飾り物の瞳に光

ささゆき細雪

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 夏休みがはじまり、日常生活も少しずつ変化していく。
 補習授業の座席は教室の真ん中、教卓の一番前に移された。黒板の文字を認知するのも大変だと彼女は嗤う。
 骨折が完治してからも、暁乃は週に一回、病院でリハビリを受けている。少しでも、失明するのを遅らせるために。
 歩行補助のための杖は、盲人用の白杖に変わった。先端が赤くなっている、白い杖だ。

「どう思う?」
「え?」

 扉の横で、白坂が不機嫌そうに僕を見る。優等生の彼女もなぜか夏休みの補習を一緒になって受けていた。僕は顔を上げて、彼女の姿を認める。

「暁乃ちゃんの目は、もうすぐ光を失うのよ。少しは彼女のためになることをしてあげなさいよ」
「暁乃のためになること?」

 僕は、白坂が何を言いたいのか理解できなかった。いや、理解しようとしていなかった。
 僕は僕で、暁乃が視力を失うことを、一人、怯えていたから。
 本人の方が、怖いはずなのに。
 僕も、徐々に失われていく彼女の視力に、恐れを抱いていたのだ。

「例えば、そうだねぇ。今のうちに、脳裏に焼き付けさせること。青い空、赤い夕陽、緑の野原、白い学校、茶色いコーヒー、パステルカラーの小花、なんでもいいから。そうすれば、きっと後悔しないですむわ」
「そんなに、見せなきゃ駄目か?」
「あたしが君だったら、暁乃ちゃんにこれでもか、って物を見せる、ってだけよ。大分君が暁乃ちゃんのために何をするかなんて、あたし興味ないもの」
「……僕は、反対だな」

 今更、暁乃に世界の彩りを見せても、無意味なような気がする。彼女の明るさに蔭りを混ぜてしまいそうで。

「そっか。そういう考え方もあるわね」

 白坂は頷いて僕の耳元で囁く。だけど、と。

「見えなくなってからじゃ、遅いこともあるのよ」

 くすくす微笑みながら、彼女は僕の耳朶に触れる。まるで、僕を挑発するように。
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