飾り物の瞳に光

ささゆき細雪

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 あれから何度も身体を重ねているうちに、高校二年の夏休みが終わってしまった。
 暁乃の制服の下の淫らな姿を知っているのは自分だけだという優越感を手に入れた一方で、まだまだ物足りないと痛感することが増えた。彼女はそんな僕の欲情に呆れながらも、気持ちいいことに従順になっている。

 ふたりの関係がプラトニックなものでなくなってからも、暁乃は放課後に一人補習を受けながら、慣れない環境で勉強を続けることになった。
 今、教室には暁乃以外、誰もいない。

「泰介。泰介だよね?」

 完全に視力を失った暁乃は、彼女の座席へ近づいた僕に、恐る恐る手を差し出す。そのまま、華奢な両手で僕の顔のパーツを撫でて確かめていく。
 暁乃の両目が、役割を終えたのは、八月のおわりの、曇りがちの朝だった。
 目覚し時計の音が耳元でするのに、起き上がって周囲を見回しても、カーテンを思いっきり開いても、太陽の日差しが窓を照らしていても、何も、もう、見えなかったと、暁乃は言う。

「すべてが黒。モノクロームって概念もないの。黒一色の世界。だけどね」

 盲目になった彼女は、僕の唇に指を添える。

「ここが、泰介の口。それで、ふっくらした頬。あ、今日髭剃ってないでしょ、ざらざらするよ」

 髭が伸びたことに真っ先に気づいた彼女に驚きながら、僕は頷く。

「わかるよ。光を失ったわけじゃないの。あたしは、すべてを手に入れたの……」

 そして、不器用に自分の唇を重ねる。

「ずっとかっこいいままの、高校生のままの泰介を。歳をとって、髪の毛が減ってはげちゃったり、しょぼしょぼのおじいちゃんになっちゃったりした泰介じゃなくて、ずっと若くてぴちぴちしたままの泰介を、あたしは手に入れられたの」

 そう言って、僕の身体をそっとなぞる。

「泰介の肩、泰介の二の腕、泰介の指、泰介の背中……身体の隅々まで。あたしは、全部知ってるから」
「それはよかったわね」
「白坂」
「千晩?」

 声のした方向へ、暁乃は顔を向ける。何も見えない瞳は、今もなお、琥珀色の輝きを抱いている。

「だけど、失うものも、あるのよ」
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