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Tier79 内密
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少し険しい表情を浮かべた早乙女さんが六課に入って来たことで、ワチャワチャとしていた僕達の動きが一度止まる。
「俺と伊瀬ならここにいますけど」
マノ君が早乙女さんから見えるところまで前へと出て行く。
その後を追うようにして僕も顔を見せる。
「良かったです。まだ、いらっしゃったんですね。入れ違いにならなくて安心しました」
僕達が今日はいつもよりも遅くまで作業をしていたことが偶然にも功を奏したみたいだ。
「どうしたんです? 何か急ぎの用でもありました?」
慌てたように六課にやって来て、険しい表情を見せていた早乙女さんの様子に違和感を感じたマノ君が訝しげる。
「用というわけではないのですが、一つご報告しておきたいことがございまして……」
早乙女さんはそこまで言い終えると僕達以外の皆の方をチラリと見る。
その視線に気付いた丈人先輩が何かを察したような顔をする。
「今日は時間も時間だからご飯に行くのはまた今度にしようか。それに皆、明日は学校でしょ? だから、できるだけ早く帰った方が良さそうだしね。そうと決まれば、おうちへ帰ろう!」
ご飯に行こうと誘ってきた張本人が急に帰ろうと言い始めたことに美結さん達女性陣が困惑している中、丈人先輩は半ば強引に背中を押すようにして帰らせようとする。
「ちょっと、待ってください。帰ることには賛成ですが、伊瀬君達が終わるまで待ってあげましょうよ。帰る方向は同じですから、一緒に帰った方が良くないですか?」
僕達を置いて先に帰ることには抵抗があったのか、市川さんが待ったをかけた。
「そうだよ、赤信号みんなで渡れば怖くないだよっ!」
この場面で使う言葉としては全く合ってはいないけど、那須先輩も市川さんの意見に賛同する。
「それはそうだけど、二人は早乙女さんと大切なお話があるみたいだからね。邪魔しちゃ悪いからさ。二人もそれでいいかな?」
同意はしつつも自分の主張は変えなかった丈人先輩が今度は僕達にお伺いを立てる。
「あ、はい。僕はそれで大丈夫です」
「気にしないで、さっさと帰ってください」
「おっけー、ありがとう。じゃあ、ごめんだけど俺達は先に帰っちゃうね」
僕達にこう言われては仕方ないので女性陣は丈人先輩に連れられるようにして帰って行った。
帰り際、「一緒に帰ってあげるって言ってんのに、あんな言い方しなくてもいいじゃない」と美結さんのマノ君へ対する愚痴が聞こえてきたけど、当の本人は聞こえていないのか知らんぷりだ。
いや、たぶんあれは聞こえない振りをしていたんだと思う。
--------------------------
「申し訳ありません、無理を言ってしまって。これから六課の皆さんでお食事に行くところをお邪魔してしまったようですね」
丈人先輩達が帰ったのを確認してから早乙女さんが口を開いた。
「別に飯ぐらい行こうと思えばいつでもいけますから」
気にするなとマノ君はぶっきらぼうに答える。
「それで、俺と伊瀬だけに報告って何です? わざわざ人払いまでするってことは誰かに聞かれちゃ不味いことなんでしょ?」
「気付いてましたか」
「そりゃ、気付きますよ。あんだけあからさまに目配せしてたら。実際、丈人先輩達がそれに気づいて他の奴らを帰らせてくれたわけですし。丈人先輩以外はこういうの苦手なんで。まぁ、市川なら気付きそうではありますけど、直前に少し気が動転してましたから気付かなくても無理はないか」
いきなり帰ろうと丈人先輩が言った時は不思議に思ったが、あれは早乙女さんの意思を汲んでのものだったのか。
早乙女さんが目配せのようなことをしていたのには何となく気付けたけど、それが何を意味するのかまではわからなかった。
「とにかく、おかげで助かりました。マノさんのおっしゃる通り、今回の報告はお二人に内密にお伝えしたいものだったので」
どこか落ち着きのない様子の早乙女さんは誰かに盗み聞きされないように一段と声を潜めてから話を続ける。
「今朝、情報が来たばかりで対処など諸々の調整をしていたため、お二人にはご連絡が遅れてしまいました。これからお伝えする内容は大臣と私含めて、極僅かの人間しか知り得ません。お二人にもどうか情報の漏洩のないようにお願いいたします」
「それって、六課の人でも言ってはいけないってことですよね?」
他の皆に隠し事をするようで気が引けた僕はわかっていながらも聞いてしまった。
「心苦しいかもしれませんが、その通りです」
僕の気持ちを理解してか、そう言ってくれた早乙女さん。
「でも、そんな情報を何で俺達にだけは教えてくれるんです? どうにも話が見えないんですが」
「それは、お聞きになればご理解頂けると思います。お二人にも関係のあることですから」
榊原大臣達しか知らない重要な機密事項が僕達に関係があると聞いて、二人して思わず顔を見合わせて眉をひそめてしまった。
「先日、東京拘置所の方で佐伽羅さんと面会したのはお二人とも記憶に新しいかと思います」
「まぁ、昨日のことですからね。いくら初対面でも顔ぐらいは覚えていますよ。それと、あの嫌な雰囲気も」
佐伽羅さんの深淵を覗くような真っ黒な瞳を思い出して僕は体が僅かに硬直するのを感じる。
「それが、どうしたって言うんです?」
「その佐伽羅さんですが……」
そこで早乙女さんが言い淀んだので、僕は直感的に嫌な予感がした。
「今日未明、東京拘置所の独居房で遺体となって発見されました」
「俺と伊瀬ならここにいますけど」
マノ君が早乙女さんから見えるところまで前へと出て行く。
その後を追うようにして僕も顔を見せる。
「良かったです。まだ、いらっしゃったんですね。入れ違いにならなくて安心しました」
僕達が今日はいつもよりも遅くまで作業をしていたことが偶然にも功を奏したみたいだ。
「どうしたんです? 何か急ぎの用でもありました?」
慌てたように六課にやって来て、険しい表情を見せていた早乙女さんの様子に違和感を感じたマノ君が訝しげる。
「用というわけではないのですが、一つご報告しておきたいことがございまして……」
早乙女さんはそこまで言い終えると僕達以外の皆の方をチラリと見る。
その視線に気付いた丈人先輩が何かを察したような顔をする。
「今日は時間も時間だからご飯に行くのはまた今度にしようか。それに皆、明日は学校でしょ? だから、できるだけ早く帰った方が良さそうだしね。そうと決まれば、おうちへ帰ろう!」
ご飯に行こうと誘ってきた張本人が急に帰ろうと言い始めたことに美結さん達女性陣が困惑している中、丈人先輩は半ば強引に背中を押すようにして帰らせようとする。
「ちょっと、待ってください。帰ることには賛成ですが、伊瀬君達が終わるまで待ってあげましょうよ。帰る方向は同じですから、一緒に帰った方が良くないですか?」
僕達を置いて先に帰ることには抵抗があったのか、市川さんが待ったをかけた。
「そうだよ、赤信号みんなで渡れば怖くないだよっ!」
この場面で使う言葉としては全く合ってはいないけど、那須先輩も市川さんの意見に賛同する。
「それはそうだけど、二人は早乙女さんと大切なお話があるみたいだからね。邪魔しちゃ悪いからさ。二人もそれでいいかな?」
同意はしつつも自分の主張は変えなかった丈人先輩が今度は僕達にお伺いを立てる。
「あ、はい。僕はそれで大丈夫です」
「気にしないで、さっさと帰ってください」
「おっけー、ありがとう。じゃあ、ごめんだけど俺達は先に帰っちゃうね」
僕達にこう言われては仕方ないので女性陣は丈人先輩に連れられるようにして帰って行った。
帰り際、「一緒に帰ってあげるって言ってんのに、あんな言い方しなくてもいいじゃない」と美結さんのマノ君へ対する愚痴が聞こえてきたけど、当の本人は聞こえていないのか知らんぷりだ。
いや、たぶんあれは聞こえない振りをしていたんだと思う。
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「申し訳ありません、無理を言ってしまって。これから六課の皆さんでお食事に行くところをお邪魔してしまったようですね」
丈人先輩達が帰ったのを確認してから早乙女さんが口を開いた。
「別に飯ぐらい行こうと思えばいつでもいけますから」
気にするなとマノ君はぶっきらぼうに答える。
「それで、俺と伊瀬だけに報告って何です? わざわざ人払いまでするってことは誰かに聞かれちゃ不味いことなんでしょ?」
「気付いてましたか」
「そりゃ、気付きますよ。あんだけあからさまに目配せしてたら。実際、丈人先輩達がそれに気づいて他の奴らを帰らせてくれたわけですし。丈人先輩以外はこういうの苦手なんで。まぁ、市川なら気付きそうではありますけど、直前に少し気が動転してましたから気付かなくても無理はないか」
いきなり帰ろうと丈人先輩が言った時は不思議に思ったが、あれは早乙女さんの意思を汲んでのものだったのか。
早乙女さんが目配せのようなことをしていたのには何となく気付けたけど、それが何を意味するのかまではわからなかった。
「とにかく、おかげで助かりました。マノさんのおっしゃる通り、今回の報告はお二人に内密にお伝えしたいものだったので」
どこか落ち着きのない様子の早乙女さんは誰かに盗み聞きされないように一段と声を潜めてから話を続ける。
「今朝、情報が来たばかりで対処など諸々の調整をしていたため、お二人にはご連絡が遅れてしまいました。これからお伝えする内容は大臣と私含めて、極僅かの人間しか知り得ません。お二人にもどうか情報の漏洩のないようにお願いいたします」
「それって、六課の人でも言ってはいけないってことですよね?」
他の皆に隠し事をするようで気が引けた僕はわかっていながらも聞いてしまった。
「心苦しいかもしれませんが、その通りです」
僕の気持ちを理解してか、そう言ってくれた早乙女さん。
「でも、そんな情報を何で俺達にだけは教えてくれるんです? どうにも話が見えないんですが」
「それは、お聞きになればご理解頂けると思います。お二人にも関係のあることですから」
榊原大臣達しか知らない重要な機密事項が僕達に関係があると聞いて、二人して思わず顔を見合わせて眉をひそめてしまった。
「先日、東京拘置所の方で佐伽羅さんと面会したのはお二人とも記憶に新しいかと思います」
「まぁ、昨日のことですからね。いくら初対面でも顔ぐらいは覚えていますよ。それと、あの嫌な雰囲気も」
佐伽羅さんの深淵を覗くような真っ黒な瞳を思い出して僕は体が僅かに硬直するのを感じる。
「それが、どうしたって言うんです?」
「その佐伽羅さんですが……」
そこで早乙女さんが言い淀んだので、僕は直感的に嫌な予感がした。
「今日未明、東京拘置所の独居房で遺体となって発見されました」
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