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王城を出た瞬間、夜風が頬を打った。
あれほど豪奢だった舞踏会の光と音は、重厚な扉の向こうに閉じ込められ、まるで最初から存在しなかったかのようだ。
「……追放、ですか」
ぽつりと呟く。
声は、思っていたよりも落ち着いていた。
その場で剣を突きつけられなかっただけ、まだ温情があるのだろう。
王太子殿下の“慈悲”とやらか。
城門の外では、簡素な馬車が一台、用意されていた。
従者もいない。護衛もいない。
「王都の外までお送りいたします」
淡々と告げた兵士は、私を見ようともしなかった。
きっと、私がどんな存在だったのかなど、知ろうともしないのだろう。
――それでいい。
馬車が走り出す。
窓の外に流れる夜景を眺めながら、私は膝の上で手を組んだ。
(……これで、終わり)
胸の奥に、わずかな痛みが走る。
けれど、それは悲しみよりも、長く続いた緊張が解けたような感覚に近かった。
私はずっと、気づかれないように生きてきた。
王家の地下深く。
誰も立ち入らない古代の祭壇。
そこに刻まれた魔法陣を、日々、整え続ける役目。
それが、私の仕事だった。
派手な魔法も、戦闘能力もない。
ただ、壊れかけた“仕組み”を、静かに支えるだけ。
それでも。
(あれが、止まったら……)
私は、ふっと目を閉じた。
――いいえ。
もう、考える必要はない。
国は私を切り捨てた。
ならば、私も、役目を降りるだけ。
馬車が、がくりと揺れる。
「王都外です。ここから先は、ご自身で」
そう告げられ、私は小さな鞄だけを渡された。
中身は最低限の衣類と、わずかな金貨。
門が、重く閉じられる。
その瞬間。
――ズン、と。
足元の大地が、わずかに震えた。
「……?」
兵士たちが顔を見合わせる。
「今のは……地震か?」
「いや、こんな微弱な……」
私は、胸元に手を当てた。
感じる。
微かな、けれど確実な“歪み”。
(……もう、反応が出始めている)
私が王都から離れた。
それだけで、“均衡”が崩れ始めたのだ。
――早い。
思っていたよりも、この国は、脆かった。
「……知りませんよ」
誰にともなく、呟く。
「私は、もう忠告しましたから」
兵士たちの不安そうな視線を背に、私は夜道を歩き出した。
行き先は、決めていない。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
この世界は、広い。
私の価値を、最初から正しく見る人間が、一人もいないはずがない。
背後で、王都の灯りが揺らめく。
その光が、今まで以上に遠く、頼りなく見えた。
(さようなら、王都)
私が歩みを進めるたび、世界は静かに、確実に――変わり始めていた。
あれほど豪奢だった舞踏会の光と音は、重厚な扉の向こうに閉じ込められ、まるで最初から存在しなかったかのようだ。
「……追放、ですか」
ぽつりと呟く。
声は、思っていたよりも落ち着いていた。
その場で剣を突きつけられなかっただけ、まだ温情があるのだろう。
王太子殿下の“慈悲”とやらか。
城門の外では、簡素な馬車が一台、用意されていた。
従者もいない。護衛もいない。
「王都の外までお送りいたします」
淡々と告げた兵士は、私を見ようともしなかった。
きっと、私がどんな存在だったのかなど、知ろうともしないのだろう。
――それでいい。
馬車が走り出す。
窓の外に流れる夜景を眺めながら、私は膝の上で手を組んだ。
(……これで、終わり)
胸の奥に、わずかな痛みが走る。
けれど、それは悲しみよりも、長く続いた緊張が解けたような感覚に近かった。
私はずっと、気づかれないように生きてきた。
王家の地下深く。
誰も立ち入らない古代の祭壇。
そこに刻まれた魔法陣を、日々、整え続ける役目。
それが、私の仕事だった。
派手な魔法も、戦闘能力もない。
ただ、壊れかけた“仕組み”を、静かに支えるだけ。
それでも。
(あれが、止まったら……)
私は、ふっと目を閉じた。
――いいえ。
もう、考える必要はない。
国は私を切り捨てた。
ならば、私も、役目を降りるだけ。
馬車が、がくりと揺れる。
「王都外です。ここから先は、ご自身で」
そう告げられ、私は小さな鞄だけを渡された。
中身は最低限の衣類と、わずかな金貨。
門が、重く閉じられる。
その瞬間。
――ズン、と。
足元の大地が、わずかに震えた。
「……?」
兵士たちが顔を見合わせる。
「今のは……地震か?」
「いや、こんな微弱な……」
私は、胸元に手を当てた。
感じる。
微かな、けれど確実な“歪み”。
(……もう、反応が出始めている)
私が王都から離れた。
それだけで、“均衡”が崩れ始めたのだ。
――早い。
思っていたよりも、この国は、脆かった。
「……知りませんよ」
誰にともなく、呟く。
「私は、もう忠告しましたから」
兵士たちの不安そうな視線を背に、私は夜道を歩き出した。
行き先は、決めていない。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
この世界は、広い。
私の価値を、最初から正しく見る人間が、一人もいないはずがない。
背後で、王都の灯りが揺らめく。
その光が、今まで以上に遠く、頼りなく見えた。
(さようなら、王都)
私が歩みを進めるたび、世界は静かに、確実に――変わり始めていた。
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