【R18】ふたりしずか another

ささゆき細雪

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 しゃらん、しゃららんと場違いな音色を響かせる錫杖を握りしめ、静は義経の背中だけを追いかける。ただひたすらに、ひたすらに。
 雪深い山奥を忍びながら北上するのは苦難の連続だ。ひもじい思いもした、凍傷で手足がボロボロにもなった、それでも北を目指したのは。

「ホタルが、教えてくれた」

 秀足。人見知りをする彼女が、静のために義経を導いてくれたのか。彼女が喋れたことも、蝦夷から売られてきたことも、静は知らなかった。知らなくても良かった。
 空気のように静の傍にいたはずなのに、いつの間にか消えてしまった秀足。それはまるで、初夏の夜に一瞬だけ煌く蛍のよう。

「みんな、いなくなってしまう」

 禅も秀足も、静には何も言わずに去ってしまった。義経にだけ伝えるのは、ずるい。

「そうだな」

 義経についていた郎党も、彼が禅や秀足の護衛を頼んだことで、いなくなってしまった。
 いま、静の傍にいるのは、夫の義経だけだ。

「わたし、義経さまがいなくなったらきっと」

 少年山伏の恰好をした静が、泣き笑いのような表情で、義経に必死でついてくる。
 義経は立ち止まって、静が追いついてくるのを、微笑を浮かべながら待つ。

「きっと?」

 この先にあるのが何か、義経も静もわからない。頼朝の追っ手がいつ場所を探り当てるかもわからない。今はただ、北へ向けてふたりで逃げることしか考えたくない。けれど。
 静は義経を振った禅のことを想う。彼女が愛していながら愛されていた義経の傍を離れることを選んだ理由に、自分のことは関係するのだろう、自惚れるなと怒られそうだけど。
 きっと禅は笑いながら許してくれるだろう。そしてどこかでまた、美しい舞を披露する。彼女が全身全霊で愛した義経のことを題材にして。

「生きていけない」

 静が追いつくのを待たずに足を動かしだす義経の背に、呼びかける。
 そのまま、かじかんだ手で、静は抱きつく。

「……なこと言う」

 義経は愛妻の手を退けることなく、ぽそりと呟く。

「なあに?」

 聞こえない、と静が催促すると、義経は身体を向き直し、耳元で囁く。

「あいつと同じこと、言うんだな」

 驚いた顔の静に、義経はそっと、冷たい唇を重ねる。
 道程は険しく遠い。
 それでも静は、彼と一緒にいることを選ぶ。隣に彼がいなくても愛する彼を想って生きていけると宣言した禅にはなれないけれど。
 静は当然、と笑いながら彼の長くて甘い口づけを受け入れる。

「だってわたしも彼女も、同じ名前だもの」

 ふたりのシズカが愛するのは、義経だけ。
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