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畢 その一
しおりを挟む鶴ヶ岡八幡宮で舞を終えた禅は、懐かしい顔を見て、顔を綻ばせる。
京都にいた頃、同じ名前の少女に侍女として仕えていた間者、浅葱だ。
「久しぶり、相変わらず陰気な顔してるのね」
禅は着替えもせず、ゆらゆら裳裾を揺らしながら信じられないと表情をかたくした少女を見つめる。
「……なぜ、かのような舞を」
陰気と言われたことを無視して、浅葱は禅を見つめる。
敵地で咎人を恋う歌を神前で堂々と披露するなど、命知らずだ。
「あたしが舞いたかったからよ?」
くすくす笑いながら、禅は膨らみが目立つ下腹部を優しく撫でる。
義経の子がいるのだと暗に示している。
「死んでもかまわないと」
「そう見えるなら、そうかもしれないわね」
ちっとも応えになっていないと浅葱は嘆息する。
禅は浅葱を気にすることなく鎌倉の青い空を見上げ、過ぎ去りし日々を反芻する。
――義経が静とふたり、姿を消して半年。
いまも頼朝は義経を探している。
義経に助言した秀足は伊勢三郎とともに鎌倉で頼朝に殺された。
秀足の正体を頼朝はあっさり見破り、浅葱はそれを知り地団太を踏んだという。
目の前の彼女は認めたがらないだろうが禅はそう解釈している。
ふたりは最後まで義経の行先を告げず、潔く死を選んだ。
義経と静を信じて。
ひとりで生きていけると宣言して吉野山から出て行った禅は、匿ってもらった寺院で妊娠していることが判明したことで僧たちに無理するなと義経があとからつけた護衛たちとともにこともあろうか鎌倉に送られてしまった。まさかこのような形で自分が鎌倉に入るとは思っていなかった禅は、鎌倉の覇者である頼朝を前にしても無感動だった。憎しみとか怒りとか抱くかと思ったのに……
「おっさんは、あなたを義経の傍に置いたことを後悔してるみたいよ? 静」
たしかに頼朝は、おっさんだった。
それしか感想が浮かばなかった禅だ。
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