飾り物の瞳に光

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　　　＊　＊　＊


　あたたかい、と、感じた。
　血で濡れたワイシャツ、ぬめりと黒光りしたカッターナイフ、暁乃の悲鳴、駆けつけてきた職員、救急車へ搬入される僕、取り押さえられた白坂、なにもかもすべてが。
　結局、白坂は、暁乃の眼を刳り抜こうとしてカッターナイフを振るったものの、暁乃の前へ踊り出た僕の頬を誤って裂いたにすぎなかった。
　暁乃の発した悲鳴が、学校中に響いたことが幸いして、事態は収束した。
　半乱狂の白坂は、職員たちに取り押さえられた後も、恨めしそうに僕と、暁乃の虚ろな瞳を見つめていた……

　なぜ、白坂が暁乃の瞳を求めていたのか、僕にはさっぱりわからない。


　　　＊　＊　＊


　――とうりゃんせとうりゃんせ……

　盲人用信号をありがたく思いながら、僕は白杖をこつこつこつ、と叩きながらゆっくり歩く暁乃の隣に寄り添う。
　信号を渡り終え、真昼の駅前で、盲目の少女は恥ずかしがることなく、僕の頬の傷跡に舌を這わせる。
　見えなくても、さわればわかるよと、当たり前のことを言いながら、暁乃は、僕の手をきゅっと握り、無邪気に微笑む。

「千晩にはあげなかったけど、もし、泰介が欲しいなら、あげるからね」

　僕はぎょっとして即答する。

「いらないよ」

　暁乃は不貞腐れた顔をして、口を尖らせる。

「どうして？　綺麗なのに」
「綺麗だからだよ」

　視力を失っても、暁乃の琥珀のような瞳は美しい。たとえ、遠くを見やることが不可能な飾り物の瞳でも。
　だから僕は、暁乃を守りたい。彼女が僕を必要とする限り。
　機嫌を損ねないよう、僕は冗談めかして彼女に提案する。暁乃は喜んで受理するだろう、ほんの少しだけ、頬を赤く、染めて。

「眼はいらないけど、そのかわり……」

　――もっと暁乃が欲しい。制服を脱がせてはだかにして、僕の手と口で啼いてねだって肌を重ねて色っぽく感じる愛らしい彼女が、ぜんぶ欲しい。

　僕のぜんぶを手に入れたと言い切る暁乃が、僕にはまだまだ、物足りないのだから。





“Light in the eyes of the ornament”―――fin.