに手をついて、肩を上下に揺らしているところを見るとどれだけ息苦しかったのかが伝わってくるようだった。
「あ~あ、さっきよりもネクタイがひどいことになっちゃってるよ」
ワイシャツの襟はひん曲がって、ネクタイの結び目が極限まで小さくなっている惨状を見た市川さんがため息を漏らす。
そして、マノ君に近づくと固くなったネクタイの結び目をほどき始める。
シュルリと音を立ててほどいたネクタイをマノ君の首から外す。
襟を立てて、ネクタイを首に回して軽く結んだところで立てた襟を正す。
最後に結び目を閉められた第一ボタン辺りまで持っていき、ディンプルを作って形を整えると綺麗にネクタイが締め直されていた。
「これで、よしっと」
一歩下がって全体のバランスを見た市川さんが納得したように言った。
ここまで黙って見守っていたマノ君も、締め直されたネクタイの出来栄えに感心しているみたいだ。
「悪いな、市川。だが、ここまで締めなくても良かったぞ」
きっちりと絞められたネクタイを指して、マノ君は少し窮屈そうにする。
「ダラしないのは良くないからね。後で、緩めたりはしないでよ」
「……わかったよ。ありがとうな、市川」
「……ッ! いいえ、どういたしまして……」
急にふいっと横下を向いて、市川さんは目を伏せる。
それを見たマノ君は一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに何かを理解したのか市川さんから距離を置く。
この二人の反応は気になったけど、僕以外の六課の皆から漂う訳ありの雰囲気を感じ取ったので深くは聞かないでおくことにした。
「さっ! 今日は疲れたし無礼講ってことでどこか飲みにでも行こうか!」
今の雰囲気を吹っ切るように丈人先輩が明るい声で僕達を誘う。
「飲みに行くって……丈人先輩、僕達まだ二十歳じゃないんですよ」
「大丈夫だよ。俺、22歳だから。この時間でもお店に入れないなんてことはないから安心して」
「えっと、そうじゃなくてですね。二十歳未満でお酒を飲むのは法律上駄目だと思うんです」
僕の意見に美結さんと市川さんもうんうんと頷いている。
「うん? あ~そういうことか! ごめん、無礼講とか飲むとか言って紛らわしかったよね。もちろん皆はソフトドリンクだよ」
誤解をさせてしまっていたことに気付いた丈人先輩が慌てて弁解する。
あの丈人先輩が僕達に飲みに行こうなんて言ってきた時はびっくりしたけど、丈人先輩にお酒を僕達に飲ませる意思がなくて安心した。
「皆は? ってことは、丈人先輩だけは酒を飲むんですか?」
丈人先輩の言い方に引っかかったのかマノ君がそうツコッむ。
「え? えっと……仕事終わりにビール一杯くらいは……駄目かな?」
少しバツが悪そうに丈人先輩が答える。
「いや、全然駄目じゃないですよ。けど、丈人先輩だけが飲むんですか。俺達がソフトドリンクを飲んでいる中で、一人だけ酒を飲むんですか……ズルくないと言ったら嘘になりますよね?」
やたらに「だけ」を強調してマノ君が丈人先輩に詰め寄る。
「な、何が言いたいのかなマノ君?」
やや押され気味の丈人先輩がマノ君の真意を探ろうとする。
「丈人先輩なら年確しない店ぐらい知っているんじゃないですか。俺達ももう高校生です。酒なんか飲んだって問題ないでしょう。昔は俺達ぐらいの年齢の奴は皆あたり前のように飲んでたって言うじゃないですか」
「ちょ、ちょっと何言ってんのよアンタ! そんなの駄目に決まってるでしょ! 昔っていつの話よ! そんなのかなり前のことでしょ!」
「そうだよマノ君! それは駄目だよ!」
とんでもないことを口走ったマノ君に僕と美結さんは猛烈に抗議を入れる。
「二人の言う通りだよ。お酒とタバコは二十歳からって学校でもさんざん言われているよね」
市川さんも僕達に加勢してくれる。
「んなの、バレなきゃいいんだよ。それに、俺達は曲がりなりにも警察だぜ。問題ないだろ」
「警察だからこそ、大問題だよ! 波瑠見ちゃんも何か言ってあげて!」
ここまで口出しせずに僕達のやりとりを見守っていた那須先輩に丈人先輩が助け舟を求める。
「……」
だけど、那須先輩は何か考え込んでいるのか反応しようとしない。
「波瑠見ちゃん?」
反応のない那須先輩に丈人先輩が再度呼びかけると、ハッとしたように那須先輩が顔を上げた。
「ソフトドリンクしか飲んでいなかったはずのヒロイン達が間違えてお酒を飲んでしまって、酔ったヒロイン達は普段ひた隠しにしている主人公への思いを素直に口に出したり、行動に移してしまう。お酒のせいで頬を赤らめた艶やかなヒロイン達に主人公は唇を――これは……まさにラブコメの予感! いや、だけど少年誌として考えると法律に触れるのアウトだからな~。そうなると、ウィスキーボンボンの線もありかな~。でも、お酒に火照ったヒロイン達も捨てがたいしな~」
残念ながら那須先輩は全くあてにならないことを考えていたみたいだ。
「お、那須先輩は話がわかるじゃないか!」
理由はどうあれ、味方を見つけたマノ君は那須先輩の元に駆け寄る。
「至高のラブコメが見られるとあらば協力するよ!」
「何言ってんのか全然わかんないが、同盟成立だ!」
二人がお互いに熱い握手を交わした時、六課に誰かが慌てたように入って来た。
「失礼します。マノさんと伊瀬さんはいらっしゃいますでしょうか?」
それは少し険しい表情を浮かべた早乙女さんだった。
ネクタイを限界まで美結さんに締め上げられていたマノ君は魂が抜けかけていた。
おまけに締め直すはずのネクタイは直す前よりもグチャグチャになっている。
「え、そう? まぁ、日菜っちがそう言うならやめるけど……」
マノ君を締め上げていた手を美結さん緩めるとマノ君はここぞとばかりに息を吸って、酸素を体にできるだけたくさん取り込む仕草を見せる。
締め上げられたネクタイの結び目はよっぽど固かったのかマノ君はほどくことを諦めて、強引に下に引っ張って気道を確保した。
後ろにあったデスクに手をついて、肩を上下に揺らしているところを見るとどれだけ息苦しかったのかが伝わってくるようだった。
「あ~あ、さっきよりもネクタイがひどいことになっちゃってるよ」
ワイシャツの襟はひん曲がって、ネクタイの結び目が極限まで小さくなっている惨状を見た市川さんがため息を漏らす。
そして、マノ君に近づくと固くなったネクタイの結び目をほどき始める。
シュルリと音を立ててほどいたネクタイをマノ君の首から外す。
襟を立てて、ネクタイを首に回して軽く結んだところで立てた襟を正す。
最後に結び目を閉められた第一ボタン辺りまで持っていき、ディンプルを作って形を整えると綺麗にネクタイが締め直されていた。
「これで、よしっと」
一歩下がって全体のバランスを見た市川さんが納得したように言った。
ここまで黙って見守っていたマノ君も、締め直されたネクタイの出来栄えに感心しているみたいだ。
「悪いな、市川。だが、ここまで締めなくても良かったぞ」
きっちりと絞められたネクタイを指して、マノ君は少し窮屈そうにする。
「ダラしないのは良くないからね。後で、緩めたりはしないでよ」
「……わかったよ。ありがとうな、市川」
「……ッ! いいえ、どういたしまして……」
急にふいっと横下を向いて、市川さんは目を伏せる。
それを見たマノ君は一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに何かを理解したのか市川さんから距離を置く。
この二人の反応は気になったけど、僕以外の六課の皆から漂う訳ありの雰囲気を感じ取ったので深くは聞かないでおくことにした。
「さっ! 今日は疲れたし無礼講ってことでどこか飲みにでも行こうか!」
今の雰囲気を吹っ切るように丈人先輩が明るい声で僕達を誘う。
「飲みに行くって……丈人先輩、僕達まだ二十歳じゃないんですよ」
「大丈夫だよ。俺、22歳だから。この時間でもお店に入れないなんてことはないから安心して」
「えっと、そうじゃなくてですね。二十歳未満でお酒を飲むのは法律上駄目だと思うんです」
僕の意見に美結さんと市川さんもうんうんと頷いている。
「うん? あ~そういうことか! ごめん、無礼講とか飲むとか言って紛らわしかったよね。もちろん皆はソフトドリンクだよ」
誤解をさせてしまっていたことに気付いた丈人先輩が慌てて弁解する。
あの丈人先輩が僕達に飲みに行こうなんて言ってきた時はびっくりしたけど、丈人先輩にお酒を僕達に飲ませる意思がなくて安心した。
「皆は? ってことは、丈人先輩だけは酒を飲むんですか?」
丈人先輩の言い方に引っかかったのかマノ君がそうツコッむ。
「え? えっと……仕事終わりにビール一杯くらいは……駄目かな?」
少しバツが悪そうに丈人先輩が答える。
「いや、全然駄目じゃないですよ。けど、丈人先輩だけが飲むんですか。俺達がソフトドリンクを飲んでいる中で、一人だけ酒を飲むんですか……ズルくないと言ったら嘘になりますよね?」
やたらに「だけ」を強調してマノ君が丈人先輩に詰め寄る。
「な、何が言いたいのかなマノ君?」
やや押され気味の丈人先輩がマノ君の真意を探ろうとする。
「丈人先輩なら年確しない店ぐらい知っているんじゃないですか。俺達ももう高校生です。酒なんか飲んだって問題ないでしょう。昔は俺達ぐらいの年齢の奴は皆あたり前のように飲んでたって言うじゃないですか」
「ちょ、ちょっと何言ってんのよアンタ! そんなの駄目に決まってるでしょ! 昔っていつの話よ! そんなのかなり前のことでしょ!」
「そうだよマノ君! それは駄目だよ!」
とんでもないことを口走ったマノ君に僕と美結さんは猛烈に抗議を入れる。
「二人の言う通りだよ。お酒とタバコは二十歳からって学校でもさんざん言われているよね」
市川さんも僕達に加勢してくれる。
「んなの、バレなきゃいいんだよ。それに、俺達は曲がりなりにも警察だぜ。問題ないだろ」
「警察だからこそ、大問題だよ! 波瑠見ちゃんも何か言ってあげて!」
ここまで口出しせずに僕達のやりとりを見守っていた那須先輩に丈人先輩が助け舟を求める。
「……」
だけど、那須先輩は何か考え込んでいるのか反応しようとしない。
「波瑠見ちゃん?」
反応のない那須先輩に丈人先輩が再度呼びかけると、ハッとしたように那須先輩が顔を上げた。
「ソフトドリンクしか飲んでいなかったはずのヒロイン達が間違えてお酒を飲んでしまって、酔ったヒロイン達は普段ひた隠しにしている主人公への思いを素直に口に出したり、行動に移してしまう。お酒のせいで頬を赤らめた艶やかなヒロイン達に主人公は唇を――これは……まさにラブコメの予感! いや、だけど少年誌として考えると法律に触れるのアウトだからな~。そうなると、ウィスキーボンボンの線もありかな~。でも、お酒に火照ったヒロイン達も捨てがたいしな~」
残念ながら那須先輩は全くあてにならないことを考えていたみたいだ。
「お、那須先輩は話がわかるじゃないか!」
理由はどうあれ、味方を見つけたマノ君は那須先輩の元に駆け寄る。
「至高のラブコメが見られるとあらば協力するよ!」
「何言ってんのか全然わかんないが、同盟成立だ!」
二人がお互いに熱い握手を交わした時、六課に誰かが慌てたように入って来た。
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それは少し険しい表情を浮かべた早乙女さんだった。
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