飾り物の瞳に光

ささゆき細雪

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「千晩に先に伝えたのは、泰介に告知できるように予行練習したからだよ。だから妬かないで聞いてね」

 暁乃は静かに話し始める。

「あたしが歩くのぎこちないのは泰介も知ってるよね。来週にはギプスも外れるんだけど、まだ杖は必要なんだ。なんでかっていうと」

 ここで、言葉を切る。

「あたしね、事故の後遺症が、目にきちゃったんだって。いつ失明してもおかしくないんだって。それ、千晩に告げたら、あたし、泣けてきちゃって……」

 ああそうか。だからあの時、暁乃は俯いて、静かに涙を零していたんだ……
 僕は黙って暁乃に続きを促す。

「意識が回復してから、白い包帯で顔をぐるぐるに巻かれたの、泰介も見たよね。あの頃から視力がなくなっていたんだよ。病室にいた頃は泰介の顔、輪郭がはっきり見えていたのに、ここ一週間くらい前から、かな。目に見えているもの、全てがぼんやり、境界が曖昧になっちゃったんだ」

 僕が持っていた傘の柄を、暁乃が恐る恐る触れる。冷たい雨粒と、彼女のぬくもりを持った手が、僕の触覚を刺激する。

「こないだ視力検査したんだけど、随分落ちちゃったよ」

 弱視。眼鏡やコンタクトで矯正しても変わることのない視力。
 僕は、歩く足を止め、坂の途中で、暁乃と向き合う。彼女の顔を、じっと見つめる。
 きめ細かい白い肌、綺麗に整えられた眉毛、きりりとした一重瞼、ふっくら柔らかな朱色の唇、そして、澄み切った茶色の瞳。
 その双眸が、曇りつつある。

「どうしたの、泰介?」

 きょとん、とした表情で僕を見つめる暁乃。彼女が眼を瞑った時、思わず僕は彼女の瞼を指でなぞっていた。

「何、くすぐったいよ」

 彼女の目玉は、キラキラ輝く硝子玉のようで。つい、瞼の上から触れてしまう。
 彼女が次に両目を見開いた時、琥珀のような瞳が、少しだけ潤んでいた。

「暁乃」
「もうちょっとしたら、かっこいい泰介が見られなくなっちゃうんだね、あたし」

 ……彼女が呟いた、冗談めかした言い方が、あまりにも切なかったから。
 彼女が不意に零した涙の理由を、僕は無視して、彼女の肩を優しく抱くことしか、できなかった。
 二人で持っていた傘は、地面に落ち、暁乃の頬を、雨粒が、涙と共に、流れ落ちた。
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