5 / 8
彼氏彼女のはじまりは。
しおりを挟む鮮やかな極彩色が脳裡を染め上げていく。一瞬でモノクロの世界からカラフルな世界へ高速移動したような感覚。それは仁嗣の絵を見た奈桐が、最初に抱いた感想だ。
無心になって眺めた。それ以外考えられなくなった。どこまでも続く原色の回廊を、奈桐は空想の中で歩く。ちいさな足で歩く。
母親に付き合わされてやってきたアトリエの展示会。自分で作品を買えるほどお金を持っているわけでもないし、母親の趣味と自分の趣味が合っているとも思えない。だけど。
……この絵、欲しい。
そう思った。だから。
「この絵が、どうかした?」
背後で声をかけられたとき、素直に応えられたんだろう。奈桐は振り向いて、頷いた。
「すきです」
まるで告白をするかのように、一気に口にした。だから、返されるとは思ってもいなかった。
そんな奈桐を見て、仁嗣も応える。自分自身の描いた作品に対する自信を、確かめるように。
「俺も」
顔をあげる。眼鏡をかけた、細面の男の人が立っている。奈桐の驚いた顔を見て、仁嗣は呟く。
「すきだ」
* * *
個展で知り合った奈桐に名刺を渡し、また会いたいと告げたのは仁嗣の方だった。
身長が低いことをコンプレックスにしていた奈桐はどうして自分に会いたいなんて言ったんだと不思議そうにしていたが、自分が描く作品のなかの少女ーーアリスが目の前に現れたからだよと応えたら更に宇宙人を見るような顔をされてしまった。
それでも奈桐は仁嗣の絵が気に入ったから、いつか自分が彼方の絵のモデルになるねと笑ってくれた。
そのときは夏で、奈桐は素足にサンダルを履いていた。平べったいビーチサンダルをペタペタ音立てて、爽やかに笑う彼女に、仁嗣はいつしか夢中になっていた。
「そのちいさな足に踏まれたい」
「指の爪にペデュキアを塗りたい」
「なんて可愛い足なんだ」
奈桐と一緒にいる時間が増えるにつれて、彼女の前で足について語ることも多くなった。相変わらず宇宙人を見るような瞳で軽くあしらわれてしまうが、それでも彼女は笑って傍にいてくれる。
自分たちの関係が恋人同士と呼べるのかは微妙なところだったが、彼女がいると仁嗣は自分の作品世界に没頭できるし、奈桐も仁嗣が絵を描く姿がすきだと改めて告白してきたから、そのまま男女のお付き合いがはじまった。
とはいえ十五歳の女子中学生ともうすぐ二十歳になる大学生男子という組み合わせは兄妹のように見られることが多いし、路上でイチャイチャなどしたら通報されかねない。処女膜処女膜騒ぐ奈桐には悪いが仁嗣はまだ犯罪者になりたくないのだ。足には猛烈にふれたいが。
そんなこんなで結局、手を繋いだり隠れたところで唇にふれるだけのキスをしたり、という健全なお付き合いに落ち着いており、仁嗣はそれなりに満足していたのである。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる