51 / 123
chapter,4
02. 死に戻り王子の告白《1》
しおりを挟むシュールトがいなくなった部屋で、ヒセラはリシャルトに抱き締められた状態で話を聞いていた。
ホーグによって転移させられたいまの場所は、ハーヴィックと花鳥公国の国境沿いに位置している辺境の宿場町、ブレーケレにある旅籠の一室だという。ホーグが偽名を使って滞在していたらしく、旅籠の主人も金払いの良い隣国の魔法使いだと思いながら長期間部屋を貸し出していたそうだ。
彼は王国騎士団団長のシュールトを支える魔法使いとして城下町にある借家から勤務していることになっていたが、花鳥側で動くときはこちらを拠点としていたのだろう。ブレーケレは王城魔術師を輩出しているマヒ・デ・ブレーケレ一族が治めている領地でもあるため、異国から出稼ぎに来ている魔法使いに対して寛容である。辺境に位置しながらも魔物の被害が少ないため、隣国と緊張状態にあるとはいえ比較的治安は悪くない。ハーヴィックの偵察にも適していたと思われる。ホーグが聖女をこの場に連れ込むことまで考えていたかは今となってはわからないが。
「俺たちにこの場所を暴かれたことで、彼がここに戻って来ることはないだろう。だが、ジゼを狙っている彼のことだ、花鳥で体勢を整えた後に別の方法でまたハーヴィックに入り込もうとするはずだ」
「……はい」
聖女ジゼルフィアに執着しているホーグがこのまま引き下がるとはヒセラも思っていない。ただ、なぜ彼がジゼルフィアを執拗に求めるのかは結局わからないままだ。
リシャルトは言葉数の少ない彼女を心配そうに見つめ、ぽつりとこぼす。
「――ホーグ・イセニアを罠にはめるためシュールトに薬を盛らせたのは俺だ。すまない」
「リシャールさま?」
「刻印を解かれたところで助けに入れるよう動いたつもりだったが……いやな思いをさせたな」
つまり、ヒセラがシュールトを訪ねたら媚薬入りの菓子を渡すようリシャルト自ら指揮していたということか。場合によってはヒセラとシュールトが関係を持っても構わないと……?
いや、それはないだろうとヒセラはぶんと首を振る。だってシュールトはホーグにヒセラの刻印を解かせても、自らが寝取るようなそぶりはてんで見せなかった。それに、ハーヴィックの王国騎士団を任された男がそう簡単に聖女に手を出すことは倫理上許されないだろう。あくまでホーグに彼女を渡したのは敵国の狗となって動く彼の目的を図るためだったのだ。
「いえ。あたしこそ深く考えずに口にしてしまったので……毒耐性は“魔女の森”でつけていたので問題ないだろうと」
「いまも魔法で媚薬の効果を遅らせている。効果が切れそうになったら教えてくれ」
ぎゅっと抱き締められている状態なので媚薬の効果が遅れていると言われたところですでに身体は火照っている。が、リシャルトの話を途中で終わらせたくないヒセラはまだ我慢できると頷き、彼に質問する。
「時間を遅らせる魔法……これも霊獣リクノロスのちからでしょうか」
「そうだな。ハーヴィックの王家が持つ加護のちからは妖精王によって与えられた“風”と“光”が有名だが、王位継承権を持つものだけに分裂した霊獣による“時”と“闇”という強大な加護が追加されるんだ」
「“時”と“闇”?」
「“時”の精霊ミヒャエルから聞いてないか? 国王となる者は“光”の部分だけでなく“闇”も統べる必要があるって。それだから“魔女の森”の精霊たちから嫌われてるんだろうな」
0
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる