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しおりを挟む「今回の誕生日パーティは、趣向を凝らした遊戯を取り入れようと思いまして」
「お父様がいらっしゃらないのに? ねぇ神宮寺、あなたひとりでそのような権限があるの? 会社のお金でしょ? そんなことしていいの?」
「お嬢様は心配性ですね。会社のお金を横領しているわけないじゃないですか。今回のパーティで使用するお金は貴女のお父上が貴女のためにと私に預けてくださったものですよ」
「そう……ならいいんだけど」
紫葉未苑は父親のお目付け役である神宮寺の言葉を耳底に落としながら苦笑を浮かべる。
不動産業を営んでいる父はいつも全国各地を飛び回っている。母親を早くに亡くしていた未苑は年齢不詳の神宮寺の世話になりながら社長令嬢とは思えないほど慎ましく暮らしていた。年に一回の誕生日パーティだけは特別に、会社が所有しているラグジュアリーホテルの一室を借り上げて、父と神宮寺と未苑の三人で祝ったものだ。
とはいえ、そんな穏やかな生活はほんの五年前までの話。あろうことか父は、バツイチ子持ちの年上の女性にうつつを抜かし、再婚に踏み切ってしまったのだ。
「弟たちのことを心配されているのですか」
「いいえ……そういうわけでは、ないけど」
パーティ会場になったホテルの一室は、アイボリーが基調になった上品なつくりで、アンティークの家具や小物があちこちに飾られている。場違いなアップライトピアノとキングサイズのベッドに、猫足のテーブルとソファ……扉を隔てた先にあるキッチンだけは近代的で、ひろびろとしたカウンターテーブルに神宮寺が用意した食事が所狭しと並んでいた。父と神宮寺と未苑の三人だけだったらここまで準備しない。
だけど、今回は三人の義弟たちが来る――……
* * *
父親の再婚は未苑が二十歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。
すでに成人していた未苑は、いまになって父親が再婚することに文句を言うこともできなかった。
義理の母親は与えられた高級マンションで、三人の弟たちの教育に熱をあげていて、未苑の存在をなかったことにした。
とっととお嫁に行けばいいのに、と父親の隣で毒づかれたこともある。けれど経営を学び父の後継になることを夢見ていた未苑にとって結婚の二文字は別世界の存在だった。ましてやぽっと出の義弟たちに、父親の会社をそう簡単に引き継がせるわけにはいかない。
彼らが立派な大人になるまでは、自分が会社を支える歯車のひとつでありたい、その気持ちで未苑は働いていた。その結果、未苑は大学卒業と同時に父の子会社を任され、代表取締役の座についた。そこからは二十五歳になる今までずっと、秘書となった神宮寺とともに紫葉不動産グループのひとつ、紫葉リゾートの若き女社長として働きっぱなしの身だ。誇らしいけれど、身を粉にして働きつづけているからか、さいきんは身体の調子を崩しやすく無理ができないのが悩みの種でもある。
「礼文さまももう二十四歳ですし、史也さまと孝也さまももう大学生ですよ。いまさらからかわれることもないでしょう」
「じゃあ、パーティには三人とも?」
「久しぶりに姉弟水入らずというのもいいではありませんか」
「――義理の、ね」
鼻で嗤いながら神宮寺の顔色を窺えば、彼はがさごそと鞄から細長い黒いヘアバンドのような布と組み紐を取り出している。さきほど言っていた「趣向」に関係する小道具だろうか。
未苑が訝しげな視線を向けると、「これですか?」と神宮寺はうきうきした表情で語る。
「礼文さまが準備するようおっしゃってました。なんでも、未苑さまへの贈り物に使うとのことで」
「アキフミが?」
義理の三兄弟のうち、未苑とひとつしか年齢の違わない礼文は一匹狼を気取った変わり者である。不動産会社社長の息子になったからといって奢ることもなく、高校中退の際に諦めたピアノを習いなおし、大検を経てついにはピアノ調律士の資格を手にいれ、いまは気ままな一人暮らしを送りながら駅前の楽器店でバイト漬けだ。そんな彼が、未苑に?
何を考えているかわからない一番上の義弟のことを思い、未苑はため息をつく。
「まぁ、アキフミのことはいいわ。問題はフミヤとタカヤよ」
再婚当初からなにかとちょっかいを出してきていた史也と孝也。一卵性双生児だという彼らは声も見た目もそっくりで、未苑もはじめのうちは区別をつけることができず悔しい思いをしたものだ。あれから五年、礼文と違い義母のもとで暮らし続けている双子の義弟たちと会うのは久しぶりだ。
どういうわけか神宮寺とは間をおかず連絡を取っているようで、未苑よりも彼の方が双子の義弟たちと仲良くしている様子がうかがえる。
「おふたりとも喜んでおられましたよ。久しぶりに四人で集まれる、って」
「そう」
たしかに二十五歳になる姉の誕生日を祝うためにわざわざ弟たちが集まるというシチュエーションは世間からすれば異様なものなのかもしれない。
けれど神宮寺はそんなことございませんと言い切って、今年もホテルの一室を使って特別な時間を過ごしましょうと、はりきって準備してくれるのだ。
「五人でお祝いできるのは、これが最後かもしれませんからね」
そんな神宮寺の放った意味深なヒトコトは、未苑の耳に届かない。
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