12 / 17
ぜんぶ彼女の所為
しおりを挟む* * *
諫早と茉莉花が中学校時代の同級生という話は聞いたが、瀬尾数臣と茉莉花が隣同士の高校に通っていたと知って驚く。
彼女の通っていた女子校にあたしは行ったことがない。毎日電車で一時間かけて通ってたのを思い出す。
「……茉莉花が沢山の生徒に支持されてたのは知ってるよな?」
あたし、頷く。
彼女は女王の如く、君臨し、それでいて誰にも憎まれない女神のような存在だった。
「不思議だろ、ボクたちの間でも噂されていたんだ。『あの美女は誰だ?』ってね」
瀬尾数臣が通っていた男子校は中高一貫の少人数制の名門校だ。現に彼は一浪した後、某国立大学に進学している。
「女子校だとそういうアイドル的存在、てのが勝手に出来てしまうみたいだな」
「しかも彼女の場合、厭味にならない」
あたしはきっぱり言う。
「そんな彼女が、ボクに告白してきたんだ。両高校ともが大騒ぎになっちまった」
え?
「じゃあ、彼女が先に接近してきたの?」
「ああ。もしかしてボクが口説いたとでも思ったかな?」
うーん……
どっちもどっちだ。
彼女と瀬尾数臣の雰囲気が凄く近いものに思える。
「あの、もしかして彼女、『彼方、アタシに似てるわね』って言ってませんでした?」
「茉莉花に聞いたのかい? まぁ、雰囲気というか思想が似ていたんだろうな。彼女が死にたいって言ってきたときも、ボクは驚かなかったし」
「……は?」
彼女が集団自殺計画を瀬尾数臣に話していた?
「なんで、止めなかったの?」
「止めても無駄ってのは、妹の君ならわかるんじゃない?」
……確かに。
もし、彼女が爪を切りながら『明日、死ぬから』と言ったら。
あたしは止めただろうか?……いや、それは無理だ。果てし無く不可能だ。
「でしょ?」
瀬尾数臣はまるで生きていた時の彼女のように話を進めていく。気づくとその話に引き込まれていくあたしがいる。
「正直、驚いたね。それに、彼女が実際事を起こした後、ちょっとだけ泣いたよ。でも、それだけ。現実はもっと厳しいよ。彼女の高校に警察やマスコミが押し寄せて、大変だったんだから」
遺族であるあたしも警察から話を聞かされたのだ、学校じゃ、二十六人も死人が出て唖然としたことだろう。
「彼女の死体は見てないよ。その方が、美しい彼女をいつまでも覚えていられるから」
合同葬は行われなかった。宗教上の問題があったからだと聞く。
ただ、学校には銅像が贈られ、そこに千羽鶴が飾られているとのこと。
「それじゃ、瀬尾さんは間接的にしか彼女の死に関わっていないんですね?」
「ああ。だってあれは正真正銘の自殺だったもの」
瀬尾数臣は自信を持って言う。
「……彼女を愛してたんですか?」
「近頃の女子高生がよくそんな言葉を言うねぇ……ボクは結局言葉で伝えることは出来なかったよ。でも、今彼女が生きているとすれば、言葉にして伝えていると思う」
「じゃあ、この指輪は何?」
ポケットの中に忍ばせておいた銀の指輪を無造作に取り出す。
瀬尾数臣はたいして驚きもせずその行為を見守る。
「誕生日プレゼントさ。懐かしいなぁ、まだ捨ててなかったんだ」
「こないだ実家に帰って部屋を整理したときに見つけたんです」
「そっか、芹夏ちゃんは寮のある学校にいるんだもんね」
しばらく指輪を睨んで、あたしは瀬尾数臣の顔を覗き込む。
「三ヶ月だったけど、楽しかったよ。彼女は沢山の男性と付き合いがあったみたいだけどボクには関係なかった。彼女の存在だけでボクは充分だった」
昔を懐かしむ表情。そういえば、今は恋人がいるのだろうか?
「いるわけないだろ。理工系に女子の絶対数は少ないんだし、それに、ボクもその気になれないからね……このまま独身かもしれないな、彼女の所為で」
彼女の所為。
彼女は今まで何人の男を泣かせたのだろうか? 今もまだ彼女は沢山の男に慕われているのだろうか?
テーブルの木目をなぞりながら、あたしは考える。
瀬尾数臣はまだ指輪を眺めている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる