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くぐるわらうおいかける-2
しおりを挟むバーベキューに行かなきゃいけなくなったんだけど、と、桑名さんが切り出したのは一週間前の事で、ついでに一緒に行かない? と誘われたのもその時のことだった。
バーベキューって何すんだっけ。炭おこして肉焼くんだっけ?
というイメージしかないおれは、実はバーベキューをしたことがない。花火くらいなら高校の時に結構やったけど。大学入ってからは研究室に入り浸りだったし、そもそもインドアな性格だったから外に出ることも稀だった。
肉を焼くなら焼き肉屋に行けばいいんじゃないかな、なんて思ってたけど、実際足を運んでみると外で料理するっていうのは楽しいような気がする。
買いだしをして、バーベキュー台を組み立てて、炭をおこして、野菜を切って。その合間に自己紹介とか他愛のないコミュニケーションが入り込むのがちょっとしんどいけど、比較的わくわくと準備は進んだ。
ていうか。
その、あのー……汗拭いながら炭と格闘する桑名さんがもうなんかすごいイケメンに見えてもうだめで全然近づけなくて遠くからうっとり眺めてたら気が付いたら女の人に囲まれて野菜切らされる羽目になっていた。
料理は嫌いじゃない。別にうまいもんを作れるわけでもないけれど。
問題があるとすれば、今おれはいろいろホラーを絶賛引き寄せ中で、料理すると高確率で人体の一部が混じるってことだ。野菜はまだいい。中からなんかへんなもん出てきたらわかるし、そっと捨てればいい。
ただ肉はヤバい。絶対に気がつかないうちに牛肉や豚肉じゃないもの一緒に振る舞っちゃう未来しか見えなかったから、肉関係のところには絶対に近づかないようにしていた。
幸い、昼間ということもあってか、それともやっぱり人間がいっぱいいてわいわいしてるとそういうもんは出て来辛いのか、本格的な心霊現象にはまだ遭遇していなかった。
ちょっと炊事場の影から手が伸びてたり、野菜の箱の奥にいた何かと目があったりしたけれど、そのくらいだったらまあ、ジョブと言うか。いい加減慣れてきたし、そら怖いけどまだ笑って誤魔化せた。
家の中だったら桑名さんに抱きついていたかもしれない案件でも、外だし他人がいっぱいいるしと思うとまだなんとか耐えられる。
というか心霊現象よりもやたらと近くてちやほやしてくる女の人達の方が大変で、そっと距離を取りつつ桑名さんのとこに戻る術を模索していたら、ひょっこりと巻さんが入ってきてくれた。
桑名さんと巻さんには本当にお世話になりっぱなしだ。
桑名さんには毎日面倒見てもらってるし、もう一緒に居ないと落ち着かなくなってきている。それと同じくらい、巻さんにもフォローしてもらってるなーとひしひしと感じた。
焼きそば用の鉄板を取りに行くという巻さんに続いて歩きながら、そんな素直な感想を述べると桑名さんは笑う。苦笑、っていうその顔が好きだなーなんてぼんやり思ってしまうのは三人だけになってちょっと安心したからだろう。やっぱり、人は苦手だ。
「俺は下心込みだからね、あんまり素直に感謝されちゃうと、ちょっと恥ずかしいかなー。巻は、まあ、見た目よりは割と真面目だし義理がたいしいい奴だってのは、今日再確認したけど」
「すっかり巻き込んじゃってますもんねおれ……なんか、ほんとスイマセン……会社の行事にまでお邪魔しちゃって」
「いやそれは俺が勝手に誘ったから気にしないでいいし、わりと楽しいというか、いやでも女子に囲まれてちやほやされる木ノ下くんを目の当たりにして相当自分の心の狭さを実感したというか……」
「……桑名さんすぐ口説いてくるから怖い……」
「口説いてないって。事実を伝えているだけだし」
「おい待てホモ二人きりみたいな気分とムード作ってんじゃないよホモ、巻ちゃんを忘れんなせめて用事終わらせてからしけこめホモ」
「ホモじゃないっつってんだろーが」
桑名さんは律義につっこんでいるけど、いやでもこれはどう見ても出来上がってる……と、自分でも思う。
さっきもさらっと手を繋ぎそうになって、恥ずかしくて死ぬかと思った。これはもう言い逃れができない。付き合って無いなんてどの口が言うんだと思う。
「いいよなー桑名は好きな子と同居しててさー毎日いちゃいちゃしてんでしょ? もー相手がイケメン男子だろうが羨ましいもんはうらやましいわ」
「巻、受付の阿部さんとどうなったんだよ。この前ランチ行って無かったか?」
「うーん……阿部嬢かわいいんだけどあんま話が合わなかったのよねぇー。趣味とかはどうでもいいんだけどサァ、レスポンスが違うなぁって思うともう全部ダメじゃーん。嫌いとかじゃないけど、やっぱ話してて楽しいっつーかしっくりくる人の方がいいじゃないの。その点おまえらまじお似合いでイイヨナァホモダケド」
「一々ホモっつーのやめろ木ノ下くんに失礼」
「ワーオコラレタジェントルメン……いやちげーし別に俺木ノ下ちゃんがホモだなんて思ってねーしホモなのは悪い大人な桑名健介二十八歳だし!? ていうか管理人室遠いのね、こっちで合ってるよね?」
「え。知らんよ。駐車場はこっちだけど、セット借りてきたのって中野さん達だっただろ。俺は飲みモノ運んでたからどこが管理小屋なのか詳しくは知らな――」
ぎゅっと、手を引いた。
いつもは桑名さんの左手を握るけれど、今日は前を歩いていた巻さんの手もとっさに掴んでしまった。
だらだらと痒い話をしていた二人は、おれと一緒に足を止める。何事? って感じに振り返った二人の顔を見れなかった。
視線を外したらダメだと思ったから。
「……え。何? 何よ」
「…………巻、管理小屋ってアレ?」
「あ? あー。アレかな。思ったより小さいっていうかぼろいっていうか、あとなんか随分と暗いなこの辺。つか遠いなオイ」
「うん、遠いな。暗いしな。古いし。――で、その隣のアレは、何だと思う?」
桑名さんの視線は、おれと同じモノを見ていた。
こちらを向いていた巻さんが、何言ってんのコイツみたいな感じで桑名さんの顔を怪訝そうに見てから、さっと顔を前に向ける。
その先には確かに古いロッジが見える。手前に立っている古びた看板には、管理人室と書いてあるから、それが目的の小屋に間違いはないだろう。駐車場の向こうに見えるその小屋は小さく遠く、木々の影にまみれて薄暗い。
周りには木しかない。
ざわざわと揺れる木しかない。
それなのに、小屋の横に何か白いものが見える。
「……………」
「…………」
「………………うん? うんっと…………え?」
「……木ノ下くん、見えてるよね?」
「…………はい。あの……白い、アレ、ええと……」
ひとにみえませんか。
そう言ったと同時に巻さんが震えた。
三人とも、固まったまま前を見据えて動かない。ゆらゆらと揺れる白いものから、顔を背けることができない。
「いやいやいや。人って。あはは。よく見てよ木ノ下ちゃん、アレが人だったらそれどんな巨人よ。どう考えても小屋との対比おかしいでしょ。何かこう、シーツか何かじゃ、」
「でも、歩いてません?」
「……………あ。あー……うはは。やばい。ほんとうだ」
こっち来る。
巻さんがそう言った時、小屋の横の木の下を、ぐいとかがんでくぐるのが見えた。
歩いてる。その上こっちに来てる。近づいてきてる。あの木の下をくぐるって、それどんなでかさだ。人の身長じゃない。絶対におかしい。
ゆらゆらと揺れる白い人のようなものがかがませた身体を伸ばした時に、その顔のようなものがにたぁ、と笑ったように見えて一気に鳥肌が立った。
――捕まったらいけない。
とっさにそう思ったのは、多分三人一緒だった。
「…………逃げろッ!」
叫んだのは巻さんか桑名さんかわからない。
とにかく繋いだ手をほどいて、三人同時に全力で踵をかえした。
運動は得意じゃない。インドアだし、体育はいつも真面目さだけでどうにか単位を取っていた。走るのも得意じゃないけれど、火事場のなんとかってやつをこの時は体感した。
死ぬ気で走る。足がもつれそうになる。後ろを振り向いてはいけない。それだけはわかる。
足音はしないのに、あの白くてでかい人のようなものが追いかけてきている気配がする。笑い声は聞こえないのに、笑っている気配がする。にたにたと、あの唇のようなものがつり上がり目のようなものが半月型に細められる。
気持ち悪い。怖い。足を止めたら吐きそうだ。
がむしゃらに走りながら、このまま走って逃げられるのかという思いがよぎる。
おれは前を走る桑名さんを追いかけるので精一杯で、あとは転ばないように足を動かすだけで何も考えられなかった。
喉が痛い。
空気がうまく吸い込めない。
酸素が回っていなくて、頭がくらくらする。
それでも恐怖だけで走り続けて、どこをどう走ったのか森を抜けてまたさっきの管理人室が見える駐車場に出た。
「車に乗れ! 一回ここ出るぞ!」
巻さんにせきたてられ、転がるように後部座席に乗り込む。扉を閉める前に絶対に足を掴まれたけど、桑名さんが中から引っ張ってくれた。怖くて目は開けられずに、桑名さんに抱きついているとエンジンがかかる。
ホラー映画とかだとエンジンがかからないっていう展開が多いけど、とりあえずこの時はそんなハプニングはなく、勢いづけて車は発進した。
「…………置いてきた? どう? これ上に乗ってたりしない?」
息を切らせながら運転席から声をかけてくる巻さんに、ぜえはあしながらもおれの背中を優しくさすってくれる桑名さんは『たぶん』と返す。
「乗ってはないだろう。……手伸ばして追いかけてくるの見えたし」
「うっわーくっそこわいナニソレききたくなかったぁ。つか桑名よくあんなん直視できんな」
「……木ノ下くん持って行こうとしたから振りほどくのに必死だったんだよ。あーだめだ思い出したら気味悪くなってきたなんだアレほんと……」
「やっぱキャンプ場ってそういうお話多いしいらっしゃるものなのねー……これさ、俺たちがあのままみんなのとこ帰ったら帰ったでやべーかなって判断して出てきちゃったけど、戻るわけにいかないやつよね?」
「だめだろ。もっかい遭遇したら逃げ切れるかわかんないぞ」
「デスヨネー」
会費払ったのに、と嘆く巻さんに申し訳なくて、すいませんと口を開こうとしたら桑名さんにぎゅっとされた。苦しい。でも、すごく落ち着く。
「木ノ下くんは悪くないから。連れてきた俺が悪い。あと原因はキミじゃないしキミは被害者だし、更に言うなら俺は進んで巻き込まれてるし巻はわりとトラブル楽しい体質だから気にしないこと」
「でも、」
「ソウヨソウヨー今のは久しぶりに夢に出てくるレベルのトラウマさんだったけどーまあ、ぼくちん死んでないし怪我もないし生きてるしうはは合コンで喋るネタが増えたわーくらいの気持ちだから木ノ下ちゃんはきにしなーいでそこのむっつりエロ星人といちゃいちゃして怖いの忘れちゃいなー。ていうかあれホントなんだったのかしらね。なんかずっと笑ってんのめっちゃ怖かったんですけど。この辺で自殺とか他殺とかきいたことねーけど」
「理由がないもんが一番怖いよ。アレがなんだったとしても、捕まったらアウト、っていうの正解だったと思うし。あー……飯食う前に出てきたし安心したら腹減った。謝罪電話入れるついでに飯屋行こう。奢る」
「ワーイヤッター! 何がいい? 肉にする? 肉にする? それとも肉?」
「わかった肉奢るから……木ノ下くんは何が食いたい?」
おれはもうさっき全力で走ったのでわけがわからなくなってたし、今度は助かったという安心感でもう精神状態がおかしくて空腹なんか忘れていたけれど、肉だ肉だと煩く騒ぐ巻さんがなんか急に微笑ましくなって、笑ってしまった。
「……巻さん、おれもちょっと奢るんでちょっとだけ我儘言っていいです?」
「んー? んー、よくわかんないけどイイヨ、どうしたの」
「今からちょっとだけホモするんでみなかった振りしてください」
「……うーわ、なにそのお願いくっそかわいいな。桑名死んじゃうでしょ今死んでるでしょ。うはは死んでるだっせーヘタレー! よっしゃ巻ちゃん今から十分間お経唱えて無心になるから好きなだけきゃっきゃしなさいただし車は汚してくれるな」
あははと笑う巻さんの声を聴きながら、真っ赤になってる桑名さんにキスをした。
その後、焼き肉屋さんで水を五個出され、『何と何がついてきてるんだ』と三人で顔面蒼白になった。
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