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終章・らすとぱーと編

#45・【???回(中編)】転生TSっ娘が実母に会うとどうなるのか?

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「ジーディぃぃいいい!!」

我を忘れて泣き喚くネネコの所為で、
私は正気に戻った。……耳が痛い。
彼女が落ち着くのは少し時間がかかりそうだ。

「おや、フィエルナよ。急に冷静になったのぅ。」
「まぁ、私はネネコと違って
真面目ちゃんですので。」

「知っとるか? 本当の真面目は自分の事を
真面目とは言わんのだぞ。」

「うっさいわね! 
私達の為に身体を張ったのは分かるけどさ!
この変な卵2つはいるの!?
更に寿命縮めてまでする事じゃないじゃん!!」

恥ずかしさを誤魔化すように叫び、
卵2つを指差す。

「うむ、その件であるか。
簡単な話じゃ……
お嬢ちゃん達、生きる目的を見失ってないか。」

「……生きる、目的?」

考えてみれば、そうだ。
逃げる事も出来たはずなのに、
逃げようもとしなかった。

心のどこかで死を受け入れていたんだ。
……あの火事の時も。

みんながいない世界なんて、要らないって。

「ふむ。心当たりがしっかりあるようじゃのう。」
「じゃあこれって……」

ジーディは頷いて応えた。

「お主らの子であり、生きる目的。
彼女らを産むまで決して命を絶つなかれ。
産まれる前からお主らと同じ人生を押し付けても
いいと思うなら、話は別じゃが。」

納得出来ない。
ジーディも、ネネコも。
ただの友達に対して、どうして身体を張れるのか。

「フィエルナ、お主はまだ若い。
子を持つ母になればいずれ分かる。」

「……意味わかんないです。
それに、何故生まれてくる子が女の子だと
分かるんですか?
精霊に性別は無いし、人の形で産まれるかすら
分からないんですよ。」

「そうじゃな。だが、精霊の産まれる仕組みは
お主らも知っておろう。
身近な思念や魔力を吸収、蓄積して体を成す。
この卵の主人がお主らであれば必然ではないか。」

確かに、言われてみれば筋が通る理屈だ。

「フィエルナちゃん。私、この子を産みたいっ!
でさ! どっちが可愛い子を産むか勝負しよ!」

さっきまでの号泣が嘘のように暑苦しい。
その勝負魂はどこから湧いてくるの?

頼むからネネコの子は
真逆のクールキャラで産まれて欲しいな。
この熱量が遺伝したら面倒を見るのが大変だよ。

「ふぉっふぉっふぉ! 面白いのぉ!」
「違うわよジーディ! 面白いのはネネコの
勝負魂であって私じゃないから!!」

「知っとるわい。」
「~~っ。」
「おうおう恥ずかしいか? 恥ずかしいか?
穴があったら潜りたくてしょうがないのかぁ?」

「くたばれシニアドラゴぉぉおんっ!!」

ゲンコツを炸裂させた。

「……はぁ、はぁ。」
「ふぉっふぉっ。まだまだ若いのぅ。
儂をくたばらせるには後100年早いわい。」

「ジーディ、たんこぶの数凄い事になってるよ。」
「言うでないネネコ!
儂だって強キャラ感出しときたい
お年頃なんじゃよ!!」

「はいはい。そーゆー事にしといてあげる。」
「フィエルナ、儂の事見下してるじゃろ!?」
「見下す訳ないでしょ。
ジーディは私達の恩人? だし。」

竜なので恩人というべきか迷ったけど、
ジーディに伝わってるようだ。
険しい顔立ちが綻んだのを見るに、間違いない。

「そうかそうか。フィエルナは良い子よの~。」

いい子だったら、こんな目に合わない。
生きるためとはいえ、盗みだってしたんだ。

それよりも。

「ジーディ、助かったのはいいんだけどさ。
この先、私達の行くアテってあるの?」
「――ハッ! そうだよフィエルナちゃん!
どうしよどうしよー!!」

状況を掴むのがワンテンポ遅い
ネネコが急にあたふたし出す。
その様子を一瞥し、ジーディへ向き直る。

「あるに決まっておろう。
儂とて無策でお主らの前に現れる
馬鹿ドラゴンじゃないわい。乗れい。」

「わかった! とりあえず乗ればいいんだね!」
「えぇ。」

言われるがまま、ジーディの背に乗る。
そこに、老いる前の逞しい乗り心地はもう無い。
弱々しくて、どこか頼りない背中だった。

きっと彼が時間を削って得た代償は、
私達が知る範囲よりもずっと広く、重くて……

「では、羽ばたくぞい!!」



~雪原都市・シューアイス

「――お前、ジーディか!?
その姿……何があったんだよ!!」

ジーディが羽ばたいて連れてきた場所は、
雪原都市にある一軒家。
雪女である私は寒気や冷気を感じないが、
ネネコはガクガクと寒さに震えていた。

平均気温マイナス5度の都市では、
彼女の熱量も意味を成さない。
お気の毒だ。

出迎えて来たのは、私達と同世代の男の子。
普通親が先に現れると思うんだけど?

「おう、ヒョウ坊。相変わらず元気よのぅ。」
「ジーディの方は全然元気じゃねーな!
それに、女の子2人誘拐するとか
意味分かんねーよ!!」

「お嬢ちゃん達と同棲してくんねーか。」
「人の話聞けよジーディ!!
見た目通り耳も遠くなったのか!!」

ヒョウ坊と呼ばれた少年は、 
ガミガミとジーディを叱りつける。

行くアテがあるとか言いながら、
あちら側が全力否定してる。
本当に上手くいくか心配になってきた。

「カッカッカ! ヒョウゲン。
嬉しくないのか!!」
「おっ、親父ぃ!?」

そうこうしてる内にまさかの親父登場。
場は益々乱れていくばかりだ。

「うっ、嬉しいに決まってんだろ!」

ヒョウゲンの父は、照れる息子を笑い。
こちらへ向く。

「ジーディ、その2人は我が妻の孤児か?」
「如何にもだ。
ツメタオ、例の事件は知っておるだろう。」

「あぁ、孤児院焼失事件。
関係者や子供が全員焼死したと報じられたが、
生きていたんだな。」

このおじさんが、マザーの夫。
成る程ね、ジーディにしては中々にいい提案だ。

「私はネネコ! よろしくです!!」

いきなり自己紹介!?
何その目、私もやれって? 
……全く。しょうがないわね。

「……フィエルナです。」

「うんうん。礼儀正しくて良い子じゃないか。
おじさんはツメタオだ。で、この息子は……」

「うるせぇ!
自己紹介くらい自分で出来るっつーの。」

少年は、父に噛み付く勢いで言い出した。
なぜ胸まで張るのだろう。

「俺は、ヒョウゲン・オリバーティア!
これからお前ら2人を子分にする兄貴の名だ!」

「うっす! ヒョウ兄ぃ!!」

ネネコ、何でそんなに飲み込みが早いの。
受け入れる事も確かに大事だけど、
簡単に他者を信用すると碌な目に遭わないよ。

ここは私がキツく言うしかないわね。

「ネネコ、騙されないで。
彼、どう見ても私達と同い年でしょ。
一応居候としてお世話にはなるけど、
兄妹ごっこなんてしなくていい。」

「そうなの!?」
「そうよ。」

良かった。
ネネコは単に騙されてただけみたい。

「ざけんな!! 
お前らが何と言おうが子分に――痛ぇっ゛」

調子に乗ったヒョウゲンに
父のゲンコツが振りかかる。
少年は出来たての
腫れたたんこぶを両手で覆った。

よく見れば、瞳が潤んでいる。

「痛ぇーなクソ親父ィ! 何すんだ!」

「すまないねぇ嬢ちゃん達。
このバカ息子、
妹が欲しいとか毎晩言ってくる悪い子なんだ。
もし彼が何か変な事をするようであれば、
おじさんに言ってくれ。しっかり躾けてやる。」

不思議だ。
このしっかりしたお父さんから、
どうしてこんな息子が産まれるのか。
……疑問が沸々と湧いてくる。

「無視すんな親父! ぶっ飛ばすぞ!!」
「3日間飯抜きにするぞ?」
「許して下さいお父様ぁぁあ!!」

躾の方法が想像以上に恐ろしかった。
この年で土下座を覚えてる彼も彼だ。

ツメタオおじさんを怒らせないよう、
私達も細心の注意を払って生活しよう。



その晩。

ネネコに呼び出された。

呼び出された場所は、オリバーティア家の庭。
座り心地の良さそうな岩に腰を掛け、
彼女は待っていた。

彼女は、精霊の卵を大事そうに抱えている。

何を話そうとしてるのか
なんとなく予想がついたけど、
私は無言で隣に座った。

「フィエルナちゃんも、卵出してごらん。」
「分かった。」

インベントリ魔法で収納していた
精霊の卵を取り出し、ネネコと同じように抱える。

「私ね、もうこの子の名前決めたんだ。」

優しい目で、
彼女はスイカ2個分サイズの卵を撫でた。

「名前?」
「シギャク。」
「シギャク?」

「そう。逆風を支配する勇敢な子に
産まれて欲しい。だから、シギャク。
ほら、私達って逆風ばかりの人生じゃん。
……この子にはね。逆風が吹いた時、
ジーディやおじさんが居なくても 
笑って生きられる逞しい子に育って欲しいの。」

普段の振る舞いからは予想外な、彼女の本心。
何も考えてないようで、
実は私よりずっと未来を見据えて考えてる。

その事実に、胸が苦しくなる。

「いい名前だね。私じゃ思いつかないよ。」
「フィエルナちゃんって人褒めるの下手だよね。」
「自己中なアホの子よりはマシかと。」
「うにゃ!?」

怒りよりも先に驚愕が出る辺り、
本物の天然ちゃんだ。

「そういうフィエルナちゃんは
名前とか決まってるの?」
「決まってない。
名前は、産まれてから決めようと思う。」

「どうして?」
「ジーディが言ってたでしょ。
この卵は他の精霊卵と異なり、
異界の魂を宿す性質を持つって。」

「うん。」
「鑑定すれば、
その子の前世の名前だって見れる。
私は、その名前を参考にして名付けたい。」

「発想力なさそうなフィエルナには
ぴったりの方法だね!!」
「ネネコちゃん、あなたもゲンコツいる?」



それから13年後。

私はヒョウゲンと結婚し、二児の母になった。

そして、
魔王軍幹部という職業に就いていた。

地位と財力で貴族に成り上がった
オリバーティア家に怖いものは無かった。
何不自由無い。
順風満帆の夫婦生活そのものだったから。

対して、ネネコの方は〈あの街〉に帰り
孤児院の運営を始めた。
マザーの意思を継ぐとかなんとか。

私には理解できない。
……けれど、
彼女が選んだ未来を否定するつもりはない。

――バサァッ。

そんなことを振り返りながら、
庭で洗濯物を干してる最中。
……背後に竜が降り立った。

振り返って確認すると、
とても見覚えのある竜がそこに居た。

「ジーディ、久しぶりね。何の用?」
「久しぶりよのぉフィエルナ。
ほっほっほ! 魅力的な女性に成長しおって!!」

「うるさい。早く用件を話して。」

「フィエルナも知っておろう。
もうすぐ〈卵〉が孵化する。
ならば、儂が来た理由も自ずと分かるな。」

「説明放棄するくらい老いたのね。
いいわ、私を連れて行き来なさい。
――ネネコの所へ!!」



本当は家族の皆と出生を見て祝いたかったが、
これはネネコとの約束。
――意地でも守り抜く。

老いて尚。
活き活きと羽ばたく竜翼が降り立つは故郷。

「久しぶりだねフィエルナちゃぁあんっ!」

――バッ!!

私が言葉を発するよりも先、
彼女は飛びついて抱きついてくる。

7年ぶりの再会だというのに
暑苦しいったらありゃしない。
とりあえず両手を伸ばし引き離す。

「んもぅっ! つれないなぁっ!!」
「過度なスキンシップを
やりに来た訳じゃないからね。」
「冷たいっ!」

「雪女だから当たり前よ。」
「そういう意味じゃない!!」

なんだかんだ
変わってなくて安心する。
ネネコはあの頃のまんま、快活で元気な子だ。

「で、どこで卵の孵化を見守るの。」
「えっへん! そこはもう決まってるよ!
行こう! フィエルナちゃん。」

ネネコに手を引かれて連れてかれた場所。
そこは、私と彼女が薪割り勝負に
情熱を燃やした広場だ。

広場と呼んでるが、
実際は森の中を進んだ先にある開けた所だ。
薪割り用の切り株が5つだけあって、
綺麗に整地されてる。

ここも当時と変わらない姿で嬉しい。

「さぁ、ここに置いてっ!!」

ネネコが指差したのは、真ん中の大きい切り株。
彼女がよく薪割りに使ってた台だ。

言われた通り、その台へと精霊の卵を置く。

――瞬間。

卵は淡く光を放ち、左右に揺れた、
上から亀裂が入りヒビが広がっていく。

「凄いよフィエルナちゃん! もうすぐだ!!」
「分かってるわよ。」

――パァンッ!

卵が割れた風船のような音を立てて破裂し、
殻が粉々に吹き飛ぶ。

耳に入る生命の産声に、
思わずネネコとハイタッチした。

「やったね! 産まれたよフィエルナちゃん!」
「うんっ、凄く嬉しい!!」

さっそく私は赤子を観察した。
自分と同じ、白く澄んだ柔肌。
そして麒麟由来の美しい一本角。

自ら産んだ赤子を見るのは、
これで3回目になるけど、新鮮だった。
今まで産んだどの我が子より
神々しく、愛おしく見えた。

ヒョウゲンの血が1ミリも入ってないのに。

13年という長い時と愛情をかけて
産まれた奇跡に、涙が止まらない。

「ほぉらっ。
二児の母が3度目で泣いてどうすんの。
名前……決めてやんなよ。」

そうだ。泣いてる場合じゃない。
鑑定して、彼女の前世の名前を元に……
新しい名前を決めるんだ!!

涙を腕で拭い払い、唱える。

「――〈鑑定〉」

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

???・オリバーティア(♀/0)
種族/神獣精霊(概念・麒麟/雪女)

前世/カワゴシ・サユキ(♂16・完全記憶所持)
人格/カワゴシ・サユキ(♂16)

ステータス・非表示(ON/OFF)

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

「……え? 何これ?」

産まれた我が子の前世は、男の子だった。
記憶も、人格も全てそのままの状態。

なのに、女性の身体で生まれてしまった。
私が不甲斐ないばかりに。

彼の新しい人生を狂わせた。
彼は一生、この性差の苦しみを抱えて生きていく。

母親として彼をどう育てるべきか、
考えが纏まらない。
頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。

彼を男として育てるか、女として育てるか。
どちらとして育てるのが正しいのか。
答えのない悩みに絶望し、地に膝をついた。

「――〈鑑定〉、うんうん。……成る程ね。
ねぇフィエルナちゃん。」
「……何?」

「母親や父親じゃあさ、
この問題抱えきれないよね。
私にいい提案があるんだけど……聞く?」

「提案?」
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