23 / 34
23
しおりを挟む
王都西門。
朝の人通りが増え始める頃、
一台の馬車が、静かに門前で止まった。
「……身分確認を」
門兵が形式的に声をかける。
御者が差し出した通行証を見た瞬間、
兵の動きが、ぴたりと止まった。
「こ、これは……」
次の瞬間。
「で、伝令を!」
「王城へ、至急だ!!」
門の空気が、一変した。
ざわめきが、波紋のように広がる。
「……今の、誰だ?」
「まさか……」
囁きは、すぐに一つの名へと収束した。
――エリシア・フォン・リーネ。
馬車の扉が開く。
降り立った彼女は、質素な外套に身を包んでいた。
飾り気はない。
だが、その存在感だけで、周囲の空気が張り詰める。
「……本当に、帰ってきた」
「結界を作った人だ……」
視線が、集まる。
好奇、畏怖、期待、そして――敵意。
エリシアは、それらすべてを受け止めながら、歩き出した。
王都は、彼女を拒まない。
なぜなら、今この都市は、
彼女の設計した“世界”の上に立っているからだ。
一方、王城。
「……入城を確認しました」
報告を受けた瞬間、
会議室にいた者たちの表情が、明確に割れた。
「来たか……」
「ついに、か」
レオンハルト王太子は、深く息を吐いた。
「予定より、早いな」
「旧魔導院にも、すでに情報が回っています」
側近が低く言う。
「……動くでしょう」
「だろうな」
王太子は、苦く笑った。
「だが、逃げる理由はない」
「むしろ――」
彼は、窓の外を見た。
「ここからが、本番だ」
旧魔導院・地下。
「……帰ってきた、だと?」
老魔導師の声に、怒気が混じる。
「誰が、許可した」
「王都は、まだ我々の――」
「違います」
若い魔導師が、静かに言った。
「もう、王都は」
「“彼女の結界理論”なしでは、成立しません」
沈黙。
それは、否定できない事実だった。
「……だからこそ、危険なのだ」
老魔導師は、杖を握りしめる。
「世界の基盤を、一人に依存させるなど」
「それこそが、最大の歪みだ」
「では……」
誰かが、恐る恐る問う。
「どう、なさいますか」
しばしの沈黙の後。
「……様子を見る」
だが、その目は、冷たい。
「彼女が“王都に戻った意味”を」
「世界に、思い出させてやる」
その言葉が、何を意味するのか。
誰も、口にしなかった。
王城・謁見の間。
エリシアは、静かに立っていた。
向かいには、レオンハルト王太子。
「……おかえり、エリシア」
「ただいま、とは言えませんね」
彼女は、淡く微笑んだ。
「問題が起きていると聞きました」
「ああ」
「しかも、厄介な形でな」
王太子は、視線を逸らす。
「君が戻れば」
「王都は、揺れる」
「分かっています」
エリシアは、迷いなく答えた。
「でも」
「揺れない世界は、腐ります」
その言葉に、王太子は小さく息を呑んだ。
「私は、戦いに来たわけではありません」
エリシアは、静かに続ける。
「“設計者としての責任”を、果たしに来ただけです」
王都の外では、
人々が彼女の帰還を語り合っている。
英雄として。
脅威として。
希望として。
そのすべてが、正しい。
なぜなら――
彼女はもう、
物語の外にいる存在ではない。
世界の中心に、戻ってきたのだから。
そして、旧い世界は必ず動く。
彼女を、止めるために。
あるいは――
彼女を、引きずり下ろすために。
朝の人通りが増え始める頃、
一台の馬車が、静かに門前で止まった。
「……身分確認を」
門兵が形式的に声をかける。
御者が差し出した通行証を見た瞬間、
兵の動きが、ぴたりと止まった。
「こ、これは……」
次の瞬間。
「で、伝令を!」
「王城へ、至急だ!!」
門の空気が、一変した。
ざわめきが、波紋のように広がる。
「……今の、誰だ?」
「まさか……」
囁きは、すぐに一つの名へと収束した。
――エリシア・フォン・リーネ。
馬車の扉が開く。
降り立った彼女は、質素な外套に身を包んでいた。
飾り気はない。
だが、その存在感だけで、周囲の空気が張り詰める。
「……本当に、帰ってきた」
「結界を作った人だ……」
視線が、集まる。
好奇、畏怖、期待、そして――敵意。
エリシアは、それらすべてを受け止めながら、歩き出した。
王都は、彼女を拒まない。
なぜなら、今この都市は、
彼女の設計した“世界”の上に立っているからだ。
一方、王城。
「……入城を確認しました」
報告を受けた瞬間、
会議室にいた者たちの表情が、明確に割れた。
「来たか……」
「ついに、か」
レオンハルト王太子は、深く息を吐いた。
「予定より、早いな」
「旧魔導院にも、すでに情報が回っています」
側近が低く言う。
「……動くでしょう」
「だろうな」
王太子は、苦く笑った。
「だが、逃げる理由はない」
「むしろ――」
彼は、窓の外を見た。
「ここからが、本番だ」
旧魔導院・地下。
「……帰ってきた、だと?」
老魔導師の声に、怒気が混じる。
「誰が、許可した」
「王都は、まだ我々の――」
「違います」
若い魔導師が、静かに言った。
「もう、王都は」
「“彼女の結界理論”なしでは、成立しません」
沈黙。
それは、否定できない事実だった。
「……だからこそ、危険なのだ」
老魔導師は、杖を握りしめる。
「世界の基盤を、一人に依存させるなど」
「それこそが、最大の歪みだ」
「では……」
誰かが、恐る恐る問う。
「どう、なさいますか」
しばしの沈黙の後。
「……様子を見る」
だが、その目は、冷たい。
「彼女が“王都に戻った意味”を」
「世界に、思い出させてやる」
その言葉が、何を意味するのか。
誰も、口にしなかった。
王城・謁見の間。
エリシアは、静かに立っていた。
向かいには、レオンハルト王太子。
「……おかえり、エリシア」
「ただいま、とは言えませんね」
彼女は、淡く微笑んだ。
「問題が起きていると聞きました」
「ああ」
「しかも、厄介な形でな」
王太子は、視線を逸らす。
「君が戻れば」
「王都は、揺れる」
「分かっています」
エリシアは、迷いなく答えた。
「でも」
「揺れない世界は、腐ります」
その言葉に、王太子は小さく息を呑んだ。
「私は、戦いに来たわけではありません」
エリシアは、静かに続ける。
「“設計者としての責任”を、果たしに来ただけです」
王都の外では、
人々が彼女の帰還を語り合っている。
英雄として。
脅威として。
希望として。
そのすべてが、正しい。
なぜなら――
彼女はもう、
物語の外にいる存在ではない。
世界の中心に、戻ってきたのだから。
そして、旧い世界は必ず動く。
彼女を、止めるために。
あるいは――
彼女を、引きずり下ろすために。
44
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!
藤野ひま
ファンタジー
わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。
初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!
夫や、かの女性は王城でお元気かしら?
わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!
〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕
義妹に婚約者を奪われ追放された私。実は国を支えていたと気づいても遅いです。隣国で能力を開花させたので、今さら泣きつかないで。
瀬戸 ゆら
恋愛
「無能な置物はいらん。国外追放だ」
王太子の冷酷な宣告。隣には、私のすべてを奪った義妹の勝ち誇った笑み。 私が寝る間を惜しんで維持してきた国の結界は、私がいなくなった瞬間に崩壊を始めるでしょう。
泥水をすすり、辿り着いた隣国。そこで出会ったのは、冷徹と恐れられる漆黒の皇帝陛下でした。
「これほどの魔導回路を一人で?……君、我が国に来ないか」
捨てられた魔道具師が、隣国で「伝説の聖女」として覚醒する一方で、結界を失い魔物の脅威に晒された母国が泣きついてきますが……。
「今さら戻ってきて?……お断りです。私はここで、世界一幸せになるんですから」
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
聖女は神の力を借りて病を治しますので、神の教えに背いた病でいまさら泣きついてきても、私は知りませんから!
甘い秋空
恋愛
神の教えに背いた病が広まり始めている中、私は聖女から外され、婚約も破棄されました。
唯一の理解者である王妃の指示によって、幽閉生活に入りましたが、そこには……
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる