軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第二章 第五艦隊

謎の空母

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『あれは……空母のようだな。信濃、何か情報は拾えるか?』

 長門に言われ、信濃は祥雲を飛ばして正体不明の船の情報を探った。だが有益な情報は得られなかった。

『敵は空母。しかし、それ以上は分からぬ』
『何型かも分からないか?』
『それは……』

 信濃が珍しく言葉に詰まった。

『どうしたんだ?』
『我にはあれが翔鶴型航空母艦に見える』
「翔鶴型……」
『翔鶴? そんな馬鹿な。何かの見間違えだろう。奴らは沈んだ筈だ』

 翔鶴型航空母艦の翔鶴と瑞鶴。それはいずれも先の大戦で沈んだはずなのだ。

『ふん。そんな旧式の空母、最新鋭の私にかかれば――』
『馬鹿なことを言うな。それを言うなら私はどうなる』

 長門は峯風を鋭く制した。

『そ、それは……』

 長門の方が翔鶴型より昔に建造されたわけだが、今でも現役であり、艦隊の中核戦力である艦そのものが古いか新しいかというのは、船魄同士の戦争ではあまり関係がないのである。

『それに、空母の戦力は即ち艦載機の戦力なり』

 例え空母が古くても最新の艦載機を載せていれば脅威度は変わらないだろうと、信濃は言う。

『そ、そうだな。訂正する。舐めるべきではない相手だな』
「あ、あのぉ……」

 軽口を叩き合っているが、完全なイレギュラーに、艦隊は緊張に包まれていた。

『大丈夫ですよ。こういう時は長門に責任を押し付ければ』
『高雄お前……。まあ私が責任者ではあるのだが』
『不明艦、我より離れつつあり』
『そう、か。であれば連合艦隊司令長官に報告し、我々は帰投しよう』

 何だったのかは分からないが、艦隊にとって脅威となることはないようだ。追撃も監視もせず、第五艦隊は鎮守府へと帰還したのだった。

 ○

 その日、長門の執務室の扉を叩く者があった。長門が入室を許可すると、入ってきたのは郵便配達員である。鎮守府備え付けの郵便局からこうして電報を持ってきてくれるのだ。

「配達ご苦労」
「長門殿もお疲れ様です。それでは」

  封筒を開けて電報用紙に目を通す。発所は連合艦隊旗艦の和泉で、発信者はGF長官――つまり連合艦隊司令長官草鹿大将である。

「長門、内容はいかに?」

 信濃が問う。

「例のF兵器の運搬だ」
「随分と早い。我はもう2ヶ月はかかると思っていた」
「我が艦隊を作戦へ投入することは可能だと判断されたようだな」
「そうか。しかし、それでも本格的に攻勢をかけるには早いと思うが」
「政府も急いでいるのだろう。こんなときでも、ゲッベルスとフルシチョフが介入の機を窺っているのだ」
「そうか。しかし、ここで作戦の是非を論じても仕方がない」
「ああ、そうだな。私はただ連合艦隊の命令を実行するだけだ。もう連合艦隊旗艦の座は譲ったのだから」
「然り」

 ○
 
 ――どうしてこんなことに……

「一ヶ月は経つが、お前と風呂に入るのは今日が初めてだな」

 大浴場には長門と妙高、二人だけだった。妙高は委縮してしまって全くリラックスできなかった。広い浴槽なら離れて入ることもできるのに、長門は妙高の隣に陣取って来たのだ。

「何、そう緊張するな。風呂の中では我々はただの戦友だ」
「は、はい……」

 とは言えすぐに打ち解けられるものでもなし。長門も雑談というものは苦手なのか、困った顔をして黙り込んでしまった。妙高は話題を自らが提供せねばならないという義務感にかられ、無理やりにでも言葉を紡ぐ。

「あ、あの、長門様、今日のことなんですが」
「何だ?」
「作戦の最後に確認された未確認の空母のことです。翔鶴型と信濃が言っていましたけど、その二番艦の瑞鶴を、長門様はご存じの筈、ですよね?」
「ほう。よく勉強しているじゃないか」

 長門の眼光が鋭くなった。話題を間違えたと思いつつ、妙高はもう退くことはできない。

「確かに、そうだ。私と瑞鶴は帝国海軍の船魄としてアメリカと戦った。アメリカ海軍を壊滅し、主要都市を爆撃し、日本に勝利をもたらしたのだ。もっとも、私が目覚めた時には既に大勢は決していたのだがな」
「瑞鶴さんは、どういう方だったんですか?」
「難しい質問だな……まあ、粗野な性格だが、勇敢でいい兵だったよ」
「そして……瑞鶴さんは、どうなったのですか?」
「瑞鶴は沈んだ。サンフランシスコへ帝国軍が初めて上陸を仕掛けた時にな。アメリカの特攻機に沈められてしまったよ」
「そう、だったんですか……初めて聞きました」
「そうか。だが、私は生き残って上陸作戦も成功した。後はマッカーサーのクーデターでアメリカは崩壊し、日本の勝利だ」

 それは歴史の教科書に載っている通りのことだ。だが、だからこそ、今日のことが疑問なのだ。

「でしたら、今日のあれは一体」
「さあ、私にも分からん。翔鶴型を偽装したどこかの国の空母なのかもしれん。或いは信濃が単に見間違えたか」
「信濃がそんなヘマをするとは思えないのですけど……」
「私もそう思う。だから、どこかの趣味の悪い奴の仕業だろう。気にすることはないさ」
「そうだったらいいのですが……」

 どうも爆雷に触接するような話題だったようで、妙高は話題を切り替えることにした。

「あ、そう言えば、ここのお湯って内地の温泉から持ってきたと聞いたのですが、本当なのですか?」
「ああ、その話か。本当だ。私が軍令部への影響力を使って取り寄せたのだ」
「職権乱用……」
「使えるものは全て使うのが船魄の、いや武人のあるべき姿であろう」
「そのお言葉は素晴らしいのですが、ここで使われるとどうも……」
「まあ、気にするな。私と同じ艦隊に入れた特権とでも思っておくといい」
「分かりました。そうします……」

 高雄流の全ての責任を長門に押し付ける作戦を採ることにした。

「では、私はそろそろ上がろう。お前はまだ入っているのか?」
「あ、妙高はもう少しゆっくりとしようと思います」

 長門は風呂から出て行った。妙高は正直言ってもう出てもいい頃だったが、一人でもう少しゆっくりしたくて長居することにした。

「ふぅ……これでゆっく――あれ」

 その瞬間、戸が開いて誰かが入って来た。それは長い狐耳と尻尾を持ったいつとぼうっとしている小さな少女だ。

「おや、先客が」
「信濃、二人きりになるのは初めてだね」

 結局、信濃のせいで一人ゆっくりすることはできなくなってしまった。

「普段は服に隠れて見えないけど、尻尾、長いんだね」

 着物の中に隠しているが、その尻尾は足元に届くほどに長い。

「我の尻尾、か。空母は多数の艦載機を操る必要がある。故に、その制御装置たる尻尾も耳も大きくなるのはやむを得ず」
「なるほど。そういう意味が」

 信濃は尻尾を抱きしめながら、妙高から少し離れて浴槽に入った。結局、妙高がくつろげる時は来なさそうだ。

「時に、妙高」

 その時、信濃は極めて珍しく、自分から妙高に話しかけてきた。

「な、何?」
「高雄とは、上手くやっているか?」
「それはまあ、仲良くできていると思うけど」
「ならば、よい。重巡同士、仲は深めておけ」
「そ、そう……」

 それきり信濃は何も話しかけてこなかったし、沈黙に何らの気まずさも感じていないようだった。

「じゃあ、妙高は先に出るね。ごゆっくり……」
「ああ。我は暫くくつろぐ」

 何故だが全く気の休まらない夜だった。
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