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開闢の始まり

不穏2

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リューグナーの細腕は、一瞬の隙を突きナイフを放ったのだ。
そして何故かテンニーンの動きが止まる。

「動けないよねぇー?」

リューグナーは顔を傾け、焦りと怒りでプルプルと震えているテンニーンの顔色を伺う。

「君が何かの力を持ってようが持っていまいが関係ない。」

二本目のナイフ。
それを深く、肩に沈める。

「グッ...あぁッッ!!!」

大剣を構えた体勢のまま、苦痛に顔を歪める。
毒なのか魔法なのか、力は抜けず加える事すら出来ない。

「僕が刺した所は、人体で言えばツボにあたる。」

どうやら、一切動けなくなるツボの様な物を刺されたらしい。
言葉巧みに欺いて、今までもそうやって他の生徒達を何人も倒して来たのだろう。

「本来ならもっと攻撃を受けて油断させてから仕留めるんだけど、君のは痛そうだったから、ねッッッ!!」

フルルカンガスをトントンと叩きながら、テンニーンの胸部へとナイフをもう一本刺した。

「今ので君の魔力回路を切断したよ!!」

楽しそうに、リューグナーは語り続ける。

通常の人類であれば、魔力回路を断ち切られれば魔力のコントロールを失い、暴発する。
暴発した魔力は全て体外へ排出され、今後一切魔法を扱う事が出来なくなるケースもあるのだ。
それをリューグナーは躊躇い無くやってのけた。

確かにテンニーンは上手く魔力をコントロール出来なくなっていた。
胸元の『グラナート・クライノート』だけが怪しく光る。
身体から魔力が放出されていくのと同時に、宝玉が多量の魔力をテンニーンに供給しだした。

「あの野郎!!やりやがった!!!メイッッッ!!!」

デミドランの掛け声よりも前に、メイも察知して動こうとしたが、それよりも早く止めが入る。

誰かの結界魔法で会場が覆われていき、『時が止まった』。
それと同時にテンニーンに打ち込まれる注射針。


「おやぁ?なぜ動けるんです?」


針を打ち込んだであろう人物がメイ達を不思議そうに眺めながら着地する。
長身サングラスの人物に、メイは見覚えがあった。

「あなた...『白バラの騎士団』に居たわね。」

「おやおや、古龍並の魔力が無ければこの結界の中では動けない筈なんですが...。もしかして、あなたも『レプリカント・クライノート』を持ってらっしゃる?」

質問には答えず、メイに特殊な形の銃を向ける。
しかしその銃身はデミドランの手刀が叩き折った。

「オイ若僧、今なんつった?」

「アハハ、あなたも持ってるんですね?これですよこれ。私のは『アマティスタ・レプリカント・クライノート』ですがね。」

そう言って、デミドランに胸ぐらを掴まれつつも取り出した紫色の球体。
それはグラナート・クライノートに酷似しているが、溢れ出る魔力は似て非なるもの。
どちらかと言えばデミドランの魔力に酷似している。

「とりあえず今は『本物』のグラナート・クライノートの回収が任務ですので、失礼。」

そう言って紫色の煙となってデミドランの腕を抜けようとするも、メイが止めた。
がっちりと腕を掴み、離さない。

「質問に答えて。あなた、何者?」

「それはこちらの台詞ですし、早く処理しないと彼が持たない。」

指さすのはテンニーン。
宝玉の魔力がとめどなく移行しているのが、最早目に見えて分かる。

「一応鎮静剤は打ちましたが、あのまま魔力が全て彼に移ってしまえばクライノートの回収は難しくなる。」

「つまりどういう事だ?」

「わかりません?二代目の『炎獄龍 フレモヘイズ』が生まれてしまうって事ですよ。」

それを聞いて、メイとデミドランは顔を見合わせ頷いた。
そしてサングラスの男に向き直る。

「じゃあ尚更邪魔させる訳にはいかねぇな。」

「えぇ、邪魔するなら私達が相手よ。」


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