極上御曹司は仮面の怪盗令嬢の素顔を暴きたい

ささゆき細雪

文字の大きさ
18 / 21
chapter,4

04. 嫉妬と呼ぶには稚い

しおりを挟む



『わたし、剣人さんと婚約してたの』

 更紗のヒトコトに、九条は凍りつく。ここにきて更紗は貞操を守ろうとしているのか? 目の前が真っ暗になる九条に、更紗がぶんぶんと首を振る。

「でも、ちゃんとした話じゃない……から。森鍵創業者だった大伯父さまが勝手に言ってただけ……あっ」
「森鍵剣人には抱かれてないんだよな」
「……剣人さんは、お兄ちゃんみたいなひと、だから」

 九条の表情が変わったことに気づいたのか、更紗が怯えた顔をして反論する。お兄ちゃんみたいなひと、という言葉の奥に憧れのような、恋慕のような響きが感じられたのはなぜだろう。ベッドのうえで自分が不利な状態でいるにもかかわらず、彼女は剣人について弁明する。

「彼は、自分の父でもある現社長、森鍵新蔵のやり方に口を出して海外に飛ばされた……わたしのせい、で」
「更紗のせい?」
「……”連城鉱石”のなかの七つの”虹”、そのうちのひとつをダメにしてしまったの」

 どうやら更紗は剣人に負い目があるらしい。だから自分が九条に愛されることを素直に受け入れられずにいるのだろう。たしかに建前として”取引”と言ってしまった自分にも非があるだろうが……途方に暮れている更紗を前に、九条も乾いた笑みを零す。

「そのはなしは、あとでゆっくり聞く」
「ほんとう?」
「ああ。たとえ更紗が森鍵剣人のために俺を利用しようと演技しているのだとしても……ここで行為をやめるわけにはいかないだろ」
「ひ……あ」

 九条がベルトを外し、ズボンとトランクスを脱いで彼女の蜜口へ分身の尖端をくっつける。脈うつ赤黒い彼の剛直を前に言葉を噤む更紗に、九条は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「君に婚約者がいたのは過去のことだ。俺が君のはじめての男になる……いいね」


   * * *


 初めては痛いものだと思っていた更紗を裏切るように、九条は彼女を優しく抱いた。それこそ壊れ物である繊細な美術品を取り扱うかのように。
 両手を動かせないのがもどかしいほど、彼に前戯を施され、蜜口を耕され、愛液で濡れそぼったなかへゆっくりと挿入された。破瓜の痛みを快楽で散らされ、はじめのうちはもどかしさを感じるほどにゆっくり腰を振られ、更紗の気持ちいい場所を探られ、容易く見つけられ、締めつけてしまうほどに貪られ、そこから先は何度も、何度も絶頂に導かれた。
 剣人のことを口にしても彼は怒らなかった。嫉妬されて、もっと滅茶苦茶に抱かれても仕方ないと思っていたのに。
 初めてひとつに繋がった悦楽は、更紗の身体を作り変えていくようだった。何も考えられない。ただただ心地よい気怠い感覚に更紗は溺れていく。

「更紗。君のなかは狭くてあたたかいな。これから俺の形を覚えてもらおう」
「君が乱れる姿を見ると、大切に抱きたいと思うのに、苛めたくなってしまう」
「今だけだなんて嘘だ。どうすれば君を俺だけのものにできる?」

 九条の熱楔に貫かれながら、愛の言葉にも似た甘い囁きをシャワーのように浴びて、更紗は何度も絶頂する。九条に抱き上げられ、繋がった状態で乳首を舐めしゃぶられた姿を窓に映され、なんてはしたないのだろうと思いながらも、気持ちよさに敗北してしまう。
 夜のホテルのスイートルームで身体を貪られ、ゴミ箱の使用済みコンドームがふたつみっつと増えているのを見届けた後、更紗はいつしか気を失っていた。

「ごめ、さい……さん」

 誰に対する謝罪なのかもわからないまま、更紗は九条の腕のなかですぅ、と寝息を立てている……。


   * * *


「――やりすぎた」

 腕のなかで意識を飛ばしてしまった更紗を見て、九条は表情を曇らせる。彼女が欲しいと思ったのは事実だ。だが、こんな風に取引を装って一方的に奪ったのは自分の美学から外れているような気がしてならない。ふだんの彼なら女性を惚れさせて、心から求めてもらうよう仕向けることなど容易かった。けれど目の前の無垢でありながら妖艶な彼女は九条の演技に引っ掛からなかった。自分ばかりが強く意識しているみたいで胸が苦しくなる。

「……ん」
「更紗?」
「あ。黎、さん……」
「身体は大丈夫?」
「まだ……眠い」

 一瞬だけ瞳をひらき、九条を狼狽させた更紗は満足そうに眠りの世界へ戻っていく。思いがけず愛らしい彼女の寝顔を前に、九条の落ち着いていた情欲がふたたび疼き出す。すでに更紗の手首への拘束は解いているのにもかかわらず、だ。
 慌ててすうすうと寝息を立てる彼女をベッドに横たえ、上掛けをかけた九条はふう、とため息をこぼす。

「無防備すぎだろ……俺にすべてを委ねていないくせに」

 だが――たとえ森鍵剣人の婚約者であろうが、奪うのみ。それが九条の結論だった。いまはまだ完全に更紗の正体を暴けずにいても、いつか身体だけでなく心も手に入れてしまいたい。
 光の部分だけでなく彼女が抱えているであろう闇の部分もすべて。

「更紗……君の名前も”金魚”の品種なんだな」

 怪盗キャリコと対峙したあの夜に感じた渇望と同じものを更紗は持っていた。気高く美しい光。それでいて、ふれたら壊れてしまいそうな脆い一面に九条は強く惹かれた。更紗は九条の苦悩など気づいていないだろう。欲しいと思えばなんでも手に入れることが叶う九条が、初めて心の底から彼女のすべてを奪いたいと希ってしまったことに。

「森鍵剣人か……いったいどんな男なんだか」

 更紗の心に棲む唯一の異性は自分だけで充分だ。
 九条は稚い嫉妬心を隠して、深く眠る更紗の額にそうっと口づけを贈るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて  

設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。 ◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。   ご了承ください。 斉藤准一 税理士事務所勤務35才 斎藤紀子    娘 7才  毒妻:  斉藤淳子  専業主婦   33才 金遣いが荒い 高橋砂央里  会社員    27才    山本隆行  オートバックス社員 25才    西野秀行   薬剤師   22才  岡田とま子  主婦    54才   深田睦子  見合い相手  22才 ――――――――――――――――――――――― ❧イラストはAI生成画像自作 2025.3.3 再☑済み😇

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。 「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」 「でも……」 「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」 「はい?」 「とりあえず一年契約でどう?」 穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。 ☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました

あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。 それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。 動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。 失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。 「君、採用」 え、なんで!? そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。 気づけば私は、推しの秘書に。 時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。 正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...