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8話
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「いらっしゃ...。」
武器屋の扉を開けるとそんな声が聞こえてきた。
その言葉を言った相手は俺の顔を見ると睨みつけてきた。
「ドワーフのおじさん呼んでくれるかな?」
俺がそう言うと青年はあからさまに嫌そうな顔をしながら呼びに行った。
そんな様子を見てアイラが俺の肩を叩いた。
「この武器屋よく使うんだけどこんな態度取られたことないよ。 それにあからさまに嫌そうにしてたし、本当に何をしたの?」
まあ、気になるのは当たり前の事だろう。
嫉妬しているんだろう、そんな言葉では片付けられないほどに青年は俺に敵意剥き出しだった。
これは、もう言っちゃっていいだろうか?
いや、いいだろう。
客に向かってここまで酷い対応をしてきたんだ。
青年のためにも黙っていようかと思っていたが、俺にはそんな事を気にする必要はないだろう。
「あの人フランに告白したんだよ。 で、その直後にフランとキスしているのを見られてね。 きっとそれでだと思うよ?」
「それはさすがに可哀想よ。 この店よく使うのよね。 これからどう接すればいいのかわからないわね」
確かに気まづいだろう。
俺もそんな事になったら気まづい。
まあ、そうならないように祈っていることしか出来ないけど。
そう思っていると、ドワーフのおじさんが来た。
顔は自信満々な表情だ。
どうやら上手くいったらしい。
「おお、やっと来たか。 中々の出来だ。 早速だが、こっちに来てくれ」
おじさんはそう言って俺を呼んだ。
どうやら早く試してほしいらしい。
俺はおじさんについて行った。
「どうだ? 中々カッコイイだろ? かなり苦労したんだ。 早く振ってみて欲しい所だが、ここではそれを触れないだろうから、外に行くぞ。 早く魔法袋に入れてくれ。 持ってるって言ってただろ? さあ行くぞ、都市の外だ」
そこに置いてあったのはかなり大きい剣と少し大きめの剣2本だった。
それを見た俺達は驚いた。
2振りの剣だけなら問題は無かった。
だが、最後の剣が問題だった。
それは、もはや人間の使うような剣には見えなかった。
長さは3メートル後半ぐらいまであり、とても丈夫そうで普通の人間なら持ち上げる事も出来そうには無かった。
俺はその剣を見てワクワクした。
そして、3本ともアイテムボックスに入れると、店の外に出ようと思って外に向かおうとすると、フラン以外のみんなが俺を見て固まっているのに気づいた。
何か失敗しただろうか、と思っていると、無詠唱でアイテムボックスを使ってしまったことに気づいた。
「ね...ねえ、今どうやったの?」
そうか、しまった。
普通の人は無詠唱で魔法は使えない。
どうしようかと考えていると、別にバレてもそんなに問題ない事に気づいた。
「ああ、僕は少し特殊でね。 魔法が無詠唱で使えるんだ。 まあ、珍しいけど、いないわけじゃないでしょ?」
「い、いや、魔王や勇者の人達以外に使える人がいるなんて初めて知った」
「それはただ見つけれていないだけだよ。 バレたら研究者達に捕まるかもしれないでしょ?」
「ああ、そうゆうことね。 でも、羨ましいな。 そんなことできるならとっても有利じゃない。 さらにそんな剣も作ってもらって、戦争に参加でもするの?」
「いや、今はするつもりもないけど...そういえば、勇者っているのかな?」
「えぇ、いるって聞いてるよ。 神聖ファウル帝国に召喚されて、今は戦争の前に訓練をしているって聞いたけど」
「そう...なんだ。 勇者って何人いるか分かる?」
俺がそう聞くと、アイラは顎に手を当てて悩んだ。
「確か...6人って聞いたけど...一人は巻き込まれただけって聞いたよ」
「巻き込まれた...ね。 少し興味があるな」
異世界に召喚されてそれが巻き込まれただけだったか...その人仲が悪ければ立場はかなり悪いだろうな。
魔法も教えてもらえるか分からない。
それに、いきなり戦争に入れられるか冒険者をするかそれぐらいしかできることはないんじゃないか。
でも、仲が良ければ人質になるかもな。
勇者達が魔王に勝てばただの危険分子だ。
でも、人質がいれば言うことを聞かせられるだろう。
少し、様子を見に行ってみるのも良いかもしれない。
それにしても、フランは喋らない。
ただ、じっと話を聞いているだけだ。
二人っきりになるとたくさん話すんだが、人がいると中々話に入ってこない。
他人には興味が無いみたいだ。
「おい、話が終わったならそろそろ行かねえか?」
ドワーフのおじさんは見兼ねたのかそう言った。
「分かったよ。 ごめんね待たせてしまって。 じゃあ、行こうか」
俺達はそれから迷宮都市の外へ向かった。
外に着くと、剣を取り出した。
まずは2本の剣だ。
俺はそれを両方の手にそれぞれ持った。
重さはまだ軽いくらいだ。
これ以上重くしろうとすると、それ相応にでかくなる。
すると、それを2本振ることが困難になるためだ。
そこで疑問に思う人もいるだろう。
どうして2本なの?...と。
それはなんとなくその方がカッコイイと思ったからだ。
それに、俺は手を使わなくても魔法が使える。
それに、盾を持つ必要もそんなにないし、俺の場合はただ攻撃するだけだ。
チートにも程があるだろう。
もしもゲームならクソゲー認定されるのは間違いない。
だけど、それが現実で起こってしまった。
これ程までに心強いものはないだろう。
なのに、滅ぼす滅ぼす言ってなかなか行動を起こさない。
本当に俺は何がしたいのか分からない。
でも、言い訳はある。
冷静になって考えると、そこまでやる必要は無いのだ。
俺にも大事な物が出来た。
だから、少し怖いのだ。
そのため、俺にはデメリットが多い。
ならば、滅ぼすという方針を変えて気に入らない奴を殺すという方針で行こうと思う。
そう、考えるのは後回しにする方が楽だ。
勇者が出張ってきたら嫌だし。
物語にはたまに謎の人物が現れるときがある。
最後まで正体が分からず、何が目的なのか分からない強そうなやつが。
でも、そいつは最後まで出てこないだとか、実は弱いとかそんなのが多い。
俺は勇者にとってそんな感じのやつになるのだろうか? それとも裏ボスみたいなものだろうか? 物語なら勇者が主人公だとしても、俺をボスとして認識してもらわないようにしよう。
もしそんなことになったら、俺が勇者にとどめを刺すときに覚醒とかなんとかして封印されるかもしれないのだ。
いきなりの覚醒ほど怖いものはない。
だから謎の人物で頑張ろう。
あったら逃げる、またはサクッと倒す。
いい戦いになる前に倒す。
ただ思う。
これほどまでに自分は小心者だったのか...と。
前までなら普通に行動出来た。
なのにこれほどまでに失うことを考えると小心者になるのか...と。
でも、逆にそう思えるのも嬉しく感じてしまう。
今まで人を何とも思えなかったのに、1人だけだが、また大切に思える人が出来た。
話していると、心が温まるような気持ちになる。
色褪せていた世界が良く見えるようになった。
でも、人に対しての認識が変わった訳では無い。
きっと、今突然アイラを殺してもきっと何とも思わないだろう。
前まであったアルサース王国の恨みも今ではない...とまでは行かないが、すぐに滅ぼそうと思うほど怒っている訳でもない。
もしかしたら、フランの寿命は長いかもしれない。
いや、それどころか無いかもしれない。
なら、不死とは確定していないが、こんな体にしてくれて少し感謝している。
ただ、少し問題もある。
俺は魔物や人を殺したときに何かこみ上げてくるものがあった。
悪い気持ちではない。
それどころか、とても気分が良くなった。
そう、気分が良くなったのだ。
またしたいと思えるほどに...。
今、俺の心では矛盾が生じている。
殺したいのに殺さない。
殺していいのに何故かそこで踏みとどまる。
怖いのだろうか? でも、だろとしたら何にだろうか? 勇者に怖がっているのだろうか? それとも...。
なんとなく分かってしまった。
フランに嫌われるのも怖いのだ。
でも、フランならそれでも嫌いにはならないだろう。
でも、怖い。
やはり俺は小心者だ。
ならば、後でフランと相談しよう。
俺はそこで考えるのをやめて試し斬りをした。
「ルーアン、あなた実は騎士団とか名のある人なの?」
「いや、そんなことはなくもない、かな?」
「ええっと、ひょっとしてなんだけど、あなたがいなくなって今頃大騒ぎ...なんてことにはなってないよね?」
「うーん、なってるんじゃないかな? 今頃国王辺りは焦ってるんじゃないかな?」
俺がそう言うと、アイラは顔を真っ青にして狼狽え出した。
「えぇ!? ねえ、それってバレたりしないよね? 私共犯にならないよね?」
「ならないと思うよ? そもそもバレても国王はなんにも言えないと思うし。 安心してくれていいよ」
俺がそう言っても、アイラは信じられないようでまだ焦っている。
焦っても意味ないように思えるのになぁ。
「まあ、なんにも起こらないと思うから気にしなくていいよ。 あとは、ドワーフのおじさん!」
「おう、どうした?」
「この剣ありがとう。 お金はどうしたらいいのかな?」
「そうだな...一旦戻ってから貰おうか」
「わかった。 もうこの際面倒だし、魔法使っちゃうね。 ...と、その前に、神聖ファウル帝国ってどっちの方角にあるのかな?」
俺がそう聞くと、ドワーフのおじさんは少し首を傾げて悩んだ。
「神聖ファウル帝国は魔族の大陸の近くだな。 そして方角は、北東だったはずだから、確かあっちの方角だったはずだ。 念の為、他の人にも聞いてくれ」
「ありがとう。それじゃ、転移するね」
俺はそう言って店に転移した。
それからお金を支払い、アイラ達とお別れした。
それからフランと手を繋ぎながら歩いて焼き鳥屋まで向かうことにした。
なんだかんだであれから一度も行っていないため、お別れの挨拶と最後にもう一度焼き鳥?を味わおうと思ったからだ。
だが、最後の最後で問題事が起こってしまった。
「おい、小僧! お前だろう! ここ最近殺人を起こしているのは!」
この間、冒険者ギルドの2階から降りてきた人物がそう怒鳴った。
どうやら、俺とフランがやったのはバレているみたいだ。
だが、それも仕方ないだろう。
初めは夜にやっている最中に突然やって来た。
その際、ちょっと来いとのことで、フランがキレて殺してしまったのだ。
そのあと、兵の人は俺達に高圧的に話しかけてきた。
それが気にくわないのかフランが皆殺しにした。
俺も跡を付けられているのは分かっていたため、チャチャッとやっつけたりしていた。
ときには、真夜中に殺しに来たりしてその全員を殺した。
そのため、もう指名手配になってるかもしれない。
兵の人は俺らを捕まえるどころか殺すことも出来ないためか、最近は訪ねてくることがなかった。
だが、今頃俺とフランの周りには結構な数の人が集まっている。
どうやらここで俺らを仕留めるつもりみたいだ。
「やれやれ、なんの事か分からないですよ」
フランは嫌そうな顔で兵などを見ている。
「ねえ、兵を皆殺しにすればいいんじゃないかしら?」
「ふん、そんな事しても追っ手が来るぞ? お前達はもう指名手配されている。 懸賞金目当ての奴らに毎日襲われるぞ?」
「俺たちに気づくのは少数の人だけだろう」
「ふん、お前は情報網を舐めている。 ギルドでもSランクの依頼になっているし、近くの国なら既に特徴も把握しているだろう。 捕まらなくても、そのうち全ての国に情報が行き渡っていることだろう。 だから逃げても無駄だぞ?」
はぁ、全く迷惑なことをしてくれる。
まあ、普通に分かりきっていたことだ。
でも、ここまで早いとは思わなかった。
せめてこの町内だけだと思っていたのに...。
まあ、悲しんでも仕方ない。
起こるべくして起こった事だ。
フランを見て俺に突っかかってきたり、俺の悪口を言っていたりしたのだ。
それをフランが見逃すはずなく、みんなやってしまったのだ。
だから、仕方がないだろう。
まあ、殺られる心配はないから我慢するよりもマシだろう。
もうこれから我慢しなくても一々呼び出されなくて済むのだ。
そう考えると、気分も楽になるというものだ。
「やれやれ、突っかかってきたゴミと殺しに来た兵しか殺してないじゃないですか」
「お前は...お前は人の命をなんだと思って嫌がる!」
人の命をなんだと思っている...か。
俺はどう思っているんだろう? 日本にいた頃は道具にしか見えなかった。
それは今も変わっていない。
価値なんてあるように見えないし、俺を幸福にする玩具も同然だった。
ならば、俺にとって、人とは...。
「俺にとって人は玩具でしかない。 それに俺とはフランが殺したところで別の人間ならいくらでもいる。 それに、お前達は蟻一匹一匹の命を大切に思うことがあるか?」
俺は不敵に笑ってそう言った。
蟻と人の命を同じだと言うのは間違いであり、正解でもあると思う。
俺は命には質があると思う。
歴史に出てくる人物、果たして同じ価値の命なのだろうか...と。
俺ははっきり言える。
命の価値はそれぞれ違う...と。
だから、悩んでもいないやつにただ正義面して欲しくないのだ。
まるで、昔の自分を見ているようで、気分が悪くなる。
人によって考え方も感じ方も違う。
それは、人によって価値観が違うのもあるだろう。
だが、この世界では強い者が意見を通せる。
権力が強ければ民に考えを押し付けられる。
勇者のように力が強ければ同じことが出来るだろつ。
だが、勝てなければ意味が無い。
王は民の上に立つから偉い。
勇者は強いから偉い。
だが、もし、二つとも強くなければ?
誰が弱い国の王を信じる? 誰が弱い勇者を信じる?
今も同じだろう。
そこの偉いおじさんも俺を殺せなければ意味が無い。
おじさんの言っていることは正しいのだろうが、この先俺を殺せなければただ無駄に命を減らしただけだ。
俺は勇者であり、強さがある。
だから意見を押し通せる。
俺を止められるなら止めて見せればいい。
きっとそうすれば意見を押し通せるだろう。
この世は分からないことだらけだ。
俺には何も分からない。
きっと、答えなんてないからなんだろう。
俺はその考えに自嘲的な笑いを漏らしながら相手の方へ歩いていった。
武器屋の扉を開けるとそんな声が聞こえてきた。
その言葉を言った相手は俺の顔を見ると睨みつけてきた。
「ドワーフのおじさん呼んでくれるかな?」
俺がそう言うと青年はあからさまに嫌そうな顔をしながら呼びに行った。
そんな様子を見てアイラが俺の肩を叩いた。
「この武器屋よく使うんだけどこんな態度取られたことないよ。 それにあからさまに嫌そうにしてたし、本当に何をしたの?」
まあ、気になるのは当たり前の事だろう。
嫉妬しているんだろう、そんな言葉では片付けられないほどに青年は俺に敵意剥き出しだった。
これは、もう言っちゃっていいだろうか?
いや、いいだろう。
客に向かってここまで酷い対応をしてきたんだ。
青年のためにも黙っていようかと思っていたが、俺にはそんな事を気にする必要はないだろう。
「あの人フランに告白したんだよ。 で、その直後にフランとキスしているのを見られてね。 きっとそれでだと思うよ?」
「それはさすがに可哀想よ。 この店よく使うのよね。 これからどう接すればいいのかわからないわね」
確かに気まづいだろう。
俺もそんな事になったら気まづい。
まあ、そうならないように祈っていることしか出来ないけど。
そう思っていると、ドワーフのおじさんが来た。
顔は自信満々な表情だ。
どうやら上手くいったらしい。
「おお、やっと来たか。 中々の出来だ。 早速だが、こっちに来てくれ」
おじさんはそう言って俺を呼んだ。
どうやら早く試してほしいらしい。
俺はおじさんについて行った。
「どうだ? 中々カッコイイだろ? かなり苦労したんだ。 早く振ってみて欲しい所だが、ここではそれを触れないだろうから、外に行くぞ。 早く魔法袋に入れてくれ。 持ってるって言ってただろ? さあ行くぞ、都市の外だ」
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それを見た俺達は驚いた。
2振りの剣だけなら問題は無かった。
だが、最後の剣が問題だった。
それは、もはや人間の使うような剣には見えなかった。
長さは3メートル後半ぐらいまであり、とても丈夫そうで普通の人間なら持ち上げる事も出来そうには無かった。
俺はその剣を見てワクワクした。
そして、3本ともアイテムボックスに入れると、店の外に出ようと思って外に向かおうとすると、フラン以外のみんなが俺を見て固まっているのに気づいた。
何か失敗しただろうか、と思っていると、無詠唱でアイテムボックスを使ってしまったことに気づいた。
「ね...ねえ、今どうやったの?」
そうか、しまった。
普通の人は無詠唱で魔法は使えない。
どうしようかと考えていると、別にバレてもそんなに問題ない事に気づいた。
「ああ、僕は少し特殊でね。 魔法が無詠唱で使えるんだ。 まあ、珍しいけど、いないわけじゃないでしょ?」
「い、いや、魔王や勇者の人達以外に使える人がいるなんて初めて知った」
「それはただ見つけれていないだけだよ。 バレたら研究者達に捕まるかもしれないでしょ?」
「ああ、そうゆうことね。 でも、羨ましいな。 そんなことできるならとっても有利じゃない。 さらにそんな剣も作ってもらって、戦争に参加でもするの?」
「いや、今はするつもりもないけど...そういえば、勇者っているのかな?」
「えぇ、いるって聞いてるよ。 神聖ファウル帝国に召喚されて、今は戦争の前に訓練をしているって聞いたけど」
「そう...なんだ。 勇者って何人いるか分かる?」
俺がそう聞くと、アイラは顎に手を当てて悩んだ。
「確か...6人って聞いたけど...一人は巻き込まれただけって聞いたよ」
「巻き込まれた...ね。 少し興味があるな」
異世界に召喚されてそれが巻き込まれただけだったか...その人仲が悪ければ立場はかなり悪いだろうな。
魔法も教えてもらえるか分からない。
それに、いきなり戦争に入れられるか冒険者をするかそれぐらいしかできることはないんじゃないか。
でも、仲が良ければ人質になるかもな。
勇者達が魔王に勝てばただの危険分子だ。
でも、人質がいれば言うことを聞かせられるだろう。
少し、様子を見に行ってみるのも良いかもしれない。
それにしても、フランは喋らない。
ただ、じっと話を聞いているだけだ。
二人っきりになるとたくさん話すんだが、人がいると中々話に入ってこない。
他人には興味が無いみたいだ。
「おい、話が終わったならそろそろ行かねえか?」
ドワーフのおじさんは見兼ねたのかそう言った。
「分かったよ。 ごめんね待たせてしまって。 じゃあ、行こうか」
俺達はそれから迷宮都市の外へ向かった。
外に着くと、剣を取り出した。
まずは2本の剣だ。
俺はそれを両方の手にそれぞれ持った。
重さはまだ軽いくらいだ。
これ以上重くしろうとすると、それ相応にでかくなる。
すると、それを2本振ることが困難になるためだ。
そこで疑問に思う人もいるだろう。
どうして2本なの?...と。
それはなんとなくその方がカッコイイと思ったからだ。
それに、俺は手を使わなくても魔法が使える。
それに、盾を持つ必要もそんなにないし、俺の場合はただ攻撃するだけだ。
チートにも程があるだろう。
もしもゲームならクソゲー認定されるのは間違いない。
だけど、それが現実で起こってしまった。
これ程までに心強いものはないだろう。
なのに、滅ぼす滅ぼす言ってなかなか行動を起こさない。
本当に俺は何がしたいのか分からない。
でも、言い訳はある。
冷静になって考えると、そこまでやる必要は無いのだ。
俺にも大事な物が出来た。
だから、少し怖いのだ。
そのため、俺にはデメリットが多い。
ならば、滅ぼすという方針を変えて気に入らない奴を殺すという方針で行こうと思う。
そう、考えるのは後回しにする方が楽だ。
勇者が出張ってきたら嫌だし。
物語にはたまに謎の人物が現れるときがある。
最後まで正体が分からず、何が目的なのか分からない強そうなやつが。
でも、そいつは最後まで出てこないだとか、実は弱いとかそんなのが多い。
俺は勇者にとってそんな感じのやつになるのだろうか? それとも裏ボスみたいなものだろうか? 物語なら勇者が主人公だとしても、俺をボスとして認識してもらわないようにしよう。
もしそんなことになったら、俺が勇者にとどめを刺すときに覚醒とかなんとかして封印されるかもしれないのだ。
いきなりの覚醒ほど怖いものはない。
だから謎の人物で頑張ろう。
あったら逃げる、またはサクッと倒す。
いい戦いになる前に倒す。
ただ思う。
これほどまでに自分は小心者だったのか...と。
前までなら普通に行動出来た。
なのにこれほどまでに失うことを考えると小心者になるのか...と。
でも、逆にそう思えるのも嬉しく感じてしまう。
今まで人を何とも思えなかったのに、1人だけだが、また大切に思える人が出来た。
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きっと、今突然アイラを殺してもきっと何とも思わないだろう。
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いや、それどころか無いかもしれない。
なら、不死とは確定していないが、こんな体にしてくれて少し感謝している。
ただ、少し問題もある。
俺は魔物や人を殺したときに何かこみ上げてくるものがあった。
悪い気持ちではない。
それどころか、とても気分が良くなった。
そう、気分が良くなったのだ。
またしたいと思えるほどに...。
今、俺の心では矛盾が生じている。
殺したいのに殺さない。
殺していいのに何故かそこで踏みとどまる。
怖いのだろうか? でも、だろとしたら何にだろうか? 勇者に怖がっているのだろうか? それとも...。
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でも、フランならそれでも嫌いにはならないだろう。
でも、怖い。
やはり俺は小心者だ。
ならば、後でフランと相談しよう。
俺はそこで考えるのをやめて試し斬りをした。
「ルーアン、あなた実は騎士団とか名のある人なの?」
「いや、そんなことはなくもない、かな?」
「ええっと、ひょっとしてなんだけど、あなたがいなくなって今頃大騒ぎ...なんてことにはなってないよね?」
「うーん、なってるんじゃないかな? 今頃国王辺りは焦ってるんじゃないかな?」
俺がそう言うと、アイラは顔を真っ青にして狼狽え出した。
「えぇ!? ねえ、それってバレたりしないよね? 私共犯にならないよね?」
「ならないと思うよ? そもそもバレても国王はなんにも言えないと思うし。 安心してくれていいよ」
俺がそう言っても、アイラは信じられないようでまだ焦っている。
焦っても意味ないように思えるのになぁ。
「まあ、なんにも起こらないと思うから気にしなくていいよ。 あとは、ドワーフのおじさん!」
「おう、どうした?」
「この剣ありがとう。 お金はどうしたらいいのかな?」
「そうだな...一旦戻ってから貰おうか」
「わかった。 もうこの際面倒だし、魔法使っちゃうね。 ...と、その前に、神聖ファウル帝国ってどっちの方角にあるのかな?」
俺がそう聞くと、ドワーフのおじさんは少し首を傾げて悩んだ。
「神聖ファウル帝国は魔族の大陸の近くだな。 そして方角は、北東だったはずだから、確かあっちの方角だったはずだ。 念の為、他の人にも聞いてくれ」
「ありがとう。それじゃ、転移するね」
俺はそう言って店に転移した。
それからお金を支払い、アイラ達とお別れした。
それからフランと手を繋ぎながら歩いて焼き鳥屋まで向かうことにした。
なんだかんだであれから一度も行っていないため、お別れの挨拶と最後にもう一度焼き鳥?を味わおうと思ったからだ。
だが、最後の最後で問題事が起こってしまった。
「おい、小僧! お前だろう! ここ最近殺人を起こしているのは!」
この間、冒険者ギルドの2階から降りてきた人物がそう怒鳴った。
どうやら、俺とフランがやったのはバレているみたいだ。
だが、それも仕方ないだろう。
初めは夜にやっている最中に突然やって来た。
その際、ちょっと来いとのことで、フランがキレて殺してしまったのだ。
そのあと、兵の人は俺達に高圧的に話しかけてきた。
それが気にくわないのかフランが皆殺しにした。
俺も跡を付けられているのは分かっていたため、チャチャッとやっつけたりしていた。
ときには、真夜中に殺しに来たりしてその全員を殺した。
そのため、もう指名手配になってるかもしれない。
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だが、今頃俺とフランの周りには結構な数の人が集まっている。
どうやらここで俺らを仕留めるつもりみたいだ。
「やれやれ、なんの事か分からないですよ」
フランは嫌そうな顔で兵などを見ている。
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「ふん、そんな事しても追っ手が来るぞ? お前達はもう指名手配されている。 懸賞金目当ての奴らに毎日襲われるぞ?」
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はぁ、全く迷惑なことをしてくれる。
まあ、普通に分かりきっていたことだ。
でも、ここまで早いとは思わなかった。
せめてこの町内だけだと思っていたのに...。
まあ、悲しんでも仕方ない。
起こるべくして起こった事だ。
フランを見て俺に突っかかってきたり、俺の悪口を言っていたりしたのだ。
それをフランが見逃すはずなく、みんなやってしまったのだ。
だから、仕方がないだろう。
まあ、殺られる心配はないから我慢するよりもマシだろう。
もうこれから我慢しなくても一々呼び出されなくて済むのだ。
そう考えると、気分も楽になるというものだ。
「やれやれ、突っかかってきたゴミと殺しに来た兵しか殺してないじゃないですか」
「お前は...お前は人の命をなんだと思って嫌がる!」
人の命をなんだと思っている...か。
俺はどう思っているんだろう? 日本にいた頃は道具にしか見えなかった。
それは今も変わっていない。
価値なんてあるように見えないし、俺を幸福にする玩具も同然だった。
ならば、俺にとって、人とは...。
「俺にとって人は玩具でしかない。 それに俺とはフランが殺したところで別の人間ならいくらでもいる。 それに、お前達は蟻一匹一匹の命を大切に思うことがあるか?」
俺は不敵に笑ってそう言った。
蟻と人の命を同じだと言うのは間違いであり、正解でもあると思う。
俺は命には質があると思う。
歴史に出てくる人物、果たして同じ価値の命なのだろうか...と。
俺ははっきり言える。
命の価値はそれぞれ違う...と。
だから、悩んでもいないやつにただ正義面して欲しくないのだ。
まるで、昔の自分を見ているようで、気分が悪くなる。
人によって考え方も感じ方も違う。
それは、人によって価値観が違うのもあるだろう。
だが、この世界では強い者が意見を通せる。
権力が強ければ民に考えを押し付けられる。
勇者のように力が強ければ同じことが出来るだろつ。
だが、勝てなければ意味が無い。
王は民の上に立つから偉い。
勇者は強いから偉い。
だが、もし、二つとも強くなければ?
誰が弱い国の王を信じる? 誰が弱い勇者を信じる?
今も同じだろう。
そこの偉いおじさんも俺を殺せなければ意味が無い。
おじさんの言っていることは正しいのだろうが、この先俺を殺せなければただ無駄に命を減らしただけだ。
俺は勇者であり、強さがある。
だから意見を押し通せる。
俺を止められるなら止めて見せればいい。
きっとそうすれば意見を押し通せるだろう。
この世は分からないことだらけだ。
俺には何も分からない。
きっと、答えなんてないからなんだろう。
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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