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セノオカズオミ
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「諫早、カズオミって誰のこと?」
「セノウカズオミ」
諫早はあたしが持ち出した指輪を見て、断言する。
「なんで知ってるの?」
不審そうなあたしに、彼はにっこり微笑んで応答する。
「なんなら電話する?」
彼の携帯のアドレス帳には『瀬尾数臣』という名前がしっかり記されている。
あたしは無意識に番号を回す。
プルルルルル……プッ。
「はい? どうした、小松」
「あの……瀬尾さんですか?」
なぜか動悸が激しくなる。緊張しているのだ。
「はい、瀬尾ですけど……貴女は?」
ここで、息を吸い込む。
吐き出す。
「……首堂です」
彼の反応はアッサリしたものだった。
「あ、芹夏ちゃん」
「知ってるんですか?」
思わず気抜けする。横で諫早がクスクス笑っている。
「そりゃあ。茉莉花のことなら何でも」
一体、瀬尾数臣とは何者なのだろう?
翌日、二人で会うことを約束し、電話を切る。
諫早は「ね、言ったとおりでしょ」と言いたそうな顔をしている。
「……そういえば、明日、彼女の誕生日だ」
もうすぐ夏休みが終わってしまう。
彼女の死が遠いものにならないうちにあたしは真実を知らなくてはならない。
夕方になっても、陽はまだ沈まない。
「ちょうどいいんじゃない?」
諫早があたしの肩を抱く。
窓の外から見えはじめる小さな朧月。
「何に?」
「姉離れするのに」
「……そうかもね」
顔を見合わせて、あたしは苦笑する。
彼は優しく唇を合わせて、抱き寄せる。
深い眠りに就く前に。
柔らかい感触が、あたしを現実に留まらせてくれる……
* * *
「全然似てないね」
瀬尾数臣は、あたしの第一印象をキッパリ言う。
「でも、血は繋がってるつもりです」
「……つもりねぇ」
何がおかしかったのだろうか?彼は最初にクククと笑ってしばらくしてからプププと口にしていたカプチーノを吹き出した。
なんだ、この男は?
横でおとなしくしている諫早はニタニタしながらあたしと彼を見比べている。
「紹介するよ、俺の彼女、首堂芹夏」
「ボクにとっては茉莉花の妹、って身の上の方が興味深いな」
「でも、諫早とはかれこれ四年ほどお付き合いというものをしてるんだよ」
さりげなく反発するが、瀬尾数臣は遮るように自己紹介を始める。
「瀬尾数臣、大学二年生……一浪したから歳は小松と同じさ」
「あたしにとっては茉莉花の恋人、って身の上の方が興味深いんですけどぉ」
今度は諫早がカフェ-モカを喉に詰まらせる。どうやら瀬尾数臣は諫早の小学校時代の悪友らしい。
「……初耳なんですけど」
「まさかセリカの口からセノウの名が飛び出すとは夢にも思わなかったからね」
「ボクもまさか小松が茉莉花の妹と付き合ってたなんて夢にも思わなかったよ」
あたしはロイヤルミルクティーを啜りながら、二人のやり取りを聞く。
「お前中学私立だったから、それっきりだったしな。こないだの同窓会ぶりだ」
「こんなことになるとはな……」
「俺だってこんなことになるとは思ってなかったよ。番号やりとりしてて助かったよ」
「にしてもお前ってロリコンだったんだな」
瀬尾数臣のいやらしい視線があたしに絡みつく。
「失礼な。ほんの四つの歳の差だ」
諫早はフォローをせずに歳の差を強調している。
「随分前に茉莉花から芹夏ちゃんのことを聞いたよ。会ってみたいとは思ったけど、茉莉花が嫌がってたからね」
「そりゃあ嫌がるでしょう。姉の男を奪おうとした妹なんだから」
「おいおいおい」
二人の男、一斉に呆れる。
「結局、実践出来ずに彼女が死んじゃったけど」
あたしのこの一言で、二人の男、安心したようだ。
「でも、茉莉花だって男共有しようとか企みを持ちかけてましたよ」
瀬尾数臣は既に諦めている表情だ。
「彼女は確かにそういう人間だった」
「彼女と付き合いだしたのはいつからなんですか?」
瀬尾数臣は躊躇いもせず、率直に応えた。
「彼女が自殺する三ヶ月前」
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