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王城・謁見の間。
重厚な扉が開いた瞬間、空気が一段、重くなった。
「第一使節団、帰還いたしました」
その報告に、玉座に座るレオンハルト王太子は、わずかに身を乗り出した。
「で?」
「エリシアは、何と言った」
問いは短く、切迫している。
使節団の代表は、ゆっくりと前に進み――その場で、膝をついた。
「……条件を、提示されました」
その仕草に、ざわめきが走る。
王太子が、眉をひそめた。
「条件だと?」
「こちらが頼む立場とはいえ、限度がある」
代表は、顔を上げられないまま、言葉を続けた。
「第一に――」
「エリシア・フォン・リーネ殿は、王国に戻らない」
謁見の間が、静まり返る。
「……何?」
「王都への復帰を、明確に拒否されました」
「今後、王国に属する意思もないと」
レオンハルトの口が、わずかに開いたまま止まる。
「ふざけるな……」
「王国の危機だぞ」
「承知の上での、ご判断です」
代表は、絞り出すように続けた。
「第二に」
「支援は、技術提供のみ」
「ご本人が王都に常駐することは、ありません」
「な……っ!」
今度こそ、怒号が上がりかけた。
「第三に」
代表は、一瞬、言葉を切った。
「辺境への一切の干渉を禁止」
「違反した場合、以後の協力は全面停止――」
そこまで言って、深く頭を下げた。
「以上が、条件です」
沈黙。
それは、怒りすら湧かないほどの静けさだった。
やがて、レオンハルトは、乾いた笑いを漏らした。
「……条件?」
「まるで、こちらが乞食のようではないか」
誰も、否定できなかった。
老魔術師が、一歩前に出る。
「殿下……」
「その通りです」
その一言に、視線が集まる。
「我々は、すでに」
「“選ぶ側”ではありません」
王太子は、ゆっくりと彼を睨んだ。
「……どういう意味だ」
「結界は、彼女がいなければ維持できない」
「それが、今回の混乱で証明されました」
老魔術師の声は、震えていた。
「我々は、知らなかったのです」
「彼女が、“力を使っていた”のではなく」
「“世界を正常に保っていた”ことを」
その言葉は、刃のように突き刺さった。
舞踏会の夜が、脳裏をよぎる。
冷たい視線。
断罪の言葉。
追放の宣告。
『無能』
『不要』
それを、誰よりも強く口にしたのは――自分だ。
「……戻ってくると言わなかったのか」
掠れた声で、王太子が問う。
「一度も」
代表は、はっきりと答えた。
「エリシア殿は、こう仰いました」
――『私は、すでに必要とされる場所にいます』。
レオンハルトは、言葉を失った。
王太子妃として。
王国を支える象徴として。
――ではない。
一人の存在として、必要とされている。
「……余は」
喉が、ひりつく。
「余は、何を失ったのだ……」
その問いに、答える者はいない。
答えは、あまりにも明白だったからだ。
「条件は……受け入れるしかないのだな」
「はい」
老魔術師は、静かに頷いた。
「それが、王国が生き残る唯一の道です」
レオンハルトは、玉座の背に、深くもたれかかった。
誇りは、もう意味を持たない。
立場も、権威も。
ただ一つ。
自ら切り捨てた存在に、
国の命運を握られているという現実だけが、そこにあった。
その夜。
王都の空に、結界の光が、かろうじて灯った。
それは、かつてのような“盤石な守り”ではない。
――借り物の、延命措置。
王国は生き延びた。
だが同時に、はっきりと刻まれた。
エリシア・フォン・リーネは、もう戻らない。
そして。
彼女を失った代償は、
これから、さらに形となって現れていく。
重厚な扉が開いた瞬間、空気が一段、重くなった。
「第一使節団、帰還いたしました」
その報告に、玉座に座るレオンハルト王太子は、わずかに身を乗り出した。
「で?」
「エリシアは、何と言った」
問いは短く、切迫している。
使節団の代表は、ゆっくりと前に進み――その場で、膝をついた。
「……条件を、提示されました」
その仕草に、ざわめきが走る。
王太子が、眉をひそめた。
「条件だと?」
「こちらが頼む立場とはいえ、限度がある」
代表は、顔を上げられないまま、言葉を続けた。
「第一に――」
「エリシア・フォン・リーネ殿は、王国に戻らない」
謁見の間が、静まり返る。
「……何?」
「王都への復帰を、明確に拒否されました」
「今後、王国に属する意思もないと」
レオンハルトの口が、わずかに開いたまま止まる。
「ふざけるな……」
「王国の危機だぞ」
「承知の上での、ご判断です」
代表は、絞り出すように続けた。
「第二に」
「支援は、技術提供のみ」
「ご本人が王都に常駐することは、ありません」
「な……っ!」
今度こそ、怒号が上がりかけた。
「第三に」
代表は、一瞬、言葉を切った。
「辺境への一切の干渉を禁止」
「違反した場合、以後の協力は全面停止――」
そこまで言って、深く頭を下げた。
「以上が、条件です」
沈黙。
それは、怒りすら湧かないほどの静けさだった。
やがて、レオンハルトは、乾いた笑いを漏らした。
「……条件?」
「まるで、こちらが乞食のようではないか」
誰も、否定できなかった。
老魔術師が、一歩前に出る。
「殿下……」
「その通りです」
その一言に、視線が集まる。
「我々は、すでに」
「“選ぶ側”ではありません」
王太子は、ゆっくりと彼を睨んだ。
「……どういう意味だ」
「結界は、彼女がいなければ維持できない」
「それが、今回の混乱で証明されました」
老魔術師の声は、震えていた。
「我々は、知らなかったのです」
「彼女が、“力を使っていた”のではなく」
「“世界を正常に保っていた”ことを」
その言葉は、刃のように突き刺さった。
舞踏会の夜が、脳裏をよぎる。
冷たい視線。
断罪の言葉。
追放の宣告。
『無能』
『不要』
それを、誰よりも強く口にしたのは――自分だ。
「……戻ってくると言わなかったのか」
掠れた声で、王太子が問う。
「一度も」
代表は、はっきりと答えた。
「エリシア殿は、こう仰いました」
――『私は、すでに必要とされる場所にいます』。
レオンハルトは、言葉を失った。
王太子妃として。
王国を支える象徴として。
――ではない。
一人の存在として、必要とされている。
「……余は」
喉が、ひりつく。
「余は、何を失ったのだ……」
その問いに、答える者はいない。
答えは、あまりにも明白だったからだ。
「条件は……受け入れるしかないのだな」
「はい」
老魔術師は、静かに頷いた。
「それが、王国が生き残る唯一の道です」
レオンハルトは、玉座の背に、深くもたれかかった。
誇りは、もう意味を持たない。
立場も、権威も。
ただ一つ。
自ら切り捨てた存在に、
国の命運を握られているという現実だけが、そこにあった。
その夜。
王都の空に、結界の光が、かろうじて灯った。
それは、かつてのような“盤石な守り”ではない。
――借り物の、延命措置。
王国は生き延びた。
だが同時に、はっきりと刻まれた。
エリシア・フォン・リーネは、もう戻らない。
そして。
彼女を失った代償は、
これから、さらに形となって現れていく。
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