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本章・わくわくえちえち編

#25・【???回】歯壊業者に狙われるとどうなるのか?

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俺は、ここ最近新事業で大成を収めた悪魔だ。
これが意外と稼げるからやめらんねぇんだよな。

この事務所でゴロゴロしてるだけで
客は寄ってたかって来るしマジうまうま。

――ぴーんぽーん。

ほらな、来るだろ。
……ほぅ、こんな少女が来る事もあるんだな。
世の中何があるか分かったモンじゃねぇ。

インターンホンに応じて、
俺は彼女を茶の間へ上げる。

「あのぅ……ここが歯壊業者で合ってますか。」
「あぁ、その通りだ。
んで、お前みたいな若い娘が何の用だ?
依頼料も払えんのか。」

そう。
俺が始めた新事業というのは〈歯壊業者〉はかいぎょうしゃ
読んで字の如く、デンタルクリニックとは
真逆の事をする悪徳業。

これが案外売れるんだよなぁ。
なんせ人間の印象の大部分は口が占める。

どんなに見た目や性格が良かろうが、
そこさえ壊してしまえば基本的に
人間関係は壊れる。

大金を入手すると同時に経験してきた事実だ。

必死こいて話題のヒゲ脱毛したって、
ムダ毛を話題の除毛剤で完全処理して
モテスベ肌になろうが。
特殊なダイエットサプリで
イケイケな細マッチョになろうが。

口さえ破壊すれば上記全ての努力を
台無しに出来る。
外面だけの清潔感で
調子に乗る時代は終わったんだよ。

「これくらいあれば充分ですか。」

お、割といい額持ってんじゃん。
しっかし人間っつーのは嫉妬深い生き物だなぁ。

自分より優れた人間を地に落とす事に
必死過ぎだぜ。
まぁ、調子乗ってる奴が地に落ちる様は
俺も大好物だけどよォ。

「分かった。んで、依頼対象はどんな奴だ。」
「この子です。」

彼女はテーブルの上にサッと写真を置く。
その写真には不思議な雪女が映っている。

「おーおー、こりゃえらい別嬪だな。
悪い子には見えねーぞ。
この一本角が凶器なんか?」
「違います。」

「ほーん。じゃ何だ。」
「私、好きな幼馴染君がいるんです。」
「うんうん。」 

「彼女の隣に男居ますよね。」
「うん……確かにおるなぁ。
イケな部類の吸血鬼君ですなぁ。」
「彼、彼女の婚約者なんですよ。」

んー、早く本題に移らんかいな。

「そのソースは?」
「彼女本人に聞きました。」
「だったら彼女に
お願いして問題解決するんとちゃいます。」

「出来たらここに来ませんよ!」
「おっとっとぉ。これは失敬。
でも話は見えてきたで。幼馴染君が
この雪女ちゃんに釘付けっちゅー事やな。」

なんか意外と可愛い嫉妬やんなぁ。
今までの依頼者達はみんな残酷な理由やぞ。

「はい。サユキファンクラブとかいう
謎の組織の会員になってから
私を彼女として見てくれなくなったんです。」
「いやもうお付き合いしてるんかい。
ちなみに、規模はどんくらいなんや。」
「軽く15万は越えてるかと……」

「銀の盾貰えそうな規模やないか。」
「銀の盾どころじゃないですよ。
組織の力で我が校全美少女サーバー1位の座まで
占拠した悪女です。」

そんなんおらんくても1位取るやろ。
めちゃくちゃ美人やぞこの雪女。
人柄も良さそうだし。

「なぁ嬢ちゃん。このファンクラブ 
どうやって入会出来るん?」
「は? これから歯を壊す相手のファンクラブに
入るとか意味分からないんだけど。
アナタまで彼女に肩入れするんですか。」

「そ、そうゆう訳じゃなくてやな。
ほらよく言うやろ。敵を欺くなら味方からって。」
「あー! そうゆう事ですかぁ!
さすが悪魔さんです!!」

今一瞬だけど、この子
とんでもない目してなかったか。
何気なく彼女の逆鱗に触れたんか俺。

「……勿論、壊してくれますよね?
幼馴染君は私だけを見てればいいんです。
あの悪女を天から地獄に落として下さい。
貴方の実力で、貴方の実力ででで、
あの女をあの女をあの女をををを……」

嫉妬の理由は可愛いが、
執念で言えば今まで見てきた
依頼者の中で飛び抜けて恐ろしい。

終わりが見えないどこまでも黒い目。
そこにあるのは深い深い執念。

「……もし出来なかったらぁ~
悪魔さんの悪行を世に晒します♪
懲役何年になるんでしょうかね~。ふふっ。」

因果応報というべきか。
ツケは回り回ってくるもんやな。
こんなイカれた客が来るんなら、
やんなきゃ良かった。

そうだ。
この依頼が終わったら足を洗おう。

「分かった。俺がやったる。」
「ありがとうございます♪」



俺が依頼者から言われた依頼。
それは、サユキという少女の口破壊。
目的は彼女を幻滅対象にし、
ファンクラブを崩壊させる事。

そしたら依頼人ちゃんは晴れて
幼馴染君と結ばれるって算段や。
ついでに、悪女を懲らしめられる特典付きで。

という訳で、嬢ちゃんからの情報を元に
ターゲットの家へ忍び込む。
当然素の大きさだとバレるので
自身に収縮魔法をかけている。

ターゲットとその婚約者は
何も知らぬ様子でテレビに釘付けだ。

「見て見てーアック。
最近のニュースだとアイドルや芸能人の
歯がボロボロになったり口臭がヤバくなる
怪奇現象が多発してるらしいよ~。」

「なんだそのアホみたいな怪奇現象。
サユってそうゆうの信じるのか。
それとももうなってんのか?」
「いー」

「何だ普通じゃねぇか。いや普通っつーか。
めっちゃ真っ白だし歯並び完璧じゃねぇか。
ホワイトニングとか矯正とかしてんの。」
「してないよー、これ天然。」
「最強かよ。流石俺の嫁。」
「ぶっとばすよ?」

悔しいがあの吸血鬼の言う通りだ。
天然は絶対嘘だろ。

ま、今からぶっ壊すし関係ねぇか。
いざ、突撃ッ!!

――すとっ。

おし。これで歯の上での着地は完了だ。
着地出来たのは良しとして。

「さっむ、ここ本当に口内かよ。
氷山じゃねぇか。」

そういや雪女の口内に入るのは初だな。
雪女ってみんなこんなモンなのか。
ある意味勉強になるな。

寒がってぶるぶるしてる場合じゃねぇな。
さてと、まずは様子見だ。

「――《歯壊魔導具デンタリア・トーテムNo.01・マウスブック》」

説明しよう。
マウスブックとは、口内環境を丸裸にする
俺お手製魔導書である。

これによって弱点部位を発見し
破壊活動に役立てるのだ。

歯は三層構造で出来ている。
エナメル質、象牙質、歯髄。
皆が美白と視覚しているのは象牙質と呼ばれる層。

これを白く見せる為に一役買ってるのが
一番外側にある半透明の層、エナメル質。
2~3ミリ程度の厚みしかないものの、
人間の中で最も硬い部位。

されど、デリケートな部位である。
要するに、ここにダメージを与えれば
歯はたちまちダメになる。

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

口内環境・SSS
歯の清潔さ・SSS
歯間の清潔さ・SSS

歯並び・SSS
歯の美白・SSS

歯垢・無し
舌苔・無し
におい玉・無し
虫歯・無し
口臭・無し(付与効果・ライムミントガム)

習慣リザルト
起床・10分(歯磨き/マウスウォッシュ/ガム)
朝食後・10分(歯磨き/歯間ブラシ/ガム)
昼食後・10分(歯磨き/歯間ブラシ/ガム)
夕食後・10分(歯磨き/歯間ブラシ/ガム)
就寝前・10分(歯磨き/マウスウォッシュ/ガム)

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

事あるごとにガム噛み過ぎだろこの女。
どんだけ噛むんだよ。顎外れないんか。

ブレスのケアガチ勢なのか
ガム大好きっ娘なのかハッキリしろ。
にしても過剰だけどな!!

つーか、不思議やな。
普通の歯磨き粉やマウスウォッシュでは
口臭の元となるタンパク質や
バイオフィルムは落ちない。

可能性とすれば、ネット通販金冠クラスの
一級マウスケア用品を日常的に
使ってる事くらいや。

……ふっ。
たかが日用品に数十万単位費やす貴族どもめ、
痛い目見て貰うでぇ……そろそろ目の覚め時や。

「しっかし驚いた。こりゃマジの天然モンだ。
神の手が加わってるとか
じゃなきゃ説明つかねぇぞ。」
「ソーDAネ☆」
「ってお前誰だ!?」

可笑しい。
先ほどまで俺以外がここに居る気配は無かった。
この喋るスローロリスみたいな魔獣は
どっから湧いた? それとも同業者?

「あのぅ~君みたいな下等生物と
一緒にしないでくれるかナ?
こう見えてボク偉大な存在だヨ。」

今、心を読んだ?

「ただの魔獣じゃねぇのか。」
「まー、彼女の口内環境を司る魔獣みたいな
モノだと思ってくれて構わないヨ。」

「そんな守護獣に会うの俺初めてだぞ。
世界は広いなぁオイ。この綺麗過ぎる
口内環境がお前の力というなら納得がいくぜ。」

成る程、俺と真逆の事をやってるとはいえ
ある意味で同業者っつー訳か。

「あと、勘違いしないで欲しいケド……
この完璧な口内環境を作り上げたのは
彼女自身の美意識と努力によるモノだヨ。
ボクは1割しか手を加えていない。」
「いらん情報どーも。」

さっきから何なんだこの守護魔獣。
一体何が目的で。

「あとぉ~同業者の誼で忠告してアゲる。
彼女の口内環境を破壊するなんて
考えない方がいい。」
「何だ? お前が俺を潰すのか?」

かかってこいや。
こっちは臨戦態勢が整ってんだよ。

「君をボクの手で直接潰してもいいケド……
その必要が無いんだよネ☆」
「へっ、守護獣のクセに職務放棄かよ!」
「それは違う。
無益な殺生が趣味じゃないだけサ。」

「無益? 馬鹿言うんじゃねぇ。
これからコイツの
口内環境はボロボロになるんだぜ!!」
「ならないヨ。だって彼女強いモン。
っつー事で最後の忠告ダ……今すぐ立ち去りナ☆」

「はいそうですか。って終われる訳ねぇだろ!
こちとら仕事なんだよ!
優しくして貰って悪ぃが散って貰うぜ!!」

自慢の悪魔パンチでも喰らいやがれ!!

――すかっ。

「……消えた? ハッ、とんだチキン魔獣だな!
マジで職務放棄する雑魚じゃねぇか!」

と虚勢を張っても、
内心ビビっている自分が居た。

あのスローロリス魔獣から
得体の知れない力を感じたんだ。
きっとそれは、
俺の想像を遥かに越える代物に違いない。

そんなの自覚したって、
俺のやる仕事は変わらない。
やんなきゃ豚箱行きになるだけだ。

「歯壊魔導具No.02・黄ばみペンキ。」

説明しよう。
黄ばみペンキは名前通りの能力を持つ。
それだけではなく、エナメル質を溶かし
歯壊作業をよりしやすくするんだ。

我ながらいい発明である。

「へっへっへ。
気の毒だがボロボロになって貰うぜ!!」

――カキンッ!

刷毛がカチコチに凍結してやがる。
それだけじゃねぇ、ペンキの方も固体化してる。
不味いな。
ここが氷点下っつー事を完全に忘れてた。

「くそぉ!!」

だがなぁ、このアイテムは所詮ジャブに過ぎない。
本番はこれだ。

「歯壊魔導具No.03・ブレイクピッケル」

No.02でデバフをかけて
使うのが基本スタイルだが、
状況が状況なんで直接行くしかねぇ。

「ぶっ壊われろぉぉおおおお!!!」

――カキンッ!

体を後ろへ反らせ、渾身の一撃を振るう。
ピッケルは反動で吹っ飛び、
前歯の歯間に挟まった。

「おいおいおいおいっ! 
雪女の歯っつーのはこんなに頑丈なのか!
化け物種族にも程があんだろ!!」

嘆いたって答えは出ない。
何が原因で硬いのか。
それを知るしか攻略の糸口はない。

触れて観察しよう。

「この透明で冷たい層、エナメル質じゃあねぇ。
そうか……氷の装甲か。」

また一つ、雪女の生態に詳しくなった。

「しゃーねぇ、歯の方はお手上げだな。
けどよォ……まだあるんだぜ。
歯壊魔導具No.04・ニンニクドリアン手榴弾。」

これで爽快なライムミントの
香りともおさらばだ。
恨むなよ。
手榴弾のピンを引かせたのはアンタなんだぜ。

「……ぐっ、カチコチに凍って取れねぇ。」

どうしよ。万策尽きた。
すまん依頼人ちゃん。相手が悪かった。

「あー見てアック! 
野生のケセランパサランだよぉ!」

何、ケセランパサランだと?

「おいおいサユ、面白れぇからって
あんま顔近づけんなよ……って聞けよ!?」
「ふぇ……ふぇ。」

あ、この予備動作。オワタ。

「くしゅんっ!!」

「――くそぉぉおおおぅうう!!」

ターゲットの口から俺は追い出された。
そして、追い討ちをかけるように
くしゃみの勢いで飛び出たピッケルが背に刺さる。

あまりの激痛に、思わず収縮魔法が解けた。

「痛ぇえええええっ!!!」
「「――誰?」」

マズイっ。ここは自然に誤魔化そう。
きっと何とかなる筈だ。

「あ、俺は怪しいモノじゃないっす。」
「コイツか? さっきからサユの口内で
イタズラしてた奴。」

あれ? 俺バレてます?
嘘ん。今の今までバレなかったんだぞ。

「えぇ、間違いないわ。契約獣の予言が
なければ私、……今回詰んでましたもの。
さぁ~てイタズラ君。
洗いざらい吐いても・ら・う・わ・よ♡」

帯電する雪女の笑顔が、合図だ。

この日、俺の歯壊業者としての人生は
終わりを迎え。
地獄の牢獄生活が始まるのであった。
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