身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,4

02. 死に戻り王子の告白《1》

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 シュールトがいなくなった部屋で、ヒセラはリシャルトに抱き締められた状態で話を聞いていた。
 ホーグによって転移させられたいまの場所は、ハーヴィックと花鳥公国の国境沿いに位置している辺境の宿場町、ブレーケレにある旅籠の一室だという。ホーグが偽名を使って滞在していたらしく、旅籠の主人も金払いの良い隣国の魔法使いだと思いながら長期間部屋を貸し出していたそうだ。
 彼は王国騎士団団長のシュールトを支える魔法使いとして城下町にある借家から勤務していることになっていたが、花鳥側で動くときはこちらを拠点としていたのだろう。ブレーケレは王城魔術師を輩出しているマヒ・デ・ブレーケレ一族が治めている領地でもあるため、異国から出稼ぎに来ている魔法使いに対して寛容である。辺境に位置しながらも魔物の被害が少ないため、隣国と緊張状態にあるとはいえ比較的治安は悪くない。ハーヴィックの偵察にも適していたと思われる。ホーグが聖女をこの場に連れ込むことまで考えていたかは今となってはわからないが。

「俺たちにこの場所を暴かれたことで、彼がここに戻って来ることはないだろう。だが、ジゼを狙っている彼のことだ、花鳥で体勢を整えた後に別の方法でまたハーヴィックに入り込もうとするはずだ」
「……はい」

 聖女ジゼルフィアに執着しているホーグがこのまま引き下がるとはヒセラも思っていない。ただ、なぜ彼がジゼルフィアを執拗に求めるのかは結局わからないままだ。
 リシャルトは言葉数の少ない彼女を心配そうに見つめ、ぽつりとこぼす。

「――ホーグ・イセニアを罠にはめるためシュールトに薬を盛らせたのは俺だ。すまない」
「リシャールさま?」
「刻印を解かれたところで助けに入れるよう動いたつもりだったが……いやな思いをさせたな」

 つまり、ヒセラがシュールトを訪ねたら媚薬入りの菓子を渡すようリシャルト自ら指揮していたということか。場合によってはヒセラとシュールトが関係を持っても構わないと……?
 いや、それはないだろうとヒセラはぶんと首を振る。だってシュールトはホーグにヒセラの刻印を解かせても、自らが寝取るようなそぶりはてんで見せなかった。それに、ハーヴィックの王国騎士団を任された男がそう簡単に聖女に手を出すことは倫理上許されないだろう。あくまでホーグに彼女を渡したのは敵国の狗となって動く彼の目的を図るためだったのだ。

「いえ。あたしこそ深く考えずに口にしてしまったので……毒耐性は“魔女の森”でつけていたので問題ないだろうと」
「いまも魔法で媚薬の効果を遅らせている。効果が切れそうになったら教えてくれ」

 ぎゅっと抱き締められている状態なので媚薬の効果が遅れていると言われたところですでに身体は火照っている。が、リシャルトの話を途中で終わらせたくないヒセラはまだ我慢できると頷き、彼に質問する。

「時間を遅らせる魔法……これも霊獣リクノロスのちからでしょうか」
「そうだな。ハーヴィックの王家が持つ加護のちからは妖精王によって与えられた“風”と“光”が有名だが、王位継承権を持つものだけに分裂した霊獣による“時”と“闇”という強大な加護が追加されるんだ」
「“時”と“闇”?」
「“時”の精霊ミヒャエルから聞いてないか? 国王となる者は“光”の部分だけでなく“闇”も統べる必要があるって。それだから“魔女の森”の精霊たちから嫌われてるんだろうな」
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