狂犬病

 いつかこの狂った犬を、愛おしいと思う日が来るのだろうか──。

 東京の片隅、村上は、とある事情で小笠原と言う男の持つ小さな玩具店で働きながら、その小笠原の犬である八雲の家に居候として暮らしていた。
 自由奔放で冷めた八雲と、生真面目ながらどこか斜に構える村上は意外にも相性がよく、お互い必要以上の干渉は避け抑揚のない淡々とした生活を送っていた。

 ある夏の日、八雲は突如見知らぬ少年を連れて帰宅した。痩せ細った身体、落ち窪んだ暗い瞳は、彼がどんな人生を歩んできたのかを体現しているようだった。
 家を空ける事が多い八雲の代わりに一応最低限の面倒は見ていたが、それでも自分には何の責任もないと一歩引いて少年と関わっていた村上。

 けれど、共に暮らすうち、少年の想像を絶する異常性を知る事となる──。
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