軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第二章 第五艦隊

妙高の初陣

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「こ、これは!?」
「付近でアイギスが確認されているようですね。初出撃と行きましょうか」
「は、はい!」
「良い心意気だ。しかしせっかくのカレーが冷めてしまうな……」

 妙高が息巻く傍ら、長門はこれまでで一番深刻そうな声で言った。

「我はカレーを食べ終えたかった」
「私はとうに食べ終わったぞ」
「あ、あの、アイギスはカレーより軽いのでしょうか……」
「この艦隊はそういう人達の集まりですからね」

 妙高、第五艦隊に配属されて初めての出撃である。
 第五艦隊は六隻。戦艦長門、空母信濃、重巡高雄・妙高、駆逐艦峯風・涼月である。信濃を中心とした輪形陣を組んで出撃する。

 ○

「あの艦が涼月さんですよね。結局一度もお会いできませんでしたが……」

 艦隊の前衛を務める駆逐艦を見つつ、妙高は高雄に呼び掛けた。海上においては全てのやり取りは無線で行わざるを得ない。

『そうですね。まあ、彼女が会いたくないのならそっとしておきましょう』
「分かりました」
『全艦へ通達、敵艦隊を発見。観測。空母が3、戦艦が2、巡洋艦が4、その他が5』

 信濃の十年式艦上超音速偵察機『祥雲』が、敵――人類の敵アイギスの艦隊を発見した。

「ひえぇ、こっちより大戦力じゃないですか……」
『大丈夫ですよ、妙高。この程度の戦力差は、どうということはありません』
「そ、その根拠は一体……」

 嘆いても仕方がない。妙高にはこれと戦う以外の選択肢はないのである。

『全艦、臨戦態勢に入れ。信濃は艦載機を全機発艦、各艦は対空戦闘用意!』
『会敵。確認できる敵艦載機の数は百ほど』
『うむ。頼んだ』

 次いで、帝国初の実用ジェット戦闘機である一三年式艦上戦闘機「飄風」は艦隊の遥か彼方で敵艦載機と衝突した。水平線近くの空で星のような爆炎が立て続けに上がった。

『我の損害、大きい……』

 敵も味方も、既に人知を超えた性能を有している。一流の船魄である信濃でも損害が出ることはやむを得ない。24機の飄風のうち7機が落とされ、激しい痛みが信濃の小さな体を襲う。

『信濃、敵を完全に止める必要はない。撃ち漏らした艦載機はこちらで撃ち落とすぞ』
『分かった』
『全艦、敵が来るぞ! 死にたくなければ全て落とすのだ!』

 激しいエンジン音を響かせながら接近する40機ばかりの敵艦載機を、長門は電探で捉えた。他の艦も次々に敵機を捕捉する。

「こ、高角砲用意!」
『十分に引き付けてから撃ってくださいね』
「も、もちろんです!」

 敵の艦載機が迫る。重い爆弾と魚雷を満載した恐るべき敵だ。妙高は十分にそれを引き付けるべきだと理性では分かっているのだが、やはり我慢できなかった。

「うああ! 撃ちます!!」

 妙高は敵から目を背け、改装で増設された全16門の十二糎七高角砲でやたらめったら射撃した。だがそんな攻撃が命中するはずがない。艦載機は激しいエンジン音を立てながら迫って来る。

「こ、来ないでっ――あれ?」

 その瞬間、妙高を殺しに来た攻撃機が爆発して墜落した。

『妙高、もっとちゃんと狙え。私がいなかったら死んでたぞ』
「み、峯風さーん……ありがとうございますぅ……」
『島風型駆逐艦の防空能力も舐めるなよ』
『では戦艦の防空能力も見てもらおうか!』

 長門は4基8門の41cm砲から三式通常弾を一斉射。空を焼き尽くさんばかりの炎が敵機を巻き込み、一気に12機の敵機を落とした。

『長門……それはなしだろ』
『持てる力は全て使う。それが船魄の、いや軍人のあるべき姿である』
『妙高、私達も頑張りましょう。重巡の名折れですよ』
「は、はい! 頑張ります!」

 僚艦は頼れる船魄ばかり。妙高は落ち着くことができる。深呼吸をして空を我が物顔で舞う敵機に狙いを定める。

「……てやあ!!」

 狙いを定め、高角砲を放つ。そして今度は2機の敵機を撃墜することができた。

「や、やった……?」
『ええ、よくやりましたね。一気に2機撃墜です』
「やったあ!!」
『まだまだ戦闘は終わっていませんよ。これはまだ前哨戦です』
「は、はい!」
『敵機を全滅。増援はないものと推測』

 信濃の偵察では敵の空母は2機だけ。であるから、敵艦隊の艦載機はもう壊滅したと考えていいだろう。残るは海上戦力のみ。

『ここからが私達の出番ですよ』
『そうだ。高雄、妙高、我に続け!』
『ええ、行きましょう』
「はい!」

 長門、高雄、妙高。大口径の主砲を載せた主力戦隊。艦隊から突出して単縦陣を組み、敵艦隊との距離を詰める。敵艦隊に対して長門を先頭に真正面から突っ込むのだ。

「あ、あの、長門様、この陣形は非常に不利なのでは……」

 妙高は思ったことをそのまま口に出してしまった。敵に真正面から突っ込むというのは、自ら丁字作戦のやられる側になることに等しいのである。兵法の常道からは甚だ外れた作戦だ。敵の戦艦は妙高達に直交するように単縦陣を組んで主砲を全て彼女達に指向しているが、敵に正面を向けている長門は艦橋より前の3基6門の主砲しか使うことはできないのである。

『うむ。確かに、一般的にこれは愚策であろう。だが、東郷元帥の作戦の要訣には合致しているのだ』
「そ、そうですか……? 真逆のことをやっているので――長門様、敵が!!」

 敵の戦艦が砲撃戦の火蓋を切った。敵は主砲合計18門をこちらに指向できる。長門の周囲に幾つもの水柱が上がり、砲弾の一発は長門の右舷前方に命中し黒煙を上げる。

「長門様!!」
『案ずるな。戦艦は元より撃たれることが仕事なのだ。この程度は擦り傷に過ぎん』
「で、ですが……」
『私の後に隠れていろ。全速前進だ!』

 長門の有無を言わさぬ命令に、妙高は黙って従わざるを得なかった。高雄は長門の判断に得に疑問を持っていないようだ。長門は前進しながら反撃を行い、敵の6分の1の主砲しかないにも関わらず、敵より多くの命中弾を出す。

 長門は10発ほど被弾し、敵に20発ほどの命中弾を与えたところで、高雄と妙高の20cm連装砲が敵を射程に収めた。長門は武装が少々破壊されたものの、主砲や浮力には全く損害を受けていなかった。そして妙高と高雄は全く損害を受けていなかった。

「ま、まさか、長門様が囮になるというのが作戦だったんですか……?」
『その通りだ。かつて東郷元帥も、最新鋭の三笠に敵の狙いを集中させることで艦隊の損耗を防いだ。それこそが元帥の作戦の要訣なのだ。では行くぞ。全艦回頭せよ!』

 三隻はアイギス艦隊を前にして回頭し、敵と平行に陣形を組んだ。同航戦の開始である。

『全艦、全力で攻撃を開始せよ!』
「は、はい!」
『参りましょう』

 両艦隊は全力で砲撃戦を開始した。敵の重巡洋艦も4隻はいるようで、戦力はこちらのちょうど倍である。だが怖気付いては居られない。妙高は10門の主砲で敵の重巡を狙って砲撃を開始した。

「弾着まで三、二、一、着弾!」

 視界の先で黒煙が上がった。妙高の放った徹甲弾は10発中6発が初弾から命中したのである。十分過ぎる命中率だ。

『観測。敵戦艦、巡洋艦を1隻ずつ撃破。巡洋艦1隻大破』

 敵艦隊の上空に祥雲を飛ばしている信濃が、すぐに戦果を確認してくれた。撃破とは復旧見込みなしと判断されたものであり、放っておけば沈むだろうということだ。まあ信濃が判断を間違える可能際もあるが。

「妙高だけ沈められなかった……」
『大破でも十分だぞ。寧ろ大破くらいの方が敵艦を鹵獲できるから助かる』
「は、はいっ!」
『引き続き砲撃を続けよ! どうやら駆逐隊の仕事はなさそうだな』
『ふん。貴重な魚雷を浪費せずに済む』
「妙高、頑張ります!」

 アイギスの艦隊は第五艦隊にとっては大した敵ではなかった。主に長門の砲撃で敵艦隊は殲滅され、戦闘は終息したのであった。
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