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第一章
第十一話 一時撤退と分遣隊
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もう少しで一層目も終わり、という段階で思いもよらなかった言葉がブロムさんから出る。
最後の部屋で休憩をとっていた私達は、急に引き上げを決めたブロムさんに対し、納得が出来ないという風に説明を求めた。
「これを見てくれ」
そう言ってブロムさんが私達に示したのは、彼が持っている【聖なる護り石】だった。
「これがどうかしたんですか?」
デイアンさんは訳がわからないという表情をしたが、私はすぐに気付く。
「色が、濁ってる……!」
輝くような白い光沢を纏っていたクリスタルは、あちこちが黒いカビのような染みで覆われており、すっかり汚れてしまっていた。しかもその黒い染みは外から付着したものではなく、クリスタルの内側から滲み出したような感じがするのだ。
「これは、魔のケガレ……!?」
「知っているの、シェーナ?」
シェーナもカティアさんも、示されたクリスタルを見て眉をひそめている。騎士団員である二人の様子からして、良くない状態なのは間違いなさそうだ。
「聖術の過度な使用でこうなることはあるの。聖なる力が枯渇したせいで、悪しき魔の力が侵入するのを許して蝕まれた状態――と、国教会では考えられているわ」
「自分だけではない。皆のクリスタルも全てこのようになっている」
ブロムさんが目で促すと、彼の周囲に居た何人かの騎士達が自分のクリスタルを私達に見せてくる。やはり、同様に色が黒く濁っていた。
「此処に至るまで、予想以上の数の魔物と遭遇した。皆の安全を確保する為に、聖術を途切れさせることは出来なかったのだ。しかし、魔のケガレによる蝕みがここまで酷くなってしまっては、これ以上聖術を行使することは難しいだろう。無念だが……」
クリスタルを握りしめたブロムさんの拳は、ブルブルと震えていた。彼の内心がどのようなものか、それだけでよく分かる。
「変ね……。確かに聖術の使用頻度は多かったけれど、それでも一日でこれ程の魔のケガレが付着するなんて……」
カティアさんは顎に手を添えながら難しい顔でクリスタルを睨んでいる。
「魔族が現れた影響だろう。ダンジョンに漂う魔素エネルギーの濃度も、普段より濃くなっているのかも知れない。現にあれだけの魔物が発生していたのだ。【聖なる護り石】の消耗が早いのも頷ける話ではないか」
シェーナはこれまでの出来事を振り返り、もっともらしい理屈を述べた。が、カティアさんは今ひとつ納得がいかない様子でちらりと私を見た。
「シェーナはこう言ってるけど、あんたはどう思うの? 魔術士なら、魔素エネルギーの濃淡くらい分かるんじゃない?」
「ええっ!? む、無理だよ~! 魔素エネルギーなんて四六時中どこにでもあるものだし……」
魔素エネルギーは目には見えず、視覚化出来るような便利なものも無い。ただ空気に混じって、世界のあらゆる場所に厳然として“ある”ものだということしか分からない。それが魔術士達の間での常識なのだ。
そして魔術士達は普段からその魔素を無意識化で取り込んで魔力を蓄えている。仮に魔素の全く無い場所に置かれても急に魔法が使えなくなるなんてことはまず無いから、魔素の濃度なんて普通は意識しない。
ましてや、魔素の濃度が聖術の触媒たるクリスタルにどのような影響を及ぼしているのか、なんていうのも分かりようが無い。師匠の授業でも、そこには触れたことがなかった。
「つくづく当てにならないわね、あんた」
私の返答が相当気に入らなかったらしく、カティアさんは侮蔑を隠そうともしない眼差しで私を睨んだ。そんな目を向けられても、分からないものは分からない。
「そのクリスタルはもう使えないのですか?」
デイアンさんは諦めきれないようにブロムさんに尋ねた。
「大教会に戻り、清拭の儀で魔のケガレを清めれば再び問題なく機能するだろうが……。今、この場では望むべくもない」
ブロムさんは大きくため息を吐き、改めて私達を見た。
「これ以上の戦いは、不測の事態を引き起こす可能性が極めて高い。オーガと遭遇したところで、抜き差しならない窮地に陥るのが目に見えている。故に、我々だけで此処から先に進むのは控えるべきだと判断した」
そう言ったブロムさんの眼差しに、迷いは無かった。
「そんな……! それじゃあ、ミレーネさんは……!?」
デイアンさんに続いて私も食い下がったが、ブロムさんはそこで少し表情を和らげた。
「案ずるな、先程も言ったが任務を放棄するのではないのだぞ。第一、第三部隊に訓練の中止と西のダンジョンへの集合を命じる伝令は送っておいた。もう間もなく到着する頃合いだ。一度地上に戻り、彼らと合流した上で再突入する」
「あ……なんだ、私ったらてっきりこのまま完全撤退かと……あはは」
そうだった、元々今すぐ出動出来るのがこのメンバーだったってだけで、別に訓練の為に郊外に出ていた部隊を呼び戻していないワケじゃなかったんだ。私達はいわば先遣隊に過ぎず、これから本隊と合流して本格的なオーガ討伐に移行しようという話だったんだ。早とちりしたのが恥ずかしくなって、私はつい愛想笑いを浮かべる。
「ですが、もしも守護聖騎士団の部隊がまだ到着していなかったら……?」
二層目がもう目前にあるからか、デイアンさんはやはり後ろ髪を引かれるようだ。
「その場合は、来るまで待つしかないな」
ブロムさんの答えは至極当然のものだが、それを聴いたデイアンさんは俯いた。
「そう、ですよね……」
私はデイアンさんの心中を想い、密かに同情する。ミレーネさんを置いてきてしまった第二層まで後少しというところで一度引き返すなんて、彼からすれば受け入れ難いのだろう。
「何も、全員地上に戻る必要は無いでしょ」
「え? カティアさん……?」
カティアさんは、自分の赤い髪の毛先にくるくると指を巻きつけて不遜に言い放った。
「私とシェーナ、それに《鈴の矢》のリーダーと……ついでにアンタ。この四人だけで先行すれば良いのよ」
「え、えええええ~~~っ!!?」
とんでもない提案に、私はひっくり返りそうになった。
「カティア、それはどういうことだ?」
シェーナも訝しげに問い質す。
「言った通りよ。団長以下の同僚達が片っ端から敵を蹴散らしてくれたお陰で、私達四人は全く戦ってないじゃない。私のクリスタルだって清潔な白さを保ったままだし、シェーナのも同じでしょ?」
「むう……。確かに、私の【聖なる護り石】もまだ魔のケガレに蝕まれてはいないが……」
自分のクリスタルを手にとって状態を確認するシェーナ。確かにカティアさんの言う通り、私達四人はブロムさん達に守られてばかりで全然働いていない。だから戦う活力だってまだまだ温存されてはいるけど……。
「カティア、出過ぎたことを言うな。此処までの道中だけでもあれ程の量の魔物が居たのだぞ。二層目は更に多く、手強い魔物が出没している可能性が高い。そんなところに、たった四人でなど……!」
「けど団長、このダンジョン内部で魔物の勢力が拡張されているというなら、どの道斥候役は必要になるでしょ?」
カティアさんはあくまでもふてぶてしい。なんで団長に対してこんな態度取れるんだろう、この人……?
「オーガが待ち構えている二層の様子はどんな風になっているのか。敵の戦力はどの規模にまで膨れ上がっているのか。一層目がこんな有り様だったんだから、たとえ騎士団の本隊が到着しても事前情報を得ずに二層目に突入するのは危険極まりないでしょ?」
「それはそうだが……」
「だーいじょーぶだって! 無理そうって思ったらさっさと逃げるから! それにシェーナだって居るんだよ? リョス・ヒュム族の彼女が一緒なら、生半可な敵は怖くないって!」
ブロムさんがシェーナを見やる。その視線を受けて、シェーナは胸を張った。
「団長、私もカティアに賛成です。我々は此処まで一度も戦っておらず、このまま引き上げては心苦しいのです。せめて二層目がどんな様子か偵察だけでもさせて頂けないでしょうか?」
「団長閣下、僕からもお願いします! 責任は僕が取ります、どうか先に進ませて下さい!」
シェーナに続き、デイアンさんもブロムさんに懇願する。
「軽々しく責任の話をするのは避けよ。一介の冒険者に負いきれるものではない」
「それでも、どうか……!」
窘められても、デイアンさんは退かなかった。
「あの……ブロムさん! わ、私も賛成ですっ!」
「シッスルくん……」
ブロムさんは厳しい眼差しを私に向けた。気圧されそうになるのを頑張って堪えて、私は言葉を続けた。
「わ、私は……っ! 大教会で誓いましたっ! 上は公の為に、下は無辜なる民の為に、魔法の力を使うって! こ、此処で引き上げちゃったら、その誓いが嘘になっちゃいますっ! そんな気が、するんですっ!」
「…………」
「そ、それに、ウィンガートさんも言っていましたよね!? 騎士団に、魔術士の指揮権までは与えられていないって! 私がおかしくなっちゃったりしない限り、私の意思に干渉するようなことはしないって!」
そう、確かに私は聴いた。魔術士は騎士団預かりの身分でも、心身まで隷属させられるワケじゃないって。制約は課しても、自由までは奪わないって!
「今のあんた、相当挙動不審だけどね……」
「ちょっと黙って、カティア!」
横からなんか茶々が入ってきたけど、私はブロムさんから目を逸らさずに続けた。
「な、なら……! 此処から先に行くというのは、私の意思ですっ! シェーナも、私の専属騎士だから付いてきて頂きますっ! よ、よろしいですよねっ!?」
精一杯胸を張って、私はブロムさんに言いたいことを伝えた。ビシィッ! っと勢いのままに指も突きつけてやろうかと一瞬思ったけど、流石に失礼過ぎるのでギリギリ理性にブレーキをかけた。
しばらく、沈黙が続いた。私の次に言葉を紡ぐ人は居らず、痛いほどの静寂が耳の奥を打つ。
は、早く……! 誰か、何か喋って……!
「……ふう」
静まり返った空気を破ったのは、ブロムさんの溜息だった。
「今は大事な【任務】に従事している身だから、現場責任者としての権限で……と言いたいところだがね」
呆れたような、困ったような、それでいて何処か嬉しそうな、複雑な感情がないまぜになった微笑みを浮かべるブロムさん。
「カティアが申した通り、斥候を出さねばならんことには変わりがない。全員で此処を引き上げ、改めて本隊の中から選抜するのは二重に手間が掛かるしな」
「……! それじゃあ……!」
私も、シェーナも、カティアさんも、デイアンさんも、皆一斉に眉を上げた。
「君達の提案を認めよう。ただし、危険を感じたらすぐに戻れ。良いな?」
一瞬頭が真っ白になり、次の一瞬で一気に昂ぶった。
「~~~っ! はいっっ!!」
「感謝致します、団長!」
「さっすが! 話が分かるぅ~!」
「ありがとうございます、団長閣下! 何とお礼を申し上げて良いか……!」
口々に感謝の言葉を述べる私達を、ブロムさんは苦笑いを混じえて制した。
「礼はこの務めを終えた後で良い。その為にも、必ず全員無事に帰ってこい。これだけは念を押しておくぞ」
「お任せ下さい! 決して、ご期待に背くようなことは致しません!」
力強い返事と共に綺麗な軍礼をするシェーナに倣って、私達三人も頭を下げる。
さあ、これで話もまとまった。
いよいよ、此処から先は私達四人だけで進むことになる。
最奥へと繋がる部屋の先、そこに蟠る暗闇を見据えて、私はしっかりと自分に言い聞かせるのだった。
最後の部屋で休憩をとっていた私達は、急に引き上げを決めたブロムさんに対し、納得が出来ないという風に説明を求めた。
「これを見てくれ」
そう言ってブロムさんが私達に示したのは、彼が持っている【聖なる護り石】だった。
「これがどうかしたんですか?」
デイアンさんは訳がわからないという表情をしたが、私はすぐに気付く。
「色が、濁ってる……!」
輝くような白い光沢を纏っていたクリスタルは、あちこちが黒いカビのような染みで覆われており、すっかり汚れてしまっていた。しかもその黒い染みは外から付着したものではなく、クリスタルの内側から滲み出したような感じがするのだ。
「これは、魔のケガレ……!?」
「知っているの、シェーナ?」
シェーナもカティアさんも、示されたクリスタルを見て眉をひそめている。騎士団員である二人の様子からして、良くない状態なのは間違いなさそうだ。
「聖術の過度な使用でこうなることはあるの。聖なる力が枯渇したせいで、悪しき魔の力が侵入するのを許して蝕まれた状態――と、国教会では考えられているわ」
「自分だけではない。皆のクリスタルも全てこのようになっている」
ブロムさんが目で促すと、彼の周囲に居た何人かの騎士達が自分のクリスタルを私達に見せてくる。やはり、同様に色が黒く濁っていた。
「此処に至るまで、予想以上の数の魔物と遭遇した。皆の安全を確保する為に、聖術を途切れさせることは出来なかったのだ。しかし、魔のケガレによる蝕みがここまで酷くなってしまっては、これ以上聖術を行使することは難しいだろう。無念だが……」
クリスタルを握りしめたブロムさんの拳は、ブルブルと震えていた。彼の内心がどのようなものか、それだけでよく分かる。
「変ね……。確かに聖術の使用頻度は多かったけれど、それでも一日でこれ程の魔のケガレが付着するなんて……」
カティアさんは顎に手を添えながら難しい顔でクリスタルを睨んでいる。
「魔族が現れた影響だろう。ダンジョンに漂う魔素エネルギーの濃度も、普段より濃くなっているのかも知れない。現にあれだけの魔物が発生していたのだ。【聖なる護り石】の消耗が早いのも頷ける話ではないか」
シェーナはこれまでの出来事を振り返り、もっともらしい理屈を述べた。が、カティアさんは今ひとつ納得がいかない様子でちらりと私を見た。
「シェーナはこう言ってるけど、あんたはどう思うの? 魔術士なら、魔素エネルギーの濃淡くらい分かるんじゃない?」
「ええっ!? む、無理だよ~! 魔素エネルギーなんて四六時中どこにでもあるものだし……」
魔素エネルギーは目には見えず、視覚化出来るような便利なものも無い。ただ空気に混じって、世界のあらゆる場所に厳然として“ある”ものだということしか分からない。それが魔術士達の間での常識なのだ。
そして魔術士達は普段からその魔素を無意識化で取り込んで魔力を蓄えている。仮に魔素の全く無い場所に置かれても急に魔法が使えなくなるなんてことはまず無いから、魔素の濃度なんて普通は意識しない。
ましてや、魔素の濃度が聖術の触媒たるクリスタルにどのような影響を及ぼしているのか、なんていうのも分かりようが無い。師匠の授業でも、そこには触れたことがなかった。
「つくづく当てにならないわね、あんた」
私の返答が相当気に入らなかったらしく、カティアさんは侮蔑を隠そうともしない眼差しで私を睨んだ。そんな目を向けられても、分からないものは分からない。
「そのクリスタルはもう使えないのですか?」
デイアンさんは諦めきれないようにブロムさんに尋ねた。
「大教会に戻り、清拭の儀で魔のケガレを清めれば再び問題なく機能するだろうが……。今、この場では望むべくもない」
ブロムさんは大きくため息を吐き、改めて私達を見た。
「これ以上の戦いは、不測の事態を引き起こす可能性が極めて高い。オーガと遭遇したところで、抜き差しならない窮地に陥るのが目に見えている。故に、我々だけで此処から先に進むのは控えるべきだと判断した」
そう言ったブロムさんの眼差しに、迷いは無かった。
「そんな……! それじゃあ、ミレーネさんは……!?」
デイアンさんに続いて私も食い下がったが、ブロムさんはそこで少し表情を和らげた。
「案ずるな、先程も言ったが任務を放棄するのではないのだぞ。第一、第三部隊に訓練の中止と西のダンジョンへの集合を命じる伝令は送っておいた。もう間もなく到着する頃合いだ。一度地上に戻り、彼らと合流した上で再突入する」
「あ……なんだ、私ったらてっきりこのまま完全撤退かと……あはは」
そうだった、元々今すぐ出動出来るのがこのメンバーだったってだけで、別に訓練の為に郊外に出ていた部隊を呼び戻していないワケじゃなかったんだ。私達はいわば先遣隊に過ぎず、これから本隊と合流して本格的なオーガ討伐に移行しようという話だったんだ。早とちりしたのが恥ずかしくなって、私はつい愛想笑いを浮かべる。
「ですが、もしも守護聖騎士団の部隊がまだ到着していなかったら……?」
二層目がもう目前にあるからか、デイアンさんはやはり後ろ髪を引かれるようだ。
「その場合は、来るまで待つしかないな」
ブロムさんの答えは至極当然のものだが、それを聴いたデイアンさんは俯いた。
「そう、ですよね……」
私はデイアンさんの心中を想い、密かに同情する。ミレーネさんを置いてきてしまった第二層まで後少しというところで一度引き返すなんて、彼からすれば受け入れ難いのだろう。
「何も、全員地上に戻る必要は無いでしょ」
「え? カティアさん……?」
カティアさんは、自分の赤い髪の毛先にくるくると指を巻きつけて不遜に言い放った。
「私とシェーナ、それに《鈴の矢》のリーダーと……ついでにアンタ。この四人だけで先行すれば良いのよ」
「え、えええええ~~~っ!!?」
とんでもない提案に、私はひっくり返りそうになった。
「カティア、それはどういうことだ?」
シェーナも訝しげに問い質す。
「言った通りよ。団長以下の同僚達が片っ端から敵を蹴散らしてくれたお陰で、私達四人は全く戦ってないじゃない。私のクリスタルだって清潔な白さを保ったままだし、シェーナのも同じでしょ?」
「むう……。確かに、私の【聖なる護り石】もまだ魔のケガレに蝕まれてはいないが……」
自分のクリスタルを手にとって状態を確認するシェーナ。確かにカティアさんの言う通り、私達四人はブロムさん達に守られてばかりで全然働いていない。だから戦う活力だってまだまだ温存されてはいるけど……。
「カティア、出過ぎたことを言うな。此処までの道中だけでもあれ程の量の魔物が居たのだぞ。二層目は更に多く、手強い魔物が出没している可能性が高い。そんなところに、たった四人でなど……!」
「けど団長、このダンジョン内部で魔物の勢力が拡張されているというなら、どの道斥候役は必要になるでしょ?」
カティアさんはあくまでもふてぶてしい。なんで団長に対してこんな態度取れるんだろう、この人……?
「オーガが待ち構えている二層の様子はどんな風になっているのか。敵の戦力はどの規模にまで膨れ上がっているのか。一層目がこんな有り様だったんだから、たとえ騎士団の本隊が到着しても事前情報を得ずに二層目に突入するのは危険極まりないでしょ?」
「それはそうだが……」
「だーいじょーぶだって! 無理そうって思ったらさっさと逃げるから! それにシェーナだって居るんだよ? リョス・ヒュム族の彼女が一緒なら、生半可な敵は怖くないって!」
ブロムさんがシェーナを見やる。その視線を受けて、シェーナは胸を張った。
「団長、私もカティアに賛成です。我々は此処まで一度も戦っておらず、このまま引き上げては心苦しいのです。せめて二層目がどんな様子か偵察だけでもさせて頂けないでしょうか?」
「団長閣下、僕からもお願いします! 責任は僕が取ります、どうか先に進ませて下さい!」
シェーナに続き、デイアンさんもブロムさんに懇願する。
「軽々しく責任の話をするのは避けよ。一介の冒険者に負いきれるものではない」
「それでも、どうか……!」
窘められても、デイアンさんは退かなかった。
「あの……ブロムさん! わ、私も賛成ですっ!」
「シッスルくん……」
ブロムさんは厳しい眼差しを私に向けた。気圧されそうになるのを頑張って堪えて、私は言葉を続けた。
「わ、私は……っ! 大教会で誓いましたっ! 上は公の為に、下は無辜なる民の為に、魔法の力を使うって! こ、此処で引き上げちゃったら、その誓いが嘘になっちゃいますっ! そんな気が、するんですっ!」
「…………」
「そ、それに、ウィンガートさんも言っていましたよね!? 騎士団に、魔術士の指揮権までは与えられていないって! 私がおかしくなっちゃったりしない限り、私の意思に干渉するようなことはしないって!」
そう、確かに私は聴いた。魔術士は騎士団預かりの身分でも、心身まで隷属させられるワケじゃないって。制約は課しても、自由までは奪わないって!
「今のあんた、相当挙動不審だけどね……」
「ちょっと黙って、カティア!」
横からなんか茶々が入ってきたけど、私はブロムさんから目を逸らさずに続けた。
「な、なら……! 此処から先に行くというのは、私の意思ですっ! シェーナも、私の専属騎士だから付いてきて頂きますっ! よ、よろしいですよねっ!?」
精一杯胸を張って、私はブロムさんに言いたいことを伝えた。ビシィッ! っと勢いのままに指も突きつけてやろうかと一瞬思ったけど、流石に失礼過ぎるのでギリギリ理性にブレーキをかけた。
しばらく、沈黙が続いた。私の次に言葉を紡ぐ人は居らず、痛いほどの静寂が耳の奥を打つ。
は、早く……! 誰か、何か喋って……!
「……ふう」
静まり返った空気を破ったのは、ブロムさんの溜息だった。
「今は大事な【任務】に従事している身だから、現場責任者としての権限で……と言いたいところだがね」
呆れたような、困ったような、それでいて何処か嬉しそうな、複雑な感情がないまぜになった微笑みを浮かべるブロムさん。
「カティアが申した通り、斥候を出さねばならんことには変わりがない。全員で此処を引き上げ、改めて本隊の中から選抜するのは二重に手間が掛かるしな」
「……! それじゃあ……!」
私も、シェーナも、カティアさんも、デイアンさんも、皆一斉に眉を上げた。
「君達の提案を認めよう。ただし、危険を感じたらすぐに戻れ。良いな?」
一瞬頭が真っ白になり、次の一瞬で一気に昂ぶった。
「~~~っ! はいっっ!!」
「感謝致します、団長!」
「さっすが! 話が分かるぅ~!」
「ありがとうございます、団長閣下! 何とお礼を申し上げて良いか……!」
口々に感謝の言葉を述べる私達を、ブロムさんは苦笑いを混じえて制した。
「礼はこの務めを終えた後で良い。その為にも、必ず全員無事に帰ってこい。これだけは念を押しておくぞ」
「お任せ下さい! 決して、ご期待に背くようなことは致しません!」
力強い返事と共に綺麗な軍礼をするシェーナに倣って、私達三人も頭を下げる。
さあ、これで話もまとまった。
いよいよ、此処から先は私達四人だけで進むことになる。
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