召喚されたら勇者よりもチートだったのだが

イサ

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五話

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 あれから2ヶ月近く経った。  異世界の言語と文字も少しだが覚えることが出来た。  魔法も簡単なのなら詠唱無しで出来るようになったし、魔力の操作も出来るようになった。  身体強化魔法も使えるようになったが、使うような事態にならないことを祈りたい。

 「勇者とその仲間たちよ。  そなたらが無事使命を果たせることを祈る。  では、行って参れ」

 王座に座っている偉そうなおじさんにそう言われて俺達は魔王討伐に向かった。




 城を出ると、周が振り返って申し訳なさそうな表情で。

 「ごめんね、みんな。  魔王の討伐に巻き込んじゃって」

 うんうん、その通りだ。

 「別に行くって言ったのは私たちなんだからいいじゃない」

 夏綺が周にそう反論した。

 「俺嫌だって言ったんだけどなぁ・・・」

 「廉も理沙も行くって言ったのにどうしてあんただけ行かないって言うのよ!」

 「俺、争いとかほんと無理だし」

 「嘘つき!  兵士の人とは楽しそうに訓練してたじゃない!」

 「えー?  別に訓練好きだからって殺し合いが好きとは限らなくね?」

 「嘘よ!  模擬戦の時、周を楽しそうにいじめてたじゃない!」

 「そんなことないぞ?  俺は周に情けを捨てさせるために心を鬼にしてわざといたぶってる振りをしたんだよ」

 「あれのどこが演技なのよ!」

 「あーあー、うるせぇなぁ。  なぁ周。  ちゃんと保護者の役目を果たせよ?」

 俺がそう言うと、周は苦笑した。

 「仲が良くていいんじゃないかな?  それと、僕は保護者じゃないよ?」

 「またまたー、嘘はいいぜ?  理沙も周が俺達の保護者っぽいのは本当だよな?」

 「えーっと、多分・・・」

 理沙は消え入りそうな声でそう言った。  理沙は、うん。  なんか小動物みたいで可愛いな。  でもこれ以上行くと可愛いの前にぶりっ子がついてしまいそうだ。

 「なぁ、やっぱり俺抜けていいか?  俺よりもこの世界の住人をパーティーに入れた方がいいと思うぞ?  ・・・・・・Sランクの冒険者は化け物で国王とタメ張れるっていうじゃねぇか。  向かってる途中で遭遇するかもしれねぇし、エルフや竜人、ドワーフなんかの勇者もいるって聞いたぜ?   そいつらと協力すればっていうか、協力するんだろ?  なら問題ないだろ」

 そう、この世界には化け物がわんさかいる。  Sランクに突入してるやつは化け物なんだそうだ。  それに加えて勇者がいるみたいだ。  なら問題ないだろう。  

 それに、足でまといになるかもしれない。  これから成長してやばくなるかもしれないし、覚醒なんかしちゃったりするかもしれない。  なんせここは異世界で、常識の通じる世界じゃないんだから。

 「うん、僕は大丈夫だから。  隼人は好きに生きたらいいと思う」

 「ちょっ、周!」

 「ほら、周もそう言ってんだからいいじゃねぇか」

 俺がそう言うと、夏綺は何故かこちらを睨みつけてきた。  そんなにずるいのだろうか?  そもそも俺は巻き込まれただけだと言うのに。

 「あんた、周がどういう気持ちで・・・」

 「夏綺!  僕は大丈夫だよ。  でも、そうだなぁ。  僕がピンチのときには助けてくれるよね?」

 周は殴りたくなるようなイケメンスマイルでそう聞いてきた。  

 まるで、俺がなんて答えるか分かってるような態度だ。    今日も本当に腹立たしいくらいに勇者をしているようだ。

 「さぁ?  未来のことなんて俺に分かるわけねぇだろ?  でもそうだなぁ。  気が向いたら助けてやらぁ。  ま、お前がピンチになることなんてないだろうがな。  なんたってお前は天才なのに加えて努力家でイケメンなんだから」

 「あははははっ、最後のは余計なんじゃない?」

 「あれ?  否定するのか?」

 「まぁ否定はしないよ」

 そう言って笑い合う。  お互い巻き込まれた者同士で気が合うんだろう。

 「それじゃ、また会おうぜ」

 俺はそう言って歩いていく。  そして、最後にイタズラでもしてやるかと思いつく。

 息を吸える文だけ吸う。  そして、

 「勇者様があそこにいるぞぉー!!」

 すると、道行く人たちは周を発見する。  周は豪華な鎧を着ていて、聖剣とその鞘を持っている。  だからすぐに分かるだろう。

 俺は周の周りに群がっていく人たちを見ながら笑みを浮かべた。



 周side


 隼人には色々と助けられた。  初めは召喚された時。  僕が召喚された後に見たのは血塗れになった隼人だった。  その直後、とんでもない圧力を感じた。  本能と言われるものだろう。  離れなければ死ぬ。

 それは正解だった。  地面にはヒビが入っていき、体からは力が抜けていった。  もし王国の人が動いてくれなければ死んでいたかもしれない。

 ただ、それ以上に衝撃だったのは、隼人の体だった。  血が溢れては戻っていき、また別のところから血が溢れる。  それのおかげで不可思議な事態の認識が出来た。  これは現実だ、と。

 その後に勇者として召喚されたことを説明された。  魔法があると言われても驚かなかった。  幸い、ラノベやゲームについてよく廉から聞かされていたため、話にはついていけなかったが理解はしている。  ただ、廉から聞いていたのと違うのは、勇者はチートではないということだ。

 勇者は他よりも優れていると言っていたが、そこまで優れているとは思えなかった。  魔法に耐性があるなんて言われても、隼人に魔法は効かないようだった。  身体能力が他よりも高いと言われても、隼人と同じくらいかその下ではないかと感じた。

 魔法の才能があると聞いても、比べる対象が隼人達しか居ないせいかそこまであるようには思えなかった。

 隼人の意見を聞く前はみんなと少しずつ強くなればいいと思っていた。  でも、それは間違いだ。  召喚されたのは僕で他のみんなは巻き込まれただけ。  もしみんなに戦う力がなく、僕がそれに合わせていたら、何も守れずに負けるだけだ。  僕はみんなよりも強くならなければいけない。

 でも、どれくらいの早さで強くなればいいのかも分からなかった。  だけど、隼人はすぐに成長していた。  そのおかげで隼人よりも早く強くなろうという目標に出来た。

 僕よりも天才でチーターなくせに、僕にはチーターだとか天才だとか言う隼人はずるいと思う。  でも、だからこそ頼りになるし、安心できる。  初めは怖かったけど、隼人のおかげでそこまで怖くは無くなった。  認識の違いも教えてくれた。  感謝してもしきれない。  ただ、あまりからかったり、メイドさんの前でナンパするのだけはどうかと思う。

 「よかったの?  隼人がいれば魔王も楽勝だって言ってたのに」

 夏綺が僕にそう聞いてきた。

 「うん、本来なら僕一人でやることだからね。  それに・・・」

 「それに?」

 「隼人がいると勇者の威厳も役割も取られちゃいそうだからね」

 僕はそう言って笑った。

 きっと、次会ったときにはまた驚かせてくれるんだろう。  女性関係では驚きたくないけどなぁ。

 そんなことを思っていると、隼人の声が聞こえた。  どうしたのだろうと思っていると、人がどんどんやって来て僕達を取り囲んでいた。

 どうやら最後にやってくれたようだ。  いつか絶対にお返ししてやろう!  僕は胸にそう誓った。
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