【R18】ふたりしずか another

ささゆき細雪

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肆 その四

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「……こうなることくらいわかってたのに」

 まんまと策に引っかかるなんて、と禅は毒づく。
 観光気分で都落ちしていた女どもとは血煙とともに散り散りになってしまった。
 静も禅も義経の背中を追いかけていたからどうにかはぐれることはなかったが、それ以外の人間はほとんど姿が見えなくなっている。

 義経は軽々と要撃をかわしていたが、疲弊の色は隠せない。
 彼に従っていた兵たちも日を追うごとに数を減らしている。
 どうにか大物の浦まで辿りついたものの、すでに近江や信濃から源氏が義経を追って都を発っていることを考えると今すぐ船に乗らねば逃げ切れない。

 折しも、天気は、雨。
 悪天候であっても、出航を延ばすことはできない。
 義経は当然のように西へ向けて船をだしたが、暴風により半数の船は沈没し、西へ向かうどころではなくなってしまう。

「平家の怨霊にでも祟られたんじゃない?」

 禅の冗談にも、義経は渋い顔。
 当然だろうと静は目の前の惨状を見つめる。
 いま、義経がいる小船の上には十人もいない。
 沈没した船以外の船も、自然の脅威によって方々へ散らされてしまった。
 行家や他の郎党、女どもが無事なのかも定かではない。

「これじゃ、兄者を討つどころじゃないよな」

 せっついていた行家がいなくなってしまったことで義経は自分が何をすればいいのかわからなくなってしまい、途方に暮れたように呟く。

 静は黙って夫の言葉に耳を傾ける。
 以前から義経は血を分けた兄を討つことに疑問を持っていたはずだ。
 それなのにいろいろなものに流され利用され、ここまで堕落ちてしまった。
 頼朝が警戒したであろう戦の天才の姿をいまの彼に見出すことは難しい。

 ――これではまるで、迷子になった子どもだ。

 船上で、義経は意を決したように口を開く。

「これ以上、俺に従う必要は、ないぞ?」



 主従関係は離散した。
 けれど行くあてのない静は義経についていくことしかできない。
 そして義経も静と禅を手放す気はないとあらためて口にする。

「俺ってどうしょうもない男だろ」

 それでも義経に従うと船を降りてからもついてきた郎党たちがいる。
 彼らは口々に義経はどうしょうもない男ではないと賛美する。

「……いまさら、どうしょうもないって自覚してもねぇ?」

 禅などは苦笑している。秀足も困ったように義経を見つめている。

「あれ? 三郎は?」

 堀川夜襲の際に知り合った秀足と気があったのか、義経の一の郎党である三郎は都落ち後、常に秀足を気遣っていた。さっきまで船に乗っていたが……
 怪訝そうに静が義経の顔をうかがうと、彼は淋しそうな微笑を伴って応える。

「あいつなら、俺を見限ったよ」
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