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第三章
第四十四話 法廷
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「うん、良い感じに映ってる。ほら、見てご覧なさいシッスル」
私は師匠に促されるまま大釜へと近付き、中でグツグツと煮沸されている薬液を覗き込んだ。
「わぁ……!」
途端、思わず感嘆の声を漏らす。さっきまで何とも名状しがたい、見るだけで病気を貰いそうなえげつない配色をしていた薬液は、いまや白銀に輝きながら表面に透き通るような解像度の高い映像を流している。
何処かの屋内のようだ。正面に壇が設けられ、左右にもずらりと聖職者達が並んでいる様は正しく『法廷』の様相を思わせる。
「あっ!」
壇の正面、左右の聖職者達の列に挟まれる形で中央に立たされている三人の後ろ姿を見て、私は思わず声を上げた。
見紛う筈も無い、真ん中に居るのはシェーナだ。彼女を挟む形で、ミレーネさんとモードさんもそこに立っている。
「師匠、シェーナです!」
「そのようね。正面の壇に座っているのは三大主教か。当然ながら、司法担当のウェイルズ爺が判事を務めているみたいね」
師匠は目を細めて壇上を見つめ、そこに座する三人の大主教達からひとりを名指しした。
ウェイルズ大法官、国教会の法務を司っている重鎮中の重鎮だ。彼が直々に、今回の法廷を取り仕切っているのか。
ちなみにユリウス大主教はシェーナ達から向かって右側。
そして左側に座っているのは残るもうひとりの大主教、行政担当のゴードン卿という。初めてイル=サント大教会を訪れたあの日、西神殿の第三礼拝堂で私に宣誓の儀式を施したのが彼だ。
いずれもかなりの年齢を重ねた老獪な聖職者であり、総主教聖下の手足に等しい存在であると言われている。
そんな彼らが、揃ってシェーナ達を……引いては私や他の魔術士達を裁こうとしているのか。
『皆、静粛に! これより、過日の全一特例作戦における数々の異常事態に関する審理を行う! これより先、くれぐれも私語は謹んで頂きたい!』
壇の中心に陣取るウェイルズ卿が、高々と法廷の開始を宣言する。お互いに顔を見合わせながらぼそぼそと話していた聖職者達――恐らく牧師と修道士階級――が一斉に粛然とし、会場は水を打ったように静まり返る。
「さて、国教会の狸親父達がどのような審理審問を行うのか楽しみだわ」
喜々として法廷の様子を楽しんでいる師匠と対照的に、私は酷く緊張していた。息を詰め、食い入るように視線はシェーナ達の背中と壇上の三大主教の間を往復する。
『さて、ではまずこの度の法廷開催を求めたユリウス卿から、事件のあらましを述べて頂くとしよう』
ウェイルズ大法官の指名を受けて、ユリウス大主教が緩やかに立って深々と一礼する。
『本来、我が求めに応じて下さったことに対して、大法官閣下にこの場で一言礼を述べるのが筋であるが、方々も薄々お察しの通り、此度の一件は決して看過できぬ大事であるからして、早速主題から入らせて頂きたい』
「結局、長い前置きをしていることには変わりないじゃない」
師匠が失笑する。……駄洒落じゃないよ?
と、馬鹿なことが頭を掠めている間も、液面の向こうでユリウス大主教の口述は続いていた。
『先日の全一特例作戦において、東西南北各方面で発生した魔物の群れに対し、我が国の誇る守護聖騎士団及び冒険者各位は実に見事な連携を見せ、速やかに事態の対処に当たってこれを収めたことは方々も記憶に新しいことと存ずる。しかしながら、一箇所だけ、誰にも予測し得なかった不測の事態が生じた戦場があったことを忘れてはならない。西部における、ダール丘陵の戦いである!』
ということは、あの異常事態に陥っていたのは私達が居た場所だけだったということか。全方面で同様の危機が頻発したわけじゃなかったことに対し、私は僅かながら安堵を覚えた。
ユリウス大主教は更に続ける。ここからが本題だ。
『同地において魔物を殲滅した時、なんとそこへ魔族が襲撃してきたというのだ。魔族はこともあろうにオーロラ・ウォールを模した防壁を作り出し、味方を中に閉じ込めてしまった。狡猾にも卑劣な策を巡らせて守護聖騎士達の【聖なる護り石】を穢し、彼らが聖術を使用出来ない状況に追い込んで抜き差しならない窮地へと追い込んだ。更に悪いことに、獅子身中の虫が隠していた牙を剥き出しにして味方に襲い掛かったのだ! その虫とは言うまでもない、魔素に侵され魔力を宿した、穢らわしい魔術士共である!』
「……っ!」
自分でも気付かない内に、私は強く拳を握り込んでいた。ユリウス大主教の言い方は悪意に満ちている。今のはまるで、魔術士達が最初から謀叛の気を持っていたと言わんばかりではないか。
『異議あり!』
法廷の中央から岩を穿つような強く鋭い抗議の声が飛んだ。シェーナだった。
『魔術士達が味方を攻撃したのは事実ですが、彼らの意思によるものではありません! ユリウス大主教猊下の申されたことは、魔術士達が悪意ある存在であると、この場に居られる方々に不当に刷り込もうとなさる不公平な陳述です!』
「シェーナ……!」
国教会の重鎮達を前にしても怯まず、堂々と異を唱えた彼女に思わず涙ぐみそうになる。ああ、今すぐにでも彼処に駆けつけて、シェーナを助けたい!
だが、大法官であるウェイルズ卿は、そんなシェーナの抗議を冷ややかに切って捨てた。
『汝の発言は許していない。法廷を乱す振る舞いは止めよ』
『しかし……!』
『二度は言わん。尚も逆らう心積もりであるなら即刻退廷を申し渡す』
取り付く島もない言い様に、シェーナも言葉を呑み込まざるを得ない。この画像から彼女の表情は窺えないが、私にはどんな顔をしているか分かる気がした。
「ありがとう、シェーナ……!」
届かないと分かっても、液面越しに感謝の言葉を送らずにはいられなかった。
と、そこで壇の隅の方から俄に手が挙がった。注意深くそちらを見直してみると、どうやら壇に併設する形で別枠の席が設けられているらしい。
『恐れながら、参考人としてこの場に召喚されております私めから発言させてもらって宜しいでしょうか?』
その声で、眼鏡を掛けた優しげな痩身で気付いた。
「ウィンガートさん!?」
良かった、彼もあの場に居てくれたんだ。久方ぶりに見る彼の姿に、私は大きな安心感を覚えた。
騎士団総長であるウィンガートさんなら、きっとシェーナ達の味方をしてくれる筈。
『守護聖騎士団総長のウィンガート卿、貴君の発言を認めよう。申したまえ』
果たして、ウェイルズ大法官から許可を貰ったウィンガートさんは静かに立って口を開いた。
『今しがたユリウス大主教猊下が申された通り、過日のダール丘陵における一連の出来事は決して無視出来ない脅威であると考えられます。しかしながら、ことの重大性を鑑みるに、正しい裁定へと至る為にはまず何よりも慎重な事実確認と綿密な検証が不可欠であると、私めは愚考する次第です』
『当然である。ことの大小に関わらず、法の公平性を損なわぬ為の基本と申しても良い』
ウィンガートさんの主張にウェイルズ大法官が大きく頷く。その隣の壇では、ユリウス大主教が「何をそんな当たり前のことを」と言いたげに憮然としている。
『であれば、最初の陳述でいきなり一方の責任を問うような御発言をなさるのは望ましくないのではありませんか? 魔術士達の身に何が起きたにせよ、事実を明らかにして正しく周知されなければなりますまい。しかるに、今日のこの法廷には魔術士側の代表者が出席しておらず、彼らの意見を聴くことが叶いません。その上で、冒頭から彼らの罪を決めつけるようなことを仰って宜しいのでしょうか?』
実に冷静で理知的な指摘だった。ウィンガートさんの発した問いは、ウェイルズ大法官のみならずこの場に居る全ての人間に、等しく考える機会を与えたのだ。
実際、ウィンガートさんの話を聴いた他の聖職者達の中には、私語こそ謹んでいるものの顔を伏せたり、表情に難しいものを浮かべたりしている人がかなり居るようだった。
『儂は粛正隊を率いて最初に現場に駆け付けた。そして我が目で、事態の深刻さを確かめたのだ。その場で魔術士達の拘束命令を下したのも、相応の根拠あってのこと。この措置に関しては、大法官殿も認めておられる。今や全ての魔術士は拘禁中の身であり、この法廷が終わるまで解くことは許されん。……尤も、お主が後ろ盾になっておる【エクスペリメンツ】の魔術士達を含む、ごく一部の例外はあるがな』
じろり、とユリウス大主教が鋭い目でウィンガートさんを睨む。それでも彼は動じなかった。
『【エクスペリメンツ】の魔術士達には何ら異常は起きておりません。言うまでもなく、かの場所は予てから魔界や魔素に関する研究を進めており、此度の事態を紐解くにも彼らの協力が不可欠になりましょう。総合的な観点から私はそう判断し、彼らの収監に暫時の猶予を頂くよう大法官閣下にお願い奉りました。そして、その訴えは受理されております』
『ふん、本当に事態の究明を視野に入れてのことなのか、それとも子飼の魔術士共を庇いたかっただけなのか、疑わしいところじゃわい』
『猊下、失礼ながらお言葉が過ぎるように思われます』
『なんじゃと!?』
段々と加熱する二人のやり取りを、ウェイルズ大法官の振るう小槌の音が止めた。
『静粛に! 法廷は私的な感情を戦わせる場所では無い!』
法を司る者にこう言われては、ユリウス大主教もウィンガートさんも黙らざるを得ない。ユリウス大主教は不満をありありと顔に浮かべて、ウィンガートさんは涼しい顔で一礼して共に席に座った。
『ウィンガート卿の申されたことにも一理ある。此度の一件は魔術士が深く関わっている事態故、彼らからも供述を取らねばならぬ。よって大法官の権限として、この法廷に新たに魔術士側の代表者を証人として召喚することとする』
魔術士側の代表者――。その言葉を聴いて、私は顔を上げて師匠を見た。
「……行く?」
「行きます」
楽しげに微笑む師匠に、私はきっぱりと告げた。
「私は当事者です、証人として最も相応しい。少なくとも、大法官がああ言った以上、顔を出して即逮捕とはならないでしょう。だったら、私には出廷する義務がある。行かなければならないんです」
これは、ウィンガートさんが作ってくれた機会だ。もしかしたら彼も、私の登場を待ち望んでいるのかも知れない。それに、シェーナ達が被疑者のように扱われるのを、安全な場所からただ指を咥えて眺めていたくない。
「行かせて下さい、師匠。私も、法廷で堂々と意見を述べます!」
《幽幻の魔女》は、期待通りに事が運んだと言いたげに愉悦の色を深くした。
私は師匠に促されるまま大釜へと近付き、中でグツグツと煮沸されている薬液を覗き込んだ。
「わぁ……!」
途端、思わず感嘆の声を漏らす。さっきまで何とも名状しがたい、見るだけで病気を貰いそうなえげつない配色をしていた薬液は、いまや白銀に輝きながら表面に透き通るような解像度の高い映像を流している。
何処かの屋内のようだ。正面に壇が設けられ、左右にもずらりと聖職者達が並んでいる様は正しく『法廷』の様相を思わせる。
「あっ!」
壇の正面、左右の聖職者達の列に挟まれる形で中央に立たされている三人の後ろ姿を見て、私は思わず声を上げた。
見紛う筈も無い、真ん中に居るのはシェーナだ。彼女を挟む形で、ミレーネさんとモードさんもそこに立っている。
「師匠、シェーナです!」
「そのようね。正面の壇に座っているのは三大主教か。当然ながら、司法担当のウェイルズ爺が判事を務めているみたいね」
師匠は目を細めて壇上を見つめ、そこに座する三人の大主教達からひとりを名指しした。
ウェイルズ大法官、国教会の法務を司っている重鎮中の重鎮だ。彼が直々に、今回の法廷を取り仕切っているのか。
ちなみにユリウス大主教はシェーナ達から向かって右側。
そして左側に座っているのは残るもうひとりの大主教、行政担当のゴードン卿という。初めてイル=サント大教会を訪れたあの日、西神殿の第三礼拝堂で私に宣誓の儀式を施したのが彼だ。
いずれもかなりの年齢を重ねた老獪な聖職者であり、総主教聖下の手足に等しい存在であると言われている。
そんな彼らが、揃ってシェーナ達を……引いては私や他の魔術士達を裁こうとしているのか。
『皆、静粛に! これより、過日の全一特例作戦における数々の異常事態に関する審理を行う! これより先、くれぐれも私語は謹んで頂きたい!』
壇の中心に陣取るウェイルズ卿が、高々と法廷の開始を宣言する。お互いに顔を見合わせながらぼそぼそと話していた聖職者達――恐らく牧師と修道士階級――が一斉に粛然とし、会場は水を打ったように静まり返る。
「さて、国教会の狸親父達がどのような審理審問を行うのか楽しみだわ」
喜々として法廷の様子を楽しんでいる師匠と対照的に、私は酷く緊張していた。息を詰め、食い入るように視線はシェーナ達の背中と壇上の三大主教の間を往復する。
『さて、ではまずこの度の法廷開催を求めたユリウス卿から、事件のあらましを述べて頂くとしよう』
ウェイルズ大法官の指名を受けて、ユリウス大主教が緩やかに立って深々と一礼する。
『本来、我が求めに応じて下さったことに対して、大法官閣下にこの場で一言礼を述べるのが筋であるが、方々も薄々お察しの通り、此度の一件は決して看過できぬ大事であるからして、早速主題から入らせて頂きたい』
「結局、長い前置きをしていることには変わりないじゃない」
師匠が失笑する。……駄洒落じゃないよ?
と、馬鹿なことが頭を掠めている間も、液面の向こうでユリウス大主教の口述は続いていた。
『先日の全一特例作戦において、東西南北各方面で発生した魔物の群れに対し、我が国の誇る守護聖騎士団及び冒険者各位は実に見事な連携を見せ、速やかに事態の対処に当たってこれを収めたことは方々も記憶に新しいことと存ずる。しかしながら、一箇所だけ、誰にも予測し得なかった不測の事態が生じた戦場があったことを忘れてはならない。西部における、ダール丘陵の戦いである!』
ということは、あの異常事態に陥っていたのは私達が居た場所だけだったということか。全方面で同様の危機が頻発したわけじゃなかったことに対し、私は僅かながら安堵を覚えた。
ユリウス大主教は更に続ける。ここからが本題だ。
『同地において魔物を殲滅した時、なんとそこへ魔族が襲撃してきたというのだ。魔族はこともあろうにオーロラ・ウォールを模した防壁を作り出し、味方を中に閉じ込めてしまった。狡猾にも卑劣な策を巡らせて守護聖騎士達の【聖なる護り石】を穢し、彼らが聖術を使用出来ない状況に追い込んで抜き差しならない窮地へと追い込んだ。更に悪いことに、獅子身中の虫が隠していた牙を剥き出しにして味方に襲い掛かったのだ! その虫とは言うまでもない、魔素に侵され魔力を宿した、穢らわしい魔術士共である!』
「……っ!」
自分でも気付かない内に、私は強く拳を握り込んでいた。ユリウス大主教の言い方は悪意に満ちている。今のはまるで、魔術士達が最初から謀叛の気を持っていたと言わんばかりではないか。
『異議あり!』
法廷の中央から岩を穿つような強く鋭い抗議の声が飛んだ。シェーナだった。
『魔術士達が味方を攻撃したのは事実ですが、彼らの意思によるものではありません! ユリウス大主教猊下の申されたことは、魔術士達が悪意ある存在であると、この場に居られる方々に不当に刷り込もうとなさる不公平な陳述です!』
「シェーナ……!」
国教会の重鎮達を前にしても怯まず、堂々と異を唱えた彼女に思わず涙ぐみそうになる。ああ、今すぐにでも彼処に駆けつけて、シェーナを助けたい!
だが、大法官であるウェイルズ卿は、そんなシェーナの抗議を冷ややかに切って捨てた。
『汝の発言は許していない。法廷を乱す振る舞いは止めよ』
『しかし……!』
『二度は言わん。尚も逆らう心積もりであるなら即刻退廷を申し渡す』
取り付く島もない言い様に、シェーナも言葉を呑み込まざるを得ない。この画像から彼女の表情は窺えないが、私にはどんな顔をしているか分かる気がした。
「ありがとう、シェーナ……!」
届かないと分かっても、液面越しに感謝の言葉を送らずにはいられなかった。
と、そこで壇の隅の方から俄に手が挙がった。注意深くそちらを見直してみると、どうやら壇に併設する形で別枠の席が設けられているらしい。
『恐れながら、参考人としてこの場に召喚されております私めから発言させてもらって宜しいでしょうか?』
その声で、眼鏡を掛けた優しげな痩身で気付いた。
「ウィンガートさん!?」
良かった、彼もあの場に居てくれたんだ。久方ぶりに見る彼の姿に、私は大きな安心感を覚えた。
騎士団総長であるウィンガートさんなら、きっとシェーナ達の味方をしてくれる筈。
『守護聖騎士団総長のウィンガート卿、貴君の発言を認めよう。申したまえ』
果たして、ウェイルズ大法官から許可を貰ったウィンガートさんは静かに立って口を開いた。
『今しがたユリウス大主教猊下が申された通り、過日のダール丘陵における一連の出来事は決して無視出来ない脅威であると考えられます。しかしながら、ことの重大性を鑑みるに、正しい裁定へと至る為にはまず何よりも慎重な事実確認と綿密な検証が不可欠であると、私めは愚考する次第です』
『当然である。ことの大小に関わらず、法の公平性を損なわぬ為の基本と申しても良い』
ウィンガートさんの主張にウェイルズ大法官が大きく頷く。その隣の壇では、ユリウス大主教が「何をそんな当たり前のことを」と言いたげに憮然としている。
『であれば、最初の陳述でいきなり一方の責任を問うような御発言をなさるのは望ましくないのではありませんか? 魔術士達の身に何が起きたにせよ、事実を明らかにして正しく周知されなければなりますまい。しかるに、今日のこの法廷には魔術士側の代表者が出席しておらず、彼らの意見を聴くことが叶いません。その上で、冒頭から彼らの罪を決めつけるようなことを仰って宜しいのでしょうか?』
実に冷静で理知的な指摘だった。ウィンガートさんの発した問いは、ウェイルズ大法官のみならずこの場に居る全ての人間に、等しく考える機会を与えたのだ。
実際、ウィンガートさんの話を聴いた他の聖職者達の中には、私語こそ謹んでいるものの顔を伏せたり、表情に難しいものを浮かべたりしている人がかなり居るようだった。
『儂は粛正隊を率いて最初に現場に駆け付けた。そして我が目で、事態の深刻さを確かめたのだ。その場で魔術士達の拘束命令を下したのも、相応の根拠あってのこと。この措置に関しては、大法官殿も認めておられる。今や全ての魔術士は拘禁中の身であり、この法廷が終わるまで解くことは許されん。……尤も、お主が後ろ盾になっておる【エクスペリメンツ】の魔術士達を含む、ごく一部の例外はあるがな』
じろり、とユリウス大主教が鋭い目でウィンガートさんを睨む。それでも彼は動じなかった。
『【エクスペリメンツ】の魔術士達には何ら異常は起きておりません。言うまでもなく、かの場所は予てから魔界や魔素に関する研究を進めており、此度の事態を紐解くにも彼らの協力が不可欠になりましょう。総合的な観点から私はそう判断し、彼らの収監に暫時の猶予を頂くよう大法官閣下にお願い奉りました。そして、その訴えは受理されております』
『ふん、本当に事態の究明を視野に入れてのことなのか、それとも子飼の魔術士共を庇いたかっただけなのか、疑わしいところじゃわい』
『猊下、失礼ながらお言葉が過ぎるように思われます』
『なんじゃと!?』
段々と加熱する二人のやり取りを、ウェイルズ大法官の振るう小槌の音が止めた。
『静粛に! 法廷は私的な感情を戦わせる場所では無い!』
法を司る者にこう言われては、ユリウス大主教もウィンガートさんも黙らざるを得ない。ユリウス大主教は不満をありありと顔に浮かべて、ウィンガートさんは涼しい顔で一礼して共に席に座った。
『ウィンガート卿の申されたことにも一理ある。此度の一件は魔術士が深く関わっている事態故、彼らからも供述を取らねばならぬ。よって大法官の権限として、この法廷に新たに魔術士側の代表者を証人として召喚することとする』
魔術士側の代表者――。その言葉を聴いて、私は顔を上げて師匠を見た。
「……行く?」
「行きます」
楽しげに微笑む師匠に、私はきっぱりと告げた。
「私は当事者です、証人として最も相応しい。少なくとも、大法官がああ言った以上、顔を出して即逮捕とはならないでしょう。だったら、私には出廷する義務がある。行かなければならないんです」
これは、ウィンガートさんが作ってくれた機会だ。もしかしたら彼も、私の登場を待ち望んでいるのかも知れない。それに、シェーナ達が被疑者のように扱われるのを、安全な場所からただ指を咥えて眺めていたくない。
「行かせて下さい、師匠。私も、法廷で堂々と意見を述べます!」
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