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第二章 第五艦隊

一ヶ月後

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「そうだ、ちょっと私のことをお話してもいいですか?」
「高雄さんのこと、ですか?」
「ええ。あ、その前に、私のことはただ『高雄』とだけお呼びください。もう他人行儀ではないでしょう?」
「そ、それは……分かりました。では高雄、話したいこととは何です?」
 まだ違和感が残っているが、妙高はそう呼ぶことにした。
「あなたはこの第五艦隊に赴任したわけです」
「え? はい、そうですが……」
「そして、帝国海軍では基本的に、一個艦隊は最低でも六隻の船魄で構成されるとされています。つまり、分かりますか?」
「はい……」
 誰かが沈んだ――死んだということだ。だから妙高はその穴埋めとして第三艦隊から引き抜かれて派遣されてきたのである。
「その人の名前は鈴谷。あなたと同じ重巡洋艦、最上型重巡洋艦の三番艦でした」
「そうだったんですか……」
「ええ。私はあの人を守り切れませんでした。鈴谷は、私の目の前で沈んでいきました」
 悲しんでいるようにも、嘆いているようにも見えなかった。ただ物語を読んで聞かせているような、高雄はそんな感じだった。
「ですから、私はあなたには生きてもらいたいのです。もう、この艦隊からは一人の戦死者も出したくないのです」
「でも、それは……」
 第五艦隊は戦争をしているのだ。大東亜連盟の安全圏で治安維持をしていた第三艦隊の時とは違う。だから、誰かが絶対に死ぬ。その犠牲がどちらかに偏ることはあれど、誰も死なずに戦争をすることは不可能である。
「仕方ない、ですよね。ええ。分かってはいるのです。でも、わたくしは……」
「高雄…………」
「ですから、どうか死なないでくださいね。約束ですよ」
「そんな保証は……。でも、分かりました。妙高は絶対に帰還します」
「うふふ。そう言ってくださると嬉しいです。さあ、もう夜も更けてきました」
「はい。お休みなさい」
 妙高と高雄は眠りについた。


 さて、妙高が第五艦隊に加わってから暫く。妙高にとっては3度目の出撃である。戦闘は佳境に入り、砲撃戦が始まっていた。
『観測。敵軽巡洋艦を撃沈。妙高の戦果と認む』
「やったあ!! 初めて沈めました!」
 妙高20cm砲はアイギスの軽巡洋艦を貫き、海の藻屑に変えたのだ。
『一ヶ月で私達の艦隊にも随分と馴染んできましたね。いいですよ、妙高』
「ありがとう、高雄!」
『うむ。よいぞ、妙高。だが敵はまだ残っている! 今回は数が多いからな。信濃、峯風、涼月、雷撃だ』
『承知した』
『了解だ。全弾叩き込む』
『わ、分かりました……』
 信濃の十五年式攻撃機『霊山』は一〇式魚雷を一気に20本投下し、峯風と涼月は後方から魚雷を合わせて19本、一斉に放った。まずは信濃の魚雷が敵艦隊を襲い、その速力を奪う。そして彼女らが逃げられないところに、駆逐艦隊に搭載されている大量の魚雷がアイギス艦隊を襲うのである。
 もちろんその間にも長門らの砲撃は継続され、敵艦隊は次々と数を減らしている。
『弾着まで残り三、二、一、命中多数なり』
 敵艦隊の姿が巨大な水飛沫に覆いつくされた。40発ほどの魚雷はほとんどが命中し、アイギス艦隊に致命的な打撃を与えた。たちまちに空母2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦6隻が大爆発を起こし、轟沈したのである。
「長門様、追撃しましょう! 敵艦隊に大打撃を与える好機です!」
 少々気が大きくなって、妙高は珍しく積極策を進言した。
『ほう。言うようになったではないか。よかろう。我が艦隊は敵艦隊を追撃する! 続け!』
「はいっ!」
『それでは行きましょうか』
 艦隊は追撃を開始。既に機関を損傷し黒煙を上げている敵艦隊に追いつくのは容易なことだった。
『よし。高雄、妙高、全力で攻撃せよ!』
「撃ちますっ!」
 敗走する敵重巡洋艦に狙いを定め、妙高は砲弾を放った。砲弾は当然に命中し、敵艦を大きく揺らす。問題はそれが沈むかどうか。
『観測。敵重巡洋艦、大破。戦闘能力喪失』
「やっぱり、まだまだかぁ……」
『我々は射的をしているのではないぞ、妙高。大破に追い込めれば十分だ。もう逃げることもできないようだしな』
 沈めることはできなかったが、行動不能に追い込むことはできた。後は信濃の攻撃機が沈めてくれるだろう。
「ですが妙高、長門様みたいに……」
『戦艦と重巡洋艦はそもそも艦種が違うのだ。その心意気やよし。しかし、私と全く同じを目指してはならんぞ』
「そ、そうですね……」
『ええ。私達は敵艦を無力化すればそれで十分なのですよ』
「わ、分かった。肝に銘じておく!」
 長門は尊敬すべき先輩であるが、それに追いつくことは絶対にできない。妙高は重巡洋艦なのだから。少し寂しかったが、そこで無理をするのが間違っているのは分かる。
『長門、敵艦隊は組織的な戦闘能力を喪失した。これ以上の戦闘は無用と認む』
『分かった。後は人間の船に任せ、我々は帰投する!』
 任務は完了。近海の安全を脅かすアイギス艦隊を殲滅することに成功した。これで暫くは人間の船でも安全に航行することができるだろう。が、その時だった。
『おい長門、あの船は何だ』
 峯風は水平線から姿を現した一隻の大型船を発見した。思いもよらぬ方向からの出現に、肉眼で見える距離まで接近されることを許してしまったのだ。
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