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王城・小謁見室。
豪奢な装飾は控えめだが、王族と正式な来客だけが通される部屋だ。
エリシアは、静かに立っていた。
向かいには、レオンハルト王太子。
そして数名の重臣。
全員が、彼女を見ている。
「エリシア・フォン・リーネ」
王太子が、改まった声で告げる。
「王国は、あなたに多大な負債を負った」
彼は、一枚の文書を差し出した。
「よって」
「貴族籍の完全回復」
「王都魔導最高顧問の地位」
「新結界管理権の一任を、提案する」
それは――破格だった。
かつて追放された令嬢に与えるには、
あまりにも大きすぎる。
重臣の一人が、期待を込めた目で言う。
「これで、王国は安泰です」
「あなたが中心に立てば、もう――」
「お断りします」
即答だった。
空気が、止まる。
「……今、なんと?」
王太子の声が、わずかに揺れる。
「その提案は、受けられません」
エリシアは、穏やかに繰り返した。
重臣たちが、ざわめく。
「なぜだ!」
「地位も、名誉も、すべて戻るのだぞ!」
エリシアは、文書に視線を落とす。
「その条件では」
「また、同じことが起きます」
「同じ?」
「ええ」
彼女は、顔を上げた。
「私が中心に立てば」
「新結界は、“私のもの”になります」
「それは、恐怖でなくても」
「依存を生みます」
王太子が、言葉を失う。
「私は」
エリシアは、はっきりと言った。
「“正しい人”ではありません」
「間違えます」
「失敗もします」
「だから」
小さく、息を吸う。
「私一人に、世界を預ける設計は」
「危険です」
沈黙。
その言葉は、あまりにも誠実だった。
「では……」
王太子が、ゆっくりと問う。
「何を、望む?」
エリシアは、少しだけ考えた。
そして、答える。
「新結界の完全公開」
「設計思想・術式・失敗例、すべて」
重臣たちが、息を呑む。
「正気か!?」
「それでは、模倣される!」
「されていいんです」
エリシアは、迷わない。
「独占しないからこそ」
「間違いは、早く見つかる」
「王都だけでなく」
「地方も、他国も」
「誰でも、改善できるようにする」
王太子が、苦笑する。
「……権力を、嫌いすぎだ」
「いいえ」
エリシアは、首を振った。
「恐れているんです」
少しだけ、声が低くなる。
「私が、かつて追放された理由を」
「もう一度、作ってしまうことを」
その場にいた誰もが、理解した。
彼女は、王冠を拒んだのではない。
同じ悲劇を、拒んだのだ。
「もう一つ」
エリシアは、続けた。
「新結界管理は」
「王都だけで完結させないでください」
「地方・辺境・市民代表を含めた」
「共同管理体制を」
重臣が、思わず呟く。
「……前例が、ない」
「前例がないから」
エリシアは、微笑む。
「今まで、壊れたんです」
長い沈黙の末。
レオンハルト王太子が、深く息を吐いた。
「……分かった」
そして、頭を下げる。
王太子が、正式に。
「あなたの提案を、受け入れる」
その瞬間。
エリシアは、貴族として復権しなかった。
王の側近にもならなかった。
だが――
世界の在り方を、変える権限を手に入れた。
部屋を出た後。
「……後悔、しませんか」
カイルが、そっと尋ねる。
「しません」
エリシアは、窓の外を見る。
王都の街が、ゆっくりと動き始めていた。
「誰かの上に立つより」
「誰かと並んで、考える方が」
柔らかな声。
「私は、好きなんです」
王冠は、手にしなかった。
だが――
未来を選ぶ者として、彼女は立っていた。
豪奢な装飾は控えめだが、王族と正式な来客だけが通される部屋だ。
エリシアは、静かに立っていた。
向かいには、レオンハルト王太子。
そして数名の重臣。
全員が、彼女を見ている。
「エリシア・フォン・リーネ」
王太子が、改まった声で告げる。
「王国は、あなたに多大な負債を負った」
彼は、一枚の文書を差し出した。
「よって」
「貴族籍の完全回復」
「王都魔導最高顧問の地位」
「新結界管理権の一任を、提案する」
それは――破格だった。
かつて追放された令嬢に与えるには、
あまりにも大きすぎる。
重臣の一人が、期待を込めた目で言う。
「これで、王国は安泰です」
「あなたが中心に立てば、もう――」
「お断りします」
即答だった。
空気が、止まる。
「……今、なんと?」
王太子の声が、わずかに揺れる。
「その提案は、受けられません」
エリシアは、穏やかに繰り返した。
重臣たちが、ざわめく。
「なぜだ!」
「地位も、名誉も、すべて戻るのだぞ!」
エリシアは、文書に視線を落とす。
「その条件では」
「また、同じことが起きます」
「同じ?」
「ええ」
彼女は、顔を上げた。
「私が中心に立てば」
「新結界は、“私のもの”になります」
「それは、恐怖でなくても」
「依存を生みます」
王太子が、言葉を失う。
「私は」
エリシアは、はっきりと言った。
「“正しい人”ではありません」
「間違えます」
「失敗もします」
「だから」
小さく、息を吸う。
「私一人に、世界を預ける設計は」
「危険です」
沈黙。
その言葉は、あまりにも誠実だった。
「では……」
王太子が、ゆっくりと問う。
「何を、望む?」
エリシアは、少しだけ考えた。
そして、答える。
「新結界の完全公開」
「設計思想・術式・失敗例、すべて」
重臣たちが、息を呑む。
「正気か!?」
「それでは、模倣される!」
「されていいんです」
エリシアは、迷わない。
「独占しないからこそ」
「間違いは、早く見つかる」
「王都だけでなく」
「地方も、他国も」
「誰でも、改善できるようにする」
王太子が、苦笑する。
「……権力を、嫌いすぎだ」
「いいえ」
エリシアは、首を振った。
「恐れているんです」
少しだけ、声が低くなる。
「私が、かつて追放された理由を」
「もう一度、作ってしまうことを」
その場にいた誰もが、理解した。
彼女は、王冠を拒んだのではない。
同じ悲劇を、拒んだのだ。
「もう一つ」
エリシアは、続けた。
「新結界管理は」
「王都だけで完結させないでください」
「地方・辺境・市民代表を含めた」
「共同管理体制を」
重臣が、思わず呟く。
「……前例が、ない」
「前例がないから」
エリシアは、微笑む。
「今まで、壊れたんです」
長い沈黙の末。
レオンハルト王太子が、深く息を吐いた。
「……分かった」
そして、頭を下げる。
王太子が、正式に。
「あなたの提案を、受け入れる」
その瞬間。
エリシアは、貴族として復権しなかった。
王の側近にもならなかった。
だが――
世界の在り方を、変える権限を手に入れた。
部屋を出た後。
「……後悔、しませんか」
カイルが、そっと尋ねる。
「しません」
エリシアは、窓の外を見る。
王都の街が、ゆっくりと動き始めていた。
「誰かの上に立つより」
「誰かと並んで、考える方が」
柔らかな声。
「私は、好きなんです」
王冠は、手にしなかった。
だが――
未来を選ぶ者として、彼女は立っていた。
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