召喚勇者は破滅を願う

イサ

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9話

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「さあ、お前らの正義を僕に見せてみろ!」

 俺は笑いながらそう言った。
 俺を見たフラン以外の全員は驚きと困惑の混じった顔で俺を見た。
 それから兵や冒険者らしき人達は俺に向かってまず魔法を放ってきた。
 俺はフランを抱き寄せた。
 それから、自分から約1メートルくらい離れた場所から相手の方へ約2メートルくらいの範囲で円状に重量をかける魔法をかなり魔力をかけて放った。
 すると、相手が放った魔法は俺の魔法の範囲に入ると全て地面にめり込んだ。
  地面もかなり深いクレーターが出来ていて、くり抜かれたように綺麗な形をしていた。
 俺は相手の攻撃が止むと、フランを抱き寄せたまま転移してクレーターの外側に来た。
 それから敵に向かって歩き出した。
 敵はそれを好機とみたのか魔法を放ってきたが、それを転移で相手の真後ろに現れて回避した。
 アイテムボックスからドワーフのおじさんに作ってもらったデカい剣を取り出すと、身体強化を使って地面と水平に横に振り払った。
 すると、10人くらいの上半身と下半身がわかれて血を吹き出しながら倒れた。
 俺はすぐにまた転移を行い、相手の多い場所に転移するとまた同じことをした。
 それを何回か繰り返すと、初めに怒っていたおじさん以外は地の海に沈んだ。
 途中から相手は逃げ出していたが、一人残らず攻撃していた者は切って殺した。
 フランはそんな俺の様子を見てうっとりした表情をしていて少し惚けてしまいそうになったが耐えて相手を倒した。

「ねえ、おじさんの所為でみんなが死んじゃったよ」

 俺はおじさんに近づいて行くと話しかけた。
 おじさんは俺のその言葉を聞くと、惚けていた表情から一変して怒りに顔を染めて震えだした。

「何が俺の所為だ!  お前がみんなを殺したんだろうが!  お前さえいなければ...お前さえいなければこんなことにはならなかった!!」

 俺は冷めた目でそれ見た。
 確かにそうだろう。
 普通の人間がこんなに強いはずがない。
 おじさんの行動は間違いではなかった。
 だが、それはおじさんの視点から見た場合だけだ。
 他の人ならこう言うだろう。
 ーーあいつは本当に愚かな行動をした。
 と。
 自分にとっての正解と他人の正解は違う。
 だから、負けた方が不正解なのだ。

「そうかもしれないね。  でも、理不尽な事なんて生きている内に何度もあったでしょ?  些細なことでも理不尽だと感じたことは.........今回はそれが大きくなっただけなんだよ。  君は本当に運が悪かった。  ただそれだけだよ。  そして、君はみんなを理不尽な事に巻き込んで殺したんだ。  これから自殺するも良し、悔いて生きていくも良し。  好きな方を選んでいいよ。  そして、それが君の成長に繋がる事を僕は祈っているよ」

 人は成長する生き物だ。
 だから、きっと人は良くなれる。
 そう昔の自分が言った事がある。
 でも、世の中悪い方に傾くことの方が多い。
 今回のこれもそうだろう。
 この人は生きてもきっと復讐か割り切るかそれとも自殺か、きっとそれくらいしかないだろう。
 こんな風にわかっていく度に昔はよく悲しんだものだ。
 でも、今は悲しむこともなく、懐かしんで自分の過去の考えを自嘲することくらいしかおきない。
 でも、思う。
 世の中は良い人だけでは回らない。
 欲があり、愚かな誤ちがあるから人は上手く成り立っていると思う。
 だから、俺はそれを思い知る度にそんな世界を壊したく思う。

 俺は、戦闘後に感じた高揚と気分の良さを感じつつもそんなことを考えていた。
 この気分の良さを快楽とは気付かずに...。

 俺は迷宮都市の外へ転移した。


「フラン、それじゃあ神聖ファウル帝国に行こうか。
どうやって行く?」

「歩きで行ってみるのもいいんじゃないかしら?」

「それも良いかもね。  飽きたらやめれば良いしね。  それで、その前になんだけど...」

 俺はそう言ってフランを見つめた。
 戦闘と血で少し昂っているのだ。
 フランはそんな俺を見ると、頬を染めてからにやりと笑った。
 それからどちらかともなく唇を合わせた。
 だが、ここが外だと気づくと、少し迷ってから魔法で壁を作り、ベッドを出してから再開した。
 外にはかなり音が響いていただろうが、誰も様子を見に来る人は居なかった。

 それから、ファウル帝国へ向けて歩くのを再開した。
 かなり遅めだが、お互い疲れる事もあまり無いため、自然を楽しんだりしながら向かった。


 その道中、人の悲鳴と金属の打ち合う音が聞こえてきた。
 少し早めに歩いていくと、馬車の横で杖を持った女性と剣や槍で戦っている人達がいた。
  短剣で戦っている人は女性で中々素早く、防具は革で出来ていそうな感じだ。
 剣で戦っている男性も身体強化魔法を使っているのか、かなり早く、剣の腕も中々のものだ。
 あとは槍ともう一人剣で戦っている男性と女性がいるが、こっちもかなりのものだ。
 相手の山賊らしき人は結構な数がいたが、後ろから奇襲をしてもすぐに対処されて殲滅されるのも時間の内だろう。
 俺はそう思いながら戦っている様子を見ていると、剣を振っている女性が少し気になった。
 気になった場所というのは、その女性の胸部であり、かなり揺れていたのだ。
 胸元は少し空いていて、動きやすいようにか少し短めのスカートだった。
 あと少しで見えるかという所で見えず、と思ったら少し見えたり、胸部は揺れていたりで眺めていると、フランの目が鋭くなっていて、俺を睨んでいることに気づいた。
 これは、かなり不味い気がする。
 と、俺が焦ったときにはもう遅く、腕はかなり強めに握られていた。
 この体になってから痛覚は無いため、痛みは分からないが、この体をもってしても軽く握りつぶされている。
 これはフランの握力と怒りが凄いことを表しており、手が痛いと錯覚してしまうほどだ。
 そして、何が言いたいかと言うと、かなりまずいだろう。
 痛みがないのに何をそんなに怖がる?と思うかもしれないが、みんなもこんな経験はしたことがあるはずだ。
 例えば、小学生のときに宿題を忘れてしまったときだ。
 痛くはない。
 だが、何が怖いかと言うと、先生の怒りだ。
 あれが怖いのだ。
 それで、何が言いたいかと言うと、フランがとてつもなく怖く感じると言うことだけだ。
 ここは言い訳をするしかないだろう。

「ね、ねえ、フラン。  仕方がないと思うんだよ」

 俺がそう言うと、フランはさらに目を釣り上げた。

「いったい何が仕方ないのかしら?」

 やべえぇぇぇ!!!
 声が、声がもう怒ってますと強調してきてるよ!
 それに、言い訳絶対間違えた!
 そうだ!  まだ今ならきっと許してくれる。
 素直に謝ろう。
 なんだかんだでフランはあまい。
 耳元で抱きしめながら言うと、なんだかんだで許してくれる。
 だが、そう思って行動しようとすると、さらにフランの目が釣り上げった事に気づいた。
 もう、ダメだろう。
 もう、どうすればいいか分からない。

「ご、ごめんフラン。  確かにあの女性をじっと見ていた。  もうフラン以外にはそんね目を向けないから」

「ねぇ、あの女性のどこをじっと見ていたのかしら?」

「え、えぇっと、胸...てす」

「あら?  それだけかしら?」

「うっ、実はお尻の方も見ていました」

「貴方は私では満足出来ていないのかしら?」

「いや!  そんなことは無い!」

「そう...ならなんであの雌豚を見て興奮していたのかしら?」

「え?  それは...男ならこの反応は当たり前なんだよ...」

「そう...なら大変だけど、貴方の目に入る前にこの世の全ての女性を殺さないといけないかしら?」

「そ、それだけはやめてくれ!  男性だけしか居ない世界なんてただの地獄じゃないか!」

 俺がそう絶叫すると、フランは俺を睨みつけた。

「あら?  別に私がいるし良いじゃない...どうして女性が必要なの?」

「それは...世の中ホモだらけになるのが嫌なだけだ。  信じてくれるかわからないけど、俺はフラン以外の女性を好きになることはない。  だから、心配なんてしなくても...」

「だから、私は貴方が他の誰かに目移りしているのが許せないの!!  その目を私以外に向けないで...お願いよ...貴方が私以外の女性ともしも逢引しようものならどうしていいか分からなくなるわ」

「フラン...。」

「だから、貴方は私以外の女性にそんな目を向けないで...不安になるの」

 フランは俺の肩に顔を当てながらそう言った。

「俺も...俺もフランが俺以外の誰かとしていると考えたら辛いよ。  その相手を殺しても気が済まない。 でも、もしもそれがフランの幸せなら俺はそれでもいい。  俺は独占したのと同時にフランの幸せも願っているし、信じている。  フランは俺の事が信じられないかい?」

 俺がフランにそう言うと、フランは肩から顔を離してから少し笑った。

「そんな言い方ずるいじゃない...私も貴方を信じているし、貴方が幸せならそれでもいいわ。  でも、そのもしもが怖いの...。  だから、貴方は私を不安にさせないで。   誘惑されても耐えて。  もしもまた鼻の下を伸ばそうものなら貴方を誘惑した相手を殺すわ。  でも、大丈夫よね?  私は貴方がそんな事をしないと信じているもの...。  ね?」

 俺は頬を引き攣らせながら笑った。

「も、もちろん!  そんな事にはならないさ。  俺もフランを信じているよ」

 俺がそう言うと、フランはニッコリと笑った。
 その笑顔に見蕩れていると、フランは不意打ち気味にキスをした。
 初めは少し動揺したが、すぐに立ち直るとすぐにこっちからも情熱的なキスをした。

「あ、あのう~」

 誰かが話しかけてきた。
 俺は離れようとするがフランが話してくれそうにない。
 フランの口から聞こえる吐息が妙に艶めかしい。
 チュッチュッなんて音も凄く鳴っている。
 横目に話しかけてきた女性を見ると顔が真っ赤だ。
 フランにやめようと思って背中を少し叩いてみても、やめるどころか激しくなった。
 叩いてから激しくなるまでの一瞬フランの目は話しかけてきた女性の方を向いた気がする。
 話しかけてきたのはさっき俺が見てた人だ。
 
「あのお!」

 女性がそう叫ぶとフランは唇を話してから女性の方を向いた。

「何かしら?」

「え、そ...そのこっちから見えててですね」

「それがどうかしたのかしら?」

「そ、その、もう少し遠くでやっほうがいいんではないかと思って...それに私達が戦っているのは見てましたよね?」

 女性はそう言って目を鋭くして俺を見た。
 どうやら胸などを見ていたのはバレていたらしい。
 フランはそんな女性の言葉に不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「あら?  それがどうかしたのかしら?  何か問題でもある?」

 フランがそう言うと、女性はしどろもどろになった。

「ふ、普通人前ではそんなことしませんよ!」

「あら?  あなただってその胸で私の旦那を誘惑してたじゃない。  一体それで何人の誘惑してきたのから?  う...巨乳さん?」

「あのう!  今関係ありませんよね!?  それに、誘惑なんてしてません!  私はこれでも処女です!」

 フランは女性のそんな言葉を聞くと驚きに満ちた表情で相手を見た。

「嘘...でしょ...。  なんであなたみたいなチョロそうな人がまだ処女なのかしら?」

「ちょっと待ってください!  なんで私は初対面の人に貶されているんですか!!  私だってあなたみたいに夫婦になりたいですよ!  でも、でも...男性と来たら、告白のときとか胸ばっかり見ているんですよ!?  そんなの嫌に決まってるじゃないですか!」

「そんなのあなたに胸以外に取り柄が無いからでしょう?  現実をしっかり見ることをオススメするわ」

「見てますよ!  それを言ったらあなただって...旦那さん私の胸とかお尻見てましたよ。  私が誘惑したらすぐに私に鞍替えするんじゃないですか?」

 フランは女性のそんな言葉を聞くと想像してしまったのか俺の方をかなり鋭く睨みつけている。
 なぜここで俺も巻き込まれてしまったんだろう。
 今日の運は悪いみたいだ。
 やはり、この世に理不尽は存在するんだろう。
 それも、とっても身近に...。

「フラン、俺が鞍替えするように見えるのか?  それだったら心外だよ。」

 俺はそう言ってフランを抱きしめて顔を耳元に近づけた。
 これを何度も繰り返していると、俺がなんだか悪いことをしているようで、後ろめたさがあるから。

「俺がフランを本気で愛しているのは分かっているだろう?  それに、さっきも話した通り、もう他の女性に誘惑されたりしないって言ったじゃないか。  だから、相手の挑発に乗らないでくれ」

 そう、挑発に乗ってしまうと、俺か女性の命が危ないのだ。
 俺は大丈夫でも、喧嘩してそのまま死にましたなんて精神的に悪い。

「わかってるわよ...。  でも、これは分かっていても抑えられないの。  ごめんなさいね」

「別に構わないよ。  これから少しずつ慣れて行けばいいから...。  だけど、フランは怒っているよりも笑顔の方が良い。  フランを見ていると僕は満たされた気分になるんだ」

 俺がそう言うと、フランは潤んだ瞳で俺を見つめた。
 今のキザなセリフを吐く度に俺の羞恥心は凄いことになるが、それを理性で耐える。
 これをすれば大抵フランはどうにかなる。
 これは必要な事なんだ。
 だから遊びまくってるとかプレイボーイとか言われたくはない。
 俺とフランはキスをしようと顔を近づけていった。

「ごほん!」

 そんな声も無視してフランは近づけてくる。

「待ってください!  私もいるんです!  気まづいじゃないですか!  いきなり喧嘩やめないでください!  それに、今の言葉...その人絶対たくさんの女性と遊びまくってますよ!」

 フランはその言葉を聞くと、キスをやめた。
 それから相手を睨みつけた。

「そんなのわかってるわよ。  私もそこまでチョロくはないわ。  いえ、チョロいのは認めるけどこの人は私の事を本気で愛してるし、今までの遊びとは違うのよ」

「やっぱり遊んでいたんじゃないですか!  それならあなたも遊びかもしれないのにどうして夫婦になんてなっちゃったんですか!」

「そんなの決まってるじゃない!  私が愛しているからよ!  私だって過去の女の事には腸が煮えくり返っているの!  勝手な事を言わないでくれるかしら?」

 なんかフランが相手を殺しそうなんだが...それにしてもそこまで怒っていたのか。
 なんか遊び歩いているなんて言っているが、俺は一回しか遊んではいない。
 たまに友達付き合いでナンパをしたことはあるが、あれは一回だけだし、やってはいない。
 この事はフランにはバレていないはず...だ。
 少し自身が無くなってきた。
 この話はさっさと終わった方が良いだろう。

「俺はフランの事を本気で愛しているし、これから他の女性と関係を持つつもりはない。  だから、これ以上勝手な事は言わないでくれないかな?」

 俺がそう言うと、相手は顔を青くした。

「す、すいません。  勝手な事を言い過ぎました。」

「いえいえ、あなたみたいな美人は良くナンパされたりするんでしょう?  ならば、仕方ないですよ。  それに、あなたの言葉は間違っていませんから、相手にその考えを押し付けなければなんにも問題はありませんよ」

 俺は笑顔を作ってそう言った。
 すると、相手は頬を赤くさせてもじもじとした。
 その様子に、フランはかなり不機嫌そうな感じで俺の腕をつねった。

「そ、そうですか...。  あ、あの私これから護衛の依頼で神聖ファウル帝国の王都に向かうんですよ。  もし、行き先が道中ならご一緒しませんか?」

 女性は恥ずかしそうにそう言った。
 俺はフランの方を見ないようにしながら考えた。
 別に急いでいる訳でもない。
 なら、それくらい一緒に行ってもいいかもしれない。

「それならお願いしても良いですか?」

 俺がそう言うと、女性は満面の笑みで頷いた。
 俺はその笑顔に一瞬見蕩れそうになったが、フランがかなり怖い顔でこっちを見ているため、我慢した。
 
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